吉本興業に所属するタレントや文化人から「本気で本を出したい人」を募集し、出版までをプロデュースする『作家育成プロジェクト』。その集大成である「出版プレゼン大会」が都内で開かれ、野沢直子やバッドボーイズ・清人ら32人が参加しました。ベストセラー編集者・高橋朋宏氏が主宰する株式会社ブックオリティと吉本がタッグを組んだこの企画。10社を超える出版社を前に、果たしてチャンスをつかんだのは!?
今年2月から始まったこのプロジェクトには、芸人、文化人、アスリート、アーティスト、あるいはアイドルなど吉本所属のタレント220人が応募。企画書などから選考された32人は、その後のセミナーでプロット作成や執筆の指導を受け、提案企画を練り上げてきました。
高橋氏は、日本とアメリカの両方でミリオンセラーを達成した片付けコンサルタント・近藤麻理恵(こんまり)さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)をはじめ、数多くの大ヒット書籍を手がけてきた編集者で、吉本興業に文化人として所属しています。
そんな高橋氏がプロデュースした「出版プレゼン大会」は、6月30日(水)に開催。オブザーバーを板尾創路が務めるなか、出版に向けた熱いアピールの場となりました。
ソラシド本坊は「山形の自給自足生活」
プレゼンテーションでは、32人の参加者が1人10分の持ち時間で、企画書や原稿の一部などを用いて、「自分が出したい本」を出版関係者に向けて説明。質疑応答を経て、最後に出版社側から出版を検討したい企画を挙げてもらいます。
山形県住みます芸人として活動しているソラシド・本坊元児が企画したのは、山形県に移住し、芸人をしながら自給自足する自身の暮らしを描くエッセイです。
山形からリモートで参加した本坊は、「(かつて大阪にあった劇場)『baseよしもと』で2001年にデビューして芸歴21年になります。いま(麒麟、千鳥、笑い飯など)base世代が活躍していますけど、1回も(人気が)跳ねてないのに、辞めてないの僕らだけなんです」と、まずは自己紹介。
実は、2015年にアルバイトをしていた肉体労働現場での毎日を綴った自伝的小説『プロレタリア芸人』(扶桑社文庫)を出版した経験がありますが、ある“不運”に見舞われたと言います。
「これが好評というか、みんな『面白いやないか』って言ってくれたんですけど、その1カ月後に又吉(直樹)が『火花』(文藝春秋)を出しまして……。僕の本が、なかったことになってしまったんですよ」
そんな自虐的な笑いを起こす本坊ですが、出版社から「読んだ人にどうなってほしいと思うか?」と問われると、真剣にこう答えました。
「なにか行動を起こしたとき、失敗したらやいのやいの言われるじゃないですか。でも、動いているぶんだけすごいと思うんです。これまで、たくさん解散したコンビを見てきました。若いときは、諦めたなって思っていたんですけど、いま考えると、解散した芸人たちは、次の行動を起こそうとしていたんですよ。僕らは解散すらできず、ダラダラやっていた……。行動を起こすのはしんどいことなんですけど、(読んだ人が)“何かやってみようかな”と動き出すきっかけになればいいなと思います」
『すべらない話』の鉄板エピソード
2010年に青春リアル自伝小説『ダブル★ピース』(ワニブックス)を出版しているバッドボーイズ・清人。今回は、無職になった父親の破天荒なエピソードや、育ての親である目の見えなかったおばあちゃんとの別れについて綴る自伝本にしたいと言います。
『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)などでも披露されたというその内容は、少し話しただけで会場が爆笑に。清人は「バッドボーイズの笑いに救われたというファンレターをもらった」と明かしつつ、「この本で1人でも救えるんじゃないか」と企画への思いを語りました。
