吉本新喜劇が西川忠志の芝居に与えた意外な影響とは? 舞台『十二人の怒れる男』SPインタビュー

法廷劇の傑作で密室劇の金字塔として名高い『十二人の怒れる男』がマキノノゾミの演出で、12月10日(金)から12日(日)まで大阪・吹田市文化会館メイシアターで上演されます。世界で幾度となく演じられ、日本でも本公演はもとより多くのオマージュ作品が上演されているこの作品。主演を務める吉本新喜劇の西川忠志に、作品の魅力や制作のウラ話を聞きました。

出典: FANY マガジン
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『十二人の怒れる男』は1954年に製作されたアメリカのテレビドラマで、1957年にリメイクされた映画作品が世界的に評価されるなど、法廷モノの最高傑作として知られる作品。父親殺しの容疑をかけられた少年の裁判で、12人の陪審員たちが討論するなか、さまざまな偏見や矛盾が浮き彫りになっていく……というストーリーです。

挑みがいのある素敵な役

——まずは作品の印象を聞かせてください。

いろんな人がこの作品を上演し、オマージュしていると話は伺っていましたが、僕自身、出演のオファーをいただくまでは題名のみ知っている、という状態でした。そこで、この機会に初めて戯曲を読み、映画を観ました。

まず、いち視聴者としての感想は、僕と同世代の中年男性たちが繰り広げるカッコいい話やな、と思いました。そして、これは挑みがいのある素敵な役をいただけたと思い、出演のお返事をさせていただきました。

出典: FANY マガジン
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——西川さんが主演に抜擢された理由は聞きましたか?

メイシアターのプロデュース公演は今年で14本目になりますが、2016年に一度、後藤ひろひとさんが作・演出をされた『タッチャブルズ』に出演させていただきました。今回もそのときと同じプロデューサーで、少しお話を伺ったところ、「この作品をやるにあたってパッと思い浮かんだのは忠志さんやった」と言ってくださいました。

大げさに言えば、演劇、映画など、いわゆる芸術に携わる世界中の人たちが、多かれ少なかれ影響や刺激を受けている作品をやらせていただく機会はなかなかないので、そういう意味でも感謝の気持ちで受けさせていただきました。

——戯曲を読んだということですが、いまはどう受け止めていますか?

密室の台詞劇ということで、とにかく怒涛の応酬で。サスペンス劇ですので、ひとつ間違ったらすべてが終わってしまうため緊張感の連続ですけれど、マキノノゾミさんの演出は今回で3回目になります。

最初は1999年、東京・パルコ劇場での『東京原子核クラブ』という作品で、そのときも主演で呼んでいただきました。その後、2002年に紀伊国屋ホールで行われたシス・カンパニー『美しきものの伝説』に出させていただきました。いろんな意味でマキノさんは僕のことをよくご存知なので、本番まで叱咤激励を浴びながらやっていくんだろうなと思っています。

出典: FANY マガジン
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役作りで大阪高裁を見学

——マキノさんからは、演じるにあたってどんなお話がありましたか?

「みんなは日本人やけど、これはアメリカのお話です」と。「タバコを吸う仕草ひとつでも、日本人の仕草であってはいけない。外国人のような仕草が自然にできるように」と言われています。

「映画もいままで観てきただろうけど、何十回と見返して、いわゆる歌舞伎の型ではないですけど、与えられた人物の雰囲気や仕草なりを型として研究してほしい」と毎回、稽古でおっしゃっています。

——役作りでほかに参考にしたものはありますか?

原作が生まれたのは約60年前ですが、父親を殺した少年を裁くお話で、少年は陪審員の話し合いの結果次第で電気椅子にかけられるという瀬戸際に置かれています。人を裁くということはどういうことなのか、社会勉強も兼ねて大阪高等裁判所に見学に行きました。

それまで勉強不足で1日にどれだけの裁判が行われているのかも知らなかったのですが、100件どころじゃない大小の裁判が毎日行われていることを知りました。裁判を見学し、ひとつの真実を見極めることは本当に難しいことだと感じ、人を裁くということの重み、大事さ、難しさをひしひしと感じながら、稽古している日々です。

出典: FANY マガジン
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——吉本新喜劇での経験は、今回のようなお芝居にどう生かされていますか?

僕は11年ぐらい吉本新喜劇に出させていただいていますが、逆に、それまではこういうストレートプレイしかしていませんでした。僕にはそれまでコメディという引き出しがなかったのですが、自分としては一生役者を続けていきたいと思い、もっとコメディセンス、喜劇の引き出しほしさに吉本新喜劇に入団させていただきました。

そうして年数を重ねるなかで、ストレートプレイでも「忠志はより芝居が自然になってきた」 というお声をたくさんいただいてきました。喜劇はお客さまに“演じている”という姿を見せると絶対に笑っていただけない。シリアスな芝居以上に自然に見せないといけないと僕は思っていて。そういう自然な芝居がようやく自分の中に染み込んできたからこそ、そういうお言葉もいただけているのではないかと思っています。

吉本新喜劇は本当に難しい。でも、新喜劇に携わることができて、いままでよりも自信を持てる自分でいられる。吉本新喜劇は「なんて喜劇って難しいんや」と思うのと同時に、「なんと面白いんや」と、たくさんの勉強をさせてもらえる場所です。そんな11年があってこその今回のめぐり合わせだと、100%確信しています。

公演概要

出典: FANY マガジン

メイシアタープロデュース SHOW劇場vol.14『十二人の怒れる男』
作:レジナルド・ローズ/訳:額田やえ子
演出:マキノノゾミ
日時:<全4公演>
12月10日(金)開演15:00
12月11日(土)開演11:00/開演15:00
12月12日(日)開演14:00
※開場は開演の各45分前
会場:吹田市文化会館メイシアター・中ホール
出演:西川忠志(吉本新喜劇)、や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)、荻野祐輔、孫高宏(兵庫県立ピッコロ劇団)、川下大洋(Piper・大田王)、田渕法明(劇団ひまわり・ブルーシャトル)、金替康博(MONO)、野田晋市(リリパットアーミーⅡ)、酒井高陽、隈本晃俊(未来探偵社)、蟷螂襲(PM/飛ぶ教室)、三坂賢二郎(兵庫県立ピッコロ劇団)、クスミヒデオ(赤犬)
チケット:一般4,500円 学生3,000円 ※全席指定席