「発達障害」公表のアート芸人・たいぞうが障がい者アーティスト集団とコラボ展! 「原因がわかったから気持ちがラクに…」

大阪府障がい者芸術・文化大使を務めるアート芸人・たいぞうと、障がいがあるアーティストたちとのコラボ展示会『こだわりストたちの世界-たいぞう×Abeille’sアーティストコラボ展2024-』が、8月16日(金)~25日(日)まで大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERYで開催されています。その初日にたいぞうと、アート×福祉×社会を繋げる芸術家プロダクション「Abeille(アベイユ)」代表の河瀬有子さん、そして所属アーティスト・Masyashi777さんに集まっていただき、障がい者アートの魅力を語り合ってもらいました。

出典: FANY マガジン
左から「Abeille(アベイユ)」代表の河瀬有子さん、所属アーティストの飛鳥さん、Masyashi777さん、羽戸康貴さん、たいぞう 出典: FANY マガジン

たいぞうとの出会いは“お導き”?

たいぞうは昨年10月、自身が発達障害と診断されました。これを機に、改めて「障がい者」と「芸術」に向き合ったといいます。

今回は、「障がい者アートをもっと世に広めたい」との思いから、「アベイユ」に所属するアーティスト8人とコラボレーション。「仲間たち」をテーマに、こだわりの強い個性的なアーティストたちが、多様性を認め合い、寛容な世の中であるように願いを込めて展覧会をつくり上げました。

——まず、たいぞうさんと「アベイユ」との出会いを教えていただけますか?

たいぞう 去年10月末に千里阪急百貨店(大阪府豊中市)で個展(たいぞう原画展)をやったんです。そこに河瀬さんが見に来てくださって、そのときに作品のことや僕の考え方、そして僕の障がいのこともお話させてもらいました。すると河瀬さんが、障がい者アーティストさんたちをサポートしていることをお話してくださったんです。

河瀬 私はもともと、たいぞうさんのことはテレビでお見かけしていて、一度、作品を間近で拝見したいと思っていました。そんなとき、出先から住まいのある滋賀に戻る途中に、新幹線の中でインスタグラムを見ていたら、ちょうど開催中のたいぞうさんの個展情報が入ってきたんです。「これは何かのお導きかな?」と感じて、大阪で途中下車して千里中央の個展会場まで行ってみると、たいぞうさんがいらっしゃったので、ゆっくりお話させていただきました。そのときに「実は先日、(発達障害の)診断が出たんです」と打ち明けられ、初対面だったけど話し込みましたね。1時間くらいだったかな?

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たいぞう そうですね。発達障害であることがわかった直後のタイミングやったし、そのときに障がい者アートのお話もさせていただいて。それをきっかけに、定期的にお会いするようになりました。

河瀬 「一緒になにかできたら楽しいですね」というのは、ずっと話していましたよね。

しゃべろうとした瞬間に頭の中が真っ白になって…

——たいぞうさんは昨年10月に発達障害の診断を受けましたが、そのきっかけは何だったんですか?

たいぞう 去年の春ごろ、吉本の芸人さんが本を出版するプロジェクト(出版チャレンジ塾)があったんです。そのとき、僕の本の企画が最終審査まで残って、出版社の方々がたくさんいる前でプレゼンをすることになりました。

事前に、アピールする内容やコンセプトを頭の中に思い描き、何度も打ち合わせを重ねて準備万端だったんですけど、いざしゃべろうとした瞬間、急に頭の中が真っ白になって「あれ? 僕、本を読んだことないのに、本なんか出してええんかな?」って思って、そのままを正直に話しました。

ほかの芸人さんが15分近くしゃべるなか、僕のプレゼンはたった5分。社員さんから「緊張されてたんですか?」と聞かれたんですけど、ぜんぜん緊張してなかったんです。でも、自分の思いが急にパッと口をついて出てしまって、その出来事があって、なんかちょっとおかしいなぁ、と。

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——そのときのプレゼンが、気付くきっかけになったんですね。

たいぞう 僕の場合、むかしから変わったところがあったけど、芸人やから“天然”で笑いになっていたから、ぜんぜん気にしてなかったんです。でも改めて振り返ってみたら、自分でも「おかしいな」と感じることが多かった。

