“きこえる人“も“きこえない人”も一緒に大笑い! 手話×コメディ「劇団アラマンダ」初東京公演は大盛況「面白さと感動で泣き笑いしました」

沖縄で活動するピン芸人の大屋あゆみが座長を務める「劇団アラマンダ」による手話をとりいれたコメディ劇『民宿アラマンダ~弟の夢と家族の想い』が、8月3日(日)に東京・大田文化の森ホールで公演されました。念願の東京公演が実現した今回は、「よしもと手話ブ!」に所属するチーモンチョーチュウ・菊地浩輔がゲスト出演。会場には聴覚障がい者や、手話を勉強している人、手話は知らないけれど興味がある人らが多く詰めかけ、温かい笑い声であふれました。

出典: FANY マガジン
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座長の大屋あゆみが沖縄芸人たちと旗揚げ

劇団アラマンダは、聴覚障がいの両親のもとで育った“CODA(コーダ)”である女芸人の大屋が、「耳がきこえる人ときこえない人が同時に楽しめるコメディを作りたい」という熱い思いから2018年に立ち上げたもの。これまで、座長である大屋が沖縄芸人たちと沖縄を拠点に活動してきました。

今年4月からは、東京公演に向けたクラウドファンディングを開始。120万円の支援金を達成して、さらにさまざまな企業からの協賛金も集まり、今回の東京での無料公演が実現しました。

最初にステージに登場したのは、座長の大屋とハイビスカスパーティー・ゆか。大屋は客席を見渡して、「クラウドファンディングでたくさんの協力があって、メンバーみんなで(東京に)来ることができました。本当にありがとうございます!」と感謝します。

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公演冒頭には、劇中に登場する沖縄特有の手話講座を実施。話す言葉と同様、手話にも地域特有の“方言”のようなものがあり、なかでも大屋が使うのは、大屋の父親をはじめ沖縄で暮らす高齢者の方々の手話だそうです。

「公園」「祭り」「テレビ」「イケメン」「茶色」といった単語について、東京と沖縄の表現の違いを確認しながら、客席とコミュニケーションをとりました。

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チーモンチョーチュウ・菊地は“本人役”でゲスト出演

そして、いよいよ舞台がスタート。最初に登場したのは、民宿アラマンダの主人であるあゆみ(大屋あゆみ)とバイトのショー(ピーチキャッスル・マエショー)に新人バイトのゆか(ハイビスカスパーティー・ゆか)です。

そこへ不動産会社の寺崎(寺崎ガザオ)がやってきてリゾートホテル建設のために、土地を売ってほしいと迫ります。あゆみは両親から受け継いだ大事な民宿だからと決して首を縦に振りません。

続いて、あゆみの10歳下の弟・リョウジ(ハナフラワー・リョウジ)が登場。リョウジは画家を目指してフランスへ渡っていましたが、帰国して故郷の沖縄に帰ってきたところです。日本で画家として成功し、民宿を立て直すと息巻くリョウジ。しかし、実は大きな借金を抱えていて、借金取りの又吉(又吉ごはん)がその取り立てにやってきて……。

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さらに宿泊客として、人気マジシャンの忍(島袋忍)や、本人役で登場したチーモンチョーチュウ・菊地も加わってドタバタを展開。出演者たちはセリフと手話を同時に披露するほか、バックスクリーンに簡単な解説を映し出して、お客さんに笑いを届けます。

エンディングは、沖縄県で手話の普及や聴覚障がい者に対する理解促進のために実施されている取り組みのテーマソング「手で話そう」を観客と一緒に歌い、大きな一体感に包まれながら舞台は終了しました。

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「劇団の方たちに感謝の言葉を」

最後は、大屋たち出演者が、観客を見送るためにロビーへ。会話を楽しんだり、記念撮影をしたりしながら、たっぷり触れ合いました。来場した手話サークルに通っているという女性は、こう語ります。

「ふつうの手話は集中しないとなかなか読み取れないので、もしかしたら難しいかなと思っていたんですけど、こうして劇になると動きがつくからわかりやすいし、コメディなのですごく楽しめました。ちょっと手話につまづいていたんですけど、元気をもらいました」

友人に誘われて来たという女性も、こう話します。

「耳がきこえない人たちときこえる私たちが同じ空間で同じ演劇を楽しめる、特別で温かな雰囲気がいいなと思いました。次は子どもと一緒に来たいです」

北九州での公演を観て「劇団アラマンダ」のファンになったという聴覚障がい者の女性は今回、両親を誘って観劇し、手話でこんな感想を語ってくれました。

「みんなで一緒に観て、一緒に笑える機会がはなかなかないので、以前、公演を観たときは面白さと感動で泣き笑いしました。沖縄へはなかなか行けないので、また観劇するのは難しいと思っていましたが、大学進学で東京へ出てきたら、アラマンダも東京公演をするということで、今日は楽しみに来ました!」

この女性は「劇団の方たちに感謝の言葉を伝えに行きます」と、両親と一緒に劇団員がいるロビーへ向かいました。

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終演後のお客さんの笑顔で“成功”を実感

公演終了後、座長の大屋と客演のチーモンチョウチュウ・菊地に話を聞きました。

――東京公演を終えてどうでしたか?

