手塚治虫が生んだ国民的ロボットキャラクター「鉄腕アトム」をモチーフにしたコミュニケーション・ロボットATOMが、宮城県石巻市の「SDGs広報大使」となり、その任命式が11月12日(木)に東京・音羽の講談社レセプションルームで開催されました。
式典にはATOMのほか、宮城県石巻市の亀山紘市長、手塚プロダクション取締役の清水義裕氏、講談社第四事業局の奈良原敦子局次長、そして吉本興業の「SDGs担当」としてピン芸人の横澤夏子が出席。コミュニケーション・ロボットへの期待が語られました。
ATOMで地域の高齢者支援
ATOMは、講談社、手塚プロダクション、NTTドコモ、富士ソフト、VAIOの5社がタッグを組んだ「ATOMプロジェクト」の一環として開発されたコミュニケーション・ロボットで、日常会話に加えて歌や踊り、クイズ、ゲームなどの機能があります。
石巻市は、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取り組みが評価され、今年7月に内閣府が発表した「SDGs未来都市」33都市に選定。さらに、そのなかで特に先導的な取り組みをする「自治体SDGsモデル事業」の10都市に選ばれています。
今回、その事業の柱のひとつとして、「ATOM」が、地域の高齢者支援やSDGs活動の広報などに活用されることになりました。
式典で亀山市長は、東日本大震災(2011年)から間もなく10年という節目を迎えるいま、地域が取り組むべき課題として、高齢者の孤立化が進む石巻の「コミュニティ再生」と「公共交通の利便性」の2つを挙げました。
そのための取り組みのひとつが、コミュニケーション・ロボットを活用すること。具体的には、地元の高校生たちが組み立てた「ATOM」を高齢者宅で活用することで、高齢者に親しみをもって接してもらい、孤立防止につなげたいという考えです。
また、「SDGs広報大使」として、市民にSDGsの理念や市の施策をわかりやすく伝えるために、ATOMを公民館などに設置したり、ATOMが登場するマンガやショートアニメ、スマートフォンのアプリを通して理解を深めていきたいとしています。
早口言葉がスピードアップ
亀山市長が任命状を手渡すと、ATOMは「一生懸命がんばります!」とご挨拶。さらに、得意の「早口言葉」を披露します。「鉄火巻き」や「後藤真希」など語尾に「石巻」の「まき」がつく言葉を羅列していくもので、リピートするたびにどんどんスピードアップ。最終的には人間が聞き取れる早さを超えたスピードで話すというロボットならではの“技”で、会場を大いに沸かせていました。
アトムのキャラクターの“生みの親”である手塚プロの清水氏は、手塚治虫の1989年の著書『ガラスの地球を救え-二十一世紀の君たちへ』(知恵の森文庫)の一節を紹介し、手塚治虫が30年前にすでにSDGsの精神を持っていたと説明。「われわれはみんな、“かけがえのない地球に住む仲間である”という意識を持つことが大切だと思う」と話します。
講談社のATOM事業の担当者である奈良原局次長は、ATOMの活用について「出版社らしい、ユニークな取り組みをしていきたい」としたうえで、「SDGsは概念的に捉えられがちですが、市民のみなさんのために、とても崇高な目標を身近に実行できるようなものにしたい」と語りました。
「絵本の読み聞かせとか…」
一方、「吉本興業のSDGs担当」としてこの場に登壇した横澤は、「“担当”と言われるといち会社員のようで……」と緊張した様子を見せながらも、「ATOMくんが任命状を受け取るところがすごくかわいかったです! でも、かわいいのに言葉遣いは大人で……。高齢者の方でも親しみが持ちやすいと思います」と絶賛。
また、石巻市と講談社の「SDGs推進連携協定企画」について、こう語りました。
「最初はたくさん漢字が並んでいて難しいイメージがあったんですけど、マンガ(SDGsを説明した漫画小冊子)を読ませてもらったら、日常生活に寄り添ってくれているのでとてもわかりやすかった。私もこのアプリでもっとSDGsのことを勉強していきたいと思います」
現在、子育て真っ最中の横澤。「子育ての中でのロボット活用」について聞かれて、こんなサポート機能を期待します。
「おむつ替えや離乳食など、ぜんぶやってくれたらいちばんいいんですけど(笑)。話す言葉がとてもきれいだったので、言葉を教えるとか、教育面で活用できたらいいなと思います。たとえば、絵本の読み聞かせとか……」
すると、奈良原氏が「ATOMは胸の部分に液晶画面があるので、それで絵本を読むことができます」と説明し、横澤に「ぜひ使ってみてくださいね」とニッコリ。
さらに横澤は、吉本のSDGs担当らしく、吉本の「大宮ラクーンよしもと劇場」(埼玉県さいたま市)の場内に「託児所」開設を働きかけたことを明かし、「いまはまだ大宮だけですけど、いずれは全国にある吉本の劇場すべてに託児所を作りたい」と意欲を見せます。
もともと、劇場で舞台に立っているときに、子どもが泣くと母親が席を立って外に出て行く姿を見て、子育てをがんばる人にもお笑いを楽しんでもらいたいという思いで「託児所の設置」を思いついたとのこと。「いずれは舞台の出番がなくても、託児所のスタッフとして赤ちゃんたちを笑わせるためだけに劇場に行ったりもしたいです(笑)」と母親らしい優しさを見せていました。
最後に亀山市長が、今後の展望について改めてこう語りました。
「震災後のさまざまな連携が、このような素晴らしい取り組みにつながったと理解しています。“最大の被災地”から“未来都市石巻”を目指して、さまざまな方々と協力・連携しながら、『おたがいさま』の声があふれる街の実現をめざしていきたい」