現代アート界注目3人におかけんたが迫る! 初のグループ展に「この3人がそろうなんて奇跡」

セルフポートレイトの手法を用いた写真表現で、国内外で高い評価を得る現代美術家・澤田知子が、同じく写真を題材にしたアートで注目を集める栗棟美里、須藤絢乃に声をかけて実現したグループ展『Interactions』Curated by Tomoko Sawadaが6月13日(木)~17日(月)まで、なんば・LAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKAにて開催中です。
3人の作品は、「写真表現」という部分は共通していますが、アプローチやイメージは三者三様。ギャラリーでは不思議なケミストリーが起きています。今回は、アートに造形が深く、京都国際映画祭でもアートプランナーを務めたおかけんたを交えた4人で、グループ展について語り合ってもらいました。

出典: FANY マガジン
左からおかけんた、栗棟美里、澤田知子、須藤絢乃 出典: FANY マガジン

おかけんたの提案から実現したグループ展

けんた 私にとって澤田さん、栗棟さん、須藤さん、この3人がそろうなんて本当に奇跡なんですよ。しかも大阪という場所で、まず考えられない。どうしてこれが実現したんですか?

澤田 2人とも、以前から私と「やってみたい」と言ってくれていたんです。須藤さんは以前、2人展をやったことがあるんですが、栗棟さんは初めてなので電話で「私がキュレーションをするから、よかったらどうかな?」と声をかけました。

けんた 僕にとっては、3人さんそれぞれに思い出があるんです。澤田さんと出会ったのは、いまから17~18年くらい前?

澤田 もっと前です、23年くらい前ですかね?

けんた そうか、20年以上前……! 当時、訪れたアートフェアで、澤田さんがガングロギャルに扮した「cover」っていうシリーズのDM(ダイレクトメール)をいきなり私のところに持ってきて、「私、こういうのをやっているんです!」って。ガングロギャルの写真が並んでて、それが全部本人やっていうから「マジですか!? これ、すごいね!」ってびっくりした記憶があります。

出典: FANY マガジン
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澤田 私もけんたさんをアートフェアで見つけたとき、すごい興奮したのを覚えてます(笑)。「テレビで見た“ええ声”の人や!」って(笑)。

けんた 須藤さんは、最初は写真そのままのクールなイメージがすごく強かったんですよね。でも実際にお会いすると、すごくフランクな方で。栗棟さんは、私が初めて会ったころはモノクロの作品をつくられていて、まるで化粧品のポスターから出てきたような雰囲気の作品をつくる人やな、でもその作風でコンテンポラリー側にいるのは関西では珍しいな――という印象でした。

ほんまに三者三様なんですけど、そんな3人が集まったきっかけはなんだったんですか?

澤田 去年の京都国際映画祭で、京都市京セラ美術館での展示をさせていただいたときに、けんたさんから「『澤田知子と愉快な仲間たち展』というのをやったらどうか」と声をかけていただいたのがきっかけです。

そのときは、私の後輩や教え子と展覧会をしようと考えていたんですが、実際にLAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKAで打ち合わせをして、「これはちょっと違うかも」と感じて、それで関西出身でポートレイトをやっている作家でなにかできないかな? ということで2人に声をかけました。

けんた 吉本が運営しているギャラリーで、場所がミナミのど真ん中、なんばグランド花月の真ウラです。このシチュエーションはどうですか?

栗棟 私は神戸市出身なんですけど、大阪の中でもディープな場所にあるので、「こ、こんなところにギャラリーがあるんだ!?」と驚きました。私が下見に来たときは、ちょうど芸人さんがお化け屋敷の展示をしているところで、コンテンポラリーなギャラリーの概念を打ち崩されたというか(笑)、逆に「この個性は、このギャラリーでしか出せないんだろうな」と感じましたね。

出典: FANY マガジン
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澤田 この3人は、作品に共通点があるんですけど、そのアウトプットの仕方が違うので、その環境を見てもらいたいなという思いで「Interactions=影響し合う」という名前にしました。

けんた なるほど。

澤田 私がキュレーションをするにあたり、展示してもらう作品も「これを出してください」とお願いをしているんですが、個性を受け入れてもらえるギャラリーだからこそ、「ふつうのギャラリーではできないことができるんじゃないかな?」と須藤さんには今回、ふだんのギャラリーではなかなかできないタペストリー展示をお願いしたり。

けんた 栗棟さんの場合は、どうやったんですか?

