松本人志がこだわる「ストリートファイト」の緊張感…伝説のテレビマンが語る『ドキュメンタル』のウラ側

現在、最新作シーズン10が好評配信中のAmazon Prime Videoの『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』。プロデューサーのダウンタウン・松本人志に選ばれた精鋭メンバーたちが、芸人としてのプライドを賭けた「本気の勝負」を繰り広げる人気シリーズです。今回は、歴代の優勝者が集結したチャンピオン大会が満を持して開催! その見どころや今後の展開、そして配信番組の未来について、総合演出を務める小松純也氏に話を聞きました。

出典: FANY マガジン
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小松氏は、フジテレビの局員時代に『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』『SMAP×SMAP』などを制作した伝説のテレビマン。その後も、制作会社・共同テレビへの出向、そして独立と活躍の場を移しながら、NHKの『チコちゃんに叱られる!』、TBSの『人生最高レストラン』、そして『ドキュメンタル』など数々の話題作を手掛けてきました。

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昨年12月3日(金)に配信がスタートしたシーズン10では、小峠英二(バイきんぐ)、山本圭壱(極楽とんぼ)、くっきー!(野性爆弾)、ハリウッドザコシショウ、ゆりやんレトリィバァ、久保田かずのぶ(とろサーモン)という歴代の優勝者が登場。その“真剣勝負”は、松本人志も「見ている人も十分、納得できるものになったと思う」とうなる名作となりました。

【ドキュメンタルシリーズ】
2016年11月にシーズン1が配信開始されたAmazon Prime Videoのお笑いドキュメンタリー番組。ルールは単純明快で、芸人たちが自ら参加費100万円を手にして挑み、6時間の制限時間のうちに笑いを仕掛け合い、最後まで笑わなかった者が優勝賞金1000万円を手にすることができる――。閉鎖された空間で極限まで高まった緊張感のなか、芸人たちの研ぎ澄まされた“笑い”の攻防が繰り広げられます。

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©YD Creation

「深みのある回になった」

――まずはシーズン10の見どころを教えてください。

今回はチャンピオン大会として、これまでの優勝者たちに来ていただいています。当然、みんな高い攻撃力、戦闘力があって、いろいろなタイプの芸人がいるなかで、さまざまな状況でドラマチックな流れが起きています。今回は、芸人たちがどんどん追い込まれながら、どういうふうに壊れていって、どう面白くなっていくかが、よく表れていると思いますので、ぜひそういうところを感じながら見ていただければ。

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――新しいシステムも導入されましたね。

「オブザーバーシステム」というものを導入しました。チャンピオンになる方々はディフェンス力も高いので、いわゆるツッコミという役回りで、場を回すスキルが高い芸人たちにオブザーバーという形で参加してもらっています。オブザーバーは笑ってもいいので、目の前でゲラゲラと笑っている人がいながらも、笑うことを耐えられるかどうかが新しいポイントです。

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――お笑いだけでなく、追い込み、追い込まれという心理戦もドキュメンタルの見どころだと思います。

そうですね、あまり平和なものではありませんが(笑)。もともとお笑いは、お互いを尊重しながらチームワークで最大の笑いを取っていくのが基本的なシステムだと思いますが、ここでは勝ち負けがかかっているので、お互いに足かせしながら殴り合っているというか。あらゆる手段を使って攻め込んでいく戦いは、いわゆるルールがある戦いではなくて、ちょっとストリートファイトっぽいところがあります。

――今回はチャンピオンたちが集まった、まさにドリームマッチですね。

チャンピオン大会はどこかでやろうとは思っていましたが、それが良いメンバーでできる感じになってきたので実現しました。実際にチャンピオンを集めてみると、心理戦というか、せめぎ合いというか、深みのある回になったと思います。若干もう、追い込み方とかヤバ目ですからね(笑)。

