ピアノの先祖「フォルテピアノ」奏者・加藤美季がレクチャーコンサート! 「思っていた以上に笑いが取れました(笑)」

「フォルテピアノ」という楽器をご存じでしょうか? これは、現代のモダンピアノが登場する以前の18世紀から19世紀前半に使われていたもので、「古楽器」に分類される、いわばピアノの先祖のような楽器です。そんなフォルテピアノ奏者である加藤美季によるレクチャーコンサート『むかしのピアノのおはなし』が、2月15日(木)に東京・有楽町の「ベヒシュタイン・セントラム 東京」にあるホールで開催。来場者はピアノやクラシック音楽の歴史について“レクチャー”を受けながら、フォルテピアノの美しい音色を楽しみました。

出典: FANY マガジン
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“演奏”よりも“お話し”に意気込み!?

コンサートが始まると、ワイン色のシックなカラーのドレスに身を包んだ加藤が登場。にっこりと気さくな笑顔を見せながら、こう意気込みを語りました。

「いつも演奏するにときは、作品や楽器についてお客さまにお話してから演奏したいと思っています。今回は『レクチャーコンサート』なので、いつもより多めにお話します!」

「ピアノの先祖」というと古い楽器というイメージがありますが、著名なクラシックの作曲家たちは、年代的に自分の曲がフォルテピアノで演奏されることを前提に作曲していました。そう考えると、まさにクラシック音楽にピッタリの楽器だといえます。

ステージでは、加藤はフォルテピアノの横にホワイトボードを用意し、まずは「フォルテピアノ」とは何か、その古い歴史などを語りました。

出典: FANY マガジン
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その後、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンという3人の偉大な作曲家についてもレクチャー。貴族に仕えながら、オーダーにあった曲をつくった職人タイプのハイドン、神童と呼ばれたモーツァルト、そして、自由な作風でクラシックを進化させたベートーヴェン。それぞれの歴史や作風について解説したあとで、彼らの代表曲をフォルテピアノで演奏しました。

まずは、ハイドンの『クラヴィーアソナタ 第48番 ハ長調』と『クラヴィーアソナタ 第47番 ロ短調』を演奏。

そして、1つの主題をさまざまに変化させる「変奏曲」や、形式に捉われない、自由な発想で作曲された「幻想曲」についても解説し、モーツァルトの作品からは『フランスの歌「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲 ハ長調』と『幻想曲 ハ短調』を演奏しました。

これまで、何気なく耳にしていた曲も、作曲家の個性やクラシックの作曲形式について理解を深めたあとに聴くとまた趣が異なるもの。ホールには、フォルテピアノの優雅な音色が響き渡り、観客を魅了しました。

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実験的な挑戦に「すごく緊張しました」

そして、この日は加藤にとっても新たな挑戦が。日本を代表する作曲家の1人、久石譲の『あの夏へ』、そして1900年ごろから多くのラグと呼ばれるジャンルの名曲を生み出したスコット・ジョプリンの『イージー・ウィナーズ』の2曲を演奏しました。

古典派以外の音楽をフォルテピアノで演奏することはほぼないそうで、見事な演奏とは裏腹に、「新しい試みにお付き合いいただきました。すごく緊張しました」とホッとした表情を見せました。

そして、最後はベートーヴェンの曲を演奏。ソナタにおける、第1楽章から第4楽章までの構成を説明したあとで、それを鮮やかに打ち破ってみせたベートーヴェンの名曲、「月光のソナタ」の通称で知られる『クラヴィーアソナタ 第14番嬰ハ短調「幻想曲風ソナタ」』と『バガテル エリーゼのために』を演奏しました。

そして観客のアンコールに応えて、ベートーヴェンの『悲愴ソナタ 第2楽章』を演奏。観客は、奏者の視点を持つ加藤ならではのわかりやすい解説と、フォルテピアノの見事な演奏の2つを楽しめる“レクチャーコンサート”に大満足の様子でした。

出典: FANY マガジン
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「なんでも挑戦してみたい!」

コンサート終了後に、この日の感想を聞きました。

――今回のレクチャーコンサートの企画は、どのようないきさつで立ち上がり、実現に至ったのですか?

ここ数年、定期的に自分自身が演奏したいものや取り組みたい内容の演奏会を開催しています。今回は、フォルテピアノという楽器を身近に感じてもらい、さらに楽器や作品の時代背景などについても楽しんで知っていただけるようなコンサートをしたいと思い、レクチャーコンサートという形で企画しました。
フォルテピアノは会場に演奏会のたびに運び入れることが多く、ホールに常設されていることは非常に稀なことです。今回の会場であるベヒシュタイン・セントラム東京には常設のフォルテピアノがあると以前から聞いていたので、一度、この会場で演奏したいと思っていました。

――コンサートの構成や曲選びで心がけたこと、または目指したことがあれば教えてください。

レクチャーは、楽器のこと、18世紀の時代背景から作曲家、音楽の形式など幅広く基本的なことを楽曲に関連してお話しました。
演奏曲は1815年デュルケン製作(ウィーン式)のフォルテピアノの音色に合う18世紀古典派の有名なピアノ作品を中心に構成しました。古典派に代表される3人の作曲家、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの作品から2曲ずつ、作曲家の1面だけにならないように同じ作曲家の作品でもまったくタイプの違う作品を選びました。
第2部では新しい試みとして、古典派以外の作品を演奏しました。同じ古楽器でもポップスやイージーリスニングにもたびたび使用されているチェンバロに比べ、フォルテピアノはまだ知名度が低く、過去のクラシック作品を再現するツールにとどまっていると感じています。今回は楽器としての魅力を知っていただくため、今回使用した楽器の音色で演奏してみたいと私自身が感じる作品を2曲聴いていただきました。

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――観客の皆さんに、コンサートの時間をどう過ごしてほしい、どんなふうに楽しんでほしいと思いましたか?

私はふだんから、演奏前に作品についてのお話をするようにしています。もちろん知識がなくとも何かを感じ、楽しめるのが音楽の素晴らしさですが、少しでも知識を持つことでその音楽の楽しみ方はぐっと広がると考えています。
今回はレクチャーを通して何か知識が増えることで、改めて音楽の感じ方が新鮮なものになることを目指しました。お客さまそれぞれクラシック音楽に対しての姿勢は違うと思いますが、とにかく私自身が好きなもの、知っていただきたいと思うことを、愛を込めてお届けすることで何か伝わるものがあれば、と思っています。
また、皆さんが知っているピアノ作品が、フォルテピアノで演奏することでこんなに違うイメージ、魅力があるのか!と感じていただけた機会になっていれば嬉しいです。

――コンサートを終えた感想を聞かせてください。

今回は新しい試みもあり、お客さまに受け入れていただけるか不安もありましたが、とても温かくお聴きいただけて、まずはほっとしています。演奏以上にトークはこれからまだまだのびしろがあると思っていますが、今日は思っていた以上に笑いが取れました(笑)。
2時間、1人で話して演奏するのは、どちらか一方をする何倍も大変なのですが、お聴きくださる皆さんには好評なので、今後も続けていきたいと思います。

出典: FANY マガジン
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――今後、やってみたい活動、企画などがあれば教えてください。

なんでもできることがあれば、挑戦してみたいです! 昨夏にもコットン、カベポスターのおふた組、ハルダンゲルヴァイオリンの山瀬理桜さんとイベントをさせていただく機会がありましたが、近づきがたいと感じられがちなクラシック音楽を楽しんでいただけた手応えを感じました。これからも音楽以外の様々なジャンルの方ともコラボレーションしてみたいと思っています。