かつての鹿児島県の知覧町(現南九州市)で「富屋食堂」を営み、戦時中に特攻隊員たちから“母”と慕われた鳥濱トメの半生を描いた『Mother~特攻の母 鳥濱トメ物語~』(主演・浅香唯)が、3月19日(水)~23日(日)に東京・新国立劇場小劇場で上演されます。プロデューサーを兼務するペナルティのワッキーからの熱いラブコールで今回、舞台に初挑戦するのが、ジャングルポケットの太田博久。ということで、ワッキー×太田というちょっと珍しい組み合わせの特別対談を行いました!
2人の原点は公園での「謎トレーニング」
──「Mother」は2009年から2021年まで上演されていて、今回、4年ぶりの再演です。ワッキーさんは2013年から役者として参加してきて、今回からプロデューサーも兼務。そんなワッキーさんからのラブコールで太田さんの出演が実現したとのことですが、そもそも2人の関係性は?
ワッキー 劇場ではよく一緒になっていましたけど、飲みに行くとか、食事に行くことは一度もなかったんです。ただ15年くらい前に……。
太田 フフフ……。
ワッキー 家が近くて、同じ公園でよくトレーニングしていたんですよ。気持ちよく懸垂ができるから、2人で勝手に“懸垂公園”って呼んでいたんですけど。
僕は主にまわりのトラックを走っていたんですけど、太田は懸垂をしていて。「じゃあ今度、一緒にトレーニングしようぜ」って、2人で夜トレーニングを始めたんです。でも、太田が先輩である僕に合わせて、だいぶランニングにつき合ってくれて。
太田 その公園には体を鍛えるために行っていたんですけど、とはいえ僕らは芸人じゃないですか。だから、先輩と楽しくトレーニングできればいいなっていう気持ちでした。
それまで、ワッキーさんとはあまりお話させてもらったこともなかったから、関係性を深めるチャンスかなって。ワイワイおしゃべりしながら走るイメージで行ったら、ゴリッゴリに心肺機能を高めるサーキットトレーニングみたいなのが始まって……。
ワッキー (笑)
太田 すぐについていけなくなって、始まって30分でゲロ吐いたんですよ。
ワッキー マジで吐いたんですよ(笑)。
太田 思っていたのとはだいぶ違うトレーニングで、かなり衝撃でした(笑)。そんなことはあっても一緒にお食事する機会とかはなかったですけど、“東京吉本”で、“コント師”で、“体育会系”でと、共通点はけっこうあるなと思います。
もちろん、やってきたスポーツのレベルは違いますけど、僕にとってワッキーさんは“自分と同じカテゴリーにいるすごい先輩”っていう存在で、親和性を感じる大先輩です。
──ワッキーさんはサッカー部で、高校時代に全国大会に出場。大学もサッカー部でプロを目指していた。太田さんは柔道部で、高校時代には愛知県大会で優勝していますね。
ワッキー 僕の場合、どんどん後輩が増えていくなかで引っかかるのは、本当にガッツリ真剣にスポーツをやっていたヤツなんですよね。だけどこれにはラインがあって、“高校時代に”っていうのがポイントなんです。“中学まで”とかだとあまり響かない。太田は大学までやってるもんね。
太田 大学までやってました。
ワッキー 2人でやっていた謎トレーニングでも、ゲロを吐くまで僕についてきた。その姿を見て、“こいつは根性がある、ホンモノだ”って確信しました。
あの事件のときに運命的なオファー
──以前、『Mother』の取材会で、太田さんのキャスティング理由に「熱くていいヤツ」という点を挙げていましたが、その謎トレーニングでの印象も大きかったと……。
ワッキー そうですね。それと、僕は舞台袖でほかの芸人のネタを見るのが好きなんですけど、太田はネタ中の演技がすごくしっかりしている。太田の演技がうまいから、ほかの2人をまとめられている感じがしたんですよね。その演技力は体育会系特有の熱さとともに、今回の『Mother』でも活きると思いました。
