いまをときめく芸人たち……周囲から一目置かれる存在になった彼らにも、かつて「こんなふうになりたい!」という憧れの存在があったはず。そんな売れっ子たちに、芸人を志したきっかけや憧れた芸人、そして芸人になるまでの道のりなどを語ってもらうインタビューシリーズ『あなたは誰に憧れ芸人に?』。今回は、大阪・よしもと漫才劇場を代表するコント師で、『M-1グランプリ2021』ファイナリストとして一気にお茶の間の知名度を上げたロングコートダディ(堂前透、兎)です。
楽しそうにしているなあ
──おふたりは、誰に憧れて「芸人になろう」と思ったんですか?
兎 僕はさまぁ〜ずの三村(マサカズ)さんですね。
──三村さんを知ったきっかけは?
兎 意識するようになったのは『内村プロデュース』(テレビ朝日系)です。なんか、ずっと楽しそうにしてるなあと。言ってることもすごいおもしろくて好きだったんで、「こんな人になりたいな」「三村さんみたいな芸人になりたいな」と思うようになりました。中学2~3年のころですね。『内村プロデュース』は本当に大好きで、毎回、リアルタイムで見てました。
──堂前さんは?
堂前 ラーメンズさんです。中学か高校のとき、『オンバト』(爆笑オンエアバトル/NHK)で見たか、誰かからビデオやDVDを借りて知ったのかは覚えてませんが、「面白いな」と思いました。好きだった女の子からビデオを借りた記憶があるんですけど、それが最初じゃない気もするんですよね……。いや、でも「好きな子から借りた」のほうがいいか(笑)。仲がよくて、後に彼女になった子です。
──もしや、ラーメンズさんがきっかけで彼女と付き合うことに!?
堂前 そういうわけではなかったんですけど、CDとかもいろいろ貸してくれてましたね。
──兎さんは三村さん、堂前さんはラーメンズさんがきっかけで芸人を志したということですが、それより前、たとえば子どものころに好きだったお笑い番組は?
兎 僕は岡山出身なんですけど、あんまりお笑いの文化がないんで、そういう番組を見ないんですよ。子どものとき、テレビではアニメくらいしか見てなくて……。中学になって、ようやくバラエティ番組を見るようになりました。だから、最初に好きになった人が三村さんだったという。
──岡山では、関西圏のお笑い番組はあまり放送されていなかったんですか?
兎 そんなに見たことなかったですね。本当に、こっち(大阪)に来るまで、当時でいうと千鳥さんとか笑い飯さん、モンスターエンジンさん、天竺鼠さんとか、大阪でブイブイ言わせてる先輩たちは、ほぼ知りませんでした。もちろん見たらすぐ「おもろ!」ってなりましたけど。
堂前 僕は『ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー これができたら100万円!!』(テレビ朝日系)ですね。“電流イライラ棒”とか「楽しそうやな」って思ってました。
兎 あれはチャレンジ企画とちゃうの?
堂前 チャレンジもバラエティやで(笑)
兎 イライラ棒は、僕も記憶にありますね。『筋肉番付』シリーズ(TBS系)とかもすごい記憶に残ってる。高校のときは『リチャードホール』(フジテレビ系)にめちゃくちゃハマりました。
堂前 僕は、(地元の福井県で)関西のネタ番組もけっこう放送されてたんで見てましたよ。(吉本)新喜劇はもちろん、漫才番組みたいなのもあって、ネタに触れるチャンスは関西圏と同じぐらい多かったです。そこから『オンバト』とかに行って、深夜のコント系の番組、『はねるのトびら』(フジテレビ系)とか『リチャードホール』とか、リアルタイムじゃないけど『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)のDVDをみんなで回し見たりもしてました。
「美容師の道」を断念した本当の理由
──NSC(吉本総合芸能学院)に入ったきっかけは何だったんですか?