そういえば、妻にも「行動が変わってる」と言われたことがあったな、と思って。それで、まずはインターネットで自己診断をしたら、発達障害の全項目が当てはまったんです。それで、妻と一緒に病院に行って診てもらったら、先生に「そうですね、ありますね」と言われたので、検査を受けました。当てはまったんは、ASD(自閉スペクトラム症)です。

河瀬 検査結果にも、時間がかかるんですよね。

たいぞう そうですね。1年ほどかかって今年3月に障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の3級の認定を受けました。これまで、僕の行動とかやることに対して、まわりの人になかなか理解してもらえなかったことがあったんですけど、障がいとわかり、原因がわかったから、「そういうことやったんや」と、なんか気持ちがラクになりました。

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「突然の変化に弱いところがある」

——Masyashi777さんは、たいぞうさんとは初対面ですか?

Masyashi777 そうです。でも僕とたいぞうさんは同世代で、『クイズ!紳助くん』(ABC)で、(島田)紳助さんにイジられているたいぞうさんは見てました。でも、いまはテレビをほとんど見ないから、そのころのたいぞうさんのイメージが強いですね。最近は絵を描いてらっしゃる、というのは知っていました。

たいぞう 同じ発達障害ですが、いろいろ聞いてもいいですか?

Masyashi777 こういう表舞台に出るなら、なんでも話す気で来たので大丈夫です。ただ、プロの芸人さんからの強いツッコミはビビるかもしれません(笑)。

たいぞう じゃあ、もうちょっと親交を深めてから(笑)。

Masyashi777 僕はたいぞうさんを見て育ったし、大阪出身なんでそのへんは大丈夫です(笑)。僕は統合失調症です。気分の浮き沈みが激しくて、突然の変化に弱いところがあるので、絵を描いたり、湖の近くの公園で猫に会ったり、音楽を聴いたりという、穏やかに日々のルーティンを大切にしながら暮らしています。

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自分の気持ちをぶつけるパワーがすごい

——たいぞうさんは、2017年から「大阪府障がい者芸術・文化大使」を務めています。障がい者アートの魅力は何ですか?

たいぞう 大使に任命されたときはまだ発達障害と診断されていなかったんですが、結果的にそれが障がい者アートと触れ合うきっかけになりました。自分の気持ちをバーンとぶつけているパワーがすごいなと思っています。僕自身も思いのままに絵を描いているので、共通しているものがあるなと思ったし、いまとなればもっと近くなった感じがしています。

河瀬 自由な発想がありますよね。たとえば「空は青じゃないといけない」とか、そういう発想がいっさいなくて、本当にそのときに感じた心の色をそのまま素直に重ねていて、たとえ繊細な作品でも、パワーにあふれているんです。とても緻密な絵を描くアーティストさんの、創作中の情景を思い浮かべるだけで、じわじわとパワーをもらえるような気がします。

Masyashi777さんは、大東市で開催された障がい者の方の作品展で出会い、私が彼の作品にひと目惚れして「アベイユ」にスカウトしたんです。本当に真面目な方で、創作意欲もとても高く、毎朝7時に作品を送ってくださるんですよ。

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Masyashi777 そういう日々を送っていることが多いです。状態が悪いときでも自然とペンを走らせたり、熱量がそんなに高くなくても自然と描く。寝ようとベッドに入っても、描こう、と思うときがあります。いろんな状況があるけど、自分の気持ちを投影するという感じではないけれども、なんやろうなぁ……。トータルで表現すると「救い」という言葉が出てきます。

——Masyashi777さんが思う、障がい者アートの魅力とは?

Masyashi777 見ていて飽きない。そこが好きですね。僕自身も作品を展示していますが、展覧会でほかのアーティストさんの作品を見るのが楽しいし、ポストカードを買って集めるのがいちばんの楽しみです。ポストカードだと、細かいところまでじっくり見られるんですよ。

「僕にとってキャンバスはネタ、展示会はライブ」

——今回の作品展は、『こだわりストたちの世界』というタイトルが付いていますが、作品へのこだわりを教えていただけますか?

