伝統芸能の文楽と講談が65周年を迎えた吉本新喜劇とコラボした「伝統芸能新喜劇」が、10月22日(火)、23日(水)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA SSホールで開催されました。この舞台の見どころは、なんといってもいままで交わることのなかった伝統芸能と新喜劇の化学反応! 新喜劇座員が伝統芸能に挑戦するシーンではハプニングも発生しました。最後まで目が離せなかった初日公演の模様を、芸人ライターとしても活動する吉本新喜劇座員の祐代朗功がレポートします!
内場とやすえが人形巡って“夫婦喧嘩”
玉田玉秀斎の講談からイベントがスタート。講談ならではの迫力で、いきなり観客の心を鷲づかみにします。続いて文楽の鶴澤友之助が三味線で新喜劇のオープニング曲を演奏しはじめると、途中から「笑点」のテーマ曲に。内場勝則が「4チャンネル(新喜劇を放送するMBS)から10チャンネル(笑点を放送する読売テレビ)になってる」とツッコんで、本格的に新喜劇が始まりました。
文楽は、“太夫”と呼ばれる語り役、演奏役の“三味線”、そして人形を操る“人形遣い”が一体で作る総合芸術です。舞台が中盤に差し掛かったとき、文楽の人形が、まさかの島田珠代の定番ギャグ“パンティーテックス”を披露して会場は大盛り上がり。
太夫の豊竹芳穂太夫と三味線の友之助、人形遣いの吉田玉翔、吉田玉路、吉田簔之が渾然一体となって表現したこの“大技”に、新喜劇座員たちもタジタジです。とんでもない“化学反応”に、内場が「島田珠代にパンティーテックスの使用許可もらってない」と指摘して笑いを誘いました。
続いて 内場と未知やすえ、今別府直之の3人が“人形遣い”にチャレンジ。3人でひとつの人形を操り、“主遣い(おもづかい)”が首(かしら)と右手、“左遣い”が左手、“足遣い”が足を担当します。
内場が主遣い、やすえが左遣い、今別府は足遣いとなって動かしますが、てんやわんやするばかり。500万円するという人形はうまく動きません。
「左手動かして」と言われて、左遣いのやすえが人形の左手ではなく自分の左手を動かす一幕も……。途中から内場とやすえは、人形がうまく動かないことを互いのせいにし始めて夫婦ゲンカのようになり、間に挟まれた今別府は右往左往。これも一種の“化学反応”でしょうか。
伝統芸能ワークショップも開催
舞台の途中、新喜劇の座員から文楽や講談の面々に質問する場面もありました。伝統芸能組がそれぞれ「師匠が厳しくて何回も辞めようと思った」「大きい声を出せと怒られた」「正座がきつい」「上がつまっているから下積みが長かった」と“本音”を漏らすと観客は大笑い。厳しい世界であることは、新喜劇座員である筆者の身にも染みます。
その後、舞台の終盤でも伝統芸能と新喜劇を組み合わせたやり取りの連続。新喜劇の安尾信乃助が文楽の人形を人質にしたり、講談と三味線がうるさくて声が聞こえないシーンや、人形が内場のギャグ「イィィィィーーー!」を披露しながらエンディングを迎えました。
終演後は、舞台上で演者一同が並んで観客に向かって挨拶。一見すると伝統芸能メンバーと新喜劇メンバーが分かれていましたが、なぜか今別府だけが伝統芸能側に立っています。すかさず内場から「お前、伝統ないやろ」とツッコまれながら、最後までその場で挨拶を終えました。
続いて開催されたワークショップでは、まずは講談の“たたき”と呼ばれる手を叩いて音を出す体験から。玉秀斎による講談『桃太郎』の途中、「どんぶらこ」の声に合わせて観客が一斉に手を叩くと、会場に一体感が生まれます。
また、文楽の太夫の“大笑い”という笑い方を観客一同で体験し、ここでも一体感が感じられました。
次に観客から3人が選ばれて“人形使い”を体験しますが、みんな悪戦苦闘。足遣いを体験した人が「(自分の)足がきつかった」と語ると、笑いが生まれました。
伝統芸能の本気ぶりに感服
イベント終了後の囲み取材で、講談師の玉秀斎がこう振り返りました。
「まわりに迷惑をかけないように責任感が生まれました。ふだんは1人だから、間違っても1人で間違っているだけで誰も気づかないです」
文楽の玉翔は人形遣いなので、ふだんは声を出さないのですが、「稽古から内場さんに『酒焼けしているな』と言われました」と明かします。三味線の友之助も「僕もふだんは声を出さないです」と語りながら、「新喜劇のオープニング曲などは、文楽で弾いたらシバかれると思います」とコメントしました。
すると芳穂太夫も流れで「僕もふだんは声を出さないです」と太夫ならではのボケを披露。そのうえで「(ふだんの舞台では)人と会話しないので、(新喜劇の舞台は)新鮮でした」と真面目な感想も語りました。
この日の脚本・演出を担当したのは久馬歩(ザ・プラン9のお〜い!久馬)です。久馬は「文楽でパンティーテックスをしてくれるとは思わなかったです。確認の動画を何回も送ってくれました」と伝統芸能組の本気ぶりに感服します。やすえと森田まり子は「文楽の舞台になった時代はパンティーをはいていないはずだから、どうするんやろ」と楽屋で話していたそうです。
最後に内場が「異様な空気」と振り返るほど、さまざまな化学反応が起きた「伝統芸能新喜劇」でした。講談、文楽、そして吉本新喜劇の今後に乞うご期待!