キングオブコント4年連続決勝進出の実力派トリオ、GAG(坂本純一、福井俊太郎、宮戸洋行)の単独ライブ『ダサ坊の群像』が3月28日(日)、京都・よしもと祇園花月で開催されます。2月19日(金)に無観客配信で上演された東京公演を観て、「GAGさん節がどんどん変化させられててめちゃくちゃ面白かった」と呟いた相席スタート・山添寛と「今とにかくこの極上さを観た方と語りたい気分」と呟いたラフレクラン・西村真二。関係各所でも「あのライブは凄かった」という評判の『ダサ坊の群像』について、2人の後輩芸人が存分にGAGの魅力を語り尽くします。
東京福井軍団と東京宮戸軍団
――まず、おふたりはGAGさんとどのような関係か、教えてください。
山添 僕はGAGさんの4年後輩で、福井さんにかわいがっていただいてます。「東京福井軍団」という、なにか活動をしているかと問われたら何もしていない軍団があるんですけど……。
西村 東京福井軍団! そんなのあるんですか?
山添 そう。その軍団におそらく所属していまして、福井さんからは「若大将」と呼ばれています。
――軍団にはほかにどんなメンバーが?
山添 タモンズの大波(康平)さん、「プリッとChannel」のパンダさんというYouTuber、彼は元ザ・忍者の大久保(たもつ)さんですね。あと、大阪支部からはコマンダンテの安田(邦祐)さんです。いま挙げたなかにも、団員の自覚を持っている人と持っていない人とがいて、福井さんからも「軍団名は一切口に出すな、恥をかくから」と言われている団体です。
――そんな団体の存在を明かしてくださってありがとうございます。西村さんは?
西村 GAGさんの7年後輩で、それでいうと僕は東京宮戸軍団と言えるかもしれないです。「宮戸の家に来てください」という名前のLINEグループがありまして、ジェラードン・海野(裕二)さんとか、ゾエさん(山添)の相方の(山﨑)ケイさんとか、他事務所も含めて18人いて、コロナ禍前には宮戸さんの家で集まって鍋をつついたりとか、お酒飲んでアイドルのDVDを見たりとかしていました。
山添 大所帯やな。
西村 そうなんですよ。坂本さんは、劇場の合間に「ゴハン行こう」って声かけてくれたりします。
山添 坂本さんは先輩といることが多いですけど、後輩の面倒見もよくて、よく誘ってくださいますね。
GAGの「名作パターン」
――おふたりが今回、GAGさんの単独ライブ『ダサ坊の群像』を観て、印象深かったコントは?
山添 俺、3本エグいなと思ったコントがあって。1本目が「家庭教師」。
西村 ああ! あと、坂本さんが失礼決め込むやつ、ヤバくなかったですか?
山添 あれはヤバかったね、「失礼なキャラクター」。それと、「男ウケ女ウケ」。
西村 僕もその3本、大好きでした。「男ウケ女ウケ」は昨年リモート単独でやって、東京03の飯塚(悟志)さんもベタ褒めしてましたよね。
山添 福井さんがまとうダサさ、悲劇、哀愁が大好きなんですけど、「男ウケ女ウケ」はそれがフルに活かされたコントだと思います。あと、GAGさんには“名作パターン”というのがあるんですよ。GAGさんならではのコントの型みたいなものが。それだけで僕はもう名人芸だと思ってるのに、そこからさらにどんどん違う型を開発していくすごさ。今回はトリオの新しいシステムをまた生み出した、進化を遂げたような単独でしたね。
西村 たしかに!
