江戸時代・寛政期から200年あまり、京都の地で彫金錺(かざり)金具制作を続けてきた竹影堂中村家の当代・竹影堂榮眞(ちくえいどうえいしん)の個展「七代 竹影堂榮眞 茶の湯金工展」が、10月9日(水)~15日(火)に兵庫県姫路市の山陽百貨店で開催されました。作品の茶道具を実際に使ったお茶席も設けられ、「若い方にも伝統工芸の金工作品に触れて頂くきっかけになれば」と、お笑いコンビ・女と男のワダちゃんと市川をゲストにお茶会を開くことに。少し緊張した様子の2人が体験した伝統工芸の奥深さとは!?
いろいろな人に知ってもらうきっかけになれば
榮眞 せっかく茶道の先生もいらしているので、まずは一服。作法は気にせず、ふつうに飲んでくださいね。
市川 あぁ、おいしい! お菓子を味わったあとに飲むと、苦すぎなくてちょうどいいですね。
榮眞 抹茶は苦いとおっしゃる方もいますが、苦みも甘みも含んでいるので、おいしいですよね。茶道に親しみがないと、私がつくっている茶道具についても知らない方が多いと思うので、市川さんとワダちゃんにいろいろと質問してもらって、いろいろな人に知ってもらうきっかけになれたらいいかなと思って、この会を企画しました。
市川 美術画廊に入るのも初めてで。こんな場所は着物姿のちゃんとした人しか入ったらいけないのかなと思っていました。
榮眞 確かに高級なものは置いてあるけれど、それこそワダちゃんがつくる消しゴムハンコも、時間をかけてつくったら高級品と同じ価値があるでしょ。心を込めてつくりあげているものだから、価値は一緒ですよ。今回は金属、特に純銀を使った茶道具の作品をメインに展示しています、棚の上の水指も銀で作ったものです。
手作業の価値観を見出してほしい
ワダちゃん 銀って、どうやって加工するのか想像つかないです。
榮眞 純銀の一枚板をカットして30センチくらいの丸板をつくり、金槌や木槌で叩いて立体にしていきます。叩き方で模様に違いが出るので、金槌だけでも40~50本用意しています。
ワダちゃん へぇ! 丸板を叩くときは、かなり強い力で叩くんですか?
榮眞 銀ってね、500℃以上のバーナーで炙ると、手で曲げられるくらいやわらかくなるです。だから、強く叩かなくても大丈夫。叩いているうちに、またしっかりとした硬さになっていきます。
市川 機械は使わないんですね。水差しだと完成までの期間はどのくらいですか?
榮眞 僕の作品の90%は手作業のみですね。完成までは1カ月くらいかな。
市川 は~! 本当に手間と時間をかけてつくられているのですね!
榮眞 水差しなどの茶道具は、金でつくることもできるのですが、なぜ僕が銀を使用するか、理由はわかりますか?
市川 金だとちょっといやらしさが出るから?
榮眞 素材が金だと誰がつくったかなんて気にせず、いったいこれナンボ?って思うでしょ。
市川 確かに! 作品よりも、値段のほうが気になってしまう!
榮眞 せっかく心を込めてつくっても、金だと負けてしまう気がするんです。注文品なら金でもつくりますが、自分の作品には手作業の価値観を見出してほしいなという思いがあるので、銀を使っています。では、さっそく展示している作品を見てもらいましょうか。
市川「銀で『女と男』グッズをつくってほしい!」
ワダちゃん わぁ! シルバーとピンクが合わさった素敵な色合いの作品がありますね。
榮眞 これは銀の釜です。仕上げるときに銅イオンをつけるとピンクっぽい色になるんです。
市川 銀って重たいイメージがあったのですが、触らせていただくと、思っていたより軽いですね。
榮眞 銀と鉄だと厚みが違うから。鉄は鋳物なので、3~5ミリの厚みがないとできない。銀は1ミリぐらいの1枚を叩いてつくるから軽く仕上がります。比重だけでいうと銀のほうが重いけれど、厚みが薄いので重量は軽くなるんです。
市川 丈夫さも銀と鉄では違ってきますか?
榮眞 経年変化による傷みは鉄のほうがありますね。鉄は錆びてしまうけど、銀は100年、200年、1000年前の銀の道具も壊れずに出てくるくらいですから。
釜のフタを置くための道具もあります。「南鐐 雲錦 蓋置(なんりょう うんきん ふたおき)」は、満開の桜を白雲に、鮮やかに色づいた紅葉を錦織に見立てた雲錦という昔からあるデザインをアレンジしたフタ置き。春は桜の側を使って反対側のモミジが目立たないようにして、片側だけを強調できるようにしています。
ワダちゃん 反対にするとモミジが出てくるので、秋はこちらを使うんですね。面白いなぁ。
市川 こういったデザインも先生が考えていると伺いましたが、アイデアはどこから思いつくのですか?