兎 時間があり余ってたというか。高校を卒業後、美容師の専門学校に入学したんですけど、2カ月ぐらいでやめちゃいまして……。バイトしながら趣味でバンドをやって、友だちと遊んで、みたいにダラダラ過ごしてたんですよ。そんなときに姉が「中学校のころ、芸人になりたいみたいに言ってたやん」ってNSCの願書を持ってきて、「ダラダラしてるぐらいやったら行ってみたら」って言ってくれたんです。だから、そのダラダラしてる時間がなかったら、芸人にはなってない。美容師になってたかもしれないし。
──確か、ハサミを盗まれたから専門学校をやめたんですよね。
兎 ホントのことを言うと、ちょっとだけ話が違うんです。骨折してしばらく入院することになり、学校を休んでたんですけど、久しぶりに行ったときに、ハサミの小指を置くところあるじゃないですか、あれが折れてたんですよ。「あれ? 折れてなかったはずやけど……」と思ってたら、クラスの女の子が「私の使ってたハサミが折れたから、来てなかったし交換させてもらったわ」って(笑)。「ごめんな」「全然、全然」みたいな感じで終わって、それでやめました。盗まれたというよりも、勝手に使われてたんです。
堂前 「返してよ」って言わんかったん?
兎 もう使っちゃってるしね。弱肉強食というか、やっぱ弱いヤツは淘汰されていくのかなと思って。
堂前 (笑)
兎 実は中学のときに仲よかったヤツが、東京のお笑い養成所みたいなところに行ってたんですよ。僕と遊んでるときは別にボケもせず、はしゃぎもしないようなおとなしいヤツが行ってたんで、姉から願書を渡されてすぐ電話して、どんな感じなのかいろいろ聞きました。それで何となくイメージできたので、行こうかなと。
──ということは、東京も視野に?
兎 最初は「やっぱり吉本やろうな」ってなって、あと人力舎さんに好きな芸人さんが多かったので、どっちかと思ってました。でも「東京は遠いなあ」ということで、「大阪の吉本にしようかな」っていう感じに。
──堂前さんの場合はどんな感じだったんですか?
堂前 ふつうにしっかり受験勉強してたんですけど、行きたい大学が決まらなくて。そんなとき、何かの雑誌にNSCの広告が載ってて、お笑いはずっと好きだったんで「これが、いちばんしっくりきたわ」と。東京(のNSC)に行くことは頭になかったですね。ちょくちょく遊びに行ったりしてなじみもあったし、近いですから、迷わず大阪へ。
──おふたりとも、どちらかというと偶然の巡り合わせで……。
堂前 そうですね。
兎 決めたのは何月ころやったん?
堂前 12月ころかな。
兎 ギリギリやん。
堂前 もうちょっと前かな。でも一応、センター試験は受けましたし……。ホンマにギリギリで進路変更しました。
──先生や友だちにも驚かれたでしょうね。
堂前 そうですね。進学クラスではありましたし、まわりはみんな大学に行くってなってたんで。
兎 じゃあ、タイミング的には一緒ぐらいやな。ずっと学校行ってなかったけど、正式にやめたのは9月で、姉ちゃんが願書持ってきたのが11月やから……。
堂前 オレは10月とかやったかもしれん、もしかしたら。
兎 ちょっと待って(笑)。そんなときにセンター試験ないやん。
堂前 受験勉強してたから、センター試験は受けるだけ受けとこうと思って。だから決めたのは10月ですかね、僕は。
兎 じゃあ、僕は9月です。
堂前 ええ〜!?(笑)
周平魂の「笑いを言語化」するセンス
──NSCを経て芸人になってから、特に影響を受けたり、「面白いな」と思った先輩芸人は誰ですか?
