芸歴49年目を迎える吉本新喜劇のベテラン女優・浅香あき恵のニュープロジェクト第1弾『2人芝居』が、4月26日(土)にSPACE14(大阪・心斎橋PARCO)で公演されました。現在68歳の浅香が、2026年に芸歴50周年・70歳を迎えるにあたって「いろいろなことにチャレンジしていこう」と企画された、2人芝居への挑戦。相方に選んだのは新喜劇唯一の女性座長・酒井藍です。そして脚本と演出を担当するのは、ザ・プラン9のリーダー・お~い!久馬。そんな実力者勢ぞろいの公演を、お芝居大好き新喜劇座員の吉岡友見がレポートします。

小料理屋で繰り広げられるストーリー
劇場に入ると、開演前から舞台には赤ちょうちんがぼんやりと灯り、カウンターとテーブルのセットが組まれ、山口百恵「イミテイション・ゴールド」や八代亜紀「舟歌」といった昭和歌謡が流れています。満員の客席には女性の姿が多く、浅香がいかに女性に元気を与えているのかが見て取れるようです。そんな観客の期待が高まるなか、会場が暗転して開演しました。
物語のタイトルは「最後の晩餐」。浅香演じる・あさ子が営む小料理屋に酒井演じる・なるみが訪れるところから芝居が始まります。
なるみは、もう閉店している店に入り、おかまいなしにビールを注文。あさ子はなるみを帰らせようとします。しかしなるみは、妻子がいると知らずに男と不倫をした挙句フラれたと未練がましく大泣き。そんなマイペースななるみに、あさ子は呆れながらも次第に耳を傾けていきます。リアルで軽快な2人の会話の掛け合いに客席は笑いに包まれ、冒頭からしっかりと観客の心をつかみました。
2人のやり取りで印象的だったのは、トイレのシーン。体型のせいでしゃがむと転んでしまい、和式トイレで用を足せないなるみを支えるため、あさ子は無理やりトイレに連れていかれます。トイレは舞台の外にある設定で、舞台上から2人はいなくなりますが、「声」だけのやりとりで会場は大爆笑。新喜劇女優のスキルの高さを2人はここでも見せつけます。
次第に心の距離が縮まる2人。あさ子も自分が元女優で、自分の夢のために離婚し、長年会っていない娘がいることをぽつりぽつりと話し始めます。「会いたい人には会えない」という共通点のある2人は、お互いの身の上話をするうちに取り巻く空気が優しく柔らかく変化していくのでした。

次第に張りつめていく舞台上の空気
そんななか、なるみは誰かとLINEし続けます。相手の名前は“ひかるさん”。なるみが「会えない?」「会ってほしい」「会って話をするだけでも」とメッセージを送りますが、“ひかるさん”から「無理」「しつこい」と拒絶されます。
なるみがそんなLINEのやり取りをしていることにあさ子は気づかず、話題はあさ子のお店の裏メニュー「最後の晩餐」に。「お客さんに最後の晩餐は何?って聞いて、作れそうなものだったら次までに練習して準備しておくの」と言うあさ子に、なるみは「風邪を引いたときにおばあちゃんが作ってくれたおでん」をリクエストしました。

そして数日後、最後の晩餐を食べに来たなるみを「そろそろ来ると思って貸し切りにしてる」と快く迎えるあさ子。前日におばあちゃんのおでんだけではなく「子どものころに遠足とかで食べたお母さんの冷めたお弁当」も追加注文したなるみは、朝から何も食べずにお腹がペコペコです。
調理のシーンでは実際にあさ子が舞台上で料理を作り、会場中がお出汁やウインナーの香りに包まれ、観ている筆者も実はお腹ペコペコ……。五感を刺激して、世界に没頭できる久馬先生の粋な演出でした。
お弁当を作りながら、娘の遠足や運動会にお弁当を作っていた思い出を語るあさ子に「娘さんと会いたくないですか?」となるみが尋ねます。「会いたくないと言ったらウソになるけど、向こうが会いたくないでしょ」とだんだんと語気が強くなるあさ子。2人のシリアスなやり取りに空気がピンと張りつめていきます。

なるみが、自分の親も離婚し、母親に会いたいと思ったときにはもう病魔に侵され、意識のない状態でしか会えなかったと告白。そして「けど、それでも会えてよかった……」と語る酒井の演技に、会場からすすり泣く声も聞こえてきました。
そしてなるみはあさ子に「“ひかるさん”もきっと会いたがっています」と伝えました――。
久馬「膨大なセリフ量なのに……」
カーテンコールで明転すると、客席から大きな大きな拍手が2人に注がれました。浅香が客席を見渡しながら、「見たことも、やったこともない2人芝居に挑戦しようと決めたんですが……」としっとりと話し始めると、酒井が「あさ子のまんまで挨拶しています! 役が抜けていない。さすが女優」とツッコミが入り、客席が沸きます。
浅香は「スケジュールがなかなか合わないから、稽古量に不安があったんですが……。客席のみなさんが温かく見てくださるのを感じて、安心してできました」と感謝しました。

一方、大先輩との2人芝居に挑戦した酒井は「あき恵姉さんとお芝居をできて、本当に嬉しかった。楽しかったです」といつもの藍ちゃんスマイルで感想を述べます。
そして呼び込まれた作・演出の久馬は「2人とも本当に忙しいなか、膨大なセリフ量なのに……。さすがでした」と絶賛。
浅香が「第2弾、第3弾と挑戦をしていけるように頑張ります。70歳を迎えるにあたって、チャレンジしていきたい!」と意気込むと、客席からは再び割れんばかりの拍手! そんなあたたかい空気のなか、舞台は幕を下ろしました。

あき恵姉さんのお人柄なのか、お芝居に流れる空気も客席に流れる空気もとにかくあたたかい、とってもすてきな空間でした。一座員としても、一新喜劇ファンとしても、筆者はおふたりのお芝居が大好きです。
そして「やっぱり私、お芝居すっきゃ~!」と自身の芝居欲を掻き立てられる、刺激をいただいた公演でした。今後のあき恵姉さんのチャレンジも楽しみです。追いかけるぞ~!(全然背中見えてないけれど。笑)