芸歴15年目のベテラン、井下好井の好井まさおが出演するオムニバス映画『ワタシの中の彼女』が11月26日(土)から全国公開となります。そこで、主演女優・菜葉菜と好井の2人を直撃! 共演も多く、「プライベートでも仲がいい」という2人ならではの本音トーク満載のインタビューとなりました。
この映画は、コロナ禍を生きる、世代も生き方も違う女性たちを4編のショートストーリーで描くオムニバス作品です。主演は4編とも、話題作への出演が続いている菜葉菜で、4人の女性を演じ分けたことでも話題になっています。
一方、好井まさおが出演するのは第2話『ワタシを見ている誰か』。Netflixドラマ『火花』(2016年)での熱演が話題となり、映画『ザ・ファブル』(2019年)など役者としても活躍の場を広げる好井が今回演じるのは、主演の菜葉菜の相手役という大役です。
漫才に魂を賭け、ひたむきに突き進む芸人としての顔と、多彩な役を演じる役者としての顔を併せ持つ好井。どちらにも共通するのは「特大ホームランを狙い、結果を残す」という強い気持ちでした。
役作りについて相談したこともある間柄
――菜葉菜さんと好井さんは『火花』や映画『夕方のおともだち』(2022年)など共演も多いということですが、お互い初めて会ったときの印象はどうでしたか?
菜葉菜 好井さんとは『火花』で最初に出会ったんですけど、そこで仲良くなって、いまではプライベートでも仲良くさせてもらっています。もともと『火花』が廣木組(廣木隆一監督)だったんですが、それで廣木さんの映画で何度かご一緒させてもらってという感じでした。
私にとって廣木さんは信頼している監督です。そんな廣木さんが好井さんを抜擢されたということもあって、お会いする前から「どんな方なんだろう」と思っていたんですけど、現場に行ってお芝居を見たら圧倒されましたね。
私はけっこう内に入っちゃうタイプで。「もっと思い切りやればいいのに」と廣木さんとかにずっと言われてきた。でも、好井さんにはそれがなくて。それこそ思い切り「オレだ!」っていう感じなんですよね。
好井 ふはは。それ、ジャマやん!
菜葉菜 違うの。それがジャマせず、でも、好井さんである意味みたいなものがちゃんとキャラクターにあって、「本当にこの人いそうだな」と思う。
それに、“何かやって残すひとひねり”みたいなのが役者として勉強になったし、見ていて刺激にもなった。「ああ、私に足りないのはこういうところかも」と思って、なので私1回、好井さんに役作りみたいなのを聞いたこともあります。
好井 ああ、たしかに聞かれた! でも、わっからへんやん、そんなん。
菜葉菜 でしょ! でも、そのときもまさにこういう反応で(笑)。
好井 だって、すごいビッグドラマのすごい役で、「この演技どう思う?」と聞かれてもわからへん。「知らんがな! むずいって!」と答えました。最終的にケンカみたいになったもんな。
菜葉菜氏が「占いとか行こっかな」と言い出して。「30分5000円、わけわからん占い師におカネ払うくらいなら、その5000円で仲良い友だち、それこそオレとかとメシに行って話をしたほうが絶対に心洗われるはずやから。その5000円の使い方むっちゃ腹立つ」と(笑)。
菜葉菜 それで結局、占いに行くのはやめました(笑)。
――好井さんは、菜葉菜さんのいまの話を聞いてどうですか?
好井 いやぁ~うれしいです。菜葉菜氏は基本、人のこと褒めないので。
菜葉菜 いや、それはあなたに言われたくないよ(笑)。
好井 初めて役者の仕事をした、その1発目の現場で菜葉菜氏を見て。「プロの人って、やっぱりこんなにうまいんやな」と思った。それまで出会った人のなかでも「ちょっと……これはスゴっ!」と思うレベルだったので。
菜葉菜氏は事務所で働く女性社員役だったんですけど、「いや、これ、吉本のNSC(吉本総合芸能学院)の社員さんのこと知ってんの?」というぐらい、「(こういう人)おった!」という感じで。演技ができるだけでなく、台本の読解力があって。それによって本当に“そこに存在する人”になるんですよね。
そのあとで役者の仕事で会う人もいましたけど、それでもこのレベルの女優さんってなかなかいない。上手やなぁってリスペクトできるから、定期的にお会いしているんだと思います。
――「菜葉菜氏」と呼んでいるんですね(笑)。
菜葉菜 その呼び方、好井さんだけです(笑)。
好井 「菜葉菜さん」って、さん付けで呼ぶのもなんか違うし、かといって呼び捨てするのも絶対ちゃうし。気づいたら「菜葉菜氏」ってなってました(笑)。
『火花』ぐらいからやっと食べられるように
――芸人と役者2つの顔を持つ好井さんですが、意識の違いや、互いの仕事に影響などありますか?
