若手噺家の登竜門である「令和6年度NHK新人落語大賞」は、昨年も決勝に出場し、リベンジに燃えていた桂三実が見事大賞に輝きました。10月26日(土)に東京・イイノホールで開催された本選では、予選を勝ち抜いた桂九ノ一、桂三実、春風亭一花、笑福亭笑利、昔昔亭昇、鈴々舎美馬の6人がネタを熱演。ライバルの追随を振り切って勝利した三実は、大会終了後の囲み取材でも喜びを爆発させました。
実際に「早口言葉」の状況が降りかかったら…?
前身である「NHK新人落語コンクール」時代から、およそ半世紀の歴史を持つ「NHK新人落語大賞」。東京は「二ツ目」、上方はそれと同程度の芸歴で、かつ入門15年未満の若手落語家たちが頂点を競います。
東京予選90人・大阪予選40人の計130人が参加したこの大会。本選の審査員を務めるのは、桂文珍、柳家権太楼、片岡鶴太郎、フリーアナウンサーの赤江珠緒、コラムニストの堀井憲一郎という面々。ファイナリストは、錚々たる審査員を前に、それぞれ11分のネタを披露しました。
審査の結果、桂九ノ一「天災」42点、鈴々舎美馬「死神婆」41点、春風亭一花「駆け込み寺」46点、桂三実「早口言葉が邪魔をする」48点、昔昔亭昇「やかんなめ」46点、笑福亭笑利「天狗裁き」45点(※出番順)となり、桂三実が大賞に決定!
三実は、子どもを持つ男性の身に「隣の客はよく柿食う客だ」などの早口言葉が実際に降りかかるという新作落語を披露。三実の熱演とネタの美しい構成が見事にマッチし、ライバルの追随を振り切りました。
念願の大賞受賞に、昨年の大会で審査員・金原亭馬生から、落語家らしからぬ“金髪と前髪”を指摘されていた三実は、「金髪でもおでこを出したら優勝できました!」と喜びを爆発させました。
優勝につながった師匠・文枝からのアドバイス
囲み取材で、さっそく前髪について質問が飛びました。三実は「去年、ご指摘いただいたあともしばらく髪を下ろしていたんですけど、2カ月前に上げはじめました。13年目でやっと気付いたんですけど、おでこ出したほうがやりやすいんです。この髪型で今回優勝もできたので、馬生師匠にも感謝申し上げたいです」とコメント。髪を上げるメリットとしては、「単純に鬱陶しくない。圧倒的にやりやすいですし、お客さんにも伝わりやすい」と語りました。
三実の師匠は桂文枝。文枝の弟子として大賞受賞者は、2001年度(平成13年度)の桂三若、2018年度(平成30年度)の桂三度に続き3人目。3人の弟子が大賞を獲ったのは史上初とのことです。
文枝から大会前にエールをもらったのか、と問われると「変にアドバイスをしたら、それを意識して悪い方向に行くかもしれないから、『去年はあえて何も言わんかった』とおっしゃっていて。ただ今回、2年連続の出場やし、出られる回数も少ないので、『ラストチャンスのつもりでいかなアカン』と、ネタを見ていただきました」と答えました。
師匠からのアドバイスについては「『ここが気になったけど……。でも、そのまま直さんでええけどな』とアドバイスをいただいて。結局 、1個も採用してないんですけど」と笑わせつつ、「もともとオチも違っていました。師匠から『気になるな』という声があったので、なんとか絞り出して変更しました」と秘話を明かしました。
「師匠の言葉を信じて新作をつくり続けた」
今回、披露した早口言葉のネタは、全世代に共通する話題ということからチョイス。もともと2015年ごろに作り、2年前のNHKの予選で披露して敗退したネタでしたが、今回、ブラッシュアップして臨みました。
「早口言葉が現実に起こったらどうなるんやろうな……から始まったネタなんですけど、ボケがワンパターンだったときに、師匠から『前半に親子の話を振っておいたほうが話に深みが出る』とヒントをいただいて、今回のようなかたちになりました」と、ここでも文枝のアドバイスが効いたことを嬉しそうに話しました。
そんな師匠への思いについて問われると、三実は顔を引き締めてこう語りました。
「師匠が常日ごろからおっしゃっているのは、『新作落語でいちばん大事なのは、つくり続けること。1、2作目からいい作品なんかできないし、何十本とつくり続けていくうちに1本でも、どこでも使えるネタができたらいい』ということ。大阪で若手の新作ってあまり需要がないので、僕も何回か心折れかけたんですけど、師匠の言葉を信じて、ずっとつくり続けたらこういう結果になったので、本当に感謝ですね。(続けられたのは)その言葉があったからです」