東京大学と吉本興業がコラボした「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」の一環として、新たなプロジェクトがスタートしました。題して『M-1グランプリを科学する』。そのキックオフイベントが11月27日(土)に東京・ヨシモト∞ホールで開催され、東大の教授たちとM-1グランプリにゆかりのある人気芸人が、“笑いを科学する”ことについてそれぞれの立場から熱い意見を交わしました。
東大の「知」と吉本の「エンターテインメント」を掛け合わせて、学術とエンターテインメントの積極的な対話、協働を推進するため、東大と吉本が2021年3月に立ち上げた「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」。これまでも、東大の教授や学生らとともにさまざまな取り組みが進められてきましたが、今回の題材は『M-1グランプリ』。この漫才日本一を決める笑いの祭典について、学術的な分析にチャレンジします。
サッカーイベントと勘違い?
この日のキックオフイベントでは、東大大学院教授らが登壇。「笑いを科学する」観点から決定した、それぞれの研究テーマを発表します。そして、各教授の研究を見届けるパネリストとして、『M-1 グランプリ 2007』で準優勝に輝いたトータルテンボス(藤田憲右、大村朋宏)、『M-1 グランプリ 2020』覇者のマヂカルラブリー(野田クリスタル、村上)、今年の 『M-1 グランプリ 2021』では惜しくも3回戦で敗退してしまったぼる塾(きりやはるか、あんり、田辺智加)ら、M-1グランプリにゆかりのある人気芸人が登場しました。MCを務めるのは、パンサー・向井慧。ファシリテーターとして、アクセンチュアの中村健太郎氏も参加します。
パネリスト芸人たちが呼び込まれるなり、さっそく「今日、サッカーのイベントだと思ってました」とボケるトータルテンボス・藤田。「“キックオフイベント”という言葉の響きから勘違いした」と、観客を笑わせます。向井から「いま勢いのある若手、ぼる塾です!」と紹介されて登場したぼる塾・あんりも、「今年はすごく調子がよくて、M-1の予選、3回戦で落ちました」と自虐ネタで笑いを誘っていました。
「つかみ」の重要性を科学する
続いて、東大大学院の植田一博教授(総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、浅谷公威特任講師(工学系研究科技術経営戦略学専攻「坂田・森・浅谷研究室」)、大澤幸生教授(工学系研究科システム創成学専攻)の3人が登場。順番に、それぞれがスタートさせる予定の研究を紹介していきます。
まず植田教授の研究は、「漫才でのつかみの重要性」について。「本ネタ」のアイドリングともいうべき役割を果たす「つかみ」があることが、「本ネタ」に対して感じる面白さにどのように影響があるかを調べます。つかみの定義を決定して仮説を立て、実験で計測・比較するという植田教授の研究プランに、パネリスト芸人たちも真剣な様子で聞き入ります。
この実験に参加する芸人は、トータルテンボスの2人。実験のために「面白くないつかみ」を考える必要があり、「僕はできないから藤田に頼みました」と言う大村に対して、藤田は「やったことなかったんですけど、秒でできました」と返し、会場は笑いに包まれました。
「SNSからM-1優勝者を予想する」
続いて、“複雑ネットワーク”を研究する浅谷特任講師の登場です。「関係性は複雑な構造(ネットワーク)を持ち、ネットワークは多くの情報を含む」という浅谷特任講師は、芸人ネットワークを分析することで、「SNSからM-1優勝者を予想する」研究をスタートさせます。
ここで、浅谷特任講師による、ツイッターデータで分析した「ルミネtheよしもと貢献度ランキング」が発表されました。その結果は……マヂカルラブリーが2位、トータルテンボスはなんと109位という、どちらも少し意外な順位で会場は大盛り上がり! マヂカルラブリー・野田は「僕ら、歴代のM-1チャンピオンのなかでも、めっちゃ劇場出てるんですよ」と嬉しそうに話しますが、藤田は「めちゃくちゃ出てんのよ、オレらも」とショックを隠せない様子でした。
「つり革」ネタを可視化
そして最後に登場したのが、大澤教授。先端知デザインや知能情報学が専門だという大澤教授は、「キーグラフによる漫才ネタの可視化」を説明します。大澤教授自身が開発したソフトウェア「キーグラフ」を使用して漫才を可視化し、そこから、どのような言葉が重要なのか、その言葉にどのような役割があり、観客が笑っているのかなどを分析するという大澤教授は、例として、マヂカルラブリーが2020年のM-1で優勝した「つり革」ネタをグラフ化します。
そこでわかったのは、通常の漫才はボケの言葉に笑いが集まるのに対して、「つり革」はツッコミの言葉のほうに笑いが集まっていること。さらに、ボケの動作とツッコミの言葉が重なるところに笑いが集中していることに着目し、「ここでの動作は一種の言葉ではないか」と仮説を立てます。グラフを分析した結果、大澤教授は「これはやっぱり漫才だと思います。ある種、進化した笑いじゃないかと思う」と見解を述べていました。
大澤教授の見解を受け、ファシリテーターの中村氏も「通常はボケとツッコミが同時にしゃべったら聞き取れないが、動作でボケを表現することでボケとツッコミを同時に見せることができ、観客に届ける情報を増やすことができるのでは」と分析していました。
新しい「笑い」が生まれる可能性
イベント終了後の質疑応答では、芸人側から「漫才のシステムはフリ、ボケ、ツッコミぐらいしか知らないので、ほかにも笑いを生み出すシステムがあるんだったら、また新しい笑いが作れそうで面白いなと思いました」(マヂカルラブリー・村上)、「お笑いって人それぞれだし、科学するなんてアテにならないんじゃないかと思ったんですけど、甘く見ていられないなと思いました」(大村)など、新しい発見があったという意見が多く飛び出しました。
一方、中村氏は海外でも仕事をしている経験から、研究から生まれる日本の笑いの新たな可能性に期待を寄せていました。
「日本のお笑いのクオリティは圧倒的に高いんですね。でもそのよさがあまり海外に伝わっていなくて。数値化することによって、日本の笑いを海外にもっと紹介できる、海外に出せるコンテンツになるんじゃないかと思っています」
研究結果の発表は2022年春。ここから見たことのない新しい笑いのシステムが生まれるかも!?