よしもと芸人がタイとインドネシアで日本語教育!? 授業で判明「オタクは世界共通でした」

どうも芸人ライターの天狗の横山裕之です。皆さんは「日本語パートナーズ」という言葉を聞いたことがありますか? 国際交流基金のプロジェクトのひとつで、アジアの高校や中学校などに日本語授業のアシスタントとして日本人を派遣して、日本語や日本の文化を一緒に勉強しましょう!――という取り組みです。そのプロジェクトに、吉本興業所属の芸人2人が参加することになりました。行き先は、タイとインドネシア。今回は、その2人にいろいろとお話を聞いてきました。

出典: FANY マガジン
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すでに今年5月からタイのチェンマイに派遣されたのが、“アジア住みます芸人”としてミャンマーで活動していた女性芸人の緑川まりさん(上の写真左)。

もう1人が、この8月16日(火)にインドネシアへ派遣予定の、大阪で活動する芸歴2年目のベレー帽ヘアーわっしゃる君です。

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きっかけは意外と薄い!?

――今回の「日本語パートナーズ派遣事業」に参加したきっかけは?

緑川 同じ「ミャンマー住みます芸人」にアーキ―っていうピン芸人がいて、そのアーキーのお父さんがミャンマーで事業をしているんです。

――どんな事業なんですか?

緑川 その事業っていうのが、日本に行きたいミャンマー人の支援機関なんです。実際に日本に行くために、日本語の基礎を学ぶような学校をアーキ―のお父さんが経営していまして。そこで私はバイトをさせてもらっていたんです。それがきっかけで、日本語パートナーズの話があったときに興味があって、応募したんです。

――すでにそうした活動を経験してたんですね。わっしゃる君はどうですか?

わっしゃる ただメールが来ただけです。

――きっかけが薄いな(笑)。

わっしゃる でも、これが本当なんです。メールが来て、応募して面接したらこうなりました(笑)。

――それはそれで運命だもんね。

わっしゃる そうですね。でも、吉本興業に入るときに“住みます芸人”みたいなプロジェクトがあるのを知って入ったんです。だから、漫才やコントで評価されること以外でも、レベルアップのためになんでもチャレンジしていきたいと思ってます。

――そこの思いは熱くてよかったです(笑)。ちなみに、その“ベレー帽”みたいな髪型にしたきっかけは?

わっしゃる これはミスです。

――ミス?

わっしゃる 自分で髪を切っているんですけど、キノコ頭にしようとして失敗してベレー帽みたいな髪型になりました。

――痛恨のミスよね。

わっしゃる でも、「誰もこの髪型いないな」となりまして、そのまま芸名にしました。

出典: FANY マガジン
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――結果的によかったってことやね(笑)。ちなみに緑川さんは、ミャンマー住みます芸人になったのはどうしてなんですか?

緑川 もともとは、なりたいと思っていなかったんです。マネージャーとの面談で「ネタを頑張っていきたいです」と伝えたところ、マネージャーから「47都道府県の住みます芸人とか興味ありますか?」と聞かれたんですが、それは興味がなくて断ったんです。そうしたら、次に「アジア住みます芸人はどうですか?」と聞かれまして。そうなったら、ちょっと話が違うなぁと思って(笑)。

――なるほど(笑)。

緑川 自分のなかで「アジア住みます芸人は、ちょっと面白いなぁ」と思ってしまいまして。それで、「ちなみに興味ありますって言ったら、どこの国を勧めるんですか?」って聞いたんですよ。そうしたら、「新しく女性のミャンマー住みます芸人を募集しているんです」と言われまして。
その「ミャンマー住みます芸人」と聞いたときに、「絶対に面白いやん」と思ってしまったんです。だって、「ミャンマー住みます芸人」って当たり前のように言いますけど、本当はそんな言葉はないから(笑)。

――たしかに吉本興業が作り出した言葉ですもんね。

緑川 そうですよ。だから「ミャンマー住みます芸人」って面白そうってことで、初の女性アジア住みます芸人になりましたね。

――きっかけは「面白そう」だったんですね。今回の日本語パートナーズでのタイへの派遣が決まってからの研修はどうでしたか?

