M-12023王者世界最速インタビュー!令和ロマンが語る決勝戦と“これから”

漫才頂上決戦『M-1グランプリ2023』。今年は、最年少ファイナリストだった令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)​​がトップバッターでそのまま駆け抜け、栄冠を手にしました。

出典: FANY マガジン
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大会から一夜明けた12月25日(月)。激闘を終えたばかりのふたりに話を聞くことができました。ここでは、世界最速インタビューをお届けします。

関西の舞台に立って成長した令和ロマン

――現在、朝の情報番組出演ラッシュを終えたばかりです。今の率直な気持ちを聞かせてください。

くるま テレビに行くと、大ごとになったなと思いますね。

ケムリ みんな「おめでとう」とか言ってくれてね。こっちとしては、ほぼ動き回っているんで、“さっきのこと”みたいな感じなんですけど、昨日見かけて、今日仕事してる人に会うと、なんか笑っちゃいます(笑)。

――昨今はおじさん芸人が夢を叶える場面が多くありました。それはそれで素敵なことですが、今回、芸歴6年目のおふたりが優勝したことによって、同期や後輩の方にも希望を与えるかたちになったのではないでしょうか。

くるま 同期とか後輩とか、連絡をくれたし、「頑張ろう」と思ってくれてたら幸いですよね。

ケムリ 後輩の(ケムリ軍団)男気サトシに夢を見せられたかなと思います。

くるま なんで男気サトシなんだよ。自分で持ってきたフリップでこけて、強制暗転しちゃったピン芸人。

ケムリ 史上初です。フリップで物理的にスベッたヤツ。

――(笑)。所属する神保町よしもと漫才劇場にもトロフィーを持っていくかたちとなりました。

ケムリ 僕の気持ちとしては、(中田)カウス師匠に持って帰る気持ちが強いですね。

くるま まあそうだね。ガチで俺らのこれ(優勝)は、大阪のおかげだからな。今年(披露したネタ)は、大阪とか、京都のよしもと祇園花月、あとヤーレンズさんとのツーマンライブで叩いたネタなんですよ。カウス師匠にネタを見ていただき、いろいろアドバイスももらえたから頑張れたし、笑い飯さんとか、カベポスターさんとか、先輩方とのツーマンライブもあったし……。

出典: FANY マガジン
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――大阪で修行のようなかたちになったんですね。

くるま もともと僕らが、芸歴5年目までに持ってた東京でのインプットみたいなものを、今年西に当てられたことで、ネタがアップデートした感じはあるんです。やっぱり(東西では客席の)笑い方(タイミングや笑うボケの種類など)が違うじゃないですか。どっちもでウケるボケが、生き残ってくるというか。

あと、決勝2本目でやったネタは、2021年のネタなんです。あの当時、東京の人には絶対ウケる状態にはなっていたんですけど、(西でやることで)、関西の人にもウケるようになったのかな、と思うんですよね。1ボケ目のところは、千鳥さんに「いいね」と言っていただきましたけど、そういうところがどんどん修正されたんで、マジでNGK(なんばグランド花月)、祇園とかにトロフィーを持って帰る感じですね。ここから、恩返しできたらいいなと思います。

――ネタを4本用意していたそうですね。1本目はトップバッターということで、お客さんに問いかけるようなしゃべくり、2本目はこれぞ令和ロマンというネタに見えました。

くるま 最終決戦のネタを1本目にやる可能性はあって、後半の出番だったら、あれをやって、いい点が出たらな、と思っていました。

でも、あれはケムリがコントに入っていないネタなんですよ。1本目に最終決戦のネタをした場合は、あれで(客席に)慣れてもらって、2本目は、ケムリもコントに入って、2人でコントに入る漫才をする、というのが、僕の中で進化だと思っていて。それこそが、漫才の流儀というか。和牛さんがお手本ですけど、2人がコントに入るのが正しいものなんで、できればそれを決勝でやって優勝したいとは思っていました。

いきなりそれ(2人でコントに入るネタ)をやると、今年のお客さんは理解してくれないと思ったから、1回しゃべくりを挟むのか、漫才コントで片方だけ入る漫才を挟むのか、を考えていました。今回、トップバッターだったので、しゃべくりをやったんですけど、暫定席で、他の組のネタを見ている感じだと「多分、(観客の空気的に)2人ともコントに入るネタの見方が分からない(2人でコントに入る漫才に対して、客席の理解が追いつかない)」と思っちゃって。半ば諦めて(1人だけコントに入る決勝のネタをした)って感じです。

ケムリ でも、あのメンバーの中だったらバランス良かった感じだけどね。

くるま そう。ヤ―レンズさんが、どっちもコントインするネタだったし、どの道いいかなと思っていました。

くるまの“M-1戦略”

――残り2本用意していたネタは、準決勝でやったネタも1本含まれているそうですね。どういった戦略を立てていたんですか?

