「M-1で優勝するには前年の負け方が大切」 パンクブーブー佐藤×銀シャリ橋本が語るM-1の“絶対法則”

『M-1グランプリ2023』の決勝戦が12月24日(日)に開催されます。今年は同日開かれる敗者復活戦から7時間ぶっ通しで、ABC・テレビ朝日系で生放送! しかも、今回の敗者復活戦は約20年ぶりの“屋内ステージ”! さらに前日の23日(土)には、歴代王者が集結するライブ『M-1グランプリ2023 前夜祭~CHAMPION LIVE~』も開催決定! ということで、今回は特別企画として、ともに敗者復活戦の経験がある2009年優勝のパンクブーブー・佐藤哲夫、2016年優勝の銀シャリ・橋本直の2人に、当時の思い出や、いまの『M-1』に感じることを存分に語ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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屋外の敗者復活戦がハングリー精神を

――今年は敗者復活戦が東京・三井住友ビルの三角広場で開催されます。2004年以来の屋内ステージとなりますが、佐藤さんはその2004年の屋内を経験されていますよね。

佐藤 有明ですよね? 20年くらい前か……。まぁ、な~んにも覚えてないですね(笑)。

橋本 M-1としては(スタートから)4年目ですか。僕、銀シャリとしては2005年から出場してるので、2004年はまったく知らないですね。

佐藤 当時ってM-1に火が着き始めたころですよね。いまみたいな年末恒例行事というわけではなく、審査のシステムも模索しているところがありましたので、(敗者復活戦が)外になったときは“なんで? 寒いなかで漫才やりにくいやろ”とは思いました。敗者復活戦から這い上がっていくのって、本当にしんどくて。寒空の下、漫才をやってるとやっぱり悔しいし、腹立ってくるんです。だから、ハングリー精神を養われたところはありましたね。そういうのはなかった?

出典: FANY マガジン
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橋本 僕は、敗者復活戦から勝ち上がれると思ったことは、ほぼなかったですね。地上波での放送もなかったので、いくらインパクトを残しても、いまのように話題になることもなかったですし。ただ、準決勝まで行けると兄さん方に知られたり、業界でちょっとだけ有名になったりできるのは嬉しかったです。

――パンクブーブーは2009年に優勝して、翌年は再び挑戦者として敗者復活戦から決勝へ進出しています。

佐藤 情けない話、2009年は優勝を狙っていたわけではなかったですね。芸歴的にも(参加資格が)ギリギリで、ここで結果を残さなきゃいけないと思っていたので奇抜なことは何もせず、わかりやすい漫才でしっかりと笑いを取っていっただけというか。

橋本 野球で言うと、バットをちゃんと短く持ってしっかりとボールを当てて1塁に出た、ということですね。(阪神タイガースの)岡田監督の野球ですわ。

佐藤 そうそう。当時30代中盤で。この業界はトップを目指せる人もいるけど、そうじゃなくてもできる仕事がいっぱいある。確実に漫才で笑いが取れる人たちにも需要はあるってことが見えてきたころだったのよ。

橋本 芸人が全員、4番打者ばっかじゃないですもんね。

出典: FANY マガジン
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佐藤 打率が高いヤツも絶対に必要でしょ? だから1発でドーンではなく、1発1発を必ず当てにいくかたちでつくって、うまいことハマりました。そこは運もありましたね。決勝まで行くと、運みたいなところもあるから。

橋本 それはめっちゃ思います。

「優勝」よりも重要だったこと

――パンクブーブーさんが敗者復活戦から勝ち上がった2010、銀シャリさんはストレートで決勝進出を決めました。パンクブーブーさんが上がってきたときに、どんなことを思いましたか?

橋本 初めての決勝やったんで、誰が上がってきて怖いとかを思う余裕はなかったですね。自分たちのことで精一杯で。

佐藤 2010年も優勝は狙ってないというかね。2009年はさっき話したように確実にウケるようにつくったネタで、うち(パンクブーブー)の代名詞的な漫才ではなかった。で、2010年はうちのフォームを見せられたから、決勝でやれてオッケーって感じでしたね。

橋本 じゃあ、2010年のほうが楽しかったんですか?