あの「カレーライス」のモザイクはNASA技術

――いままで10回やってきて、ドキュメンタルというコンテンツはどのように変化してきたのでしょうか。

最初は“実験”だったんですね。とにかく、やってみなければ分からないことだらけで、やりながら学習して、どうエンターテインメントにしていくかの工夫を積み重ねてきました。ストリートファイトをストリートファイトとして見られるように、ストイックな状況を保ちながら、それを皆さんに楽しんでいただけるものにするために、最低限のルールを付け加えていくことで進化してきました。これは、松本さんがいろいろと考え、工夫して、我々と一緒にやってきたという感じかなあと思います。

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――ストリートファイトをコンテンツとして昇華させるために、ルールを研ぎ澄ませていったわけですね。具体的にシリーズのなかで大きな転機となったことは?

いちばん大きいのは制限時間をつけたことかもしれません。実は、いちばん最初に収録した(パイロット版の)幻の♯0の回では、制限時間ナシで十数時間もカメラを回していたんです。そこで芸人たちが疲れ果てて、もうこれ以上は何もでないぞとなって。松本さんが「もう、やめようか」とおっしゃって、結局、途中で終わらせました。
それが制限時間ができたことでゴールが見えてきて、芸人さんたちもそこに向けてどう動くかの算段がつくようになりました。シーズン2の最後に斉藤くん(ジャングルポケット・斉藤慎二)と小峠さん(バイきんぐ・小峠英二)がタイマンやり合う場面が出てきたあたりで、これは形になったなという実感を持ちましたね。

――ほかにもシーズンを重ねるごとにルールが追加されていきました。

実は、攻撃が得意な人ほど早めに負けるんですね。面白いことが好きな人ですから。それはもったいないなあということで、ゾンビシステム(退場者が再び部屋に戻って、ほかの参加者を笑わせることができるルール)が生まれました。

また、今回のオブザーバーシステムは、ケタケタ笑っている人が一緒にいる状況はよりツラいよね、ということで導入しましたが、これが新しい展開になりましたね。これまでも、場が煮詰まって乱雑なボケばかりの状況になってしまうことがあったので、そのときにツッコミが入ることで流れを整えながら、その場の笑いをチームとしてつくっていくというファクターが入れられるようになりました。

――松本さんとは、どのようにアイデアを交換しているのですか?

松本さんと仕事をするときは、私は松本さんのアシスタントだと思って、松本さんの意向を最大限尊重しながらやっています。同時に、我々スタッフのほうから松本さんを触発できるようなアイデアを出すことは、やり続けないといけないと強く意識しています。

出典: FANY マガジン
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『ドキュメンタル』と『笑ってはいけない』の違いは、演者たちが番組側の用意したことをやるのではなく、あくまで自分たちの創意工夫でつくっていくところ。だから、松本さんは、「芸人たちが自由にできる環境づくり」へのこだわりが、すごく強いですね。自由にやるなかで笑いが生まれやすい状況をつくってあげるにはどうすればいいか、ということを常に強く意識していると感じます。そのためのルールを構築する議論を、一緒にずっとやってきた感じです。

――10回の中でも、特に思い出深いエピソードはありますか?

毎回見どころだらけですが、初めて見る人は、単純にシーズン1,2から順番に見ていくと、進化が楽しめていいと思います。シーズン2の斉藤くんと小峠さんのシーンは、黎明期の原始的な修羅場として、ぜひ見ていただけたら。
あと個別のネタとしては、シーズン3の春日くん(オードリー・春日俊彰)のカレーライスのネタとか。「下品」と言われるかもしれませんが、その場の即興で、みんなのアイデアの集積で生まれたダイナミズムがあり、現場で見ていたときは、むしろ美しい感じがしましたね。あの編集はモザイクの掛け方に非常に苦労して、最終的にはNASAの技術を使いました(笑)。

