皆さん、こんにちは。福岡よしもと3年目のお笑いコンビ・出目金の橋本康平です。福岡よしもとの芸人たちが日ごろから出演している「よしもと福岡大和証券/CONNECT劇場」が、7月31日(日)で2周年を迎えます。ということで今回は、寄席のトリ出番やMCなどで劇場の屋台骨を支えてくださっている兄弟漫才師・サカイスト(伝ペー、マサヨシ)さんに緊急独占インタビューを敢行しました!
2周年記念ということで和やかな雰囲気で進むと思われたインタビューでしたが、次第に福岡よしもとの若手を憂うサカイストさんの心情が吐露されて……こちらの背筋が伸びるような展開になりました。そこで、インタビュー中の私の“心身の状態”をカッコ内に付記することで、現場の雰囲気を臨場感たっぷりに読者の皆さまへお届けしたいと思います。
今いくよ・くるよの弟子として
――芸人ライターの橋本です。“答えづらい”かもしれませんが、まずはおふたりの簡単な自己紹介をお願いします。(最初はまだ質問のなかで軽くボケる心の余裕がある)
伝ペー 答えづらくねえよ!
マサヨシ そもそも、オレらのこと知ってるだろ。
――改めて、お願いします!
マサヨシ サカイストのマサヨシです。兄弟の弟のほうです。
伝ペー 伝ペーです。兄のほうです。
――おふたりはもともと、NSC(吉本総合芸能学院)に入学せずに“お弟子さん”を経験されていますよね。
マサヨシ 今いくよ・くるよ師匠の弟子です。吉本でNSCに入らずに弟子として現役で舞台に立っているのは、我々とあと何組かくらいですね。
――なぜNSCではなく、弟子を選んだのですか?
マサヨシ 小学校低学年くらいから芸人になりたいという思いがありましたが、家が貧しいという事情もあって弟子を選びました。
伝ペー マサヨシさんが、いくよ・くるよ師匠を選んだのも縁があってね。
マサヨシ たまたま劇場を観に行ったときにトリで出てきたのがうちの師匠で、この人たちに決めた、ってそのまま裏の駐車場に頼みに行きましたね。
伝ペー それでマサヨシさんが1年修行して、弟子を上がって漫才をするってなったときに初めて伝ペーが登場するわけよ。
マサヨシ 当時15~16歳で相方どうするってなったときに、まわりの芸人の年齢がひと回りくらい上だったから年上すぎて組めなくて。それで、もともと芸能界に興味があったお兄ちゃんを誘って大阪に来てもらいました。そこから師匠のご厚意で、伝ペーさんも半年の弟子修行をすることになりましたね。
伝ペー これ、ややこしいのが兄弟としてはもちろんオレが兄なんだけど、弟子としてはマサヨシさんが兄弟子だから、師匠の前ではオレがお茶取ってあげたりして、逆に家ではマサヨシさんにテレビのリモコン取ってもらったりして。そのギクシャクの関係が半年続いたの。
――へ~。(そろそろ感嘆詞の相槌しか打てなくなってきて……)
伝ペー それでオレの弟子修行が終わって明日からどうするってなったときに、いま考えたら師匠に対して本当に失礼なんだけど、「東京に行きます」って言って。当時のやんちゃなオレは大阪と東京で2回売れるよりも、東京で1回、爆発的に売れるほうがいいんじゃないかって思ってたから、10代のマサヨシさんを家で洗脳していくわけよ。
マサヨシ 本当だったら師匠の営業先の前説とか、大阪の劇場の前説とかでやってかなきゃいけないんだけどね。
伝ペー 師匠には、ちゃんと結果が出るまで大阪に帰ってくるなと言われて。だから、そこから13年後の全国ツアーの1発目に京都のよしもと祇園花月を選んで、そのときのゲストが今いくよ・くるよなのよ。13年かかって、ここで初めて舞台で共演したんだけど、師匠としては、全国ツアーを打って私らをゲストに呼んでくれて、もう認めるしかないやろって。この一連の模様が収録されているDVDが現在、絶賛発売中です!