たいぞう 僕は、作品だけが作品じゃない、と思っているんです。僕自身が生きているのが作品だと思っていて。だから、全部が作品。

僕、西川のりお師匠が大好きなんですけど、まだ若手のころに、のりお師匠が「芸人は、生き方も芸人や。ネタがおもしろいだけじゃない。生き方やその人自身がおもしろくないとあかん」という話をしてくださったんです。そのころ、僕は漫才や吉本新喜劇をやっていたんですけど、あまりうまく表現できてなかった。

出典: FANY マガジン
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でも、絵を描いたときに「これやったら自分を出せる」と思って、そのときの、のりお師匠の考えを取り入れています。「生きていることが芸人」ならば、「僕が絵を描いていること自体が作品」。だから、僕にとってキャンバスは舞台。ネタなんです。そして展示会はライブです。

——今回、たいぞうさんが展示しているなかで「みんなのスタート」という作品が印象的でした。

たいぞう 自分が障がい者とわかってから、僕はまわりの方にすごく支えられてきたんやなと感じたんです。まわりの人がいたから、これまで芸人もできてたんやなって。だから、今回の作品は“支えてきてくれたまわりの人たち”が主役です。

今回がコラボ展のスタートになるから、アーティストと同じ数の9人の赤ちゃんがいます。そして、蝶々のサナギがいて、そこから花が咲きます。左下の象は、河瀬さん。長い鼻を使って、僕らに愛を注入してくれます。右下は、サポートしてくれる吉本の社員の方々。いろんな方が支えてくれていることを表現しました。そして、上に描かれた鳥は、次のステージへ羽ばたく未来を表現しています。見に来てくれた方々の笑顔がたくさんあります。情報量が多いんですけれども。

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Masyashi777 制作時間はどれくらいなんですか?

たいぞう けっこう早いです。これで1週間くらいかな。僕は頭の中で絵をずっと描いているし、ある程度、絵を描くときの方程式があるんです。芸人さんって、ネタを考えるときに小さなことを大きくするじゃないですか。僕も同じように、小さいことを大きく膨らませて絵として表現しています。アートって難しいと言われることが多いんですけれども、僕はお笑い、吉本新喜劇出身なので、おじいちゃんから子どもさんまで、みんなが楽しめるような作品をつくっていきたいなと思っています。

——作品の説明を聞くと、より一層どういう絵なのかが伝わって、さらにじっくり見たくなります。Masyashi777さんの作品は、ポップな絵もあり、クールなタッチもあり、同じ人が描いたとは思えないバリエーションがあるように感じました。

河瀬 彼は、デジタルで絵を描くんですが、ひとつの絵に対して色のパターンを変えて、いろんな作品に仕上げていきます。

Masyashi777 練習と模索の日々やと自分でも思っています。僕はデジタルを使って作品をつくるけど、これまで絵を学んできたわけではないんです。でも、やりたいことならできる。「ソフトの使い方を勉強せなあかん」と思い詰めるといっさいできなくなるので、作品をつくりながらソフトの使い方もひとつずつ覚えていく感じです。だから、いろんなパターンの作品が生まれてくるんだと思います。

出典: FANY マガジン
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全国で障がい者アーティスト仲間を増やしたい

——このコラボ展の、今後の展望を聞かせてください

たいぞう 全国をまわって旅したいです。会場が大きい、小さい関係なく、そしていろんな方と会場でお話して、絵を描いて。アートだけじゃなく、そこで見せられるようなショーもやりたいです。ライブペイントとかできたらいいですよね。お笑いもちょっと入れたいなぁ。ゲストに吉本新喜劇の方も呼んで、障がい者アーティストのみんなで作る。アートとお笑いを融合できたらいいですね。

河瀬 たいぞうさんは大阪府障がい者芸術・文化大使もされているので、まずは大阪で、いろんな症状を持ちながらも一生懸命、絵を描いている方が一斉に集まる場を作って、そこで仲間を増やしていくのが大切かなと感じています。そして、全国にも仲間を増やしていって。アートを通して、いろんな方と出会えて、いろんな世界が見られるよ、と。障がいがあることで、家に引きこもっている方もいらっしゃいます。だから、いろんな世界を見ることができるきっかけになればいいなと思います。

展覧会の詳細はこちらから。

今回の「障がい者アート」をもっと世の中に広めるコラボ展のためのクラウドファンディングを9月6日(金)23:59まで実施中です。

詳しくはこちらから。