桂文枝“傘寿”記念落語会は亡き妻との思い出交えた圧巻の創作落語でホロリ…三遊亭好楽、宮川大助・花子ら豪華ゲストも集結

落語家の桂文枝が、80歳の誕生日である7月16日(日)に大阪・なんばグランド花月で『桂文枝 傘寿記念落語会』を開催しました。記念すべき日を祝おうと、交流のある三遊亭好楽をはじめ、林家三平、中川家、山口智充ら豪華メンバーが集結。それぞれ落語に漫才、モノマネや歌を披露したほか、オープニングには宮川大助・花子がサプライズで登場し、誕生日をにぎやかに盛り上げました。

出典: FANY マガジン
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80代になり「1日1日を大切に」

開演前、囲み会見に応じた文枝が、笑いを交えてその心境をコメントしました。

「20歳のときは『30歳になったら自分の名前を世間に知っていてもらいたい』という気持ちでいたが、80歳になると10年後は90歳ですから、自分の名前を忘れないようにしたい。また、20歳のときは『40歳になったら番組をいろいろ持って、あちこちの高座に立って、息の長い芸人になりたい』と夢見ていたが、80歳ですから、20年後はできたら息をしていたい。そういう思いです」

自宅に設置しているAlexa(AIスマートスピーカー)に「今日は何の日?」と聞いたところ “虹の日”だったそうで、「虹は未来への架け橋という意味もあるので、次代の噺家への架け橋のような存在になりたい。そのためには、もっともっといろんな落語をつくっていきたい」と、目標である創作落語500作への意欲もまだまだ衰えていません。

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また、プライベートでは「できるだけ楽しく」過ごしたいと言い、たとえば仕事に関係なく旅に出て、食事や電車での移動などを楽しみたいとのこと。80代になったことをきっかけに、「これからは1日1日を大切に」としみじみ語っていました。

この日、口演する創作落語『ロンググッドバイ 〜言葉は虹の彼方に〜』にまつわるエピソードも紹介。認知症を患った父を介護した作家による著作を読み、そこから専門家への取材を経てつくり上げた創作落語ですが、自身もある日、パンを取りに台所に行ったものの何をするつもりだったのか思い出せなかったことから、病院で検査を受けてみたそう。テストの結果は満点で「まだまだ、いまのところはボケる心配はない」と胸を張ります。

好楽とは妻に先立たれた者同士、“やもめ会”と称して、それぞれ東西の会長を自認する関係。「この世界に入ったのも同じぐらいで、本当に若いころから仲がよかった。今日も本当に楽しみ」と、盟友の出演を喜びました。

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大助・花子とのトークで思わず涙

2人のかわいい孫からのバースデーソングに始まり、80年の歩みを振り返るオープニングVTRが終わると、傘寿にちなんで傘を手に、黄色い頭巾と着物をまとって舞台に現れた文枝。大きな拍手に包まれると、開口一番、「まさか80になるとは。生まれて初めてです」とニッコリ。20代のころと80歳になった今を対比させる軽妙なトークを繰り出し、さっそく客席を沸かせます。

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続いて、スペシャルゲストとして大助・花子が登場すると、会場の空気はさらにヒートアップ。多発性骨髄腫で闘病を続ける花子は、大助が押す車椅子に乗って舞台へ。花子は「師匠とは16歳からのお付き合い。『ヤングおー!おー!』と『ヤングタウン』に素人として出していただいていた」と説明します。

リハビリ代わりに小さい手袋を編んでいるという花子は、80歳にちなんでなんと80個を文枝にプレゼント。大助との漫才さながらのやりとりで観客を魅了し、その変わらぬテンションに、文枝と大助が思わず涙するひと幕もありました。

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中川家は、おなじみのモノマネも盛り込みつつ、怒涛のしゃべくり漫才で笑わせます。ギターを携えた山口は、ウクレレを弾く文枝と夢の音楽競演。『あの素晴らしい愛をもう一度』やハワイアンの名曲『南国の夜』、加山雄三の『お嫁においで』を2人で歌い上げ、さらには歌の合間にはエピソードトークやボケもたっぷり盛り込むなど、予定時間を大幅にオーバーする盛り上がりとなりました。

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「見台にもたれて静かに彼岸に旅立ちたい」

中入り後は、創作落語『セサミン』を口演した桂三四郎に続いて、なんばグランド花月の舞台は初めてという林家三平が登場。東京の寄席で見かける観客の生態や好楽とのエピソードなど、話題がくるくる変わっていくマクラから、『紀州』をコミカルな語り口で聴かせます。

友情出演の好楽は、「若いころから友だち中の友だち」と文枝との仲を表現。春風亭小朝を交えた3人の交流など、傘寿記念ならではの内容で笑わせたあとは、『つる』でまたまた爆笑をさらいました。

トリを飾る文枝は、妻を亡くした88歳の男性を主人公とする創作落語『ロンググッドバイ〜言葉は虹の彼方に〜』を。“高齢者あるある”“同居あるある”をちりばめて爆笑を巻き起こす一方で、亡き妻との思い出を細やかな描写で語ってホロリとさせるなど、観客の心をひとときも離しません。ひと芝居打った男性の「実は……」が明かされるクライマックス、そしておかしくもほろ苦いオチまで、50分におよぶ圧巻の熱演を見せました。

出典: FANY マガジン
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エンディングでは、「次は米寿の会。その次の白寿の会で、ネタをやりながら同じところばっかりぐるぐる回り、見台にもたれて静かに彼岸に旅立ちたい。それが落語家のいちばんの理想かな」と語った文枝。客席からは再び割れんばかりの拍手が送られ、落語会は幕となりました。

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