――そんなところに、そんなすごい技術が(笑)。今後のドキュメンタルは、どうなっていくんでしょうか。

ドキュメンタルの進化は止まらないと思います。松本さんがテレビでも実験的にやりましたが(フジテレビ『まっちゃんねる』のなかで企画された芸能人参加の「女子メンタル」と「イケメンタル」)、いわゆる芸人さんじゃない方でもやっていくという考え方は1つあると思っています。ふだんは立派な顔をしている俳優さんやミュージシャンの方は、芸人さんよりも何をしでかすかわからない(笑)。そして、その時のジャンプ力の高さは、驚くようなお笑いにできるのではないかと思っています。
あるいは今後、これまで見たことがないような芸人さんが現れることもあり得ると思います。チャンス大城さんが出た時(シーズン8)にも「なるほど」と思いましたが、このドキュメンタルという空間で圧倒的に面白い方、まだ見ぬ強豪がこのジャンルにはいると思う。そうした芸人さんを掘り起こしていく作業がこれからの課題だと思います。

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配信は「自分が見たいものしか見ない」

――ドキュメンタルはAmazonプライムという配信プラットフォームだからこそできるコンテンツだと思いますが、番組作りで意識していることは?

配信コンテンツは、「おカネを払って会員になってもいい」と思っていただけるものでなくてはいけません。それは、ドキュメンタルでは芸人さんが自腹を切って参加して、そこまでやるかという笑いを取りにいくことで生まれる“迫力”がひとつ。これは、いまの地上波のテレビではなかなかできない、配信だからこそ出せる迫力だと思います。
あと配信は、テレビのような受動的な見方ではなく積極視聴をしている人が多いので、作り方も変えています。テロップを入れて、なんとなく、いつどこから見始めても楽しめるような画面作りではなく、中身を綺麗に見せて、しっかりと脈絡を追いかけて見られるような作り方をしています。それがおカネを払って見ていただく誠意だと思っているので、そこは丁寧にやっています。

――いまやドキュメンタルはイタリア、オーストラリア、ドイツ、メキシコなど海外版も登場しました。日本のお笑いの可能性については、どうみていますか?

日本のお笑いのつくり方は非常に緻密で、海外のものはザックリしているなというのが僕の印象です。人間の可愛げとか弱さとか、そういう深いところに手を突っ込んでくる笑いは、やっぱり日本が独自に進化していると思う。だからそういう部分から、なにが海外で通用するのか、いろいろなトライをしながら見極めていくと、より日本のお笑いの活躍の場面を世界に広げていけるのではないかと思います。

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――小松さんはフジテレビをはじめとした民放、NHK、配信と、さまざまなメディアで番組制作をしてきました。そうした経験から、今後の配信メディアの可能性をどう見ていますか?

配信はいつでも、どこでも好きな時に見ることができて、確かに便利で素晴らしいと思います。技術の比較だけでいえば、決まった時間に1つのものしか伝えられないテレビの技術は、配信の技術に取って代わられるのだろうと思います。ただ、配信の課題は、「自分が見たいものしか見ない」ということ。結局、自分の意図したものしか、配信からはたどり着けないのです。
出会うはずがなかったものに出会う。そこに人間はトキメキを感じます。そうした満足度の高いものとの偶然の出会いが演出できるところまでいけば、配信のアルゴリズムは完成だと思います。

――たしかに「自分が見たいものしか見ない」という視聴スタイルは、テレビと配信で大きく異なりますね。

配信の視聴は、すごくパーソナルなものです。でも、もともとテレビが発展したのは、後楽園球場の巨人の試合だったり、青山通りの上皇・上皇后さまのご成婚パレードだったり、それまで足を運んでパーソナルに見るしかなかったものを、みんなで分かち合うものにしたからだと思います。この分かち合う楽しさを、人々が今後、配信のパーソナルな視聴のなかでどう求めるようになっていくのか、という点に注目しています。

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また、人々の興味がパーソナルになっていく状況は、世の中における「公共」という共通認識がだんだんと失われていく感じがするんですね。それは、人類にとってハッピーじゃないことになっていくかもしれない。ネットで人々が配信を楽しむ時代に、“公共”で分かち合うべき情報をどう伝えていくか、というのは今後の配信の大きな課題だと思います。

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