ネタ作り、ライブ、テレビ、YouTube……さまざまなシーンで、芸人たちを陰で支えている“作家”と呼ばれる職業の人たちがいます。第一線で活躍する芸人たちは、どのように作家と仕事をしているのでしょうか。芸人×作家のスペシャル対談シリーズ『芸人と、作家と』。今回は、孤高のピン芸人・ZAZYと、彼を大阪時代から支える作家の稲葉俊介が登場! “馴れ初め”からライブの舞台裏まで大いに語ってもらいました。
「色塗り地獄」を生き残った精鋭
――稲葉さんが作家としてZAZYさんと関わるようになったのはいつごろからですか?
ZAZY 大阪時代からですね。
稲葉 2015年くらいじゃないですか?
ZAZY もう「パン」(代表的なネタ「絹江おばあちゃん」)で世に出てたっけ?
稲葉 ちょうど出たころだと思います。
ZAZY じゃあ僕が芸歴4年目くらいのときですかね。稲葉くんがYCC(よしもとクリエイティブカレッジ、現・よしもとクリエイティブアカデミー)を卒業してすぐの時期に手伝ってもらいました。僕の単独ライブの仕事量があまりにも多くて作家さん1人ではとても手が回らないということで、その作家さんが卒業したばかりの子を3人連れてきたんですよ。
稲葉 YCCの先輩に声をかけられて行きました。当時、ZAZYさんは手描きフリップでネタをやっていたので、僕らが色を塗って。
ZAZY その色塗りに耐えられなくなって、みんな辞めていった。
稲葉 1人ずつ抜けていって、僕だけが残りました(笑)。
ZAZY 僕、本当にギリギリまでネタを考えてから絵を描き始めるんです。だから5年くらい前までは、単独の直前に僕が油性ペンで絵を描いて、鉛筆で色を指定して4人に渡してた。
稲葉 漫画家と一緒ですよ。
ZAZY それを夜中じゅうやって、朝焼けのころにはクレヨンを持ったままの4人の屍(しかばね)が転がってる。
稲葉 そのうちだんだん、色の指定がなくても何色を塗ればいいかわかるようになってきて。
ZAZY 「ここ塗っときました」って。
稲葉 僕、ZAZYさんの単独が吉本でやった初めての仕事なんですよ。最初にすごい物量の仕事を経験したおかげで、ほかの作家さんについたときも「これ一度、ZAZYさんでやったな」となって、比較的簡単に思えたのは助かりました。
ネタがパソコンになってからは…
――作家さんとの関わり方はさまざまだと思いますが、ZAZYさんと稲葉さんとはどんなふうに仕事をしていますか?
ZAZY 僕は、ネタ自体の相談はほぼほぼしないです。迷ったときとか賞レース前に「どっちがいい?」と聞くくらい。
稲葉 ZAZYさんはネタを完全に1人で作っているので、ネタ作りのときは一緒にいないですね。それ以外はずっと一緒にいるけど(笑)。僕はYouTubeの企画とか、ZAZYさんの企画ライブ(『ZAZY寄席』など)とかをやっています。
ZAZY 単独ライブのときは、構成を稲葉くんがやってくれますね。「こういうネタができたけど、間になにしようか」というところからは稲葉くんに相談します。
稲葉 できあがったものを見て順番を提案したりもしますし、本ネタ以外は一緒に考えます。
――ZAZYさんといえば、単独ライブ前に「1000時間配信」などもしていますが、稲葉さんはそれにも携わっているんですか?
稲葉 そういうときは、1日目だけ。フォーマット作りとか、YouTube画面の整理だけして、あとはZAZYさんにお任せです。
――『R-1グランプリ』のときも、ついていましたか?