山添 目まぐるしく3人の立場が変わるコントがあったんですけど、あれはいままでのGAGさんにはあまり見られない形だった。しかもそれを、あくまでもクライマックスを引き立てる味として出すところに粋さを感じるんですよ。
西村 ゾエさんの言う「立場が入れ替わる」って、すごくテクニカルな部分ですよね。たとえば、今回の「先輩と後輩」ってコントだったら、芸人の先輩・後輩が入れ替わるっていうすごくテクニカルな要素を含んでいるんだけど、ネタを作っている福井さんは、たぶんそこに重きを置いていなくて。
山添 そこがメインじゃないねんな。
西村 ですよね! 最後の一言に向かう、そのための仕掛けっていうのがすごい。
山添 システム先行だと、芸人としては入り込めない素材になってしまう。でもGAGさんからはそういう雰囲気は一切感じひんよな。
西村 たとえば、劇場でよく行ってる「席替え部」と今回の新ネタ「体育館裏委員会」って、一見、システムコントっぽく見えるんですけど、ちゃんとキャラが乗っかって、ストーリーがある。あれ、ふつうのコンビがやっちゃうと「はい、いい設定出たでしょ」が先に出ちゃうんですよ。
山添 そう! で、あとはボケの羅列になっちゃう。
西村 あるあるとの掛け合わせとか。そういうの、僕らもやりがちなんですけど。あの形にキャラとストーリーを乗せてるのはマジですごいです。
山添 ちゃんと、ぜんぶドラマなんですよね。GAGさんを知ってから芸人を志すんやったら、僕はまずトリオのコントは選ばないですね。
西村 僕、すごい印象に残ってることがあるんですよ。ある時、東京・ルミネtheよしもとの舞台袖で、ゾエさんと一緒にGAGさんのコントを観てたんです。宮戸さん演じるイケイケの姉ちゃんに坂本さんが恋する「居酒屋」ってネタだったと思う。2人して袖で腹抱えて笑って、終わった瞬間、ゾエさんが「なあ西村、もうやる気なくなるよな」って言ったんですよ。コント観た時ってふつう、刺激をもらって「よっしゃ、自分もネタ書こう!」ってなるんですけど、GAGさんを観た時って、あまりにすごすぎて「あーあ」ってなっちゃう。
山添 最高に打ちのめしてくれる先輩なんです。
その前後が想像できるコントと“本当にダサい” 映像
――GAGさんのコントの魅力は、端的に言うとどんなところですか?
山添 ホン(脚本)の厚みやと思いますね。それぞれのキャラクターの気持ちが最初から最後まで繋がっている繊細さ。
西村 コントってだいたい4、5分じゃないですか。GAGさんって、その前後がめっちゃ見えるんですよ。「このキャラはこうやって生きてきたんだろうな」っていう“轍(わだち)”みたいなものが。
山添 それぞれのキャラが立ってるから余計にね。
西村 そう、「卑屈に生きてきたんだろうな、この人」とか、「コンビニでバイトしてる時、いちいち舌打ちしてそうだな」とか、そういうのがぜんぶ思い浮かぶ。それがまさにホンの厚みってことですよね。
山添 「この2人が仲良くなったきっかけ、こんなんやろうな」って想像して楽しめる感じ。余白の楽しさがある。
――今回の単独では、エンドロールでそれぞれのコントの後日談が流れますが、それはまさに「その後が想像できる」部分ですね。
山添 あの手法、いいですよねえ! たしかに、いままでなかったなあと思いますね。
西村 しかも決して振りかぶってない、「どや、この仕掛けすごいやろ?」がないのがまたすごい。
山添 GAGさんって、押し付けがましくないんですよね。ふつうなら「こんなんどうや!」って思うよなあ? それをやらないカッコよさがあるんです。
西村 しかも、オシャレでもないんですよね。『ダサ坊の群像』に合った出し方をしてる。あの加減、すごいですよね。
山添 そう、オシャレぶってもない。「こういう人、いませんか?」っていう、すごく優しい届け方をしてるんですよ。あれは、ほんまにかっこいいな。
西村 ……ただひとつだけ言うなら、幕間の映像、ダサくないですか?
