ピストジャムが綴る「世界で2番目にクールな街」の魅力
「シモキタブラボー!」君がいた街

シモキタブラボー!

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン
イラスト:ピストジャム

君がいた街

10年ほど前、同期のオリオンリーグ剛くんとよく話していた議題がある。

それは、シモキタにないもの。

これは単に、シモキタにあったらいいな、できたらいいなという店のこと。

当時、剛くんもシモキタに住んでいて、僕らは毎日のようにどちらからともなく連絡を取り合い会っていた。

そして、誰に頼まれたわけでもないのに、毎晩閉店したヴィレッジヴァンガードの前に集まり、区議会議員ばりにこの件について、シモキタの未来について熱く語り合っていた。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン
イラスト:ピストジャム

「シモキタを最強の街にするには、電気屋が必要だ!」

「そうだそうだ! 若林のコジマまで行かないといけないのは遠すぎるぞ!」

「あと、富士そばもないぞ!」

「そうだそうだ! 昔はあったらしいけど、なくなったらしいな! 復活させろ!」

「念のため、吉野家もほしいぞ! 松屋があるから、いらないっちゃあいらないかもしれないけど、念のためほしいぞ!」

「無理だと思うけど、ドンキができたら最強だぞ! 三茶みたいにピカソ(ドンキの小型店)でもいいぞ!」

こんな感じでひたすらないものをあげては、夜な夜な二人でなげいていた。

そんな僕らの嘆願が届いたのか、いまシモキタにはノジマという電気屋もできたし、富士そばも、吉野家も、ドンキまでできた。

ついにシモキタは最強になったはずだった。

しかし、なぜかケンタッキーがつぶれてしまった。

たしかにケンタッキーはあまり利用していなかった。が、なかったら困る。年に一度や二度は、無性にケンタッキーのチキンを食べたくなる日があるんだから。

そういえば、2年前にココイチもビルの建て替えがきっかけでなくなった。仮にもカレーの街なんて呼ばれているシモキタからココイチがなくなるなんて。

思い起こせば、この20年でなくなったチェーン店は結構多い。

てんや、大戸屋、オリジン弁当、アンナミラーズ、ドトール、銀だこ、八剣伝、大庄水産。いつのまにかなくなっていた。

たしかにアンナミラーズは一度も行かなかったけれど、ほかの店は何度か利用した。

シモキタは個人商店が多いからおもしろい。

それは本当にそうなんだけど、やっぱりチェーン店もあったらあったでいい。

この話の続きを、また剛くんとしたいけれど、彼は数年前に地元の沖縄に帰ってしまった。

彼は、シモキタに電気屋と富士そばと吉野家とドンキができた光景を見ないまま街を去った。

たがいに風呂なしアパートに住んでいたから銭湯にもよく一緒に行った。子供が乗るようなちっちゃなタイヤの、おもちゃみたいな自転車で彼はやってきた。新雪園のランチが50円値上がりしたけど、どうする? と、どうしようもない作戦会議をしたこともあった。彼がラッキーストライクを吸っていたから、同じタバコを吸っているほうが分け合えると思って、僕もラッキーストライクを吸うようになった。70円の激安缶コーヒーを買って、路上で話して解散するだけで楽しかった。

どんなにシモキタが最強の街になったとしても、剛くんがいたシモキタにはかなわない。


このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。

書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日

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出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。