好井 たとえば、バラエティ番組でトークするチャンスがあったとしても、長くても40秒ぐらいしかボールが持てない。30分番組なら、この40秒のチャンスが5回も来たらいいほうで。しかも5打席5安打ではダメで、“5打席1特大ホームラン”でないといけない世界なんですよね。
そういう“ヒットを何本打ってもダメ”という感覚が芸人としてあるんですけど、それは役者の仕事でも同じで。このシーンでこのセリフだけ言う役なら絶対に僕である必要はない。カッコよくて上手な人は死ぬほどいる。
でも、自分がやる意味として「この4行をめちゃくちゃ自然に言いながら、何かを足せないかな」と考える。なので、めっちゃ嫌がる監督はおると思う。セリフめっちゃ変えるし。もう「キャスティングしたヤツが悪い」と思いながら、自分で考えて動くようにしています(笑)。
菜葉菜 ほんっとに強気だよね(笑)。本当に強いんだよ。恐ろしくて私だったらできない。
好井 ……そんな輩みたいな言い方せんといてくださいよ(笑)。15年の芸歴で、『火花』ぐらいからやっとご飯が食べられるようになったんです。
その前は、もう(芸人を)辞めようとしていたのもあって、「知らんがな!」という気持ちで。一か八かの気持ちでやらんと仕事がなくなるし、ブッキングしてくれた意味もないから「ホームラン頑張って打ちます」という気持ちでした。
好井の“リアルおいしい”食事シーンに注目!
――今回、2人が共演する第2話『ワタシを見ている誰か』では、好井さんはフードデリバリーのバイト役で、菜葉菜さん演じる30代の独身女性のところに配達をするところから話が始まります。役作りで何か意識したことは?
好井 まわりでフードデリバリーをやっている人にけっこう話を聞いたりしました。最初、「フードデリバリーの男性と配達先の女性がこんなふうに距離を縮めていくってありえんの?」と思って。でも聞いてみたら、デリバリーでLINE交換とか、そこから付き合ったりとかもあるんですって。それを聞いて「都市伝説じゃないんや」と役に落とし込みました。
――菜葉菜さんはどうでしたか?
菜葉菜 私、フードデリバリーを頼んだことがないので、ぜんぜん知らない世界で。でも、フードデリバリーということを抜いて、男女としてこの2人を見たとき、「おそらく(作中の)好井さんみたいな人には心を許せるんだろうな」とか、「ちょっとフッと何かを求めてしまう瞬間が生まれるのかも」と。
シンパシーを感じる瞬間があったら、自分が抱えている弱さをフッと出して救いを求めてしまうことはあるのかもと思いましたね。そういう意味では無理なく演じられました。
――この作品でとても重要な意味を持つのが、食べるシーンだと思います。劇中、好井さんが食べる場面が何度か出てきますが、演じるのは難しかったのでは?
好井 芸歴3~4年目ぐらいの若手のころ、(新宿)シアターモリエールとかの劇場でイベントの設営を若手芸人が手伝うというのがあったんです。そのとき、昼飯はいつも「すきや」のそぼろ丼で。時間がなくてもそぼろなら流し込めるから。メシ食うのが遅いと先輩に怒られるから、とにかく3分ぐらいでかっ込むというのをやっていたんです。
その話を監督にしたら、「じゃあ牛丼を3分、いや、1分半で食べられますか?」と。いや、ムリやろと。でも結局、そのまま撮影がスタートして、頑張って食べてみたんですけど3口目ぐらいで「あ、ムリやな」と確信して。「これはもう本当においしくいただこう」と思ってそのまま食べました。だから、たぶんそのシーンには“リアルおいしい”が出ていると思います(笑)。
菜葉菜 ね、それはよかったよね。
――菜葉菜さんは好井さんとのストーリー以外にもすべて出演し、年代も社会的立場も異なる4人の女性の役を演じました。
菜葉菜 “挑戦”ではあるなと。いい機会をいただけて。役者としてはステップアップするのにいい作品に巡り合えたなと思っています。
あとは、短編ならではの少人数、2人芝居や3人芝居だったんですよね。そういうおもしろさや楽しさはあって。2人で世界観を作ってお芝居ができる、それをいろんな役者さんとできたのはすごく楽しかったです。
なので役作りも、自分がいろんな顔を意識してやるというよりは、相手の方も一緒に作り上げていただいたキャラクターに各話ともなっているかなと思います。本当に4話ともすべて相手役の方に助けていただいて、感謝しています。
――好井さん、芸人と役者の二足の草鞋は今後も続けていきますか?
好井 二足の草鞋を履いている感じは、僕自身はぜんぜんなくて。来た仕事を「これは役者、これは芸人と細かく分けんでもええやん」と思うんです。漫才やりつつ、ちょっとスポットでバラエティをやらせてもらって、そのなかにお芝居の仕事もあって、と僕のなかでは延長線上にあるし、いただいた仕事は全部一緒。「いただいたからには全力で頑張ります」ということなので。次もリピートしてもらえるように頑張るだけと思ってやっています。
映画概要
『ワタシの中の彼女』
公開日:11月26日(土)からユーロスペースほか全国順次ロードショー
キャスト:菜葉菜、占部房子、好井まさお、草野康太、上村 侑、浅田美代子
監督・脚本:中村真夕
製作・配給:ティー・アーティスト
公式サイトはこちらから。