夏の風物詩「桂文珍独演会」は今年も大盛況! 小朝の「池田屋」と文珍の「星野屋」が競演

大阪・なんばグランド花月の夏の風物詩として親しまれている落語家・桂文珍による独演会が、今年も8月8日(金)に開催されました。今回の『吉例88 第四十四回 桂文珍独演会』のゲストには春風亭小朝が登場。新作から大ネタまで趣の異なる高座が繰り広げられ、客席は笑いで包まれました。

出典: FANY マガジン
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新作噺では“AIロボ坊主”が登場

まず高座に上がったのは文珍の4番目の弟子・桂文五郎。堺市出身で、現在は奈良県御所市に暮らしているという文五郎は、祖父が仕立て屋を営んでいた家が10年ほど前に空き家になり、そこに住むようになったと話します。

近所の80代ぐらいのおじいさんからズボンの直しを頼まれたエピソードを披露し、「世の中いろんな商売がございます」と古典の「商売根問」へ。冒頭の雀を擬人化した場面では、芝居がかった大げさな表現で客席を沸かせ、「ここでおもろいな~と思わんかったら、あとは地獄でっせ」と自虐的なひと言でも笑わせます。

着物の袖を羽に見立て、上方と江戸の雀を全身で熱演。額に汗をにじませながら、にぎやかに口開けを務めました。

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続いて文珍が登場し、「令和8年8月8日、44回目。足したら8」と、“8”が重なる今年の独演会に触れ、「末広がりで。ますますのご発展をお祈りします」と挨拶。

そして過去のゲストを振り返り、桂米朝や夢路いとし・喜味こいしらの名前を挙げたあと、「みんな鬼籍に入られた」と不敵な笑みで会場を笑いに包みます。この春にNHK放送文化賞を受賞した話題では、ユーミンことシンガーソングライターの松任谷由実と約40年ぶりに再会したことや、受賞がニュースで発表された際の出来事を面白おかしく披露。

そして「このごろ冠婚葬祭で多いのは葬式」と話題を転じ、弟子である桂珍念の父親の葬儀について語り、そこから新作「ナームーアルアル」の世界へと入りました。

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「お寺はコンビニより多い」と寺を取り巻く現状に触れ、「いまからの噺は、ある田舎の未来の噺です。そんな先ではありません」と文珍。過疎化が進む村にAIを搭載した“ロボ坊主”がやって来たことで巻き起こる騒動を描いた一席です。

社会で問題となっているテーマを軽やかに笑いへと変えていく、文珍ならではのニュース性に富んだ新作落語で楽しませました。

初ゲスト・小朝が語る“女優の魔力”

続いて登場したのは、「吉例88」初出演となるゲストの春風亭小朝です。俳優としても数々の作品に出演してきた小朝は、大女優と呼ばれた俳優たちとの共演経験をもとに、“女優の魔力”を語って客席を引き込みます。

披露したのは「池田屋」。京都を舞台に、新選組が池田屋を襲撃する場面をリズミカルに描いていきます。軽快に笑わせたかと思えば、緊迫する場面では空気を一変させ、場内にピンと緊張の糸が張られたような瞬間を作り出します。

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近藤勇のモノマネでは、拳を口に入れる仕草で笑わせ、沖田総司ら新選組のスターも次々と登場。いつの間にか池田屋騒動のただ中にいるような、臨場感たっぷりの話芸で沸かせました。

ここで再び文珍が登場し、中入り前に披露したのは古典の「星野屋」。小朝の高座を受け、「小朝さんが池田屋でしたから、私は蛍池をやろうかな」と大阪北部の地名を持ち出し、ご当地ネタでひと笑い。

噺は、旦那がお手掛けのお花に別れを切り出すところから始まります。お花は口達者で、いかにも上方らしいたくましさを感じさせる女性。その母親はお花に輪をかけてしたたかです。一方、心中を迫る旦那は、か細い声を出しながらも、腹の中では何を考えているのかわかりません。

出典: FANY マガジン
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旦那、お花、そして母親。それぞれの思惑が交錯し、心中をめぐって繰り広げられる男と女の化かし合いを、鮮やかに描き分け、最後はすかっとした後味を残して中入りとなりました。

トリは大ネタをじっくり聞かせる

中入り後、舞台の黒い背景の前には金屏風。文珍は紋付き袴姿で現れ、会場の空気もぐっと引き締まります。

最後の一席は、上方落語の大ネタ「帯久」です。「世の中にはライバルがおりまして、同じ商売をやるとなかなか難しい」と語り、和泉屋与兵衛と帯屋久七という2人の物語へ。

12月、久七が和泉屋を訪ねるところから噺は始まります。商売が順調だったころの和泉屋は、苦しい時期の久七に何度も金を貸していました。しかし、やがて和泉屋の家運が傾き、与兵衛自身も病に倒れて寝たきりに。月日が流れ、2人の立場は完全に逆転しています。

出典: FANY マガジン
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かつての勢いを失い、すっかり小さくなってしまった与兵衛を、文珍は背中を丸め、弱々しい姿で表現。一方、そんな与兵衛に対してまくしたてる久七。恩を受けた相手に対するあまりにも非情な振る舞いに、人間の欲や身勝手さが浮かび上がります。

そして舞台はお白州へ。ここで文珍が演じる奉行は貫禄たっぷり。鮮やかな奉行の裁きに留飲が下がる思いで堂々たる締めくくりとなりました。

すべての高座を終え、文珍はこの日、披露した三席を振り返りました。「星野屋」については、若い落語家たちにも教えてきた噺であると語り、さらに今年、大阪松竹座で歌舞伎『心中月夜星野屋』として上演され、中村七之助がおたかを演じたことにも言及します。そして最後は、「次回は45回目。どうぞ皆さんもお元気で」と客席に呼びかけました。

出典: FANY マガジン
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新作で現代を笑いに変え、「星野屋」では男女の駆け引きを軽妙に描き、最後は「帯久」という大ネタで人間の業と裁きをじっくりと聴かせた文珍。44回目の「吉例88」は、現在の文珍だからこそ届けられる、落語の多彩な魅力が詰まった一夜となりました。