今年度から近畿大学の客員教授に就任した吉本興業ホールディングスの大﨑洋会長が、7月2日(土)に同大医学部の「医療イノベーション学講座」の授業で、漫才ワークショップを開きました。医学部1年生たちが漫才に挑戦し、そこから芸人流コミュニケーション術を学ぼうというもので、当日は3組の住みます芸人がネタの作り方などをレクチャー。参加した学生は、自分たちで作ったネタを披露して「近大-1グランプリ」の優勝を競いました。
医学部で漫才を学ぶ理由は
吉本興業と近畿大学は2016年12月に包括連携協定を締結して以来、「笑い」の医学的効果の検証や、ウィズ・コロナ時代の新スポーツ創造など、さまざまな取り組みを進めています。大﨑会長は、今年4月に近大客員教授に就任。6月28日(火)に「医療イノベーション学講座」の一環としてオンラインで実施した講義に続いて、今回は対面で講義を開催することになりました。今後、経済学部、文芸学部などでも講義を行う予定です。
まずは松田学・医学部教授が、今回の講義の目的をこう語ります。
「吉本興業は創業110周年、日本を代表するお笑いエンターテインメント企業であり、さまざまなイノベーションの波を楽しむように生きてきた企業。医学も同じようにイノベーションの波が次々と押し寄せてきています。その波を避けるのではなく、もっと大きな波を待つマインドを持ってほしい。そして、自らイノベーションを巻き起こす人材を育成したいという気持ちです」
続いて大崎会長が登壇し、学生たちに語りかけます。冒頭、この日の講義に登場する住みます芸人たちについて「そんなにおもしろくない芸人のコが3組出てくる」と笑わせながら、「今後、スタッフ、患者さんとコミュニケーションを取る際に、少しは今日の講義、授業がヒントになってくれればいいと思う」と話します。
「何気ない会話からヒントを得たり、ちょっとした工夫をすることでコミュニケーションが取りやすくなる。人に聞いて答えが出るわけではない。基本的な医療技術やノウハウ以外の判断が大事になります。そういうところに、お笑いが少しはヒントになるのでは」
そう語ったうえで、大﨑会長は「教えられたものではない自分なりのやり方でどう患者と向き合うか、どういう施術を行うのか、イノベーションはそんなところにあるのかもしれない。今日は、楽しみながら一緒にできれば」と呼びかけました。
「住みます芸人」が伝えるコミュニケーションの極意
ここで、住みます芸人たちの出番です。まずステージに登場したのは、埼玉県住みます芸人の天狗(川田哲志、横山裕之)。横山が近大の卒業生であることをアピールすると、川田は自己紹介ボケで笑いをゲット。そして川田がメガネにのせた大福を食べるという特技を披露して会場を盛り上げました。
2番手は、和歌山県住みます芸人のわんだーらんど(まことフィッシング、たにさか)。まことフィッシングの現住所を暴露するボケで笑わせ、和歌山在住であることもしっかりとアピールしました。3組目の福島県住みます芸人、ぺんぎんナッツ(いなのこうすけ、中村陽介)もテンポ抜群のネタで盛り上げました。
その後のトークでは、地域の人たちとのコミュニケーションの重要性を強調したうえで、実際の交流方法や失敗談などを披露。「会話の共通点を見つける」「特技を持つ」などコミュニケーションを取りやすくする方法について、それぞれが体験談を語ります。
天狗・横山は、登校拒否の子どもたちが通うフリースクールで漫才ワークショップを行った際、「なにを言ってもいいという空間を作ることで、みんなが一生懸命、漫才をやってくれた」と振り返りました。
大﨑会長が学生に直接指導
ここから、学生たちが漫才作りに挑戦します。6人ずつのグループを作り、そのなかからネタを発表する人を決め、コンビ(もしくはトリオ、グループ)名を決定。2分間のネタをゼロから考えて、実際に練習して本番へという流れが説明されます。学生たちはネタ作り30分、練習15分で、初めての漫才に挑戦することに――。
住みます芸人たちの「エイエイエイオー!」の掛け声でネタ作りの時間がスタートすると、まずはテーブルごとにじゃんけんや話し合いで役割りを決めていきます。芸人たちは教室を巡回して、漫才での言葉のチョイスや全体の組み立てなどについて助言。なかには、大﨑会長から直々にアドバイスをもらう学生の姿もありました。
わんだーらんど・たにさかは、学生たちについて「思っていた以上に前向きに取り組んでくれてます」と笑顔を見せ、天狗・川田も「積極的ですね!」と手応えを感じた様子。終盤には、それぞれのグループが実際のネタ合わせを開始、漫才作りは大いに盛り上がりました。
学生たちのネタ披露は大盛り上がり!
そしていよいよ、「近大-1グランプリ」がスタート! まずは芸人たちが「出てくるときは大きな声を出したほうがいい」「できる限りマイクの前で堂々とすることが大事」などとアドバイス。さらに、「見ているみんなが笑って楽しい空気を作る」「大いに笑う」という観客側の心得も伝えられました。
審査員を務めたのは、大﨑会長と近大医学部の3人の先生。本格的な出囃子に合わせて各組が舞台へと飛び出します。しっかりと作られたネタから、少し恥ずかしげな漫才、大勢で挑戦したショートコントなど、バラエティに富んだ内容に学生たちも大いに盛り上がります。自己紹介からボケる、小道具を使う、会場に語りかけるなど、学生たちはそれぞれに工夫を凝らした漫才を見せました。
全20組の発表が終わると、学生たちが感想を発表。「大勢の前で漫才を披露できて楽しかった」「とても緊張しました」「(緊張して)漫才をやっている間の記憶がない」など、本音が飛び出します。
審査の結果は、ぺんぎんナッツが発表しました。ブービーメーカー(最下位)賞を受賞したグループには、賞品として大阪・なんばグランド花月(NGK)のチケットを授与。そしてグランプリのグループには、賞状とNGKのチケット、そしてよしもとグッズが贈られました。
大﨑会長は総評として、「今日の漫才を見て、いまの若い人が何に興味を持ってるのかが垣間見えて、とても興味深かった」と振り返りながら、学生たちにこう訴えます。
「言葉のトーン、言い回し、ちょっとしたニュアンスですごく敏感に感じる人もたくさんいる。こういう経験をみんなで学ぶことが、相手の立場になって考えることになります」
そして、この日の講義に登場した“住みます芸人”の3組について、「地べたを這って、その土地の空気を吸い、体験し、信頼関係を得るというのを地道にやってきた」と労いつつ、継続することの大切さを強調すると、最後に、参加した学生たちに向かって「せひ、またどこかで会いましょう!」とエールを送りました。