稲葉 各予選会場には行っていました。手描きフリップのころは音出しをやっていましたけど、ZAZYさんのネタがパソコンになってからは、とくにやることはなくて……「デスクトップはきれいにしといたほうがいい」とアドバイスしたり(笑)。
ZAZY 強い充電器を持ってきてもらうとかね。
稲葉 ZAZYさんというよりもMacBookの手伝いに行ってる、って感じでしたね。
ZAZY でも、ああいうすごい緊張を強いられる場に1人知り合いがいると、落ち着きが違います。あとは、羽根をつけてもらうという仕事もあるか。
稲葉 まだあの羽根、1人ではつけられないんですか?
ZAZY うん。
――ロケなど、稲葉さんがいないときはどうするんですか?
ZAZY そういうときは、現場でいちばんやさしそうなスタッフさんにお願いしてます。
使いたいフォントはだいたいわかる!
――稲葉さんの作家としての魅力は?
ZAZY 稲葉くんは話が早いんですよ。初めての作家さんは、やっぱりある程度、細かく言わないと伝わらないんですよ。でも稲葉くんは、ぜんぶ言わんでもだいたい汲んでくれる。たとえば、僕が使いたい文字のフォントが明朝体かゴシック体か、言わんでもわかる。
――ZAZYさんのネタで文字は重要ですね。「なんそれ」はあの書き文字でないと、と思います。
ZAZY あれが明朝でもゴシックでも嫌じゃないですか。フォントにこだわってない人に遭遇すると「はぁ?」と思っちゃいます。たまに、明朝でもゴシックでもない文字使う人もおるし。
稲葉 まあ、ZAZYさんの使いたい文字はだいたいわかりますね。
ZAZY そういうニュアンスの部分。「ちょっと間をとっといて」とお願いしたときの間が、僕の思っているのとズレが少ないのは助かります。
――稲葉さんから見たZAZYさんの魅力は?
ZAZY ありすぎて答えんのむずいやろ。
稲葉 (笑)。実務的なことになっちゃいますけど……。誰が動いてどんなふうにライブができているかをぜんぶ把握している芸人さんって少ないんですよ。でもZAZYさんは「これを実現するにはどの技術さんが動く必要があるか」「どんな準備が必要か」という段取りを、細かいところもぜんぶわかっている。だから、僕からしても話が早いんです。
ZAZY そうですね。「これが遅れてることによって音響さんに迷惑がかかってるな」とか「このライブをやろうとしたら映像さんが大変になるから、ふだんからもうちょっと笑顔ふりまいとこ」とか思ってますね。
稲葉 何でも自分でやろうとする方だから、いろいろと把握しているんだと思うんですけど。
ZAZY 根本として、僕がそんなに人を信用してないんで。だから、単独ライブのプロモーションにしても、「チラシ何枚刷ってどこに置くんですか」というところまで知っておきたい。予算まわりも「そこにそんだけ使うんやったら、もうちょっとここに使いたい」とか言いたいんですよ。
稲葉 次の単独のチラシもZAZYさんが作ってて。
ZAZY 僕が中央のZAZYとか鳥とかを配置して、タイトルだけデザイナーさんにお願いしました。だから、あとは僕がタイトルを入れる技術さえ身につけられたらチラシもぜんぶできます(笑)。
「ZAZYは性格が悪い」の真相は…
――先ほど「ネタ作り以外はずっと一緒にいる」という話がありましたが、プライベートで一緒に過ごすことがありますか?
稲葉 僕はZAZYさんの1年後に上京して、「カサグランデ」(ZAZYが住んでいる芸人同士のシェアハウス)の近所に住んで頻繁に行っていたので、東京の交友関係はすべてZAZYさんを通じて築いたくらいで。ただ、プライベートでわざわざ予定を立てて会うことはそこまで多くはないですけど……。
ZAZY 仕事終わりで一緒にご飯を食べることは多いですね。
――そこではどんな話を?
