「つながる演劇祭からひろがる演劇祭へ」をテーマに開催された「関西演劇祭2024」の表彰式が、11月24日(日)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA SSホールで行われました。今年は10劇団が参加し、11月16日(土)から1週間にわたって開催。11月24日(日)の表彰式では、「MVO(Most Valuable Opus)(最優秀作品賞)」を含む各賞の発表だけでなく、審査員から「関西演劇祭」に向けて、参加劇団に熱いメッセージが届けられました。
アンバサダー・伊原「今回のお祭りに出会えたことが幸せ」
「関西演劇祭」は、観客との一体感や、想像力あふれる劇団やクリエイターたちとの出会いが大きな魅力。2019年に「“つながる”演劇祭」としてスタートし、6回目となる今年は「“つながる”演劇祭から“ひろがる”演劇祭へ」をテーマに掲げました。
これまで培ってきた演劇人たち、これから出会う参加者たちとの“つながり”を“ひろげる”ことで、劇団や俳優、若いクリエイターたちが夢に向かって進んでいける場を目指します。
表彰式にはアンバサダーの女優・伊原六花、フェスティバル・ディレクターの板尾創路、そしてスペシャルサポーター(審査員)として、株式会社ネルケプランニング代表取締役社長・野上祥子氏、映画監督の三島有紀子氏、NHKエンタープライズ ドラマ部エグゼクティブ・ディレクターの笠浦友愛氏、スーパーバイザーとして劇作家・演出家・折り紙作家の西田シャトナー氏が出席しました。
最初に、アンバサダーの伊原六花が演劇祭を終えた心境をこう語りました。
「このお祭り自体が『すごく素敵だな』と、ずっと楽しみにしていました。始まってからも、『この演出家さんの作品に出てみたい』『この脚本家さんのセリフを喋ってみたい』『この人のお芝居をもっと見てみたい』と、個人的にはすごくホクホクしたお祭りでした。皆さん本当に素晴らしかったので、今回のお祭りに出会えたことがすごく幸せです」
いちばん難航した「ベストアクター賞」
続いて、各賞の発表です。
脚本賞は3人が選出され、そのなかから「ベスト脚本賞」に選ばれたのはエンニュイの長谷川優貴氏でした。プレゼンターを務めた野上氏は「点と点が線になる瞬間、その線がまた点と点になり……。行ったり来たりする作品に夢中になりました」と脚本の魅力を称えます。
3人選出された演出賞のなかから「ベスト演出賞」に決定したのは、fukui劇の福井しゅんや氏。プレゼンターの三島氏は、福井氏の演出の魅力をこう語りました。
「ご本人も、『マイノリティの応援歌をつくりたい』とおっしゃっていて、それを強いキャラクターで魅力的に描いてらっしゃいました。リアルとファンタジーの世界を飛躍させて見せる演出の手腕、そして音楽のセンスも素敵でした。出会えてよかったです」
アクター賞の6人のなかから「ベストアクター賞」に選ばれたのは、劇団さいおうばの小林アスマ氏、そしてfukui劇の大和ほなみ氏の2人。名前が呼ばれた瞬間、仲間から大きな歓声が上がります。
プレゼンターの笠浦氏は「実はアクター賞を決めるのが、いちばん難航した」と明かしながら、受賞した2人をこう称えました。
「小林アスマさんは、そこに立つ姿と芝居する姿の落差にびっくりしました。まだ20歳ですが役柄の構築力、存在感、それをつくるポテンシャルがとても高いです。大和ほなみさんは、全員が芸達者のfukui劇の中で際立つ存在。気持ちのヒリヒリ感が伝わってきて、感情移入できる迫真の演技でした」
観客賞には福田麻貴(脚本・演出)のつぼみ大革命
「審査員特別賞」は、劇団☆kochoの桜さがみ氏が受賞。桜氏はプレゼンターの板尾から盾を受け取ると、「40年間、演劇をやってきて初めて報われた気がします」と感極まった様子。
板尾は「劇団って続けるのが本当に大変で、やめようかとか、いろいろあると聞きます。そのなかで40年間きっちりやられてきたという、尊敬に値する方です」と称賛しました。
そして「観客賞」に選ばれたのは、つぼみ大革命。脚本・演出を務めた3時のヒロイン・福田麻貴は「アイドルグループということで、ふだんは(自分たちのことを)観に来るお客さんの前でライブをすることが多いんですけど、つぼみ大革命を知らないお客さんの前で演劇をやらせていただくのは初めて。手応えあり!ということで、観客賞をいただけてよかったです」と語りました。
板尾は「観客賞は接戦で、最終日まで結果がどうなるかわからなかったですが、つぼみ大革命はオンライン投票数がすごかった。これも時代というか、『いまだな!』と思いました」としみじみ。
MVO(最優秀作品賞)はエンニュイ!
