吉本新喜劇の吉田ヒロの作品展『~吉本新喜劇〜吉田ヒロ ギャグアート展』が、11月3日(水・祝)~9日(火)まで、兵庫・姫路の山陽百貨店本館5階・美術画廊で開催されます。これに先立って、吉田のもとに若きアート芸人、祇園・櫻井健一朗とkento fukayaの2人が集結! アートとは、お笑いとは――話題は広がりながら、和気あいあいと語り合いました。
今年3月の初個展以来、今回で4回目を迎える吉田の個展ですが、兵庫県内で行われるのは初めて。吉田の芸術家としての側面が楽しめる絵画や置物、装飾品など個性豊かな約40点が、姫路にやってきます。
今回の鼎談相手、祇園・櫻井が手掛けるのはイラストアート。かわいいキャラクターたちが、ちょっと毒のあることを言ったり、やったりする独特の作風で好評を博し、今年9月にはLaugh & Peace Art Galleryで『37歳・独身・アート。』展を開催しました。
一方のkento fukayaは、シリーズで描いている「さえない似顔絵」が大人気。その数は芸人を中心に100枚以上に及び、さえないのに妙に似ているというなんとも不思議な世界観を醸し出しています。
そんな2人が、大先輩の吉田ヒロとアート談義。果たして、どんな展開に――。
「ヒロさんの作品は深みを感じる」
kento ヒロさんの作品を拝見したときに、めっちゃ力強さを感じました。とくに「十吾(母)」という作品は、ものすごく味を感じました。僕も「さえない似顔絵」で、どれだけその人の“味”を出せるかにこだわって描いてるんですけど、ヒロさんの「十吾(母)」は力強くて、見れば見るほど深みを感じます。
ヒロ オレの母親が、踊りをやっている人やったからホンマにああいう格好をしててん。旅役者じゃないねんけど、むかしはオレのおばあちゃんがそういう小屋を持ってて、そこで踊る、神戸で有名な人やったんよ。だから、吉本に入ったときに「蛙の子は蛙」とよく言われてた。
櫻井 そうなんですね!
kento やっぱり味を感じる、ということは理由があるんですね。
ヒロ オレも似顔絵描くねんけど、(kento fukayaの作品は)オレよりものすごくリアルやん。それに、オレと(顔の)「個性」の出し方が違うな、と。オレはその人の顔のパーツを個性にするけど、違う個性の出し方もあるんやなって勉強になったわ。
kento (その人の)いちばんの個性じゃない部分を伸ばして似せる、というふうにして描くので、もしも僕がヒロさんの似顔絵を描くなら、金髪にしないです。
ヒロ そうやんな!? そこがオレとは真逆やもん。見たいな~! 金髪じゃないオレの似顔絵(笑)。
kento がんばります(笑)。だいたい1~2週間くらいかけて描くんですが、愛情を込めて描くので、いまのところ怒られたことはないです。
ヒロ ゴメンな、オレが怒ったら(笑)。
櫻井 僕は、実際に会場に足を運ばせていただきました。まず、「可愛いですね~」というタイトルの、いろんなモノにかわいらしい顔を描いている作品を見まして……。実は僕も、猫に丸い目と鼻と口が付いてたりするから「あ、カブった!」と思って(笑)。決してマネじゃないです! 今日はそれだけはとにかく伝えたいと思いました。あと、新喜劇の皆さんから動物まで、いろんなジャンルを描かれるんだな、と。
ヒロ どのアーティストも、ひとつのテイストを貫くやんか。でも、オレってわがままやから、いろんなタッチがあるわけよ。その日の気持ちによって「今日はリアルなのを描きたい」とか、イライラしている時は急にかわいいのが描きたくなったり。だから、まだカタチが定まってないんやろうな。
kento でも、色使いの感じは全部、ヒロさんらしいと思いました。
櫻井 センスが半端ないです。
ヒロ あと、オレらは5人のチームでやってるからね(「チームむぎ水」というアートユニット)。自粛期間中に造形作家さんとリモートで飲むようになったのがきっかけで、「ヒロさん、絵がうまいんやから作品を手元に残したら? お手伝いするから」と言ってくれたので、それから個展をやるようになってん。造形作家さん、ステンドグラス作家さん、書道家、あと元ザ・プラン9の鈴木つかさのスプレーアート。この5人のコラボ作品やから、いろんなカタチになるわけよ。だから、よけいに定まらない。鈴木のスプレーアートがオレの手元に届いて、その時に初めて柄を見てオレが絵を足していく、という感じ。
櫻井 僕らにはできないですね……。
櫻井とぼんちおさむは似ている!?