緑川 私の場合は対面の研修で、朝から夜までタイ語を学んだり、日本語パートナーズとは? っていう講義を聞いて、心構えを教えてもらうといった研修を2週間みっちり受けました。

――わっしゃる君は、いま研修しているの?

わっしゃる 僕は緑川さんと違ってオンラインで2週間、研修を受けました。午前中はインドネシア語、午後は日本語パートナーズに関する講義だったり、インドネシアの文化を勉強しました。でも、研修が終わったいまも独自で勉強しています。

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アニソンのイントロクイズで…

――緑川さんは、タイの高校ですでに授業に入っているとのことですが、どんな授業なんですか?

緑川 基本的には日本語の教科書に沿って、ひらがなやカタカナを勉強したりしますね。でもこの前、タイ人の名前をカタカナで書きましょうっていう問題があったんですけど、逆に私がタイ人の名前を知らなさすぎまして。「ティッタラム」とか言われても「え? なんて?」って、私がわからないっていうことがありました(笑)。

――まさかの事態ですね(笑)。緑川さんの高校では、日本語の授業を選択している人はどのくらいいるんですか?

緑川 私の学校は少なくて、高校1年生が6人、高校2年生が5人、高校3年生が9人ですね。

――男女の割合は?

緑川 生徒の8割が男性ですね。

――日本が大好きなタイの高校生ってことですよね?

緑川 そうですね。日本語クラスの人は日本オタクの人が多いですね。

――やっぱり日本のアニメが人気ですか?

緑川 はい。ちょっとびっくりしたのが、タイのオタクの人も、日本のコントでやるような“オタクの話し方をするんですよ。

――へぇ、マネしているわけでもないんですよね?

緑川 そうなんです。先日、アニソン(アニメソング)のイントロクイズをしたんですけど、曲を流した1秒くらいで、アニオタ(アニメオタク)の男の子が自信満々だけどめっちゃ冷静に「HUNTER×HUNTER」って答えたんですよ。その様子を見て、オタクは世界共通なんだと思いましたね(笑)。

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「虫」との負けられない戦い

――実際、タイに行ってみてどうですか?

緑川 私が派遣された場所が、都市部から離れた辺境なんです。タイの第2の都市・チェンマイの市内から1時間離れた山の麓に住んでいまして。チェンマイに住んでいる日本人の方が、「そこそこ僻地に住んでいるね」っていうくらいの場所に住んでいるんです。

――それは大変そうですね。

緑川 そうですね。移動手段がないんですよ。

――どういうことですか?

緑川 タイはバイク文化なんですけど、国際交流基金さんから安全上の理由でバイクに乗ってはいけないと言われてますし、タクシーも捕まらないですし、夕方4時になったらバスも終わるんです。そうなると自転車しかなくて、とにかく不便丸出しというか(笑)。

――どこか出かけたいときは、どうするんですか?

緑川 同じ学校の先生に「連れて行ってもらえませんか?」とお願いするしかないです。

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――それは不便ですね。ほかにも苦労していることは?

緑川 あとは、虫ですね。家のお風呂がタイル貼りのシャワー室で、タイルとタイルの間に穴が開いていて、そこからアリがブワーって出てきて。

――それはキツイですね。

緑川 本当ですよ。だから、私はとりあえずそこに歯磨き粉を詰めて(笑)。

――応急処置でね。

緑川 でも次の日に見たら、歯磨き粉を突破してアリがまた出てきてて。私も負けじと歯磨き粉をまた詰め直してっていうバトルを3日間くらいして、最終的にセロハンテープをつけて私が勝っている状態なんです。

――絶対に負けられない戦いがそこにありますね(笑)。

緑川 本当そうです。あと、シャワールームに窓があるんですけど、換気が常にできるような窓でして。一応、虫が入ってきにくい構造にはなっているんですけど、それをも乗り越えてくる虫がいるんですよ。だから、夜に電気をつけると、電気に虫がこれでもかっていうくらいに寄って来るので、日が沈むまでにお風呂に入らないといけないんです。

――裸に虫は怖いですもんね。

緑川 裸は防御力ゼロですからね。

――ちなみに、タイ語はもうだいぶ話せるんですか?