澤田 私が栗棟さんの「Images」シリーズが好きだったので、これを指定してお願いしました。そしたら新作(「Display」)も、入れてくれて。

けんた とくに今回は3人の展覧会ですし、澤田さん自身もいろいろと考えたんですね。

澤田 でも、並べてみたら思ってたよりもバラバラでよかったです。ひょっとして、須藤さんの作品と栗棟さんの作品を並べると馴染み過ぎちゃうかな? とも思っていたんですが、意外と馴染まなくて、私と栗棟さんの作品の間に須藤さんの作品が調和する感じになったから、おもしろい展示になったと思います。

出典: FANY マガジン
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20年前の作品がどう受け止められるか

けんた 今回の澤田さんの展示作品「OMIAI♡」シリーズは、ギャラリーに入ってすぐの右側の、受付のうしろの棚に展示されているじゃないですか。これは、このギャラリーを見たときから決めてたんですか?

澤田 キュレーションの立場でもあるので、自分があまり前に出過ぎたくないという気持ちもあったし、あの棚を見たときに「ちょうど『OMIAI♡』の写真が入る!」とピンときたのもあって(笑)。「OMIAI♡」は、これまで海外の展覧会をずっと巡回していて、東京では2年前に展覧会をしまして、関西で出すのは18年ぶりになります。

けんた 18年ぶり!?

澤田 はい。古い作品ではあるんですけど、東京での反響がすごくよかったんです。作品をつくった当時も東京と関西では反響がだいぶ違ったので、今回の反響はどうかな? と思いまして。18年前の作品なのに、私があんまり変わってないという(笑)、なんかそこもおもしろくて。私の中ではすごく変わってるんですけど。

出典: FANY マガジン
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けんた ずっと作品をつくり続けてきた“今の自分”が、当時の作品を見るときの変化はあるんですか?

澤田 「外見と内面の関係性」というテーマでずっと作品をつくり続けているんですけど、デビュー作で「外見の力って自分が思っている以上に強いんだな」と感じてつくったのが、2作目になる「OMIAI♡」です。「お見合い」のシステムを引用して、「外見の作用を見たい」とつくったシリーズです。

作品をつくるために、もう27年くらい、学生のころから2000回以上変装してきて(笑)、いまこうして見ると、相対したときの感覚は違うんだけど、何も変わっていないなと感じます。

時代は変わっても、外見と内面の関係性は全然わからないままだし、つくればつくるほどわからなくて、ブラックホールみたいな感じです(笑)。20年前なので、化粧のやり方もファッションも古いはずなのに、観る人の反応はぜんぜん変わらない。時代が変わってAIが出てきても、人間の普遍的なところは変わっていかないのかな、というふうには感じています。

けんた ひょっとしたら、若い世代……たとえば高校生の子だと「お見合い」自体を知らんかもわからんね。

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澤田 そうですね。マッチングアプリは使ったことがあっても「お見合い」をやってる友だちはいないかもしれないですね。

けんた そういう意味で言うと、新しいものとしてとらえるかもしれんから、いまの子たちがどんな反応をするかというおもしろさがありますね。とくに大阪で。

幼少時代に育ったミナミの街が作品に影響

須藤 私は小学6年生まで(大阪市西区)新町に住んでいて、堀江小学校出身なんですよ。だから、ここらへんが遊び場やったんです。チャリンコでよく遊びに来てました。

けんた えぇっ! 地元ですか!?

須藤 そうなんです。だから、すごい懐かしい気持ちなのと、こんな馴染みのある場所でこうやって展示ができているのがすごく不思議です。ミナミって、刺激的な人がたくさんいるじゃないですか。ファッションも個性的な人が多くておもしろいし、私は人間観察するのがすごい好きやから、ただ人を眺めているだけでもおもしろいなと。

出典: FANY マガジン
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けんた 育ててくれた場所なんやね。そういう経験って、ひょっとしたら今の作品にも影響してるんですかね?

