又吉が本のなかで「僕」と「私」を書き分けた理由は…芸人文芸グループ結成でファビアン、ピストジャムと論評合戦

芸人であり、芥川賞作家でもあるピース・又吉直樹が、文章を書くのが得意な芸人を集めて「第一芸人文芸部」を結成しました! 6月1日(木)には、処女作を発表したピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫​​を招いて、それぞれの著書の魅力やエピソードを語るイベントを開催。会場となった東京・KADOKAWA神楽座には書店員や取次会社の社員約50人が駆けつけ、3人のトークに耳を傾けました。

出典: FANY マガジン
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又吉「ピストジャムの真面目さに狂気を感じる」

ピストジャム『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)

こがけんの元相方で、FANYマガジンでもコラムを連載中のピン芸人ピストジャム。本作は、極貧生活を招いた「時給90円」の仕事や、宅配ピザチェーンのかけもちアルバイトで体験した奇跡など、“笑える”アルバイト遍歴&エピソードをまとめたエッセイ集です。

ファビアンが「めちゃくちゃ笑いましたね。アルバイトの話もそうなんですけど、生活が厳しい描写もめちゃくちゃ面白い」と言うと、又吉もこう感想を話します。

「お笑い芸人は、ライブだけでごはんを食べるのが厳しくて、みんなアルバイトをするんですけど、(ピストジャムが経験した) 50種類は特別な数。まずそれが面白いのと、一つひとつアルバイトをしているなかで、“ちゃんとエピソードを探していたんやろうな”っていう書き方になっていて『漫談のようなエッセイ』という感じです」

出典: FANY マガジン
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そして、アルバイトのなかで「笑えるエピソード」が生まれる根幹には、ピストジャムの真面目さもあると指摘。なんとピストジャムは、日光で住み込みで芸人の仕事をしていたときも、週1回、東京に戻ってアルバイトをしていたと言います。

「(ピストジャムは)アルバイトにちゃんと向き合ってるし、向き合っているからこそ得られる体験やったりする。これって、ふつうの芸人だと拾えないし、ピストジャムじゃなかったら生まれなかったエピソードが、たくさんあると思います」

又吉はこう称賛しながらも、「笑える話なんですけど、読んでたら、その真面目さのウラ側に狂気も感じる」と指摘して会場の笑いを誘っていました。

出典: FANY マガジン
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星新一のショートショートを進化!?

ファビアン『きょうも芸の夢をみる』(ヨシモトブックス)

漫才やコントのネタを交えながら、芸⼈の⻘春をエモーショナルな筆致で綴った異色の短編集。リアルと空想を交えて芸人の日常を描いた物語が、全11篇​収録されています​。

又吉は、ショートショートの要素も取り入れたファビアンの著書について、こう語りました。

「まず想像力がすごい。星新一さんが、人間の感情を書ききらず、淡々と書く……みたいなことをショートショートでやり始めたんですけど、(ファビアンは)それとは変化をつけていて。ちゃんと“若手芸人ってこういうこと考えるよな”という、重たい感情も描いているんですよ。そういったものが複合的に絡んで、面白い化学反応が生まれている作品だと感じました」

出典: FANY マガジン
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さらに又吉は、あとがきにも着目。一部を朗読したあと、「芸人のリアルな日常が綴られているんですけど、それぞれいろんなアプローチで描いてるんで、1篇ずつ読んでも楽しめるし、全部読むと、また違う感覚になれる」と言います。

またピストジャムは、この本を3回読み返したと明かし、そこで感じた熱い思いを吐露。そして、すでに又吉が芥川賞作品の『火花』(文藝春秋)で芸人をテーマにした小説を書いているにもかかわらず、あえてそこに挑戦した度胸や、深すぎる内容についても掘り下げていました。

出典: FANY マガジン
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「同じ人が書いているとは思えない文体」

又吉直樹『月と散文』(KADOKAWA

人気芸人であり芥川賞作家であるという、かつて夢見た生活を手に入れた又吉が、相方・綾部祐二​​の渡米、コロナ禍など、自身がめぐりあった思いもよらぬ経験をセンチメンタルかつナイーブに綴るエッセイ。

本作は「満月」と「二日月」の2章に分かれていますが、ファビアンは、章によって一人称に「僕」「私」と違いがあることに注目。その理由を本人に尋ねました。

出典: FANY マガジン
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又吉は「いまの自分の考え」としたうえで、42歳(現在は43歳)で「僕」は少し抵抗があるし「私」もしっくりこない。この狭間の年齢ということもあって、一人称を割り振ったと明かします。また、「僕」が一人称の前半パート(満月)は、少年時代など過去のことを書いていることが多く、後半の「私」(二日月)が出てくるパートは、現在の話が多いという理由も関連している、と付け加えました。

ピストジャムは「(語るのに)時間が足りない!」と言いながら、本作の魅力を熱弁。内容についてはもちろん、文章にもさまざまなパターンが使われていて、「同じ人が書いているとは思えない文体がひとつの話に混ざっていたりする」と、又吉のセンスに脱帽していました。

ピストジャム、今度は書店でアルバイト!?

3人のトークのあと、書店員からの質問コーナーで「文章を書くなかでの喜びを教えてほしい」と聞かれると、又吉は、自分の作品を誰かに読んでもらったり、人前で自分の作品を朗読したりするときが「すごく気持ちいい」と明かします。

出典: FANY マガジン
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後輩と酒を飲んでいるときも、ノートパソコンを開いて自分の作品を読むことがあるそうで、ときに「もういいよ! パソコンしまえよ!」と怒られるんだとか……そんな話に会場は笑いに包まれました。

登壇者の3人が会場に質問をするコーナーでは、ピストジャムが、自分の本を売るために自身で400冊買い取り、手売りしていると告白。どんな活動をすれば売り上げにつながるのか、書店員に質問しました。

すると、ある書店員からバイトとして1日店長をしてほしいとオファーが! 会場も驚きのまさかの展開でしたが、ピストジャムは「僕に特化したアドバイス!」と大喜びしていました。

書籍概要

『月と散文』
出版社:‏‎KADOKAWA
発売日:2023年3月24日
単行本:360ページ

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■『きょうも芸の夢をみる』
著者:ファビアン
発売⽇:2023年3⽉25⽇
定価:本体1,600円+税
単行本:304ページ

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『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』
著者:ピストジャム
発売日:2022年10月27日
単行本:208ページ

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