脳梗塞で“失語症”入間国際宣言・千葉ゴウが「M-1」3回戦へ! ゆにばーす川瀬名人「ネットニュースはもっと取り上げるべき。勇気を与えますから」

今年1月に脳梗塞を発症して休養していた入間国際宣言・千葉ゴウが、9月に活動を再開し、10月に舞台復帰を果たしました。失語症の症状が残る千葉は日々、リハビリをしながら少しずつ舞台の数を増やしています。そして現在、挑戦中のM-1予選では見事、3回戦までコマを進めました。そんな千葉の“現在”を聞くために、今回は、NSC(吉本総合芸能学院)東京の同期で、ルームシェア仲間の1人であるゆにばーす・川瀬名人とともにインタビューを実施! “奇跡の芸人復帰”の道のりを語ってもらううちに、近くで寄り添ってきた川瀬の熱い思いがあふれ出し……!?

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

千葉は現在、会話に少し時間がかかるなかでYouTubeチャンネル「脳梗塞で倒れ失語症を患った男性が完全復帰するまでの記録〜厄介かけるよ〜」を高頻度で更新し、生配信をしたり、相方の西田どらやきとトークをしたりと、積極的に発信を続けています。少しずつ舞台にも復帰するなか、「回復してもMAXで70%くらい」と言われている芸人の気になる現状は――。

「異変」は1週間前から出ていたのに…

――まずは、脳梗塞発症からの経緯を教えてください。

千葉 今年の1月31日に、同期で同居人のウルトラスーパーコバタナックスの田中祐司とサウナへ行ったんです。まず1回目、普通にサウナに入って、外気浴をして、2回目にサウナに入るくらいから、何かもやもやするものがあったんです。実はそのちょっと前から、言葉が出づらいみたいなことは周囲に言っていて……。

川瀬 僕はちょっとわからなかったんですけど、1週間前から舞台上でも一瞬、言葉が詰まったり、ろれつが怪しかったりという兆候があったみたいなんですよ。ただ難しいもので、芸人は誰かが言ったことに反射的にツッコめなかったり、ノッていけなかったりしても、「今日は調子悪かったな」って、“お笑い的な調子が悪かった”だけという勘違いをしやすいんです。それで放置しちゃったんですよね。

千葉 サウナを出て着替えたあとも、なんか“ボワ~ン”ってなっていて……。

川瀬 これは言語化しづらいですね。

千葉 先に出たほうがいいかもと思ったときに、田中に「これ忘れてない?」って声をかけられたんです。後々わかるんですけど、その時点でカギとか全部忘れてるんですよ。

川瀬 もう財布とかももろもろね。

千葉 「携帯は? ないの?」とか言われるんですけど、「もういいや」ってなって。

川瀬 この時点でおかしいんですよ。携帯と財布がないのに「もういいや」って言いましたから(笑)。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

千葉 それでサウナを出て、(田中と)「アイス食いたいな」って店に立ち寄るんです。ここからは記憶がないので、あとから聞いた話になるんですけど、そこで頭がボーっとして、「何やってるの?」って声をかけられても「別に」って言うだけ。これはヤバいって救急車を呼んでくれたんですよ。

救急隊員の人が「大丈夫ですか?」って声をかけてくれるんですけど、力が入らなくて、そうしたら救急隊員の人が「これ、左だわ、左」って。要は、左脳がやられると右半身が動かなくなるので、救急隊員の人は僕の左脳に異常があるってわかったんですよね。それで救急車に運び込まれました。田中はそのとき、「オレのせいかな」って思っていたらしいです。

川瀬 そのくらいから記憶ないわけよね?

