「大喜利アート」などイラストの腕前に定評があるピン芸人・森本大百科が描いた漫画『ジンセエゲーム』が、若手漫画家の登竜門『第96回 小学館新人コミック大賞』青年部門の佳作を受賞しました! 森本は人気漫画『カバチタレ!』(講談社)の作画を担当した東風孝広さんや、『パパは漫才師』(小学館)で漫画家デビューしたシャンプーハット・恋さんのアシスタント経験がある異色のピン芸人。今回の受賞の喜びや、漫画を書き始めたきっかけなどを聞きました。

「めっちゃがんばって描いた」ひとコマが記念の盾に
森本の受賞作品『ジンセエゲーム』は、なかなか芽が出ないひとりの芸人の日常を描いた“ちょっと切ない”18ページの物語。尊敬する先輩に目をかけられながら、がんばっているけれど売れない芸人の“リアルすぎる”心情は、読後にじんわりとした余韻を残します。作品は『小学館新人コミック大賞』のホームページから読むことができます。
——このたびは受賞おめでとうございます! 6月24日に授賞式が行われたそうですね。
ありがとうございます。授賞式では、賞状と盾をいただいたんですが、その盾には、僕が今回受賞した漫画のひとコマがデザインされているんです。
——そのひとコマは、自分で選だものなんですか?
「どのコマにしますか?」という連絡をいただいたので、主人公が自転車を押しながらトボトボと家に帰るシーンを選んで、盾に入れてもらいました。

——少し寂しげなシーンですね。なぜそのコマを選んだんですか?
背景を描くの、めっちゃがんばったんです(笑)。アングルもちょうどいいかなと思いまして。以前、『カバチタレ!』の作画を担当されている東風孝広先生のアシスタントをしていたころにいろんなことを教わり、漫画の背景を5年半、描かせてもらった甲斐がありました。
『カバチタレ!』東風先生にコマ割りをベタ褒めされた
——漫画を描くようになったきっかけを教えてください。
いまから10年ほど前に、『芸人同棲』(テレ朝動画)という番組に出演したんですが、一緒に出演した後輩芸人が、当時バイトしていた飲食店の常連客だった東風先生と仲がよくて、東風先生がその番組を見ていたそうなんです。それがきっかけで、僕にも声をかけてくれるようになりました。
実はそのとき、「漫画、いいなあ」と思い始めたころやったんです。僕はコントがやりたかったんですけど、なかなか相方が見つからない。でも漫画やったら、登場人物は描けば何人でも生まれるじゃないですか。それでためしに1話描いて、漫画賞に応募しました。結果は全然ダメだったんですけど、東風先生とごはんを食べに行ったときにその漫画を見ていただいたら、「“コマ割り”がうまい!」ってベタ褒めしてくださったんです。
——売れっ子の漫画家さんからベタ褒めとは、すごいですね!
それがきっかけでさらに興味を持ち出したとき、東風先生の事務所のアシスタントの方が数名やめてしまい、「大変なんです……」と聞きまして。芸人をやりながら漫画のアシスタントをするなんて失礼かな? とも思ったんですけど、東風先生がそんなにピンチなら「いましかない」と思って「アシスタント、やらせてください」と申し出たら、先生もすぐ「いいんですか!?」となりまして。東風先生からも、誘いたいなっていう空気は出てました(笑)。

——東風先生としても、森本さんは芸人さんだし……と躊躇していたのかもしれませんね。
そうやったみたいです。それで当時、連載されていた漫画が最終回を迎えるまでの5年半、アシスタントをやらせてもらいました。僕が入った当時は隔週、週刊と連載が2本あったんで、すごい忙しかったですね。僕は漫画の中の「背景」の担当で、毎日手が震えるくらい背景の絵を描いてました。
受賞のきっかけは持ち込みサイトへの投稿
——さらに、シャンプーハット・恋さんの漫画デビュー作『パパは漫才師』のアシスタントとしても入ったんですよね。
はい。東風先生のアシスタントを始めて1年ほど経って、だいぶ絵が上達したころに、恋さん主催の『なにわボケの会合同展』がありまして、そこで出展した絵を見て、「背景、描いてくれへんか?」と声をかけてくださいました。
——東風先生の漫画が最終回となり、アシスタントが終了したあとに本格的に自身の創作活動に入ったんですか?
アシスタントのころも漫画は描いていて、東風先生に添削してもらってました。それで、『2020年ジャンプGカップburst』にギャグ漫画を出して、上から4番目くらいの賞を受賞したんです。たまたま審査員をしていたのが、かまいたちさんだったんですが、僕は本名で出していたので気づいておらず、山内(健司)さんはあとから「そうやったんや!」と驚いてました(笑)。
アシスタントが終了して1年後に描いた漫画(『炎上』)も、『世にも奇妙な物語×少年ジャンプ+ presents 「奇妙」漫画賞』の最終候補に残りました。