山添 ダサい。GAGさんって、「よく男のこんなダサいところを見つけてるな」っていう、実はかっこいい人たち。だけど、単独の映像に関しては本当にふつうにダサいんですよ。
――(笑)。
西村 あの映像こそ本当に“ダサ坊”ですよね。吉本の学校の作家コースに入学して1カ月の子が作ったみたいな編集になってるんですよ。
山添 もし、あれをあえてやってたらほんま俺ら術中にハマってるな。
西村 だったら、マジでやばいです。でも、なかの人間が面白いから観てられるんですよね。
山添 そう。マンパワーのみで見せてる。……でもあのダサVTRは計算やとは思えへんけどなあ。
出会うべくして出会った3人の“マリアージュ”
――GAGさんのトリオコントという部分の魅力はどうですか?
西村 とくに最近、3人目がスパイス的な存在になりがちなトリオが多い中で、GAGさんほど「ちゃんと3人いないとダメ」なコントって珍しいですよね。
山添 やっぱりそこはずっと念頭に置いて作ってはるんやろうなあ。
――しかも、3人の立場が固定ではなくコントによって自在に入れ替わるわけですよね?
山添 宮戸さんも福井さんもツッコミできるし、実は坂本さんが、最高に味を出しまくってるんですよね。坂本さんの軽快さと、どこか懐かしいトレンディ感と、すべてが味わい深い。
西村 坂本さんのコントの中での動きって、一見、福井さんへのフリに見えちゃうんですけど、ぜんぜん違う。……ってこれ、かなり芸人側の話かもしれないです(笑)。一般の方から観たら福井さんで笑えばもう十分なんだけど、これを読んでくださっている方は、そっちの凄さも味わってほしい。
山添 プレイヤーとしての坂本さんの能力ってすごいよな。
西村 ですよね、飄々としたあの感じ。宮戸さんもまた別のすごさがある。
山添 ダサいよなー! 女役もできるしツッコミできるし、あんなに知的な人やのにバカも演じれるし。
山添 出会うべくして3人が出会ってる感じがするよなあ。
西村 三位一体ですよね。
――お話を聞いていると、この3人が集まったのは奇跡的に思えますね。
山添 そうなんですよ。素の3人もバランスがすごくて。前提として3人とも優しいんです。でも、福井さんには意地悪な面もある。人がちょっとイキった発言をしたりとか、はみ出した言動をしたときに、すぐに「いまのどういうこと?」とは言わず、しばらくそいつを泳がして、イキりがぜんぶ出てから、後でその友だちが帰ったときに「あいつのあそこヤバくなかった?」って教えてくれる意地悪さがあるんです。
西村 ハハハ!
山添 坂本さんは、ふだんから底抜けに明るくて太陽みたいな存在で、いい意味でチャラくも見えて。でも、いざコントになると冴えない人まで演じられる、すっごい器用な人。
西村 実は坂本さんがいちばんカメレオンかもしれないですよね。あの人がいちばん多岐にわたって演じられる。
山添 僕ら演者側からしたら、福井さんよりも坂本さんのほうがミステリアスです。で、宮戸さんが、あの中ではいちばん大人しそうで、背が高くて知的に見えて、いちばん人からはみ出てる部分が多そうやなという魅力。だから福井さんもどんどん宮戸さんを掘っていける。その2人だけだと渋くなりそうなところに坂本さんがいるからパッと明るくて、明るいだけじゃ物足りんところにまた宮戸さんの奥行きが見つかって、ってぐるぐる回っていく、一生飽きない。3人のマリアージュ。
西村 ……え? マリアージュ?