千葉 断片的にはあるんです。それで、知り合いに連絡するために「携帯はありますか?」って聞かれるんですけど、「えっ? 携帯? ないです」ってなって……。

川瀬 ここで、携帯とか財布とか、身分がわかるものを銭湯で失くしていたことが最悪で……。

千葉 それで、銭湯で財布や携帯を探してもらったんです。結局、携帯はあったんですけど、やっぱり財布はなくて。ただ、後々わかるんですけど、最初から財布を持っていってなかったっていう……。

川瀬 最悪です(笑)。ちょっと、僕からもここまでの経緯を説明しますね。実はサウナに行く前に、田中が僕に「千葉ゴウおかしいんだけど」って電話してきたんです。それで動画を送ってきたんですけど、(動画の中で千葉は)ずっと「ア゛~、ア゛~」って言っていて。

わかりにくいのが、「ボケなんかな」と思っちゃうんですよ。その後、スッと調子が戻ったからサウナに行ったらしいんです。ネットニュースとかではサウナで倒れたことになっていて、そのサウナが叩かれていたんですけど、実際はその後のコンビニで倒れました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

売れていない芸人のダメな食生活も原因!?

川瀬 脳梗塞は発見が早ければ早いほど症状が深刻化しないらしいんですけど、もし家の風呂で倒れていたら、すぐには見つからなかったでしょうね。

千葉 死んでましたね。

川瀬 だから、田中くんもサウナに誘ったことに、最初は罪悪感を感じていたんですけど、ある日悟って、「いや、オレがそばにいなかったら、死んでたやないか!」って(笑)。不幸中の幸いではありました。

それで、田中が救急車の中で千葉のフルネームを聞かれたんです。だけど千葉ゴウの「ゴウ」の漢字がわからなくて、千葉のご実家に電話したら、お母さんが「『ストリートファイター』の豪鬼の“豪”です」って言ったっていう。お母さん、それで認識してたんやって(笑)。

一同 (笑)

川瀬 僕らも病院に駆けつけたら、集中治療室に運び込まれて、結構ヤバい空気で。救急隊員の人は脳梗塞の患者に慣れているから落ち着いていたんですけど、僕らは気が気じゃなかった。ゴウの親御さんとお兄さんも来てたんですけど、その日はもう何もできないということになりました。

病状については、家族しか知ることができなくて、一緒に暮らしている僕らも、マネージャーさんも知ることができないんですよ。だから、千葉のお兄さんに連絡先を聞いたら、「電話番号言うんで、ワン切りしてもらえますか」って、久々にLINEをやっていない人だったっていう(笑)。ワン切りって久しぶりに聞きました。

そこから症状が劇的に悪化することはなかったけど、血栓ができたりして血の通りが悪くなると、カテーテル手術とかは何回かやっていたんだよね?

千葉 計4回やりました。

川瀬 それで、集中治療室は脱して。

千葉 入院しながら1カ月半くらいリハビリをして、3月末くらいに退院しました。だけど、脳梗塞になった正確な理由は、結局わからなかったんですよね。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

川瀬 ゴウがお医者さんに聞いた話や、僕がちょっと調べた情報を鑑みると、40歳手前で売れてない芸人って、食生活がとにかく終わってるんですよ。いつまで中高生みたいなメシ食ってんねんっていう。

基本的には炭水化物で、コンビニでいちばん安いカップ焼きそばを買って、そこにスーパーで買ったうどんの麺を茹でて乗せるっていう“セルフメガ大盛”みたいなね(笑)。そんな食生活に加えて、彼、めっちゃ筋トレもしていて、プロテインも1日3回くらい飲む。

栄養あるものを食べずに、カップ焼きそばとプロテインばかりで、水分もあまり摂らないし、遺伝的なものもあるみたいで、普通の人よりは脳梗塞になりやすい環境にはあったみたいです。もう40歳ですしね。

千葉 39歳ね! その後、6月の定期健診で再入院することになって、またカテーテル手術をして……。それが結構ツラかったですね。

川瀬 退院後も食生活を改めず、薬を飲まない日もあったりして……。売れてない全芸人に言いたいんですけど……志半ばで亡くなる芸人もいるじゃないですか。そういう人たちに共通するのが、酒を飲んだらアカンって言われているのに飲んだり、飲まなきゃいけない薬も飲まなくて、しかもそれをボケみたいにする! 周囲も「いや、ダメですよ~」くらいの感じで言うんですけど、まわりは本気で怒ってください!!

