7歳と3歳という2人の子育てに奮闘中の夫婦漫才師、夫婦のじかんの大貫さん(夫は相方の山西章博)は、慌ただしい日々の様子を漫画でつづる連載やエッセイで好評を得ています。そんな彼女がいま、目指しているのが脚本家デビュー! 今年6月、応募総数1,297人のなかからNHKのオリジナル脚本開発プログラム「WDRプロジェクト」の第2期メンバーに選ばれ、約半年間の活動に参加しています。そこで今回、プロジェクトを通して脚本家として歩み始めた大貫さんに、学んだことや今後の“野望”などいろいろと聞いてきました!

「WDR(Writers’ Development Room)」は、NHKが2022年に立ち上げた「脚本開発に特化したチーム」です。プロジェクトでは「世界で通用するシリーズドラマを作る」ことを目的に、メンバーたちの脚本に磨きをかける作業が続き、間もなく約半年というプロジェクト期間が終わろうとしています。
大貫さん以外のメンバーは、演劇などの世界で脚本に触れて来た人も多く、芸人であり漫画家である大貫さんは、ある意味で異色の経歴!? 刺激たっぷりのプロジェクトでの活動を経て、大貫さんがつかんだ“手応え”とは――。
「映像を画にするのが漫画で、文字にするのが脚本」
――脚本に興味を持ったきっかけから教えてください。
もともと漫画を描いていて、本も出版したり(『母ハハハ!』/パルコ刊)してきたんですけど、漫画を描いているときも「ドラマ化されたらいいな」という思いを持っていたんですよね。小さいころから絵を描くのが得意だったんですけど、絵の賞を取るのと同じように作文でも賞をもらったことがあって。でも、絵のほうがわかりやすくみんなに届くので「絵の得意な人」とまわりに認知されていたし、自分でもそう思っていました。
そんなときに、私の好きな脚本家の古沢良太さんのインタビューを読んでいたら、「もともと自分は漫画家を目指していた。でも、挫折して脚本家になったのだけど、漫画と脚本はすごく似ている。映像を画にするのが漫画で、文字にするのが脚本だ」と話されていたのを見て、「あ、なるほど!」とすごく納得したんです。
それで「これはもしかしたら書けるのでは」と思って書いて応募したのが、2023年のフジテレビのヤングシナリオ大賞でした。めちゃくちゃ婚活に前向きな人の話を書いたところ、それが最終選考まで残って、「ある程度、見よう見まねで書いた脚本だけど、最終選考まで残るということは、書くことを続けてもよさそうだな」と自信につながったんです。

ハリウッドの脚本術が学べるWDR
――初めての挑戦で、いきなり最終選考はすごいですね!
それは自信にはなったのですが、その先を考えたとき、芸人でしかも脚本もできるみたいなかたちよりも、ちゃんとクオリティの高い脚本を書ける力を持っておきたいなと思いました。
実際、脚本のコンクールは、若い世代の登竜門という一面もあります。そんななかで私はすでに40代だったので、そこの力をしっかり付けないと、コンクールに応募を続けても、同じことの繰り返しになってしまうなと感じたんです。
そんなときに見つけたのがNHKの「WDRプロジェクト」でした。WDRとはWriters’ Development Room、つまり脚本家の発展を目的としたプロジェクトで、連続ドラマの脚本を書くことに焦点を当てて、複数の脚本家でブレストをして、それぞれの強みを生かしつつ、質の高い作品を創り出す。これに選ばれることができたら、自分の中で自信になるだろうなと思ったんですね。
昔、NHKでやっていた『デスパレートな妻たち』という海外ドラマが好きでいつも見ていたんですが、その第100話が、それまでのいろいろなシーンを盛り込みつつ、感動的な1本のドラマに仕上げたものになっていました。それを見て、「え! この脚本の上手さ、なに?」と驚いたことがあって、それが衝撃だったんですよね。この「WDRプロジェクト」はハリウッドの脚本術を学べるということだったので、「これは!」と。

――プロジェクトの応募は216倍という驚くほどの高倍率だったと聞きましたが、どのような審査があったんですか?
自分が考えるオリジナルの脚本を10ページ分提出というものでした。私はミステリーみたいなものにしたんですけど、「話が終わっている必要はない。とにかく続きが気になるものを作ってください」ということだったので、風呂敷を広げるだけ広げて面白くなるようなものにしました。2次面接で「これってどうなるんですか?」と聞かれたけど、「ちょっと決まってはないんですけど」と言ったくらいです(笑)。
ちなみに、夫(相方の山西章博)が博多大吉さん(博多華丸・大吉)にお会いしたときに「ロイヤルホストのステーキがむっちゃ美味しいから、家族で食べておいで」と1万円をいただいて、家族で喜んで食べに行ったんですけど、会計が7777円だったんです。それで「これはツイてるね!」と話していたら、次の日に合格の知らせが来まして(笑)。すごくうれしかったです。
神保町花月での経験が脚本に生きている
――脚本は書き方が独特ですが、そのあたりのハードルは感じませんでしたか?
15年くらい前、神保町花月でずっとお芝居をやっていたんですけれど、そこで、考えるヒマもなく、ものすごい数のお芝居に出たことが、ここで生きたなと思います。演者として、いろんな方の脚本を目にする機会があったので、普通の人よりも脚本に触れる機会は多かったし、体に染みついていたんです。自分が書くときに「こうしたら演者の人はやりやすいだろうな」みたいなことも考えるので、そういう意味でも、いまもその経験が役立っているんでしょうね。
――実際のプロジェクトはどのように進められているのでしょう?
今年の6月からスタートしたんですけど、実際に海外ドラマをみて「この作品はこういう仕組みになっている」というのを学んだり、その物語を3行ぐらいで表現してみたり。自分の作品はそれで表すとどうなるのかとか、脚本を構造的に捉えて、まずは学んでいくところからでしたね。
大事なのは「いかに見ている人を飽きさせないか」。そのためにはどうするかを学びつつ、自分の作品作りにどう生かすかという作業が難しかったですね。