山添 ……いまの言葉とか、福井さんの前で言ってたら一生言われますね。すぐ言う分、西村のほうが優しいんすよ。
西村 福井さんだったら、後でほかの人と2人きりになったときに「あんときの山添の発言は」って言いそう(笑)。
山添 1カ月くらい寝かして、熟成させて頃合いを見て出してきますからね。
「GAGの演技」を分析
西村 前々から思ってたんですけど、コントの中で福井さんが「ここ!」っていうワードを刺すとき、コケたり変顔してコミカルさを混ぜるの、すごいですよね。ふつう、ここぞというワードの時はまっすぐ狙いたいものなのに。
山添 それについては僕なりに分析したことがあって。GAGさんのコントって、「GAGさんの演技」で成り立ってるんですよ。
西村 わかる!
山添 みんなが目指す自然体の演技じゃなくて、GAGさんは独特の「GAGさんの演技」をやってる。だからまずあの3人じゃないとあかん。あと、福井さんがコントの中で西村の言う「刺すワード」、病みつきになるワードを発するキャラクターを演じるときは、まず登場して1個めのフレーズがすごいんです。ちょうどそのキャラクターの人柄がわかる、かつ「これからこの人がみんなの気持ちを代弁していきますよ」という紹介にもなってる、絶妙にあんばいのいい、“お通し”みたいな言葉を必ず入れてるんですよ。
西村 それがものさしになるんですよね。福井さん本人はもちろん、そのキャラが心の底で思ってることを代弁してる。
山添 そう。この話、もしかしたら福井さんの営業妨害になっちゃうかもしれないですけど(笑)。一言目からホップ・ステップ・ジャンプと段階を踏んで強いワードを差し込む。その緻密さは職人作業やな、って感じがします。
西村 すごいなあ。本当にGAGさんの演技って特殊で。初めて観た人は最初、「なんでこんな棒読みなの?」って思うシーンがあるかもしれないんですけど、すぐ気にならなくなる。面白さが凌駕しちゃうから。
山添 たぶん別の人のネタであの演技をしたらコミカルすぎて浮くんですよ。でもGAGさんの脚本でGAGさんの世界観だと、あの演技こそがいちばん面白い。ほんまに唯一無二やな。
「もっと崇高なもんになるべき人たち」
――今後、GAGさんはどうなっていくんでしょう?
西村 こんな軽い言い方したくないけど、GAGさんはもうブランドになってると思います。だからGAGさんがやればなんだって世間は笑う。
山添 僕は、世間はまだ、ぜんぜんGAGさんのことがわかってないと思う。「あんな評価されんか?」とずっと思ってる。それを何年も前からずっと、福井さん本人にぶつけてるんですよ。福井さんは「俺に言われてもな」って言うけど(笑)。
西村 ああ、そういう意味では、僕の言ってる世間=お笑い界ですね。
山添 うん、お笑い界隈には伝わりだしてるけど。テレビのネタ番組って瞬間的な面白さが重宝されがちやけど、制限時間内の厚みと見応えを振り返ってもらったらGAGさんの凄さはちゃんと伝わるとは思うんですけどね。
西村 いや、ほんとライブや賞レースでGAGさんがウケたときの笑いのうねりとか爆発ってちょっと信じられないくらいですよ。絶対近くの順番になりたくない。
山添 僕はGAGさんって、若手芸人とかコント師のなかでくくられていないで、もっと崇高なもんになるべき人たちだと思います。シソンヌさんみたいに、本多劇場とかハクのある場所で単独やったりして、相応の評価を受けてほしいです。
西村 そうですよね。だってGAGさんって芸歴を重ねるごとに、どんどん最高到達点を叩き出してるんですよ。「何年前のあのコントよかったよな」じゃなくて「今年のコントいいよな!」ってなる。それってメチャクチャすごいこと。
山添 僕、制限時間を気にしないGAGさんをもっとたくさん観たいんですよ。単独ライブはそれが存分に観られるから最高ですよね。
公演概要
『ダサ坊の群像in京都』
日時:3月28日(日) 開場18:00 開演18:30 終演20:00
会場:よしもと祇園花月
チケット:前売2,500円/当日2,800円(配信なし)
※東京公演から一部コント入れ替え
FANYチケットはこちらから。