マサヨシ いや発売されて、もうだいぶ経ってるよ(2011年12月発売)。
――今回は劇場の2周年記念のインタビューなんですけど、ここまでのサカイストさんの生い立ちだけで記事書けそうですね……。
マサヨシ というか、ぜんぜんメモ取ってねーな。
伝ペー そんなんで記事、書けんのか?
――すみません、興味深すぎて……。(もちろんZOOMの録画機能を使っています)
出る場所でもあり戻る場所でもある
――この劇場ができると聞いたときの気持ちはいかがでしたか?(気を取り直して用意してきた質問をぶつける)
マサヨシ 福岡にもやっと漫才師が育つ劇場ができたなと思いましたね。
伝ペー それまでは天神ビブレ(2020年2月閉館)の劇場(よしもと天神ビブレホール)もあったんだけど、貸し小屋というか、どこか自分たちの劇場ではない気がしてて、こういう大きな劇場の立ち上げにゼロから携われるっていうのは嬉しかったね。
マサヨシ それこそ、ルミネ(東京・新宿のルミネtheよしもと)ができたときと同じ気持ちだね。東京時代に銀座7丁目劇場、渋谷公園通り劇場がなくなったあと、新宿のど真ん中に常設の劇場ができて、めっちゃ漫才ができると思った気持ちと一緒だね。
――劇場ができてからのこの2年間はどうでしたか?
伝ペー やっぱり、めちゃくちゃ若手は恵まれてるよ。オレが0年目とか1年目とかにこの劇場があったら、もっともっと頑張ると思うよ。オレらは劇場に立つっていうことの難しさをずっと味わってきてるから、こんな立派な劇場に若手のうちから立てるっていうのは本当に恵まれてると思ってほしい。だから若手はもっともっとSNSで呟くべきだし、もっともっと劇場に感謝するべきだと、おじさんは思う。
マサヨシ おばさんも思う。
――確かにそうですね……。(ここらで口内が乾いてきて背筋が伸び始める)
伝ペー こんないい劇場があるんだから、頼むから若手は賞レースで結果出してくれよって思う。やっぱり賞レースで結果を出す人ってのは、劇場でサボってないんだから。オレらはもうチャレンジャーじゃないから、めちゃめちゃ悔しいよ。
マサヨシ 伝ペーさん、橋本さんのペンが進まないですよ。自分に言われてるみたいになってるから。
――インタビューじゃなくて“説教”みたいになってきましたね……。(背筋が伸び切り、イスのひじ掛けからひじを降ろす)
マサヨシ まあ、とりあえずサカイストの話で言うと、この2年間は出番がもらえてしっかり漫才ができたかな。あとは、やっぱり環境がいいとネタの水準も上がるので、福岡ならではのいいネタがたくさんできたかなと思います。
伝ペー まあ、いちばんは(東京や大阪からの)ゲストには負けたくないっていう気持ちで2年間、常に舞台に立ってたな。現状、お客さんがゲスト目当てに来ているという状況で、歯がゆい気持ちがあって。福岡よしもとだってたくさん芸人がいて、たくさん面白いやつもいるんだぞってことを証明しなきゃいけない。オレたちはゲストの前座じゃないんだぞっていう気持ちが、福岡の芸人にはないといけない。福岡よしもとの劇場なんだから、オレら福岡よしもとの芸人がいちばん笑いを取らないと。
マサヨシ ふふふ(笑)。
――サカイストさんにとって劇場とは?(熱い言葉に感化されて、自分の体も熱くなってくる)
マサヨシ 我々が生きる場所ですかね。どれだけテレビタレントになろうが、漫才だけは一生やると思うので、生きる場所ですね。いくよ・くるよの弟子なので、漫才師であれっていう気持ちが強いから。
伝ペー 大人の託児所だね。遊ぶ場所というか、仲のいい友達と会うような感覚で劇場に行って、楽屋でわちゃわちゃしてる感じを舞台に持って行って。だから、オレは楽屋では静かにしたくない。劇場で頑張らないと全国区のテレビとかには出れないしね。
マサヨシ いまどんだけテレビに出てる人も、いまだに劇場の出番はあるわけで、やっぱり吉本興業は劇場の会社だよね。出る場所でもあり、戻る場所でもあるのが劇場かな。
芸人同士のバチバチがない
――いまの福岡よしもとって、どんな雰囲気ですか?