kento 僕の場合はある日、楽屋でヒマだったので、見取り図・盛山(晋太郎)さんの似顔絵を描いてたんです。そしたら盛山さんがものすごく笑ってくださって、「簡単に描いた絵でこんなに笑ってくれるんだ。じゃあ、いろんな人を描いてみよう」と思ったのがきっかけでした。その時、盛山さんに「100人描いたらええやん」と言われたので、100人を目標に描き続けて、いまの形になりました。
櫻井 僕が2人と違うのは……絵がものすごくヘタなんです。
ヒロ えっ!?
櫻井 スタッフさんから、生配信アプリの“アバター”を「1つ描いてもらいたい」と言われて。「ものすごくヘタですけどいいですか?」と描いたんですけど、なんかそのヘタさがよかったみたいです。
ヒロ ははは!(笑)
櫻井 それで、「じゃあ、次はこんなん描けますか」と何度か続いて、「じゃあ、それを集めてイベントやってみますか」と言ってもらいました。だから、自分から「なんか描きたいです」とかはないんですよ。
ヒロ 昔から、“ヘタウマ”って言葉があるやんか。でも、“ヘタウマ”は、もともと絵がうまい人があえて崩して描くのであって、君みたいにほんまにヘタなら“ヘタヘタ”でガンガンくるの、すごいで!
櫻井・kento ははは!(笑)。
ヒロ 君とうちの師匠のぼんちおさむがよく似てるわ。キリンを正面から描くから足が2本しかないねん。それに、自分で象を描いて「師匠、これなんですか?」って聞いても、描いた本人がわかれへん。そんな絵を、印刷してトレーナーにして着てるねん。でも、それはそれでアートに見えるねん。アートって、うまいヘタじゃないんやろうな。だから、アートっていう言葉って、ものすごく便利やと思うんですよ。
kento うまいヘタじゃない、ということですよね(笑)。
ヒロ 自分で「アートや!」って言えばいいねん。人の作品を見ても「アートやな~」と言ったら、言われた奴も「こいつ、わかってるな」みたいな。アートっていう言葉、便利やわ~。「ナイス!」みたいなもんやね。
櫻井 そう言ってもらえるとありがたいです(笑)。字面でこうしたアート対談を読んだ方が「櫻井さん、アートやられているんですよね」という感じで、たまに絵を描くお仕事をいただくんですが、すごくドキドキするんですよ。
ヒロ だから自信を持ったらいいねん。「俺はヘタや!」っていう自信を。「アートやな~」って言いながら描いたら、それがアートになるって。それがわからんような奴には見ていらんやん。
櫻井 これからは「あ、わからなかったですか?」って言うようにします。
ヒロ オレは“GAG(ギャグ)アート”っていうのをやってるから、作品ひとつ創る時にギャグを心のなかで言うねん。こないだもお皿に絵を描いたんやけど、回るろくろの上にお皿を置いて、オレはずっと心のなかでギャグを言いながら筆で絵の具を散らしてた。
櫻井 絵の具の飛び散りに出るのかもしれませんね。
ヒロ それを見て、心の中でオレがなんのギャグを言いながら描いたかをわかってほしい。
櫻井 ツウにはわかるんでしょうね(笑)。
kento 僕も、100人描こうと思ったのは、ひとつだけだったらただヘタな絵に見える可能性があるんですけど、100人の気持ち悪い似顔絵が並べばアートになる。そのゴールまでは絶対にやり続けよう、という気持ちで描いてきました。
ヒロ なるほど! もう達成できたん?