一方、テレビのオーディション番組で“未来のダウンタウン”に選ばれ、11歳でプロの漫才コンビ「りあるキッズ」としてデビューした経歴を持つ安田善紀は、“天才”をテーマにした自己啓発本を提案。
面白い人=天才であるという考えのもと、“面白い人になるためにはどうすればいいか”に焦点を当てた内容で、「人も自分も救えるのは“笑顔”だと思っています。どうせなら面白い人になってほしい」と企画の意図を説明しました。
野沢直子は、現在暮らすアメリカからリモートで参加。58歳になったという彼女は、自身の“変化”について笑いを交えて語ります。
「ババァ化が加速していて、見た目も劣化、物忘れもひどくなる。若い人の顔の見分けがつかなくなってきているんですよ。たとえば、みちょぱ(池田美優)さんとゆきぽよ(木村有希)さんは同じ顔に見えちゃう。女芸人でいえば、ぼる塾さんとか3時のヒロインさんとか、みんな森三中に見えてしまう(笑)。ガッカリなんですけど、老いは必ずみんなにやってくるんです」
だからこそ書籍の執筆を通して、残りの人生を楽しく生きるためにどうすべきか、を考えたいという野沢。老いを逆手に取って、これからは「やりたくないことはやらない」「会いたくない人には会わない」という“自分中心”の行動を徹底する、あるいは、子どものため、会社のためという呪縛から解き放たれて「これまで諦めていたことをやろう」と提案するなど、これから老いていく人たちに向けた本にしたいとアピールしました。
板尾が野沢に共感「同い年なんでよくわかる」
こうして白熱したプレゼンを繰り広げた32人の参加者。出版社からも「読者のターゲットは?」「こういった方向性に変えることはできるのか?」など、多くの質問が投げかけられました。
『板尾日記』(リトルモア)などの著書があり、『火花』など書籍を原作とした映画作品の監督経験もあるオブザーバーの板尾は、「終始、面白かったです。たくさんいいなという本がありました。ぜんぶいいし、やり方ひとつでいい本になる」と総評。
とくに野沢に共感した様子で、「(野沢と)同い年なんで、おっしゃっていることはすごくわかります。同年代や60代の男性に向けて発信してもいいんじゃないかなと思います」と提案しました。
最後に出版社が、それぞれ気になった企画ベスト5を発表します。高橋氏は、参加タレントたちにこんなエールを送りました。
「ここで名前が呼ばれた人は、うれしい気持ちもあると思いますが、大事なのは編集者と一生懸命、本を作ることです。(出版社に名前を呼ばれた)数は関係ありません。そして、名前が呼ばれなかった人、諦めないでください。ここからドラマを作ってください。ここは、そういう場でもあると思っています」
今回のプレゼン大会で、出版を検討したいと声がかかったメンバーは、これから出版決定に向けて詰めていきます。果たして、ここからベストセラーが生まれるのか!?
参加タレント
赤松新、NMB48・安部若菜、つぼみ大革命・糸原沙也加、スリムクラブ・内間政成、エンジェルこま、スキンヘッドカメラ・岡本、オコチャ(冨田雄大)、オムライスマカロン・神垣優雅、バッドボーイズ・清人、ぎんちゃん、グッピーこずえ、黒ラブ教授、コウヨウザウルス、澤口有紀、シドニー石井、ジュエリー志織、すぐる画伯、ぺんとはうす・世良光治、田宮緑子(紅茶のグリン子先生)、NMB48・出口結菜、ダブルウィッシュ・中川新介、中西悠子、野沢直子、パンヂー陳、ピストジャム、あわよくば・ファビアン、ガネーシャ・福田健悟、ボンざわーるど、ソラシド・本坊元児、安田善紀、山内美鳳、ブロードキャスト!!・吉村憲二【五十音順】
参加出版社
朝日新聞出版、SBクリエイティブ、KADOKAWA、かんき出版、幻冬舎、サンマーク出版、春陽堂書店、新潮社、ダイヤモンド社、大和書房、宝島社、ブックマン、リットーミュージック、ワニブックス【五十音順】
これまでの講座の模様は、芸人ライターとして活動するお笑いコンビ・あわよくばのファビアンのレポート記事で!