僕は今回、プロデューサーもやらせてもらっているんですけど、オーディションでいちばん重視しているのは“熱さ”なんです。ちょっと噛んじゃうとか、言葉が詰まっちゃうというのはあまり気にならない。だから、太田もゲロ吐くまで頑張ってくれたというのが大きいです(笑)。
太田 スタートにゲロがあって(笑)、そこで認めてもらったところは大きいと思うんですけど、この作品との縁はもうひとつあって。
実は以前、ワッキーさんに「おまえみたいなタイプには絶対刺さるから、観に来てよ」って誘ってもらって、『Mother』を観に行かせてもらってるんですよ。だから、演者としてじゃなく観客としてのかかわりが先だったんです。
ワッキー 僕、そのことを忘れてオファーしてたんですよ。
太田 しかも、今回は声をかけていただいたタイミングがすごくて……。僕たちがいろんなことを抱えていた大変な時期に、ワッキーさんからご連絡をいただいたんです。
そのときの言葉がすごくて、「太田がこの先の人生を歩んでいくうえで、すごく大事なことを感じられる舞台だから、オレは太田に出てほしいんだよね」って。もしかして、この状況を知ってるのかなって思うくらい。そんななかで「これからの人生において、大事なものが得られるから」って言っていただけたことが、僕の中では大きかったです。
──ちなみに、観劇したのはいつだったんですか?
太田 6年くらい前ですかね。そのときに“なるほど”と思ったことがあって……。
特攻隊役の人たちは、稽古前に当時の特攻隊と同じ“教練”っていう訓練をして、体を鍛えたり、所作を学んで、みんなの息を合わせるっていうのは聞いていたんです。
この舞台を観ていてグーッと引き込まれる理由は、物語の面白さもありますが、要所要所で出てくる特攻隊員たちの敬礼などの所作だったり、バッ、バッ! と機敏で息がそろった動きに、ただ演じているのではないというか、本物の特攻隊員が憑依しているような姿に心を持っていかれるからだと思うんです。そのうえでストーリーが入ってくるから、ただ話に感動するだけじゃなく、“刺さる”っていう表現が近い。
それは、教練で培われるものの大切さですよね。特攻隊の方々の所作が役者さんの体に入り込んでいるから、目の前に本当に兵隊さんたちがいるという感覚になったのをよく覚えています。そのリアルさって、舞台において“最強”ですよね。
ワッキー それは観てくれたお客さんの1人の意見として、すごく嬉しいですし、大事にしてきたものがちゃんと伝わっているんだなと思えました。今後もしっかり続けていきたいです。
──おふたりとも特攻隊員の役ということなので、“教練”にはワッキーさんも参加するんですよね。
ワッキー もちろんです! 4年ぶりなので大丈夫かなって、いまもうトレーニングを始めています。
先日の顔合わせのときに、隊員役の人はスタンダードなトレーニングでいいので、1カ月くらい前から始めてくださいって伝えました。それが稽古をスムーズにするし、いい作品につながるのでね。でも、言った以上は自分ができなかったら話にならない。僕も最近は、つい「50過ぎたし……」と言い訳してサボりがちなんですよ。ベタにお腹が出てきちゃったりもして……。若い子たちには負けていられないので、“市船(ワッキーの母校であるサッカーの名門・船橋市立船橋高校)魂”でやりますよ!
“いい役”のひと言で表しきれない
──ちなみに、太田さんは本格的な役者仕事の経験は?
太田 ドラマには少し出させてもらったことがあるんですけど、舞台は初めてですね。
ワッキー えっ、そうなの!? それは嬉しいな。実は、僕も12年前に初参加した『Mother』が初舞台だったんですよ。
──太田さんは、自身の役についてどう思っていますか?