マサヨシ いいんじゃないですか、すごく。劇場ができて、芸人が増えてきたからこそ、血が循環してるというか。若手の社員と若手の芸人で切磋琢磨していってる。福岡よしもととして、いちばんいい状況になってると思いますね。
伝ペー まあ、それはそれでいいんだけど、芸人同士のバチバチがないなとは思ってる。オレは福岡に来て、いちばん最初に思ったのは芸人同士の仲がよすぎる。
マサヨシ あなた、さっき仲がいい友だちと遊ぶ感覚を舞台に持っていくって言ってませんでした?(笑)
伝ペー いや、先輩とは仲良くしていいんだよ! 同世代ではバチバチしないと! 出番の数とかで、もっと競争してほしいよ。
――まあ、バチバチもないことはないんですけどね……。陰湿な感じであるというか……。
伝ペー それはよくないことだよ!(笑)
マサヨシ 伝ペーさんは、昭和の頭の固い人だから。まあ、正面切ってやり合う必要はないと思うけど、闘争心は持つべきだよね。
――7月から新しく始まった「NEXT LIVE」(福岡よしもと所属の芸歴9年目以下の芸人が出演するライブ)、「Regular LIVE」(10年目以上が出演するライブ)についてはどうですか?
マサヨシ いいんじゃないですか。ちゃんとした構成の劇場公演になってきたなと。本来、ゲストの方と若手が一緒に出てっていうのはありえないことなので。まずはNEXTで結果を残してから上のライブに出れるようになれば、若手同士で切磋琢磨もできますし、僕らRegularメンバーも負けないように頑張れますしね。
伝ペー 素晴らしいことだよね。このピラミッドで生き残るってことは、そうとう努力しないといけない。ネタを頑張らないと、どこにも居場所がなくなっちゃうわけだから。福岡の子たちは愛想もいいしタレント力はあると思うんだけど、ネタ見たときに「これ行くんじゃない?」ってのがね……。
マサヨシ 福岡のNSCも5期生まできて、この先、バチンと売れるやつがでてきたら、申し訳ないけど、いまの若手は全員いなくなる可能性もある。そういうのは、いままでたくさん見てきたから。だからネタを頑張らないといけない。
――そうですよね……。(熱くなった体が急に冷えて眼鏡がくもる)
マサヨシ いまいる若手は悩む時期になると思うね。
伝ペー まあ悩んでほしいよ、芸人なんだから。
福岡でナンバーワンになりに来ている
――現状ではサカイストさんたちだけがNGK(大阪・なんばグランド花月)など他拠点の劇場に呼ばれていますが、そういう状況についてはどうですか?
伝ペー ぜったい若手もほかの劇場に行くべきだよ。そしてキンキンにスベって漫才の奥深さを知ってほしいね。まあ何回も言ってるけど、呼ばれるには、とにかく賞レースだよね。いまはみんな、M-1の3回戦進出を目指してるけど、準決まではいかないと他の劇場には呼ばれないよ。
マサヨシ オレらがこのまま呼ばれ続けていれば、いずれは他のみんなも出れるようになるのかな。偉そうなことは言えないけど、とりあえずはオレたちが道を繋いどくから、その道をみんなが通って来てほしいね。だから、ほかの劇場に行ったときには、福岡の若手にも面白いやついますよって言うようにしてます。
――それでは最後に、今後のサカイストさんの展望を教えてください。
伝ペー オレは福岡でナンバーワンになりに来てるから。そのためには福岡でいちばん面白い漫才して、テレビもラジオも出て、福岡空港とか博多駅の看板になれたらゴールだね。
マサヨシ 東京のゴールデンのネタ番組に出て、福岡発の全国漫才師になる。そして全国区の福岡芸人としてこの劇場のトリで漫才をする。
――今日は、どうもありがとうございました。(再び熱い言葉を受け取って、再加熱された体で帰路につく)
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