ZAZY 仕事の話が多いですね、
稲葉 そうですね。ZAZYさんの衣装をどうしたら面白いかとか。武器を持ったらいいんじゃないか、とかも話しますよね。
ZAZY あとは、そのとき食べてるものの話。
稲葉 ZAZYさんはグルメなので、(渋谷のヨシモト)無限大ホールからカサグランデまでの道のりにあるいろんな店を知ってるんですよ。だから、ZAZYさんに連れて行ってもらった店を蛙亭のイワクラさんに紹介して、ZAZYさんなしでイワクラさんと一緒に行ったりとかはよくやってます。
ZAZY 僕、劇場の友だちが少ないんで、だいたい稲葉くんと食事に行くんですよ。そしたら稲葉くんがその店をイワクラに勧めて、イワクラがそれを広めて。僕が見つけて通ってた店なのに、いつの間にか劇場では「イワクラの店」みたいな認識をされてることがあります。
稲葉 みんな、ZAZYさんがグルメなのを知っているから、「ZAZYさんがおいしいと言ってた」というのは、保証書のようなものなんですよ。でも、誰もZAZYさんと一緒には行かない(笑)。
――この1年、ZAZYさんはバラエティ番組で「性格が悪いキャラ」が注目されましたが、一緒にいる稲葉さんはどう見ていますか?
稲葉 みんなが「ZAZYは性格悪い」とか言い出すまで、僕は気づかなかったです。「そうか、これイヤなことなんや」と思うくらい。僕とか、カサグランデの人たちとか、一緒にいる人は全員、何か言われても「ホンマやな」で流すんで、気にならないんですよね。
ZAZYとスタッフのつなぎ役
――12月26日(月)には「ZAZY大単独LIVE『大祭鳥』」が控えていますね。
ZAZY 先ほど、スタッフさんの動きがわかっているという話がありましたけど、だからといって単独の準備がギリギリになることは避けられないんですよ。だから単独のたびに毎回、スタッフさんのイライラが稲葉くんに向かうわけですよ。
稲葉 1発目は僕にきますね。「あれどうすんの?」「あれ誰が作るの?」と。
ZAZY そうやってスタッフさんに怒られつつ、僕にもやんわり催促せなあかん、というのはかわいそうやなと思っています。
稲葉 スタッフさんに言われたときには、「ZAZYさんが遅いんで」とぜんぶZAZYさんのせいにするんですよ。するとストレスが宙に浮かんでどっかに行く(笑)。
ZAZY でも、さすがに2、3回は直接、怒りが届いたことあったわ(笑)。今回はそういうことのないようにしたいです。
稲葉 ZAZYさんに限らずですけど、単独前はスタッフさんたちと積極的に話しておくようにしています。スタッフさんが気にしていることを知ると、うまく進むと思うので。
――そうやって関係性を保つのも、稲葉さんの重要な仕事なんですね。これまでの単独ライブは『R-1グランプリ』に向けたネタづくりという面もあったと思います。芸歴10年以内という出場資格を失ったことで、単独ライブは変わりそうですか?
ZAZY ぼくは単独がゴールやと思ってたんで、「R-1」がなくなったおかげで自由で最高です。賞レースがあると、とくに年末は賞レースを意識したネタばかりつくるようになってしまうんですよね。でも、これからはもう自分の面白いと思うことを最優先してネタを作れる。悪い表現ですけど、「足についてた鉄球が取れた」感覚です(笑)。
――この1年はバラエティ出演で忙しく過ごしたと思います。
ZAZY そうなんですよ。テレビに出ることが増えて、あまりちゃんとネタをおろせてない。だからネタ作りのフラストレーションをぜんぶこの単独にぶつけられたらなと思います。
ZAZY公式サイトはこちらから。
公演概要
ZAZY大単独LIVE『大祭鳥』
日時:12月26日(月) 開場18:30 開演19:00
会場:紀伊國屋ホール
出演:ZAZY 他ゲストあり
チケット:前売4,000円 当日4,500円
オンラインチケット配信チケット:イベント割対象1,000円
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