大屋 地方の手話を入れることで“沖縄らしさ”を出したかったんですけど、東京の人に伝わるのかが、正直、ちょっと不安だったんですよ。だから最初に沖縄の手話講座も入れたんです。

実は、もう少し笑い声があるかなと思ったんですけど、きこえない方はなかなか声に出して笑わないこともあるので、公演が終わってロビーに出たときにお客さんの笑顔を見たり、たくさん声をかけていただいたりして、ようやく成功したんだなって実感できました(笑)。

菊地 僕はゲストということで、ありがたいことに何の重荷もない役割をいただいたので、のびのびとできました(笑)。アラマンダのお芝居をちょっとでも盛り上げられるようにと頑張らせていただきました。

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――おふたりの交流はいつから?

大屋 私がまだ1年目のときに、菊地さんがライブのMCで来られたときが初対面です。それから、2018年に私がアラマンダを立ち上げたばかりのころに、劇場出番で沖縄に来られた菊地さんが「公演とかやってるんだよね」って声をかけてくださって。

菊地 ちょうどそのころに手話を習い始めていて、あゆみが手話ができるってきいたので、先輩・後輩というより、“手話仲間”という感じで距離がぐっと縮まりました。芸人としては僕がかなり先輩ですけど、手話歴はあゆみが大先輩なので、帳消しでもう“同期”です(笑)。

大屋 そんなことないです!(笑) でも、1年目のときのライブMCをされていた先輩と、こうして手話を通して一緒にお仕事できるのは感慨深いです。

ダンスが得意だと手話も得意?

――東京で公演をしようと思ったのはなぜですか?

大屋 やっぱり、東京は人口が多いじゃないですか。私はまず両親にお笑いを見てほしくて、手話×お笑いの公演を始めました。両親は私が芸人になることに反対していたんですけど、初めて劇団アラマンダの公演を観たときに、声を上げて笑いながら「楽しい」って言ってくれて、それに感動したんです。

いままでは、テレビを観ていても一緒に笑えることってなかったんですけど、アラマンダなら両親も笑わせることができるんだとわかったときに、「もっと多くのろう者にアラマンダで笑いを届けたい」って思いました。

そのためにはまず沖縄県内で頑張って、東京でたくさんの人に知ってもらえば、手話×お笑いという新しいエンタメが全国に広がっていくんじゃないかと思ったんです。

菊地 沖縄って観光地じゃないですか。だから、沖縄にお笑いを観に行く人はあまりいなくて、全国的に知名度のある芸人でもなかなか満席にできないんですよ。そのなかでアラマンダだけは毎回超満員! その力を付けて、今回初の東京公演だったので、来たお客さんは満足されたんじゃないかと思います。

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――菊地さんが所属する「よしもと手話ブ!」はアラマンダとほぼ同時期の2019年に立ち上がっています。菊地さんが手話を始めたきっかけは?

菊地 娘のお友だちに、僕のイベントに出てもらったことがあって、公演を観に来てくれた親御さんの中に難聴のお父さんがいらっしゃったんですよ。それで、どうやったらライブを観て楽しめるのかなと思っていたときに、僕が定期的にやっているトークライブを手話でやればいいんじゃないかって思いついて、そこから手話を勉強し始めました。

大屋 菊地さんの手話はめちゃくちゃ上手です。だいぶ努力されたんだろうなって。

菊地 いやいや……。でも、手話が上手ですねって言ってもらうこともあって、「手話サークルや講習会で学んでいるんですか?」って聞かれるんですけど、僕は勉強のためにそういうところに行ったことがないんですよ。僕の勉強方法は、ろう者の友だちと酒を飲みに行くだけ(笑)。そこで、ろう者の方々が日常的に使っている手話を学んでいるんです

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大屋 ダンスが得意っていうのもあると思います。劇団員のマエショーもダンスをするんですけど、やっぱり覚えが早いんです。

菊地 僕、ありがたいことに手話が“見やすい”“わかりやすい”って言われるんです。それはダンスをやっていたことが大きいかなと思います。

「日本語対応手話」と「日本手話」の違い

――アラマンダのメンバーの皆さんも、劇団立ち上げをきっかけに手話を学び始めて、こんなに上手になるんですね。

菊地 アラマンダのすごいところを言っていいですか。手話って、「日本語対応手話」と「日本手話」の2種類があるんですよ。「日本語対応手話」は日本語の文法に合わせて手話を当てはめていく方法で、「日本手話」は手話文化をもとにした、手話独特の文法なんです。

僕たち「よしもと手話ブ!」は日本語対応手話でやっているんですけど、アラマンダは日本手話で言葉を合わせていて、文法とか違うから、頭がパニックになるはずなんです。今日、練習でそれを見ていて「マジか!?」って驚きました。みんなゆっくりたどたどしく手話をやっているんですけど、そもそも難しいことをやっているんだから、そうなるよって。

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大屋 たしかに難しいです。音声言語と日本手話を同時に使うことには賛否があるんですけど、私たちはせっかくコメディをやるなら、音声言語を使う人たちと日本手話を使うろう者の人たちに同時に観てもらいたいという想いがあったので、結構しんどいけど“やろう”って。

きこえる方たちには、手話に興味を持ってほしい、きこえない方にはお笑いを見てもらいたい、というのをずっとモットーにしてきたので。

菊地 一般的には、まだまだ手話について正しく知っている方が少ないと感じるので、今後も僕たちの力で少しずつ手話への理解を広げていけたらいいなと思いますね。

大屋 すごく心強いです。ぜひまた一緒にタッグを組んだりしたいので、今後ともよろしくお願いします。

菊地 こちらこそ!