Kento 最新で、130人くらいです。
ヒロ もう100超えてるんや!
kento 100人を超えたあたりから、お仕事でオファーをいただけるようになりました。
左手で描いてみたら?
櫻井 お話を聞いていていいなと思ったのが、よく「降りてくる」って言うじゃないですか。「気持ちが作品に出ました」とか。僕、そんなんが全然ないんです。いつもスタッフさんから「これ描いてくれへん?」と頼まれて「わかりました」って描くので、降りてきたことがないんです。だから、そういう感覚が本当にうらやましいです。
ヒロ 右利き? 左利き?
櫻井 僕、右利きです。
ヒロ ほな、左手で描いてみたら?
櫻井 それならもっとヘタになりますやん!
ヒロ アートとして広がるかもよ。
櫻井 そういえば、僕、普段はiPadで描くんですけど、一度、「キャンバスに一発で描いてくれ」と言われたことがあって。「紙に練習で描いていいですか?」って下書きを描いたら、お客さんに「下書きのほうを買い取らせてもらえませんか?」と言われたことがありました。下書きのほうが、味があっていい、みたいな話で。「これ、ほしいの!?」ってびっくりしましたね。
ヒロ わかる! その人には下書きのほうがハマったんや。俺もキャンバスに書く前に一度、画用紙とかに下書きを描くねんけど、下書きのほうがうまい時があるねん。うまくかけたら、それよりうまくは描かれへんねん。
kento 再現、難しいですよね。
櫻井 わざとそれを描こうとすると……。
ヒロ ある程度までアーティストとして有名になったら、なんでもありやねんから。早く俺らもそこまで行こうぜ。
まだ世に出ていないアート芸人がいるはず!
ヒロ オレは以前、坂田(利夫)師匠の似顔絵を書いたとき、「誰よりも俺の似顔絵がうまい」と褒めてもらったのがいちばん覚えてますね。
kento 坂田師匠って、これまでものすごく似顔絵を描かれてきた方やと思うんですよ。その方に言われるってすごいです。僕は、似顔絵を描いた芸人さんたちが個展に観に来てくれて、笑ってくれたのがうれしかったですね。
櫻井 僕の作品はイラストに言葉を添えているものが多くて、かわいい奴らが厳しめのことを言うっていうギャップがあるんですが、こういうご時世で攻めすぎているのか、仲間からは「そんなひどいこと言って大丈夫?」と心配されることがあるんです。でも、そこでもアートだから、「こういう作品です」と言えるのがすごくありがたいです。
ヒロ オレの印象やけど、ダウンタウンの松本(人志)さんとか、ボケの人って絵がうまい確率が高いよね。オレはGAGアートと謳って、ギャグを言いながら絵を描くけど。
kento 唯一無二ですよ(笑)。
ヒロ 毎回、違うことをしたいタイプやから、絵もバラバラやし。それもまさしくギャグかな、みたいな。でも、オレのギャグって1000発くらいあって、よく見たら3つしかないねんけど(笑)、そのとき描きたいものが、そのとき言いたいギャグやと思ってもらえたら。
kento 僕の場合は「絵がおもしろい」から入ってくれる人もだいぶ増えたので、それがかなり大きいです。これからも「さえない似顔絵」をおもしろいと思ってもらえるようにしたい。アートですけどお笑いを全力でやってるから、僕の場合はアート=お笑い、ですね。
櫻井 芸人とアートというのはこれからどんどん広がっていくんじゃないですかね。いまは漫才やコントに集中しているだけで、まだ知らない、とんでもない人が隠れてそうですよね。
個展概要
『~吉本新喜劇~ 吉田ヒロ ギャグアート展』
開催日時:11月3日(水・祝)~9日(火) ※最終日は15:00閉場
会場:山陽百貨店本館5階 美術画廊
※作家来場予定日:11月3日(水・祝)・6日(土)・7日(日)