太田 ワッキーさんから重要な役でということでお誘いいただいていましたし、以前に観ているのでどういう役かは知っていたんですけど、僕の役はほかと少し違う特攻隊員なんですよ。ネタバレになるので、なかなか伝えるのが難しいんですけど、もうひとつ違うものを背負って特攻していく役柄で……。その背負っているものがすごすぎて、いまの僕の生活からは、とてもじゃないけど到達できない域の考え方や覚悟を持っているんですよね。
自分のことしか考えられなくなりがちなこの時代に、自分がいなくなったあとの、国の未来のために飛びに行く。さらに、自分の役はもうひとつ違う目線を持って飛んでいく役なので、難しいし、ありがたい役をいただいたなと思っています。
ワッキー “いい役”っていうひと言では収まらないくらいの役です。鳥濱トメさんの次女の礼子さんの「あの方たちは、なぜ突入できたのでしょう」という問いに対して物語は進んでいくんですけど、そこにはもちろん“お国のため”がありますが、一人ひとりを見ていくと、実は大半が“家族のため”に戦っている。そこを突き詰めて考えると、“未来のため”なのかなって思うんですよね。
でも、さらに太田が演じるのは、“~のために”に収まらない方もいたんだなって思わされる役です。
太田 そうですね。
ワッキー 言葉では言い表せない。本当に観てもらいたいんですけど、この作品の“深み”につながるんです。そこまで描いている作品はほかにないし、今後も出てこないんじゃないかな。フライヤーに「日本、アメリカ、朝鮮──」ってあるんですけど、この部分を背負っているのが太田の役なんです。
──ワッキーさんから太田さんに期待することは?
ワッキー 今回はダブルキャストで、総勢約60人の演者がいる大所帯。僕はサッカー経験を通して、団体競技にいちばん大切なのはチームが一丸となることだと思っています。メッシがいても、マラドーナがいても、それだけではサッカーでは勝てない。それは舞台でも同じです。
僕は毎回、“最高のものをつくりたい”と思っています。「去年より今年の『Mother』のほうがいいね」って言われることもあるんですけど、僕の考え方はちょっと違って、ほかの公演との比較ではなく、“今年のこのメンバーでできる最高の舞台をつくりたい”って思うんです。
だから、太田には“チームをひとつにする”というところを手伝ってほしいですね。シリアスな作品ですけど、オフのときは気持ちを切り替えて、笑いがある、楽しい雰囲気にしたほうがチームの絆が深まるし、いい作品につながるというのが僕の考え方です。
演技の部分でいうと、太田が熱く動くアクションシーンがあるので、そこは“吉本のアクションスター”として……(笑)。
太田 そこは自負しています!
おたけには“逆に観せたい”
──今回『Mother』というタイトルの舞台ですが、おふたりにとっての“母”は?
ワッキー 今回、プロデューサーも兼務しているんですけど、これまで芸人しかやってこなかったので、どう動いたらいいかわからないんですよね。それで、吉本の社員に頼んで、“Motherチーム”をつくってもらったんです。PRとか、スポンサー回りとか、僕がわからないところをチームの人たちが無償でサポートしてくれていて、もう、それを考えると涙が出ちゃうんですけど……。そのなかでもとくに中心になってくれている人が、ホントに“Mother”です。
太田 僕、こんな感じなんですけど、そこまでがっつり腹を割って、関係性が深い人をつくるタイプじゃないんですよ。だから、ダメなところも全部さらけ出して、そこにめちゃくちゃキレられて、いまでも会うとピリッとなる存在は、“Father”になっちゃいますけど、高校の柔道部の監督。そこから更新されていないですね。
あのとき追い込んでもらったから、いまもいろいろなことを乗り越えられる。本気で何かに取り組むということを教えてもらいました。
──今回の舞台をとくに観てほしい人はいますか?