佐藤 もちろん、もちろん! パンクブーブーっぽい漫才っていうオリジナルを見せられたのもよかった。僕、M-1で優勝しても10年しか食えないと思っていて。テレビで売れて人気者になればもちろん違いますけど、劇場で漫才を続けるなかで優勝効果は10年続けばいいほうなので、露出の多い間に一生、漫才師としてい続けるための印象づけをやっておかなきゃと思っていたから、翌年もM-1に出たんです。結果、あのネタを決勝でできたので満足でしたね。

出典: FANY マガジン
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橋本 僕ら、2010年は自分らのベストを出したいっていう気持ちだけで。もちろん優勝は狙ってましたけど、結果5位。コント師のピースさんが4位やったんで、そこには勝ちたかったなっていう気持ちはありました。

佐藤 漫才師へのこだわりが強いなぁ(笑)。

橋本「M-1優勝には“時差”がある」

――中断期間を経て再開された2015年のM-1で、銀シャリさんは再び決勝へ。その翌年、優勝しました。

橋本 2015年が以前の空気感と同じなのかわからなかったんで、僕だけじゃなく全員、手探りやったと思います。で、敗者復活戦でウケて上がってきたトレンディ(エンジェル)がそのまま優勝して。

佐藤 オレ、2015年は審査員をしていて、銀シャリの1本目でちょっと辛口なコメントをして、点数も辛くつけたんですよ。

橋本 テーマが……みたいなことですよね。

佐藤 そう。けど、2本目のネタはめっちゃよかった! だから(司会の)今田耕司さんにコメントを振ってほしかったんだけど、そういうときって回ってこないんだよねぇ(笑)。

橋本 いいネタを2本揃えるのも難しいですよね。僕らはベタなテーマでちょっとズラすっていうのを常にやっているんですけど、2015年は負けたなっていう感覚がありました。2016年もねぇ……勝ち方が難しかった。(最終決戦に残った)スーパーマラドーナが優勝していても、和牛が優勝していてもよかったっていうか。2016年に決勝へ出られたのは、2015年に負けたからっていうのはありましたから、ほんまに運でした。

出典: FANY マガジン
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佐藤 2015年、構成力やクオリティだけを見れば、銀シャリが一番だった。ただ、漫才がエンターテインメントである以上、お客さんが盛り上がった人が勝つっていう評価を崩しちゃダメだなと思ったからトレンディに(票を)入れたんだよね。銀シャリは2015年に打ったパンチがみんなのハートに残ってたから、翌年、優勝できたんだと思う。M-1って優勝まで2年かかるしね。

橋本 時差がありますよね。(2018年に)初めての決勝で優勝した霜降り(明星)も、前年の準決で落ちたときにせいやと飲んでて、「来年、優勝するフラグなんじゃないの?」って話してましたから。

佐藤 オレらもそうやからね。2008年の準決勝、自分のなかでいちばんウケた、絶対に決勝行ったと思ってたけど落ちて。同じかたちの漫才を1年つくって決勝へ行って優勝できたから、前年どういう終わり方をしたのかは大事だと思う。
銀シャリも2015年に間違いない漫才を見せて惜しくも敗れたっていうのが残ってるから、2016年もそういう漫才をやってくれて、(視聴者としては)来たーー!ってなったんだろうしね。

最近の若手は“基礎”をすっ飛ばしていても面白い!

――いまM-1はどんなふうに見ていますか?