そして、最優秀作品賞の「MVO(Most Valuable Opus)」に選ばれたのは、エンニュイ! 「ベスト演出賞」も受賞した長谷川氏が代表してスピーチに立つと、ともに演劇祭に参加したすべての劇団を称えました。
「いろんな劇団の方がいて、僕らは殺陣なら勝てないし、人情劇でも勝てないし、だから僕らがたまたま獲ったという感じだと思います。皆さん素敵でした」
プレゼンターを担当したアンバサダーの伊原は「長谷川さんのすごくおもしろい脚本と、どこまでが演出でどこまでが皆さんのアイデアなのかという自由度の高い展開、あとは役者の皆さんの解像度の高さ。すべてのクオリティがすごく高くて、『いいものを観たな』というのが、いちばんの感想でした」と振り返りました。
審査員が語る演劇のすばらしさ
スペシャルサポーター、スーパーバイザーの各氏も、参加劇団に改めて温かいメッセージを送りました。
「どの劇団も、どの演者の方も本当に素晴らしかったので、参加させていただいて本当に光栄でした。私も役者として、また皆さんとどこかでご一緒できるようにがんばりたいと思います」(伊原六花)
「今日終わってしまいますが、ここに参加している皆さん、手伝ってくださったスタッフの皆さんのおかげで今回生まれたものがちゃんと種になり、次に繋がるものになっているんだなと確証しました。人の心を動かせる演劇というのを、私も皆さんと一緒になってまだまだ頑張っていきたいと願っています」(野上祥子)
「皆さんの顔を見ていると、本当に演劇の終わりってすごく豊かな気持ちになるんだなと改めて思いました。私はふだんは映画を作るんですが、前に参加された方に出演していただいたりもしていて、これから皆さんと映画で、いろいろな形でコラボしながら何かを生み出せていけたらいいなと思います」(三島有紀子)
板尾「皆さんと、早めに現場で会えることを楽しみにしています」
「これだけいろんなアプローチをされている劇団を集められた方々にもリスペクトです。皆さんもお互い別の劇団を見て刺激を受けたと思います。私自身もまだ現場にいる人間として、皆さんに負けないように作っていきたいなと思いました、心が震える日々でした」(笠浦友愛)
「皆さんを応援できて幸せでした。私は、最優秀賞を全劇団に獲ってほしかった。そんな気持ちでおります。皆さんに寄り添わせていただき、賞を獲られた方を見て、自分が賞を獲ったような幸せな気分になりました。これからも皆さんを応援しますし、芝居を見ていきます。いつか全員に賞を獲らせるような応援者になりたいと思います」(西田シャトナー)
「各賞が決まりましたが、エンニュイが最優秀を獲ったのは、ほかの9劇団からの刺激があったから。それがないと獲れなかったと思います。だから今回の演劇祭は、これが結果ということで。またひとりでも多く、どこかの現場で会えたらいいなと思います。3日くらいは顔を覚えていますので(笑)、早めに会えることを楽しみにしています」(板尾創路)
「ティーチイン」でいつも最初に手を挙げる女の子
授賞式を終えたアンバサダーの伊原立花と、フェスティバル・ディレクターの板尾創路に話を聞きました。
伊原は「この演劇祭自体が、演劇の魅力を広めるためにすごくいいお祭りだと感じていたので、アンバサダーとして参加できて本当に幸せでした。これからの演劇の“推し活”にも力が入るなと思いました」と笑顔で語りました。
一方、板尾は今年のテーマが“つながる”から“ひろがる”になったことについて、こう話しました。
「“つながる”演劇祭としてやってきて、つながることはよくわかったんですよ。だから今回は、つなげたことを広げていくということに力を入れようということで。僕が広がってほしいのは、劇団が増えることも大事なんですけど、観劇する人が増えると劇団が必要になってくるので、やっぱり『芝居が観たいな」っていう人を増やすことが大事だと思っています」
演劇鑑賞が趣味だという伊原は、オフの日には昼公演、夜公演をはしごして観劇することもあるほど。そんな伊原は、「ティーチイン」(上演後に劇団員、観客、審査員が意見交換する仕組み)がとても魅力だったといいます。
「すごく画期的だなと思います。劇団が集まって演劇をするだけでなく、観てくださっている方々から意見を聞くことで役者としても広がるものがあるシステムじゃないかなと思いました」
印象的だった場面について、「1列目に座って、いつも最初に手を挙げて意見を言ってくれる小さい女の子がいました。子どもだからこそ感じられることや、一緒に観て、観たあとにすぐ感想を伝えるからこそ感じられるものがすごく多くて。想像していたとおり、ティーチインはすごく好きです」と語ると、演劇を愛するひとりとしてこう続けました。
「私も観劇をする人数がもっと増えて、魅力がもっと知れ渡ったらいいのになと思います」
「関西演劇祭2024」公式サイトはこちらから。