くるま 今回は、しゃべくりが続いたじゃないですか。漫才コントがもっと続いて、自分たちの前にその流れがあった場合、漫才コントで差をつける方がいいなと思っていました。お客さんが漫才コントに見慣れている状態だからこそ、できるネタというか。ツッコミがツッコまないとか、乗っかるみたいなネタ。みんなが分かりやすくネタをやった後に、ぺこぱさんがツッコまない漫才をやったみたいな形式ですけど、それを漫才コントでやろうとは考えていました。ほかにも、準決勝でやったネタもあったし、歌ネタもあったし、『ABCお笑いグランプリ』でやったネタもあったし、実質、4、5本用意していましたね。

ただ、「審査員の方の年代では分からない可能性のあるワード」をはらんだ設定や漫才もあるので、それを使うかどうかは迷っていました。とんでもなくウケるんだったらやろうと思いましたけど、そのムードじゃなかったんで、早めに選択肢から外しちゃいましたね。

だから、1本目も2本目も、固有名詞はかなり(審査員に)寄せているというか。「日体大」とか、ギリ分かる範囲でやっていて。若い人が分かるか分からないか……くらいですけど、年上の人も分かるラインにしています。

ケムリ 「知ってるー!」って、ちょうど喜ぶくらいになっているね。「新しい学校のリーダーズ」とか。

くるま あれ(新しい学校のリーダーズ)は、マジで当日に決まって。直角のボケが何かないかな……ってギリギリまで考えて「これぐらいでいいか」みたいな感じで。

――すごいですね……。くるまさんは漫才やM-1のことをかなり研究していると思うのですが、ケムリさんは隣でご覧になっていて「すごいな」と驚くことも多いんですか?

ケムリ いや、何もすごくないです。

くるま お前さ〜! FANYマガジンで売れようとしてんの〜?

――(笑)。

ケムリ もちろんすごいと思っていますよ。全部任せていますし、それで優勝していますからね。

出典: FANY マガジン
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――トップ出番から暫定席で待っていらっしゃいましたが、どんな様子だったんですか?

くるま ずっと楽しくて、大騒ぎして、いろんな人と喋っちゃっていました。松本(人志)さんが、さや香さんに89点をつけて、660点いかずに1位で来たときに、新山さんが「アカンかもな」とおっしゃっていたんで「いやいや大丈夫! こうなってこうですから」と言ったりとか……ずっと喋っていました。

ケムリ 僕は、ひたすらお水をもらうのみでしたね。僕らがダントツでトイレに行っていて、「大量に水を飲んで、大量におしっこに行く化け物2匹」でした。

――(笑)。

ケムリ マジで4回くらい行きました。多分、M-1が始まる前と終わった時で、僕ら体の構造がまったく違うと思います。

――(笑)。そのほか、エピソードがあれば教えてください。

くるま 敗者復活のときに思いついた「ガンマイク振り切り」はやりました。じつは、ガンマイクをちょっと振り切った方が面白くて。見ていても「めちゃくちゃなことをしている感」が出るんですよ。だから(他に)言ってない動きをいっぱいしましたもんね。

こういう身体的なやつは、全部NON STYLEの石田(明)さんが教えてくれたことなんです。昔、石田さんが、漫才を教えてくれるライブをやってくれたときに、めっちゃ聞いて、ライブが終わった後も1時間ぐらい残って聞いていました。それだけで本を一冊出してほしいくらいです。「マイクとの身体論」。この角度で何がどう入るみたいな。