榮眞 常に何かないかな、新しい発見はないかなと考えていますね。
市川 僕も芸人やから常におもしろいことを考えているんですけど……。
ワダちゃん でも、出てきてないでしょ!
市川 先生も、僕たちと会ったことで何か新しいアイデアが生まれるかもしれないということですよね。ぜひ「女と男」のグッズを銀でつくってもらいたいな。
ふだんは顧客から「逃げている」!?
ワダちゃん 修行はどれくらいされていたんですか?
榮眞 僕は15歳から修行していて、いまで七代目。初代は刀の拵(こしらえ)というパーツをつくる職人をやっていて。明治時代に入って、海外輸出向けの工芸品や茶道具もつくりだしたみたいですね。
市川 家業を継ぐのは先生にとって当たり前のことでしたか? それとも、何か別にやりたいことがあったとか?
榮眞 勉強ができなかったんでねぇ。何か自分にできることないかなと考えたら、家が伝統工芸をやっていた、という感じで。ものづくりは好きだったけど、最初はなんとなくやっていて、本当にこの仕事をやりたいと思ったのは30歳手前くらいですね。
市川 時間をかけて作品づくりをしていると、なかには思い入れがありすぎて、手放したくない作品もあるのでは?
榮眞 思い入れがありすぎるので、ふだんはお客さんとあまり話さず、逃げているんですよ。実際に使う方が、使いたい用途、使いたいように使っていただきたいので、一点一点に自分の思いを乗せちゃうと乗りすぎてしまう。僕は自分の作品が、会話のきっかけになるコミュニケーションツールになればええな、と思っています。
たとえば、喜寿を迎えた先生がお茶会で縁起のいい亀甲柄の「南鐐 六角 蓋置(なんりょうろっかくふたおき)」を出す。お客さんが「なぜ今日は六角を?」と尋ねたら、「私が喜寿なので」と会話が生まれる。子どもが「南鐐 石畳 蓋置(なんりょういしだたみふたおき)」も見ると、市松模様から連想してすぐ「鬼滅の刃の竈門炭治郎の着物の柄だ」だと言う。でも、そこから話が広がればそれでいいなと思っています。
デザイナーとコラボしたジュエリーも
ワダちゃん ミラーボールのような湯沸かしがあったり、焼き物とコラボしていたり、伝統工芸って、無限にいろんなことができるんですね。
市川 たくさん作品を見せていただいて、機械にはない、手仕事にしか出せないよさが絶対あるんだなと感じました。
榮眞 もっと身近に感じてもらえる銀の製品ができたらなと、うちのスタッフが考えた根付(ねつけ)やピンバッジ、デザイナーとコラボしたジュエリーも展示しています。
ワダちゃん 干支のピンバッチなんて、めっちゃかわいいですね~。伝統工芸って、勝手なイメージで自分に似合ってないから手に取りにくいと思っていたけど、こんなふうに手に取りやすい商品があると、伝統工芸や銀に触れるきっかけになってありがたいです。
市川 先生みたいに考えを持つ気さくな職人さんがいると、僕らも安心して伝統工芸に近づくことができます。職人さんは寡黙なイメージがあるし、あんまり喋ったら怒られるのでは……と思っていました。
榮眞 職人はきっとそんなふうに思われているだろうなぁと思って、僕は吉本興業に(アーティストとして)所属したんですよ。
ワダちゃん 市川君、途中でフタ置きのことを箸置きって言い間違えてたしな。先生が吉本所属やから助かったけど、ほかの職人さんなら絶対怒られてたで!
市川 すいません。でも、今日はすごく面白かったです。こういった作品が、1枚の純銀の板からつくられていることも知らなかったですし、手仕事ならではの思いがとても込められているのを感じました。
ワダちゃん「自分も銀の似合う女性になりたい!」
ワダちゃん 驚いたのは、金槌の叩き方などで、模様や色の風合いが変わったりするということ。面白いなと思ったし、銀という素材への興味もわきました。
市川 作品のテーマや説明を先生から直接伺うことができて、より作品のよさがわかりました。作り手の思いは絶対伺ったほうがいいですね。
ワダちゃん 作品を拝見して、自分で意味合いを考えて、先生に答え合わせさせてもらう贅沢な楽しみもありました。あと、作品に触れさせてもらっているうちに、私も銀の似合う女性になりたいなと思いました!
市川 シルバーウーマン……! 僕もいつか先生の作品を自宅に飾れるようになりたい!
ワダちゃん 今度は先生が作業されている様子を見せてもらいたいし、体験もしてみたいです。
榮眞 見学や体験教室もやっているので、ぜひ遊びにいらしてください。
市川 作業されているときは、やはり静かに銀と向き合っておられるんですか?
榮眞 いや、けっこうワチャワチャしてますね。
市川 やっぱりイメージとちゃうなぁ。