あとは、これに参加するまでは、自分の強みとかがわかっていなかった。でも、ブレストなどでお互いに「こういうところがよかった」とか、そういうやり取りをしていくなかで、「自分のいいところって、この辺にあるのか」とわかっていきました。メンバーでお互いにフィードバックなどもするので、自分1人だけでなく、メンバーみんなとともに、相乗効果で何倍も一気に成長できた感じがありますね。
子どもには“仕事=イヤなもの”と思ってほしくない
――お子さんが2人いて、毎日の育児のなかで、そのチャレンジをするのがすごいなと思います。
子どもは小2と年少なんですけれど、育児漫画を描いていたこともあって、育児関連のママ仕事みたいなことを多くいただいていました。それは本当にありがたかったんですけど、「このままじゃ、自分の中に何もないのに育児関連の仕事だけやっている人になってしまう」という気持ちもありました。「自分ならでの強みを持っていないとダメだな」と感じたんです。子どもが学校や保育園に行っている間にとにかく脚本を書いて、間に合わなかったら子どもたちが寝たあとになんとか起きてきて、また続きを、みたいな感じ。ほんとに間に合わないときは、土日に夫に子どもたちを公園に連れ出してもらって、その間に書くという生活でした。

もちろん「(パパより)ママがいい」と言われることもあるんですけど、「ママ、仕事なの、ごめんね」ではなく、ママがいま、どんなことをやっているかを見せたり、説明したりするようにしてました。そうすると子どもでも「ママ、すっごい忙しいじゃん。公園で遊んでくるよ」と理解して、応援もしてくれる。
仕事=イヤなもの、大変なものみたいなイメージを持ってほしくはないんですよね。仕事はママの邪魔をするものではないし、みんなの生活のために、みんなで力を合わせていくものだよっていうことも教えたいというか。
――今回のプロジェクトで脚本技術の理論を学んで、そして強みもわかってきたということですが、この先、どのようなことをやっていきたいですか?
プロジェクトで書いて、ブレストをしてきたものがあって、それを提出すると終わりなんですが、昨年は、このプロジェクトから実際にNHKで映像化されたんです(ドラマ『3000万』)。なので、まずはそれに選ばれたら、これ以上なくうれしいです。
でも、選ばれなかったとしても、せっかく脚本について深く学んだので、それを生かしてやっていきたいなと思います。吉本所属には、芸人でも役者としてすごく活躍されている方も多いじゃないですか? 自分が芸人であるという強みも生かしつつ、そういう人がもっと輝けるような作品を書けたらいいなと思います。感度のよい方々が芸人にはたくさんいるので。
――ちなみに、どういうドラマが好きなんですか?
恐れ多くも、誕生日が同じという三谷幸喜さんの作品や、古沢良太さんの作品のように、すごく仕掛けの上手いコメディなんだけど、ちょっとミステリー要素もあったり、というようなものが好きですね。コメディ展開のなかでも、忘れたころに人間ドラマが出てきたり、脚本の力が強い方々なんですよね。

「いまはハッキリ、自分の強みが確立された感じ」
――脚本家としての、自分の強みはどこにあると思いますか?
「なんでこの人はこういう行動をとったんだろう?」と考えるのが好きなんです。フジテレビのヤングシナリオ大賞に応募した作品を書いたときは、もともとの種は「婚活に対してめちゃくちゃ言い訳をする知り合い」でした。マッチングアプリとかやればいいんだけど、それについて、「本当はやるつもりないんだけど、〇〇から言われて仕方なくやってみた」という感じで、すっごい予防線を張りまくるんですよ。
そういう受け身な婚活をしている知り合いの姿をみて、「逆にめちゃくちゃアグレッシブに婚活する人はどうだろう」と思いついたんですよね。言い訳しながら婚活する知り合いはイラっとくるけど、アグレッシブに婚活している人なら、見ていて気持ちがいいんじゃないかなと。
――「WDRプロジェクト」に参加して、いちばんよかったなと思うところを教えてください。
もう明らかに脚本を書く力がのびたことですね。自分で言うのもなんですけど、少年ジャンプの主人公ぐらいに成長しました(笑)。参加前はなんとなく脚本を書いていたし、書けちゃうのは書けちゃうんですけど、いまはもう明らかに構造を作る力とか、脚本そのものへの意識も違う。

あと、自分の強みを知ることができたのも、すごく大きかったです。応募の段階では自分のよさはぼんやりとしかわかっていなかったんですが、いまはハッキリ、自分の強みが確立された感じがします。それを忘れないうちに作品が書きたいですね。
――最後に教えてください。ハッキリ確立されたというご自身の強みとは?
「え? 次どうなるんだろう」という展開を絡めた発想力ですね。今回のプロジェクトのなかでも、「よく思いつきましたね」という感じで褒めていただくことが多かったんです。それもたぶん、芸人であることが影響しているんだろうなって思います。芸人はゼロ⇒イチで発想を創り出す作業が多いので。そこが、脚本においても役立っている気がします。
