タイの高校生たちが日本の“漫才”を学ぶ「日本語パートナーズ×吉本興業『漫才ワークショップ』」が、2月10日(金)にタイ・チェンマイの高校と東京・吉本興業本社をオンラインでつないで開かれました。タイ現地からは「日本語パートナーズ」として活動する女性ピン芸人・緑川まりと、タイ住みます芸人のあっぱれコイズミ、はなずみがワークショップに加わり、東京からは、すゑひろがりず(南條庄助、三島達矢)が審査員として参加。覚えたての日本語で初々しく漫才を披露する現地の高校生たちを温かく見守りました。
「日本語パートナーズ派遣事業」は、アジアの高校や中学校などに日本語授業のアシスタントとして日本人を派遣し、日本語や日本文化の学びを通して交流活動をする国際交流基金(JF)のプロジェクトです。
ミャンマー住みます芸人として活躍していた緑川は、新型コロナや不安定な社会情勢などの影響で日本に一時、帰国していましたが、日本語パートナーズへの参加をきっかけに、2022年6月からチェンマイに滞在。日本語授業を選択した生徒たちに、日本が誇る文化の1つとして“漫才”を教えてきました。
すゑひろがりずが扇子と鼓で鼓舞!
三島がひらひらと扇子で舞い、南條がポン、ポンと小気味よく鼓を鳴らすなかスタートしたのは、これまでのワークショップの集大成として実施された「漫才発表会」。現地の生徒同士のコンビ9組が、約400人の生徒を前に「僕の、私の、ベスト3」というテーマで約1分間の漫才を披露します。
1組目に登場した男子コンビは、「はいどうも! ケロケロケロケロです」と元気のよい自己紹介から入り、「恐いものベスト3」を発表。「1つめはお母さん、2つめは無職、3つめは……借金取り!」とオトすと、最後はお決まりの「もういいよ」のセリフで締め、短いながらも漫才らしいスタイルでしっかりキメました。
出囃子とともに「どうもー!」と元気に挨拶をしながら登場したのは、男女コンビの「海」。すゑひろがりずも「おー、元気!」「いいね」と若手らしさを評価します。
「好きな飲みものベスト3」と題したネタで、女子生徒が1つめにソーダ、2つめにオレンジジュースとかわいらしくフリを入れ、3つめで「油です!」と軽快にオトすと、男子生徒が間髪入れずに「油は飲みものじゃないよ! もういいよ!」と正統派のツッコミを炸裂。それを聞いた南條は思わず鼓を連打し、「いいね! お見事!」と称賛しました。
「ダメダメ~、ダメよ~♪」とオリジナルの自己紹介ソングにのせてダンスを披露するのは男子コンビ「ダメダメ」で、三島は「ふざけてるなー」と言いながらも期待感たっぷりの笑顔。ネタはこちらも「嫌いなものベスト3」がテーマで、「1つめはゴキブリ、2つめは仕事」と続けたあと、なんと「3つめはおまえー!」と相方の首を絞めながら叫ぶというオチ。その勢いに、南條は「キレがあるねー!」と絶賛していました。
「日本語が上手でびっくりした」
そうして9組すべての漫才が終わると、いよいよ「すゑひろがりず賞」の発表です。栄えあるチャンピオンに輝いたのは「ダメダメ」! 賞品としてよしもとグッズが授与される場面では、南條が「よしもとグッズかい! もっと、日本の旅行券とか」と不満顔でツッコんで笑わせました。
最後には、すゑひろがりずの2人が感想を語りました。
「通信環境の乱れでちょっと聞き取りにくいところもあったけど、おもしろかったです!ちゃんとネタになっていたし、日本語が上手な子が何人もいてびっくりしました」(南條)
「どういうボケなのかもわかりましたし、ぜんぜん伝わってきました。なにより型にハマっていないのがいい。(ネタの)最初に踊ったり、日本ではそんなことはしないので、こういうのもあるんだなと思いました」(三島)
それから、2月いっぱいで日本語パートナーズの任期を終える緑川まりに、あっぱれコイズミからサプライズで花束を贈呈。会場から大きな拍手が沸き起こり、感動ムードのなか漫才発表会は幕を閉じました。
“日本のトップ漫才師”の触れ込みに「震えたんやけど…」
1期違いの先輩・後輩で、大阪時代はよく劇場で一緒になっていたというすゑひろがりずと緑川まりに、イベント後に話を聞きました。
――「日本語パートナーズ」として、現地では漫才をどのように教えていましたか?