——実績を積み重ねてきたんですね。いろんな漫画を描いていたなかで今回、『ジンセエゲーム』で応募したのは、どんな理由があったのでしょう?
今年2月くらいに、自分の漫画を小学館の編集者に直接見てもらえるサイト(「オール小学館漫画持ち込みサイト ミタイ!」)に漫画を投稿したら、気に入ってくれた編集者の方から声がかかり、「何本か一緒に漫画を作ってみましょう」という話になったんです。そのやりとりのなかで、「こんな漫画も描きました」って見てもらったのが、今回の『ジンセエゲーム』のもとになる漫画でした。そうしたら編集者さんが「近々、『小学館新人コミック大賞』があるので出してみますか?」と提案してくれて、作品についてアドバイスをいただきつつ、修正して応募したという感じです。
まるで絵日記を描いている気分
——『ジンセエゲーム』は、芸人さんの日常を描いた内容ですね。
僕が初めて描いた漫画が、まだ売れていない芸人の日常を描いたギャグ漫画なんですけど、そのなかで「ちょっと泣けるような話があってもいいかな」と思いついたのが、『ジンセエゲーム』みたいな設定でした。でも、芸人の裏側を描くというのは、芸人をやっている身からすると恥ずかしくて……。5年くらい出し渋りました。なるべく描きたくなかったです(笑)。

——なぜ描くほうに気持ちが切り替わったんですか?
去年、「もしこの設定で賞が獲れたら恥ずかしさも消えるかな」と腹を決めて描きました。かなりリアルに描いたので、まるで絵日記を描いているような気分でしたね(笑)。
——実体験が盛り込まれているんですね。
そうですね。言われた言葉をそのまま使っていたりもするし、僕の実体験も入っててかなりリアルです(笑)。芸人が読んだら「あるある!」ってなると思います。あと、漫画に出てくる背景も、場所はバラバラですがすべて実在します。
ノンスタ・石田に漫画の舞台になったお店で祝ってもらった
——今回の受賞を、誰に報告しましたか?
NON STYLEの石田(明)さんですね。石田さんには普段からよくしていただいていて、石田さんが立ち上げた絵本製作プロジェクトがあるんですけれど、そこで、『びんぼうがみの子』という絵本の作画を担当させてもらったこともあるんです。
受賞を知らせたら石田さんは、「よかったな!」と喜んでくれて、お寿司に連れて行ってくれました。漫画で出てきた居酒屋は、実は石田さんとよく行くお寿司屋さんがモデルなんです。

——漫画の舞台になった場所でお祝いとは素敵ですね。漫画を描くようになって、芸人人生もずいぶん変わったのでは?
そうですね。フリップネタの製作を頼まれたり、似顔絵の依頼が舞い込んだり、ネタだけを作っていたころより頼りにされるようになりました。思ったより時間はかかりましたけど(笑)、好きなことで世界が広がりましたね。
——では、今後の目標を教えてください。
担当の編集者と一緒に何本か漫画を作って、雑誌連載の実現に向けてがんばりたいですね。もう次の作品も描き始めているところなんですよ。

漫画家として、本格的に新たな世界に足を踏み入れた森本大百科。その森本が出展している展覧会『ZEROTEN 2025 -Osaka-』が、7月31日(木)から大丸梅田店「ART GALLERY UMEDA」で開催されます。
漫画『ジンセエゲーム』:https://shincomi.shogakukan.co.jp/viewer/96/04/402.html
展覧会概要
ZEROTEN 2025 -Osaka-(アートコンペ)
日時:2025年7月31日(木)〜8月12日(火)10:00~20:00
会期中無休
場所:大丸梅田店 11階「ART GALLERY UMEDA」
詳細:https://t2y.info/exhibition/27394/