堂前 ツートライブの周平魂さん。お笑いの難しいニュアンスとか、そういうのを言語化して話し合ってくれるというか……。お笑いの話をしてて楽しいですね。一度、一緒にカツ丼を食べに行ったとき、僕が箸をちょっと置いたときにぐっと(カツ丼の)中に入ってしまったんですね。で、箸にソースがついたのを、ティッシュでふいてそのまま使ってたんですけど、お店を出たところで「ずっと箸ベタベタしとったやろ」って言われて。「何を見てんの、この人」と(笑)。
──観察眼がすごい(笑)。
堂前 なんか、嫌なとこというか、細かいとこを見てるんですよ(笑)。
兎 周平さんは、心情の動きとかも見てます。「隠してるけど、内心ちょっと恥ずかしい」みたいなのはしっかり見られてますね。
堂前 お笑いに関しても、影響は受けてると思います。わりと早い段階で、周平さんから「おもろいな」みたいに目をつけてもらえてたんで、ネタの内容もそうですし、笑いの考え方とかも学んでる気がします。
──兎さんはいかがでしょう。
兎 身近なところで言うと、後輩なんですけどニゲルベのつーこは、前は週6ぐらいでゴハンに行くほど仲よくて。つーこは発想が自由ですし、行動も大胆というか、思いきったことをやったりするんですね。三村さんじゃないですけどすごく楽しそうで、自分に対して素直に生きてるから、「こんな人間になりたいな」って思うひとりですね。
──「楽しそう」というのは、兎さんにとってのキーワードなんですね。
兎 無理してない感じ、仕事じゃなくて普通に好きでやってますよ、くらいの感じが楽しそうでいいですね。
堂前 じゃあ、「無理してるな〜」って人もおるん?
兎 そりゃあ、おるやろ。
堂前 誰? みんなわりと楽しそうやけどな。
兎 え〜……デヴィ夫人とか?
堂前 めっちゃ自由にやってはると思うで(笑)。
兎 いや、「楽しめてはるのかな」と思って(笑)。
小籔の“スピード”に脱帽
──テレビなどで共演してみて「すごいな」と感じた芸人は?
堂前 そういえば、マヂカルラブリーの野田(クリスタル)さんが、こないだお会いしたら仏みたいな目になってました。すごいオーラが出ていて、どっしりしてる。M-1チャンピオン、R-1チャンピオンの自信がしみ込んできたのかな。
兎 それで言うと、(相方の)村上さんもしみ込んでると感じたわ。チャンピオンが板についてるというか。
堂前 ただ疲れてただけかもしれませんけど(笑)、僕の目には仏に見えました。もう、和室が歩いてるみたいな(笑)。だから一緒にいると落ち着くし居心地がいいですね。
兎 めちゃくちゃうれしいな、「歩く和室ですね」って言われたら(笑)。僕はこの前、小籔(千豊)さんとご一緒したんですけど、「よくそんなに芯を突いた言葉が出てくるな」ってなって。テレビで見てても「すごいな」と思ってたけど、間近でリアルタイムに見てたら、「よくそんなスピードで出てくるな」と改めて驚きました。核心を突くこと、図星なことを言って相手を黙らせたり、それでいて何かおもしろいものに例えて笑わせたり、「いま、どっちの脳みそを働かせてるんや?」っていうぐらいズバズバ出てきてすごかったです。
──ちなみに、憧れの三村さん、ラーメンズさんに実際に会ったことはあるんですか?
兎 まだないんですよ。『キングオブコント2020』の決勝に行ったとき、審査はしてもらってますけど、ちゃんとお話ししたことはない。審査員の方と顔を合わせて挨拶する、とかもなかったんで……。
堂前 僕もラーメンズさんに会ったことはないですね。
──会うチャンスがあったら聞いてみたいこと、一緒にやってみたいことは?
兎 「どの時代がいちばん楽しかったですか?」っていうのを聞いてみたいですね。いつも楽しそうなんですけど、その中でもいちばん楽しかったのはどこですかと。お話しするだけで、すごい楽しそうですよね。
堂前 僕は「会いたい」は正直、あまりないんです。気持ちとしては半々くらい。好きな人って、好きやからこそ、直接会うのはちょっと恐いですよね。聞きたいことと言っても、変な質問して迷惑をかけたくないし、自分の評価が下がってしまうのもイヤやし……。
兎 そんなこと考えんでええやろ。
堂前 じゃあ……「最近の好きな食べ物」とかにしときましょうか(笑)。
兎 うん、それはオレも普通に聞きたいわ(笑)。