緑川 日本語の授業のなかに、相撲や日本食などさまざまな日本文化を教える「文化紹介」というのがあって、その枠で漫才を教えてきました。
そもそも私たち日本人は、漫才という文化ありきで考えるので、まったくのゼロから説明するのがすごく難しかったです。「漫才は2人1組でやるよ」「ボケとツッコみがあるよ」と基本から説明したのですが、「ボケではわざと間違えたことを言うよ」というボケの役割の説明が恥ずかしくて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)。すゑひろがりずさんは(漫才の見本として)すごくいいんです。めちゃくちゃアジアでハマりますよ!
三島 わかりやすいんかな。
緑川 すゑひろがりずさんを紹介するにあたって、まずは狂言や能の説明をして、日本には古来の伝統文化があるということを教えて……。
南條 たしかにそれは勉強になるな。
緑川 それからお笑い文化が発展し、さらにはテレビの普及によって漫才文化も確立されたというところまで教えられるので、日本のお笑いの文化や歴史を教えるのに、すゑひろがりずさんはとてもわかりやすいんです。
三島 今日のワークショップの台本を見て震えたんやけど、企画説明のところに「日本人トップ漫才師が採点」って書いているのよ。やりすぎ、やりすぎ、こんなんウソやから(笑)。
緑川 生徒のみんなにも“トップ漫才師”って紹介しました!(笑)
タイやミャンマーの笑いのツボとは?
――今回の高校生たちの漫才はどのようにして作られたのですか?
緑川 吉本興業は世界各地で漫才ワークショップを行っていて、そこで使用している台本を使いました。3つめの答えでオトすプロトタイプがあるので、その穴埋めをしてもらった感じです。
南條 ボケの部分は完全に生徒が考えているんよね。すごいよね。ふつうにおもしろかった。
緑川 おもしろかったですよね! 私もびっくりしました。
三島 長くいると、ある程度その国のあるあるとか、笑いのツボみたいなものがつかめるの?
緑川 ミャンマーはそれが下ネタだったんですけど、日本よりはライトなイメージです。女性の地位が他国と比べて高くないので、女性が強気で男性を誘うようなネタはウケますね。タイはちょっと下品でも笑いますが、国によって宗教や政治上のNGワードがあるので、その勉強は必要です。お笑いにこんなに寛容なのは日本だけじゃないですか?
三島 日本もだんだん厳しくなってるで。笑いのノリですまされないことも増えてきてんねん。痛みを伴うものはダメとか……。
緑川 えっ、そうなんですか!? ちょっと日本の笑いがわからなくなってきているところもあるので、またいろいろ教えてください。
「日本語パートナーズ」のあとは「ラオスでパンを焼く」!?
――緑川さんの今後の活動について教えてください。
緑川 2月いっぱいで日本語パートナーズを終えて、またミャンマー住みます芸人を続けます。3月にはいったん東京に戻りますが、先日、マネージャーさんから「ラオスでパンを焼く仕事ってどうですか?」という打診もあって、「めっちゃおもろいやん」って。
南條 ラオスでパンを焼く仕事ってなんやねん(笑)。
緑川 ミャンマー住みます芸人もそうでしたが、なんでも「おもしろそう」と思ったらやらずにはいられないんです。いまはまだ「日本語パートナーズってなんやねん」と思われる方が多いと思いますが、とても貴重な体験ができて、日本語パートナーズ、最高でした!
今回のワークショップの模様は、アジア住みます芸人たちが現地情報などをお届けするYoutube『よしもとHELLO ASIAチャンネル』で視聴できます。
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