バイク少年の楽屋事件簿その7
【その女、ギャルにつき】

バイク少年の楽屋事件簿

BKBことバイク川崎バイクによる、日々ルミネ楽屋で巻き起こる事件?を元にしたノンフィクション超短編小説。

BKBことバイク川崎バイクによる、日々ルミネ楽屋で巻き起こる事件?を元にしたノンフィクション超短編小説。

「あー!BKBってたっっのしぃぃ!BKB選手権したぃぃぃ!しましょ!みんな集めてみますね!」
「び……え?あ……おぅ」

言われたBKBは、そう生返事をするしかなかった。次々と巻き込まれる芸人たちを想像すると少し胸が痛んだ。しかし抗えない。これが───ギャルというやつか。

新宿の吉本常設劇場、ルミネtheよしもとではこの日も、本公演と呼ばれるネタライブが3ステージ開催されていた。

この日、バイク少年ことBKBはトップバッターだったため、開演の40分ほど前に劇場に到着していた。
すれ違う劇場スタッフさんに挨拶を交わしながら、楽屋へとたどり着く。大きな肩掛け鞄を机にドサッと置き、すぐに舞台衣装に着替える。
ロンTとジャージ、バンダナにサングラスという比較的ライトな衣装のはずなのに、なぜ鞄がこんなにも重いのだろう。なぜこんなにも大きいのだろう。この謎は永久に解けない迷宮入り事件だ、とBKBは思った(不安症なので予備でいろいろ物を入れすぎているだけ)。

そんなくだらないことを考えながら、BKBがBKBロンTに腕を通す。そして、顔をスポンと出した瞬間、背後から元気な女性の声が聞こえた。
「バイクさ〜ん!おはようございます〜!」
振り返るとそこには、『派手』を具現化したようなギャル芸人でおなじみ、エルフ荒川が立っていた。
「おー、ヒィア。おはよ〜」
互いに、特にそれ以上話すことはなく、各々の時間に戻る。芸人だからといって楽屋で必ず何ターンも会話をするとは限らない。

そうこうしているうちに、続々と他の出演芸人もやってきた。
当該日の同じ楽屋には、BKBと同期であるサルゴリラ、後輩にあたるマユリカ、そしてBKBが大阪時代からお世話になっていた先輩の銀シャリなどがいた。さらには、前回の事件簿でも活躍した守谷日和もいる。
BKBは確信する。いい意味で、気を遣う人は誰もいない。今日の出番の合間は、まったり過ごせる楽しい楽屋になりそうだ、と。その確信は数十分後、見事に裏切られることになるのだが───。

ほどなくして楽屋のモニターから「ルミネtheよしもと、まもなくスタートです!拍手ー!」という前説の若手の声が聞こえてきた。これが聞こえたということは、トップバッターのBKBの出番はすぐそこだ。
舞台袖で簡単なストレッチをし、深呼吸をして意識を高める。慣れ親しんだ劇場とはいえ、トップで初めての客前に出る瞬間はいつだって少し緊張するもの。

BKBの出囃子である、風味堂の『クラクション・ラヴ』が大音量で流れだす。舞台監督さんに「お願いします」と促され、舞台に飛び出すBKB。
「レッッッッッツゴォォォォォオオオ!!!盛り上がっていこうぜぇ!!」と元気に登場。そして10分後。
「ありがとうございましたぁ!」
出番を終えたBKBが、息を切らし肩をやや揺らしながら再び舞台袖に帰ってきた。すると、出番が2番手だったエルフの2人が「盛り上がってましたね〜」「さすが!出やすいです!」とトップバッター冥利につきる気持ちのいい言葉をかけてくれた。
「いやいや、あったかいお客さんだったわ」と照れながら言葉を返すBKB。
劇場では、他者のネタをしっかりと見るということは実はあまりない。だが、舞台袖にスタンバイした次の出番の者が、前出番の者のネタやウケ具合を耳にすることはよくある。
エルフ荒川が出番終わりのBKBとすれ違いざまに「わたしもBKBしてきます!」と言いながら舞台に飛び出していった。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

様子を見るBKB。
荒川はいきなり「もうほんとお客さん、こんな集まって〜バカばっか!バ、カ、ばっか!BKBイェェェェイ!」と粗めのBKBを炸裂させていた。
すかさず荒川の相方、浪速が生んだ生粋の女ツッコミ師エルフのはるが「いきなり失礼なこと言うてるな!ほんでぎこちないBKBやな!」と完璧なツッコミを入れる。盛り上がる客。
このように、前の芸人のネタを取り込んで笑いをとるのも、生のライブならではの素敵な流れだ。