佐藤 世代が変わってきてますよね。漫才として捉える範囲が広くなってきてるというか。

橋本 柔軟に考えないと。漫才はこうだ、みたいなものはないんだと思います。

佐藤 漫才って進化していくものだから、受け入れられなかったとしたら自分が退化してるんですよね。ただ、進化のかたちだけが先行してしまうこともある。そのかたちのパイオニア的な存在の人は、なぜ面白くてウケているのかを理解してつくっているんだけど、追いかけただけの人たちは外側だけをマネして、(芯の部分が)薄かったりするんですよ。

出典: FANY マガジン
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僕、NSC(吉本総合芸能学院)の講師をやってるんですけど、生徒に「誰かみたいなのは構わないけど、なぜ面白いのかそこまで考えてマネしなさい」って話してます。けど、最近は新しい漫才が生まれてきている感じがしますね。

橋本 (9月に放送された)『ytv漫才新人賞』ROUND1の後半ブロックがイカつすぎて、相方に見てくれって言いました。インディアンス・田渕(章裕)にも言って……。その発想はなかったな、このテーマいいなとかめっちゃ思いました。

――今回、M-1決勝に進んだメンバーに限らず、注目している若手漫才師はいますか?

橋本 バッテリィズとかすごくいいですよね。

佐藤 キャラクターがちょうどいいよね。作り込んだアホじゃなくて、アホにしか見えないっていうか。いいアホですね。

橋本 ぐろうも面白い。『ytv漫才新人賞』の予選、めっちゃ漫才うまいなって震えました。

佐藤 芸歴3~5年目くらいって、面白い人たちがいっぱいいるよね。発想も面白いし、手法もどんどん新しくなっていて。僕ら世代は基礎的なところをやれるようになってからトリッキーなネタに入るんだけど、若い世代はその辺のところをすっ飛ばしても、ちゃんと面白い。……だから正直ショック(笑)。おじさんとして天寿を全うしなきゃなって思うというか、本当に世代が変わっちゃったんだなって実感するからね。

橋本 僕は嬉しいっていう感じですかね。うわ、なにこのやり方! 面白い!って思いながら後輩のネタを見ているし、後輩たちが面白いおかげで、もっとおもろい(アイデアが)ガバっと開けるかもって思えるというか。だからM-1の2~3回戦の動画も、面白くなるヒントがたくさんあるなと思いながら見てますし、決勝もめっちゃ楽しみです。

出典: FANY マガジン
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――おふたりは決勝前日の『M-1グランプリ2023 前夜祭~CHAMPION LIVE~』にも出演します。

佐藤 ベテランはベテランの面白さがありますから。M-1のフレッシュで新しい面白さもいいですけど、安定してずっと笑える面白さも味わっていただければ。ベテランになるとまた違う味が出始めるものやし。

橋本 継ぎ足されたタレみたいに煮込み続けてますからね。決勝がクリスマスイブやから、このイベントを「前夜祭」にしようとしてるのか、「前菜」にしようとしてるのかも気になってます(笑)。メインディッシュはもちろんM-1決勝ですけど、ベテランのみなさんの漫才をこのライブで、しかも間近で観られるのはいち漫才ファンとして嬉しいです。

佐藤 優勝してからも、みんな進化してるからね。ほかの皆さんがM-1優勝後、どんなふうに進化しているのが観られるのは、僕も楽しみ。多くの人に観てもらいたいですね。


『M-1グランプリ2023』公式サイトはこちらから。

公演概要

『M-1グランプリ2023前夜祭~CHAMPION LIVE~』
開催日:12月23日(土) 18:00 開場/19:00 開演/22:00 終演(予定)
場所:新宿住友ビル三角広場
出演者:NON STYLE、パンクブーブー、笑い飯、トレンディエンジェル、銀シャリ、とろサーモン、ミルクボーイ、マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランド

主催:吉本興業株式会社/朝日放送テレビ

【チケット料金】
<座席チケット>

※完売いたしました。
S席 6,800円(税込)
A席 6,300円(税込)
B席 6,000円(税込)
<オンラインチケット>
配信 2,800円(税込)
FANYオンラインチケットよりご購入ください。

■『M-1グランプリ2023 敗者復活戦』
12月24日(日)15:00~
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて生放送
※会場チケットは完売いたしました。

『M-1グランプリ2023 完全ガイドブック』発売中!

出典: FANY マガジン

■『M-1グランプリ2023 完全ガイドブック』
発売日:2023年12月13日(水)
定価:990円(税込)
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制作:ヨシモトブックス、ABCアーク
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