太田 もしもいまの僕が、演じる役と同じ特攻隊としての人生を歩むことになったら、やっぱり“娘の未来を守るために”っていう覚悟の決め方をすると思うんです。だから、この作品において、僕が役に入り込むトリガーになっているのは“娘”。娘と、もちろん妻にも、この舞台は絶対に観てほしいです。
──ちなみに、相方のおたけさんには声をかけますか?
太田 あいつは、特攻隊員の方たちとは真逆で、“自分さえよければいい”の典型なので、逆に観せたいですね(笑)。
ワッキー 僕は会社の社長さんとか、大きな団体の長みたいな方に観てほしいです。学校だったら、校長先生や教頭先生。芸術鑑賞会とかでこの作品を観てもらえたら嬉しいですよね。若い人たちにこの作品でいろいろ感じてもらって、出来事を風化させないようにつなげていってほしいなと思います。
その一方で、2025年は戦後80年なので、80歳以上の方は無料でご招待するという新しい取り組みも始めました。いままでは戦争を“知らない”世代に観てほしいと思ってきましたが、戦争を“知っている”世代にも観てもらって、「こういうことを後世に伝えてください」「あなたたちがやっていることは間違っていない」って言ってもらえたら、すごく励みになりますし、続けるべきことだという確信になりますね。
本物の『Mother』をつくっていく
――今回、ワッキーさんの大先輩の明石家さんまさんが作品にコメントを寄せています。
ワッキー 僕がいちばん好きで、いちばん尊敬しているさんまさんも、8年前に観に来てくださったんです。それで、今回の再演にあたり何かひと言くださいとお願いしたら、ポスターやフライヤーにも入っている「感動した 実話やから心に突き刺さった これは本物や!」という言葉をくださった。いま、この言葉に大きな勇気をもらっています。今回の舞台も観に行くって言ってくださってるんですよ。
――最後に意気込みをお願いします。
太田 ワッキーさんにお誘いいただいて、観る側から伝える側になりました。だから、僕が観たときに感動したこと、感じたものをちょっとでも伝えられるように、伝える側としての責任感を持って舞台に臨みたいなと思っています。
ただ、初舞台なので、フタを開けてみたら僕のせいでむちゃくちゃになっている可能性もあります(笑)。そうならないように頑張ります!
ワッキー ずっと伝えたいと思ってきたこと、使命は変わりません。こういう出来事があって、未来のために戦った方たちがいたことを忘れてほしくない。忘れさせないために、ボクらは本物の『Mother』をお見せできるよう、しっかり準備をしていきます。『Mother』の歴史に傷をつけないよう頑張りますので、とにかく、観に来てください。このお芝居を観ていれば、人生で悩んだり、つまずいたりしても、「そんなちっぽけなことで立ち止まってなんていられない」って立ち上がれるはずです。
公演概要
アース製薬100周年presents『Mother~特攻の母 鳥濱トメ物語~』
公演日程:2025年3月19日(水)~23日(日)(全 8 回公演)
会場:新国立劇場 小劇場(東京都渋谷区本町1-11)
出演:浅香唯、ワッキー(ペナルティ)、太田博久(ジャングルポケット)、安藤美姫 他
チケット料金:前売 7,000 円/当日 7,800 円
チケット販売:カンフェティ
★こちらの公演では80歳以上の方を無料で招待します(要申込・抽選・上限あり)。
2025年に戦後80年を迎えるにあたり、本作をさらに多くの人に届けるべく、80歳以上の方を無料で招待します。同行者1名様(要成人、同行必須)まで無料でご案内しますので、ぜひご家族、ご友人もお誘いいただき、一緒に観劇をお楽しみください。往復はがきに必要事項をご記入の上、2025年2月14日(金)まで(当日消印有効)にご応募ください。
対象:80歳以上の方(往復はがき1通につき同行者1名まで無料)
定員:350名(1公演50名まで)※要申込・抽選
応募締め切り:2025年2月14日(金) ※当日消印有効
※詳細は公式サイトをご覧ください。