漫才で舞台に立つことがリハビリに

川瀬 再び退院して、今後、何かがあったときに近くに誰かがいれば早く発見できるということで、一緒に住むことにしました。彼はいま、午前中に日常系のアニメを見て、その後、リハビリのために図書館で児童書を借りてきて音読するんです。

ときどきそれが聞こえてくるんですけど、「そのときゾロリは……」って、『かいけつゾロリ』読んでるやん!って(笑)。生活もしないといけないので、芸人が何人かやっているマンション清掃のバイトとかもしています。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

――いまの体調はどのような感じでしょうか。

千葉 お医者さんからは回復してもMAXで70%くらいじゃないかと言われているんですが、いまのところはまだ10~20%程度の感覚です。

川瀬 一緒に暮らしていて、全然調子がいい日もあるんですよ。彼は入間国際宣言ではボケ担当なんですけど、少し言葉に詰まったときに、僕らが「しゃべるの遅いな」とか言うと、「仕方ねぇだろ」って0.5秒くらいで返してくるんです。ツッコミって脳を介さない、脊椎反射なんやなって(笑)。もうツッコミになったほうがええんちゃうかっていうくらい。

調子いい日と悪い日の差があって、いいときは70%くらい戻ってます。少ししゃべりが遅いくらい。脳の体力が減りやすいんですよね。僕らは“脳ポイント”って呼んでるんですけど、僕らの脳ポイントを100としたら、彼は10くらいしかなくて、脳ポイントが減ると会話の能力が落ちていくというのが現状ですね。脳の体力をどう回復させられるのかが課題です。

科学で解明しきれていない領域なので、いつ治るというのも言えないみたいで、すぐに回復する人もいれば、時間がかかる人もいるらしいです。

これは動画で見たんですけど、あるフルート奏者の方がなかなか脳梗塞から回復しなくて、吹くことで心拍数が上がったりするから演奏を控えていたそうですけど、「もうええわ」ってまた吹き始めたら、みるみる回復していったんですって。これも科学では解明できないんです。

ゴウくんのお医者さんは理解がある人で、今後も芸人をやっていくなら、早く復帰したほうがいいっておっしゃっていたので、僕の主催ライブで入間国際宣言に漫才をやってもらいました。多少怪しいところはありましたけど、つつがなくやれて、ちゃんとウケましたよ。しかも、その後2~3日は会話の調子もよくて。何の根拠もないですけど、やっぱり舞台で漫才するのっていいのかなって感じました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

――YouTubeに復帰後の漫才をあげていますよね。先日、M-1予選も1回戦を突破されて、おめでとうございます。(取材日はM-1予選1回戦の通過発表後。その後、2回戦も突破)

川瀬 以前は大きな声と動きで見せるタイプだったので、そのぶん演技が大げさになるところもあったんですけど、いまはそれを抑えてやるようになって、周囲の芸人からすると、むしろ面白くなったっていう評価なんです(笑)。そういういい“副作用”がありました。

――ウケていましたが、久々に賞レースのお客さんの前で漫才した感触はどうでしたか?

千葉 結構ギリギリだったので、「いま何をやっているんだろう」というのが本音でした。「早く終われ」って。

川瀬 やりたくないんか(笑)。

千葉 「どうも~」って出ていくんですけど、目の前に壁がある感覚でした。

川瀬 健常やったときに、入間国際宣言として漫才をしていたときの感覚が壁になっている感じ? 僕らが主催のときは、お客さんは千葉ゴウのことを知っているし、ここまでの経緯もご存知なので温かかったですけど、M-1の1回戦や普通の寄席にも少しずつ出ていて、そのときも、何なら入間(国際宣言)よりちょっとスベっているヤツいるな、くらいはウケています。

千葉 (笑)

川瀬 そういう芸人は、ホンマに恥じたほうがいいですね。だから、千葉のことを知らなくても何となくウケるレベルにはもっていけたんじゃないかなと。スゴいと思いますよ。

――やっぱり、舞台で漫才することがいい作用を及ぼしているのかもしれないですね。

川瀬 でも、どうなの? 通常のリハビリだけじゃなく、ときどきお笑いの舞台に立つっていうのは。

千葉 それは、いちばんいいと思いますね。舞台に立ったり、YouTubeをやったり……。復帰しただけで、ひとつのゴールです。

川瀬 こういう記事とかをきっかけに、脳梗塞になった芸人がどこまで復帰できるのかを世間の皆さんに見ていただいて、さらに、M-1 の3回戦までいければ、(漫才の)動画も見てもらえるわけですよ。それを見て、「こいつ脳梗塞らしいぞ」ってなれば、YouTubeも伸びるだろうし、そこで認知されれば、吉本お得意の講演会も回れると思うので(笑)。

――太い道が開けましたね!