須藤 それを思うと、めちゃくちゃ影響していると思います。一人ひとりが「自分が主役」みたいな人たちですし、そんな方がたくさん行き来するこの街の感じが大好きなんですよ。それこそ私が住んでいた新町は、ファッション系専門学校の学生さんたちが家の前を歩いていたり。

けんた 新町にはむかし、花街もありましたもんね。飲み屋さんがいっぱいあって、華やかな街でした。

須藤 そうです、うちの祖母が花街の出身で、お茶屋をしていたんです。それこそ有名な落語家さんとかも来ていました。私はまだ子どもでお茶屋に出たらダメだから、隙間から見ていました。

けんた ほぉ~! そうしたら、須藤さんの作品は幼少期のころからの影響があるんですね。そういう背景を知ると見え方も変わります。

須藤 きっと、めちゃありますね。今回展示してる作品の中に飛田新地で撮影したものもあります。

出典: FANY マガジン
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「遊びに来る」感覚でアートに触れてほしい

けんた 栗棟さんは、最初、僕と出会ったころにつくってたモノクロ作品というのは、もう10年くらい前ですか?

栗棟 そうですね。作家活動を始めて12年なんですが、大学院に在籍していたころからモノクロの作品をつくっていて、その上から違う素材を重ねる“ミクストメディア”という手法で作品を制作するようになりました。その中で、一貫して根幹にあるのは、「存在」だったり「美」だったり、「時間」というようなものの本質とはなにか、存在とはなにかということです。

けんた ほう、なんか一貫してますね。なるほどね。

栗棟 今回の作品でいうと、「認識って何?」というところだったりして。この作品ができたのは、(新型コロナの)パンデミックの時期だったんですけど、その時期というと、デジタルやオンラインでのコミュニケーションが急速に普及していき、ある意味、ディスプレイ上でのコミュニケーションがリアル以上のリアルだなと感じることもあるような気がしたんです。

データの曖昧さもそうなんですが、この人物たちはベースはあるものの、私が合成してつくり出した“存在しない人たち”で、実際にいそうなんですけど、実はいないんです。

写真においてもデジタルが普及していくなかで、簡単に改変できるというか、むしろ改変と共存する存在になっている印象もあったので、「存在のリアリティとは何か」「デジタルのデータにおけるリアリティとは何だ」ということも問いかけています。

出典: FANY マガジン
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けんた 僕がこのシリーズで最初に見たのは、これやったかな。

栗棟 「あなたはこの世界にいるかもしれない。もしくはいないかもしれない。」という、意味深なタイトルを付けたんですけど(笑)。

けんた 僕は3人を見続けているなかで「あ、転換期やな」と感じることがあって、栗棟さんが転換期を迎えた作品って、これじゃないかと思うんですよ。

澤田 そうですよね。私もこれやと思いました。抜けた感があるというか。

けんた そうそう。音で例えるとスコーンという、そういう作品やなと感じたんです。

栗棟 正直、私もこのピンクの子(「あなたはこの世界にいるかもしれない。もしくはいないかもしれない。」)をつくったときは、「あ、変わった」と思いました。

澤田 3人とも、コンセプト的なことで言うと、社会で絶対に存在しているんだけど目に見えないこととか、はっきりと言語化できることじゃないんだけど体感していること、と表現したらいいのかな。

人間に興味があって、普遍的にずっと見えるもの、見えないものに限らず見つめているっていうのが、この3人の共通点なのかなと思ったんです。

けんた 最後に、興味を持ってくれた方々にメッセージを。

須藤 このシリーズは撮影の最中がとても楽しいものばかりなので、その楽しさを感じてもらえたら嬉しいです。

栗棟 3人がそれぞれ、視点が共通する部分があるし、同じ“写真”というメディアを使った表現であるはずなのに、これだけ違ったアウトプットがあって、その表現はこの空間でしか味わえないので、そこをぜひ実際に観に来て楽しんでもらいたいなと思いますね。

澤田 ギャラリーって敷居が高いと思っている方も多いんですけど、でも、ここは立地的に吉本興業さんのギャラリーであることも、いろんなことが一緒くたになって、いい意味で見やすいし入りやすいと思うんです。ふだん、ギャラリーに行ったことがない方も入りやすいと思うから、「アートを見に来る」じゃなくて、「遊びに来る」みたいな感覚で、空間を覗きに来てくれたらいいなと思いますね。「まいど!」みたいな感じで(笑)。

展覧会概要

『Interactions』Curated by Tomoko Sawada
日程:2024年6月13日(木)~17日(月)
場所:Laugh&Peace Art Gallery
営業時間:13:00~18:00
定休日:火・水
入場料:無料

詳細はこちらから。