俳優・小川菜摘が中心となり、信頼する”熟年世代“の演出家・俳優とともに結成した「熟年団」の第1弾公演「チェリー・ホープを知ってるかい。」が、12月4日(水)に東京・恵比寿のエコー劇場で幕を開けました(8日まで)。小川をはじめとする、経験豊かな“熟年世代”に、フレッシュさと実力を兼ね備えた“若年世代”の俳優が加わり、それぞれの個性が光る確かな表現力で物語を紡ぐ今回の舞台。期待が高まるなかで開催された、ゲネプロの様子をレポートします。
一家を舞台に巻き起こる大みそかの大騒動
小川菜摘が、公私ともに仲がいいという若手俳優・アサヌマ理紗との「またお芝居やりたいよね」という何気ない会話をきっかけに、仲間が集まって結成された「熟年団」。メンバーは、小川、アサヌマのほか、演出を務める村上大樹、俳優の今林久弥、小林タカ鹿、千葉雅子の6人。さらに今回の旗揚げ公演では、若手実力派俳優の冨岡健翔、加藤夕夏が出演します。
第1弾作品となる「チェリー・ホープを知ってるかい。」は、いまから約25年前に劇作家・鈴木哲也が「家族」をテーマに書き下ろした知る人ぞ知る名作。
1999年の大みそか。宮城・仙台にある実家の取り壊しを機に、伊達家3兄弟の長女・あおい(小川)、長男・太郎(今林)と妻のかすが(アサヌマ)、次男・次郎(冨岡)が、思い出が詰まった家で家族水入らずの年越しを過ごそうと、久々に顔をそろえます。しかし、そこへ豊臣のぞみ(加藤)という1人の女性が現れたことで、思わぬ騒動に発展……という物語。
ステージ上には、畳敷き、薄茶けたふすま、大きなちゃぶ台、仏壇、石油ストーブなどが配された古びた家屋の居間が広がり、観客は、この居間で巻き起こる伊達家の大騒動を、覗き見ることとなります。
見知らぬ客の正体に狼狽する3きょうだい
まずは、アサヌマ扮する長男・太郎の嫁のかすがが、パッツン前髪とおだんごヘア、赤い半纏に赤いパンツというインパクト大のいでたちで来客をもてなしている場面から物語が始まります。
かすがとは対照的に、黒のスーツに身を包み、思い詰めた表情を浮かべる訪問者は、加藤が演じる豊臣のぞみ。2人でぎこちない会話をしていると、小川演じる長女・あおいと、今林演じる長男・太郎が帰ってきます。
ここで、のぞみは意を決し、自分が母・さくらと3きょうだいの亡くなった父・健太郎の間に生まれた娘であることを告白。すぐには受け入れられないあおいと太郎は、ひとまず、のぞみを帰します。
次の日、大阪でフリーライターをしている次郎が帰省。そこへ、再び訪れたのぞみを見て驚きます。なんと、次郎とのぞみは中学の先輩・後輩だったのです! のぞみが自分を訪ねてきたものと思い込んで舞い上がる次郎は、のぞみの本当の目的を知って落胆。そして、あおい、太郎と同様に狼狽します。
「作品とキャストがぴったりハマった」
清廉潔白だと思っていた研究者の父の思わぬ秘密を知り、あおい、太郎、次郎の胸の中に渦巻くさまざまな感情。この騒動を通して3きょうだいは、父親だけでなく、すべてをわかり合えていると信じていたきょうだいが抱えている、自分が気づかずにいた思いも知ることになります。
そして、古い郵便物の中から見つかった1通の手紙が、ある真実を明らかにし、物語は思いもよらない結末を迎えます。
小川は、3兄弟で唯一の女性であり、父の裏切りに対する怒りと嫌悪感、そしてほかの兄弟とは異なる父への思いが入り混じり、心を乱されるあおいを熱演。
演出の村上が「作品とキャストがぴったりハマった」と豪語したとおり、今林は家族の面倒ごとを押し付けられるお人よしの長男・太郎に、そして冨岡は、どこか地に足がついていない様子の次男・次郎のイメージにピッタリで、観客を作品の世界へと引き込んでいきます。
アサヌマは、3兄弟に降りかかった深刻な問題に“嫁”という立場でかかわり、ふだんのアサヌマとも重なるような、かすがの明るくユニークなキャラクターを好演。物語を明るく照らし続けます。
さらに、自由奔放な3兄弟の叔母・恵子を演じる千葉、そして、生前の父がこだわって名付けたという、3兄弟の昔の飼い猫「チェリー・ホープ」や、思春期真っただ中の恵子の息子・拓也など多彩な6役・6変化に挑んだ小林が、物語を心地よくかき回していきます。
そして、メンバー最年少でありながら、物語のキーパーソンとなる難しい役どころに挑んだ加藤は、複雑な思いで伊達家を訪れるのぞみを、瑞々しくも確かな演技力で体現していました。
年齢差のある3人が本物のきょうだいに見えてくる
3兄弟を演じる、小川、今林、冨岡は、実際にはかなり年齢差がありますが、見ているうちに自然ときょうだいに見えてくるのが不思議なところ。舞台上には、以前、今林がインタビューで語っていた“実家感”がきちんと生まれていて、熟年団ならではの魅力あふれるステージに仕上がっています。
物語と同じ12月に上演される「チェリー・ホープを知ってるかい。」は、12月8日(日)まで恵比寿・エコー劇場で上演中。役者たちの意見も存分に取り入れたという、ユニークな公演グッズも大充実しています。
伊達家に巻き起こった大みそかの騒動を見守りながら、笑ったり、考えさせられたり、ジンとしたり……。寒い季節に心をほっこりとあたために、ぜひ、足をお運びください。
公演概要
熟年団『チェリー・ホープを知ってるかい。』
日時:
12月4日(水) 19:00開演
12月5日(木) 14:00開演/19:00開演
12月6日(金) 14:00開演/19:00開演
12月7日(土) 13:00開演/18:00開演
12月8日(日) 13:00開演
※開場時間は開演の30分前
会場:恵比寿・エコー劇場(渋谷区東3丁目18-3)
出演:
アサヌマ理紗★
今林久弥
小川菜摘
加藤夕夏★
小林タカ鹿
千葉雅子
冨岡健翔★
(50音順)
※★の方々は熟年ではありません。
脚本:鈴木哲也
演出:村上大樹
チケット:前売 7,500円/当日 7,800円(全席指定席・税込)
※未就学児は入場不可。
※車椅子席をご利用の方は、チケットご購入前にFANYチケット問合せダイヤル[TEL]0570(550)100(10:00~19:00/年中無休)までお問合せください。
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