緑川 全然ダメですよ。

――え? それで暮らしていけるもんなんですか?

緑川 いや、いけてないですよ(笑)。ミスコミュニケーションだらけです。タイ語は、同じ言葉でもイントネーションの違いで意味が変わってきたりするので、単語でタイ語を言っても聞き返されます。その聞き返し方が「あ゛っ!?」ってケンカ売られている感じで(笑)。

――「あ」に濁点が付く感じですね(笑)。

緑川 そうです。でも、タイの方は怒っているとかじゃないんですよ。タイの人は「なんて言ってるかわからないので、もう一度、言ってもらえますか?」が「あ゛っ!?」となるので、毎回、「怖っ!」ってなりますね(笑)。それに負けないように何回も繰り返して言うんですけど、結局、「わかりません」と言われて終わるのがほとんどですね。

――わからないままで終わるんですね。

緑川 学校の日本語の先生だけが唯一、コミュニケ―ションが取れますね。だから、なにかあったら、ぜんぶお任せしています。あとは、英語で少しコミュニケーションを取ったりして、なんとかって感じで……。

出典: FANY マガジン
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――僕が思っている感じとぜんぜん違いましたね(笑)。そんな苦労があるとは。

緑川 苦労はありすぎますね(笑)。でも、いろいろあるから面白いですね。

――そんな状況に飛び込んでいく力はスゴいと思います。

緑川 いえ、なにも考えていなかったというのが正解ですかね(笑)。「なんとかなるっしょ!」っていうね。

――やっぱり「面白いからやろう」とか、その状況でさえ「面白い」って言える緑川さんの芸人魂みたいなのが、本当にスゴいなぁって思います。

緑川 芸人って「面白い」って思えるだけで突き動かされますもんね。

タイでお笑いワークショップ開催!?

――緑川さんの話を聞いて驚きもあったと思いますが、わっしゃる君の派遣に向けた意気込みを聞かせてください。

わっしゃる 緑川さんの話が衝撃的でしたが、僕はやっぱり「楽しみたい!」って思います。

――それがいちばんですね。現地でやってみたいことは?

わっしゃる 派遣中に正月をまたぐんですよ。だから生徒さんと一緒に、日本の文化である餅つきとか羽根つきとかをやりたいです。

緑川 私はタイで「お笑い」をしようと思ってます。日本のお笑いワークショップとして、漫才の台本を作って体験してもらったり、漫才のボケの部分を考えてもらったりとかで、日本のお笑いという文化に触れてほしいなぁって思います。タイ住みます芸人も呼んで舞台もやりたいですね。そのときは、横山さんもコンビで来てもらって、ね?

――ぜひ行かせていただきます(笑)。でも、お笑いをやるっていうのは芸人だからこそですもんね。わっしゃる君も、お笑いを現地でやりたいとかある?

わっしゃる 僕はまず正月の文化である餅つきを。

――餅つきは揺るぎないんだね(笑)。

わっしゃる 初めてなので、まずは日本の文化を面白く伝えられたらと思っています!

――なるほど。派遣終了後にやりたいことはありますか?

緑川 もともとミャンマー住みます芸人がタイに派遣されているっていう状態なので、タイミングを見計らってミャンマーに帰りたいんですけど、情勢的にクーデターが心配で……。もしミャンマーに帰れなかったら、また違うアジアに住みながら、お笑いをしようかなって思っています。でも以前、吉本の社員さんからチラッと「タイの派遣が終わったら、ラオスでパンを焼くって仕事どう?」って言われたんですけど(笑)。

――その仕事は、いったいなんですか(笑)。

緑川 「めちゃくちゃ面白いやん」って思ってしまいまして(笑)。お話しだけ聞きますってことになっています。

――それ、緑川さん、ぜったいラオス行っちゃいますよ(笑)。わっしゃる君は?

わっしゃる まだ先のことで具体的なことはわからないですが、派遣が終わって日本に帰ってきたらインドネシア大好き芸人としてSNSなどを使ってインドネシアの良さや、インドネシアのネタとかを発信できればと思っています。

緑川 スースー。

――え? どういう意味ですか?

緑川 タイ語で「頑張ります」ってことです!


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