buGGってモンなんです
buGGというアイドルグループを知ったのは、約3年前。2021年1月4日、豊洲PIT。
この日、会場に集まったアイドルはメンズグループ4組とガールズグループ11組の計15組。東京だけでなく大阪や名古屋からも参加するアイドルもいて、入れかわり立ちかわりライブをおこなう大規模なイベント。人数にすると出演者だけで100人を優に超え、公演は4時間にわたる。
ステージ裏は華やかな衣装を身にまとうアイドルたちであふれかえっていて、前説を済ました僕は居場所が見つけられず、ひとり客席に移動した。次の出番は2時間後。長い空き時間を持て余していたので、ライブを見学してすごすことにした。
最初はメンズグループが立て続けに4組出演。コロナ禍なので、客はみなマスク姿。声援を送ることも禁止されているから、コールと呼ばれる名物のかけ声もない。ペンライトを振ったり、手拍子したりするだけ。
初めてアイドルのライブを観たときの衝撃はすごかった。2016年2月16日、秋葉原TwinBox。その日、僕は企画コーナーのMCとして出演したのだが、そのときも空き時間があったので客席からステージを見学していた。
会場を埋めつくす男性客のすさまじい熱気と、のどがちぎれんばかりの勢いでコールを絶叫する姿に圧倒された。どっちがステージなのかわからないほどの盛りあがり。アイドルのライブって、こんなに熱いんだと驚愕した。
コロナ禍だからしかたない。目の前の光景を眺めながら思う。
でも、頭ではわかっているけれど、あのときの映像が脳裏に焼きついているから、やはりもの足りなさを感じてしまう。きっと出演者もそうだろう。いままであんなふうなライブを体験してきたなら、絶対そう感じるに違いない。
メンズのライブが終わると、ステージ前を陣取っていた女性客たちは早々と退散を始めた。ここからはガールズグループ。
女性客と入れかわるかたちで、客席後方から男性客が移動してくる。が、会場が大きいこともあり、客はまばら。一箇所に集まるわけでもなく、広い客席に散らばっている。
イベントが佳境を迎えるのは、もちろんトリ。芸人の世界でも同じだが、こういう長い公演になるとトップバッターのときはまだ客が少ない。しかも、いまのように女性客と男性客が入れかわるタイミングなんかは出演者からしたら最悪だ。会場が落ち着いてない状態でライブを始めなければならない。
あわただしく会場にSE(芸人でいう出囃子)が響く。舞台袖から何かかけ声のようなものが聞こえたなと思ったら、ステージに7人の女性が颯爽と登場した。
彼女たちのライブは、明らかに目を引くものがあった。みなぎるパワーというか、気迫というか、声量やダンスの激しさだけではなく、全員が発光しているかのように輝きを放っていた。
ひとりでも観てくれている人がいるなら手を抜かないというプロ意識がそうさせるのか、大きなステージに立てている喜びがそうさせるのか。原動力がなんなのかはわからないが、伝わってくるものがあった。それが、buGGとの出会いだった。
それから2年間、僕はライブの前説という立場で毎週彼女たちが出演するステージを観てきた。buGGは出番がトップのときもしばしばあり、舞台袖で前説の待機をしていると、すぐ横にメンバーがいることもあった。
彼女たちは、たいていストレッチをしていた。それも、まるでアスリートのように入念に。床に腰を落としてストレッチする姿なんて、陸上部だった高校生以来に見た。
前説を終えて舞台袖に戻ると、すぐに彼女たちのSEが流れる。持っていたマイクを音響のスタッフに返しながら横目に彼女たちを見ると、メンバーは円陣を組み、「やってやるぞー!」と腹の底から大きな声を発して、たがいの背中を闘魂注入するようにバシバシたたき合って、勢いよくステージに飛び出して行った。
あのとき聞こえた気がしたかけ声は、これだったのか。
「やってやるぞー!」
耳慣れない気合の入ったいかつい言葉と、彼女たちのかわいい見た目とのギャップで、思わず口もとがゆるむ。それと同時に、一回のステージにかける意気込みを感じ、芸人としても心打たれた。
buGGが2021年に出演したライブ本数は、なんと376本。驚異的な数字だ。
翌年の2022年は、それをさらにうわまわる386本。信じられない。
buGGの特徴は、この群を抜くライブ数にくわえて、メンバーが安定していることがあげられる。脱退や加入が頻繁に起こるアイドル業界では珍しく、buGGは不動の7人。誰ひとり欠けることなく続けられているのは、固い結束の証だ。
2023年10月29日、下北沢シャングリラ。シモキタで一番大きなこのライブハウスで、buGGの5周年ライブがおこなわれた。
会場は、ライブ前だというのに詰めかけた客の熱気で充満していた。フロアーの一番後ろにいても感じるほど。
今夜は、いままで披露してきた全31曲すべてをやるという。そんなライブなかなかお目にかかれない。まさに、buGGってる。
いつものSEが流れると、会場は「おおおおおっ」と男性客の低く太いどよめきで包まれ、舞台袖からあのかけ声が放たれた。その瞬間、会場をおおっていた膜がいっぺんに破裂したかのように、歓声と手拍子が爆発音のように響きわたった。
拳を天に突きあげるもの、高くジャンプするもの、推しのメンバーの名を絶叫するもの。そこには、かつて見たあの光景があった。
それからは容赦ない怒涛のライブ。何曲連続でやんねんとツッコミたくなるくらい。普通のワンマンライブ一回分くらいの曲数を1ブロックで一気に駆け抜ける。そんななか、合間のMCでは何度も目頭が熱くなる場面が。
知らなかったけれど、buGGは結成当初シモキタのライブハウスを中心にワンマンライブをおこなっていたと言う。GARAGEから始まり、CLUB251を経て、やっと今日シャングリラに立つことができたと。積年の願いがはたされたその場にいられることがうれしかったし、僕が知る前から、彼女たちはずっと努力してきたんだと思うと、胸にグッとこみあげてくるものがあった。
メンバーはいっさい疲れも見せず、全31曲を2時間半でみごとに歌いあげた。アンコールも含めると計32曲。震えるほどかっこよかった。
帰り際、以前buGGのメンバーとマネージャーのかたが楽屋でミーティングしていたときに偶然居合わせて、「ライブの感想で『かっこいい』はすごいいっぱいあるんだけど『かわいい』が少ないと思うんだよね」と言ったマネージャーのひとことに、全員が「は!? かわいいのは大前提だから、わざわざ誰も言ってないだけだから!」と、一斉に激しく糾弾していたのを思い出した。あのとき、僕は彼女たちのそのきれいにそろったリアクションに吹き出しながらも、本当に自分もそう感じたから、関係ないのに横から顔を出して、「僕もそうだと思います!」と彼女たちに加勢した。
buGGは来月から全国ツアーをするという。シモキタから全国に。
やっぱり、めっちゃかっこいい。僕も負けてられない。
やってやるぞー!
このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。
書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日
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ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。