あと、(リハーサル中に)みんなのマイクスタンドを下げさせました。みんな高めに調整するんですけど、それだと、お客さんは下から観るから顔に被っちゃうし、M-1は、ピンマイクじゃなくて、サンパチマイクを重要視しているから、顔を外に向けたら声が入らないんですよ。フットマイクもないし、ガンマイクもすぐにはついて来れないから、下げた方がいいんです。位置を低くしておけば、違う方向を向いても、自分より下の音域は拾う。リハで「絶対これぐらい下げた方がいい」と大騒ぎしてたら、俺のせいでリハが押して、怒られました。

くるまとケムリがグッときた先輩からの言葉

――(笑)。本番でもくるまさんは、いつも通り。まったく変わらなかったですよね。

ケムリ 変わらないですね。緊張もしていないし、いつも通りだったと思いますよ。

くるま マジで(当日開催された)有馬記念に100万円ぶちこんだのがデカいですね。(M-1ファイナリスト経験者の)ロングコートダディの堂前(透)さんが決勝前にかけたって言ってたんで、めっちゃいいなと思って、俺も入れました。でも、かけた時点で勝ちなんですよ。増えてもオモロいし、なくなってもいいし。100万円を入れたときに、気持ちが、スッと軽くなったんですよね。

ケムリ やる気がみなぎるとかではなくて、軽くなったんだ。

くるま 水面に水の雫が一滴落ちる「ゆんぼだんぷ」状態。覚醒したというか、トップバッターになっても「はい。私は、先ほど100万円がなくなってますけども」みたいになりました。

――(笑)。優勝後、千鳥さん、山里亮太(南海キャンディーズ)さん、川島明(麒麟)さんなどいろんな先輩方と絡んだと思いますが、言われて嬉しかったことを教えてください。

ケムリ バナナマンの設楽(統)さんに「2人とも慶応を“卒業”してるんだよね」って。片方が中退しているのを知った上で振ってくださったのが、めっちゃ嬉しかったですね。

くるま シソンヌの(長谷川)忍さんに、冗談っぽく「チャンピオンの世界にようこそ」と言われたんですけど、背負ってるものがすげえあるんだろうなと思ったし、それだけで熱いのに、山里さんが、冗談まじりですけど「いいな〜」と反応したんですよ。

千鳥さんも、川島さんも、その角度で話を聞いてくださったんですけど、本当にM-1を獲りたかった人たちがいる……と思うと、身が引き締まりますよね。

ケムリ 確かにな〜。

出典: FANY マガジン
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――M-1王者となりましたが、これからのビジョンをどう描かれていますか?

ケムリ 関東芸人初のNGK大看板を目指したいですね。

くるま 意外とその志があんだよな〜。(ケムリは)NGKが好きなんだよな。

ケムリ 歴史とか好きなんで。

くるま 分かる。俺たち、むっちゃ男の子なんで、オールデンとかに弱い。俺らってアルコ&ピースの平子(祐希)さんイズムがあるんですよ。

ケムリ 平子りです。

くるま 平子りとニューヨーク屋敷(裕政)イズムは一緒だから。やっぱ、平子・屋敷ラインなんだよな。

ケムリ わかるわかる。

くるま (東京吉本では)タカアンドトシさんが、その状態(NGK大看板)に近いよな。NGKの大トリで、バカ面白いっていう。

ケムリ ほんとにそう。タカトシさんになりたいかもな〜。

ーーくるまさんはいかがですか?

くるま 可能なら来年もマジでM-1に出たい。それは、自分が出たいのもあるけど、「今、そういうチャンピオン像がないから」というのもあって。チャンピオン像の空きスロットを探したときに、「テレビで冠番組を持つ」というターンが一応終わって、ミルクボーイさんが大阪に残って劇場でやられるとか、マヂカルラブリーさんはいろんなジャンルをやるとか、多種多様なかたちのチャンピオンが誕生しているじゃないですか。

その中で、若手の僕らができるのは、もしかしたら戦い続けることなのかなって。そうすることで、M-1の箔がつくかもしれないし、それ自体が恩返しになるかもしれない。ウエストランドさんがM-1で座っていたような王者席が“空いてる”というのも、粋な演出になるかもしれないですよね。まだ見たことないM-1を見せたいというのはあります。

ケムリ 侍ジャパンが4人くるとかね。

くるま なんで4人もくるのよ。

ーー(笑)。

取材・写真(一部)・文:浜瀬将樹