川瀬 ゴウが考えている目標はあるの?

千葉 講演会は興味があって、ほかの人にも勧められたことがあるので、いま日々の日誌を書いています。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

川瀬「死んでほしくないから」

――川瀬さんは、最初に千葉さんが脳梗塞と聞いてどう思いましたか?

川瀬 他事務所の芸人さんでも、ときどきあるじゃないですか。だから、そういう年齢になったかというのもありましたし、こんな生活をしていたら、いつでも、誰でも、こういう事態になりうるんだとも思い知りました。そこからは、まわりにめちゃくちゃ言うようになりましたね。死んでほしくないから。

パピヨンの千葉恵くんっていう太った同期の子がいるんですけど、普通に夜中にピザの出前をとるから、心を鬼にして激しく叱責しました。(ピン芸人の)大谷健太さんもお酒をすごく飲むので痛風気味なんですよ。なのに、その薬をハイボールで飲んだりする。

周囲の後輩芸人たちは「何してんすか~」とかで終わるんですけど、僕はブチ切れています。「おもんないで」「知らんで」って。「怒らんでよ~」とか言われますけど、そこは怒ります。

――お父さんみたいですね(笑)。

川瀬 だって、あのノリはホンマにやめておいたほうがいい。一般の人だったら引くノリじゃないですか。でも、(千葉が)芸人を続けてくれたのは、ぶっちゃけ奇跡ですね。もうちょい騒がれていいくらい奇跡です。

だからね、ネットニュースも千葉ゴウの復帰こそ、もっと取り上げるべきなんですよ。脳梗塞になった芸人の復帰って、めちゃくちゃ勇気を与えますから。

――しかも、舞台復帰ですもんね。

川瀬 結構快挙やと思いますよ。芸人は、一般社会に比べて、いまの病状とかも大っぴらにイジれる環境がいいなと思いますね。逆にこいつも気遣いがなさすぎて、一緒にゲームをやっていて僕がボコボコにすると「川瀬も脳梗塞になればいいのに」とか言うんですよ。それは違うやろって(笑)。

千葉 いや、ボケですけどね(笑)。

川瀬 今回のことでもうひとつ感じたのは、やっぱり、何かあったときに頼りになるのは、近くにいる芸人仲間だということ。千葉は天邪鬼なので、素直に「ありがとう」「ごめんなさい」が言えない性格なんです。でも、「ありがとう」はちゃんと言えよと。そうしないと、まわりから誰もいなくなるよとは言いました。

お見舞いに行って「大丈夫か?」って声をかけても「おぉ……」って。そこは、まず「ありがとうやろ」って病院で説教したら、帰ったあとにLINEで「ありがとう」って送られてきました(笑)。これは、いい歳したおじさん芸人全員に言いたいです。「ありがとう」はちゃんと言おうと。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

最後に、取材場所の吉本興業東京本部の中庭に出て、写真撮影に応じてくれた千葉と川瀬。ベンチに並んで撮影を終えると、千葉が川瀬に「ありがとう」とポツリとつぶやき、川瀬がニヤリと破顔したのが印象的でした。

多くの仲間たちに支えられながら、千葉は一歩一歩、“完全復帰”に向けた歩みを進めています。

YouTubeチャンネル「脳梗塞で倒れ失語症を患った男性が完全復帰するまでの記録〜厄介かけるよ〜」:https://www.youtube.com/channel/UCCLZHP7j2q84QR398qNkg5w

関連記事

関連ライブ配信

関連ライブ