袖で見ていたBKBは、盛り上がってくれたことでホッと胸をなで下ろし、楽屋へと帰っていった。

数分後、出番を終えたエルフ荒川が、BKBに向かって「BKBってやっぱ楽しいですね!ほんでやっぱ急に考えるの難しいですね!」と声をかけてきた。
「いや、まあね。でもやってくれてありがとうね!嬉しいわ。盛り上がってくれてよかった」
「ほんとなんか久々に会ったから、テンションあがってやらせてもらいました!」
「そういえば久々か」
「はい!あと、BKBさんが舞台から出るときまず片手だすじゃないですか!?わたし、それもマネしたくて、人差し指にだけ、外してたネイルつけてそれもやりましたよ!あはは!」
「そこまでするやつおらんて!はは!」

確かに、BKBとエルフは劇場ネタ出番が被るのは久しぶりだった。それもあってか、荒川のテンションはあがりきっていた。出番終わり、明るいギャルが明るいノリで先輩と余韻で話している。ここまではいつもの楽屋の風景だった。

「あー!たっっのしぃぃ!BKB選手権したぃぃぃ!しましょ!みんな集めてみますね!」
「び……え?あ……おぅ」

ここで、冒頭の流れになる。言われたBKBは一瞬意味がわからなかった。
よくよく荒川に話を聞くと「今から楽屋にいる芸人を集めて、皆にオリジナルのBKB構文を作らせて、それをBKBが審査をしてほしい」とのこと。さらに「それを動画撮影してSNSのせたいです」とのこと。
突如、一企画のようなことを言い出したギャル荒川。よほどネタ出番が続いた流れが楽しかったようだ。
もちろんBKBにとっても、人気者の後輩からの、とてもありがたい申し出。
しかし、なにも聞かされていない芸人たちが「今からBKB選手権を撮るからBKB構文考えて」と言われ「はいよ」と二つ返事にはならないだろう。楽屋の合間に急に言われるにしては、高めのカロリー。
そして語弊はあるかもしれないが、特に旬でもないBKB構文を今さら本気で考える必要性も、本来はない。
BKB以外の芸人からすればこれは、まごうことなく、強制BKB構文ハラスメント事件だった───。

ギャル荒川の、テンションと明るさと人懐っこさで、続々と芸人が集められる。

出典: FANY マガジン
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サルゴリラに、守谷日和とマユリカ坂本。

出典: FANY マガジン
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マユリカ中谷に、銀シャリ橋本。

表情を見るとわかるが、皆、なにをするかをまだあまりわかってはいない。
だが、ギャルにとりあえず集まってと言われたから集まった。集まってくれた。結局優しい芸人たち。ちなみに全員が荒川よりかなり先輩だ。

ルールを荒川が説明する。
「じゃあ、今から皆さんそれぞれのオリジナルBKB、お願いします〜!で、テーマ決めましょう!……じゃあ青春の恋愛で!」
すると、銀シャリ橋本が一言。
「いや、ええねんけど……その、なんでこれをやるんやっけ?」
ごもっともな質問。それに対して荒川は答えた。
「今日、バイクさんのBKBネタ久々に近くで見て、楽しくって、やりなくなって!で、わたしがやりたいってことはみんなもやりたいってこと!って思ったからです!」
言われた芸人たちは「そんなことないよ!」「すごいギャル理論!」「明るすぎ!」「まあええけど!」と口々にツッコむ。

───そこからは楽しい時間が続いた。続々と繰り出される即興BKB。初めは渋々、みたいな態度だったが、やると決めたらノリノリで、という芸人スイッチが全員に入りまくっていた。

特にマユリカ阪本が発したBKB。
「なにげない時間も、なんでこんな刺激的な時間になるんやろう。B弁当一緒に K食うだけで Bバクバクバク!!(心臓でハートをつくりながら)BKBヒィーア!!!」
青春の1ページが蘇る見事なBKB構文。
BKBからすれば、阪本がBKB構文をこんなに本気で言い放ったところすら初めて見る。間違いなくギャルに感化されていた。
「しかも心臓のバクバクと、弁当のバクバク、2つの意味がかかってる!!ダ……ダブルミーニングや!」
と、聞いてもいないのに解説をねじ込む銀シャリ橋本。

他の皆も素晴らしかったが、今回は長くなるので割愛する(2025年3月25日の荒川のXアカウントで全編見れるので興味のある方は確認してほしい)。
ちなみに優勝は銀シャリ橋本だった。

終わりに荒川が「ほんとに楽しい時間でした!ありがとうございました!」と言うと、他の芸人も「なんだかんだ楽しかった。こんな合間が充実するとは思わなかった」と感謝の言葉を返していた。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

一人でも本当にノリ気じゃない芸人がいたらと思うと、結果オーライの域はでない事件だった。
だが、こんな事件なら何回起こってくれてもいい。
そんなふうなことを思う、バイク少年であった。

【完】

※おまけ事件簿

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

BKB選手権の誘いをしっかり断った意志の強い男、銀シャリ鰻。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

BKB選手権に誘われていたのに、トイレに行っている間に始まってしまい、盛り上がっていたため、合流することをやめたエルフはる。

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