“襲名10周年”林家菊丸が記念独演会でたっぷり三席「1人でこんなにしゃべったのは初めてです」

落語家の林家菊丸が、襲名10周年の記念落語会を9月23日(火・祝)に大阪・天満天神繁昌亭で開催しました。この日の「第十回三代目林家菊丸独演会~菊丸襲名十周年記念」は、前座を除いて菊丸が1人で三席披露。「いまの自分にできることをまっすぐにお届けしたい」という菊丸の思いが詰まった独演会になりました。

出典: FANY マガジン
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「今日はしっかりと三席やります」

前座を務めたのは桂笑金。菊丸には普段からお世話になっているという笑金のネタは「犬の目」です。くり抜いた眼病患者の目が犬に食われたことから、食った犬の目と取り換えるという奇想天外な噺を、ほがらかな語り口で聞かせます。不安に駆られる患者と、動じない医者の対比を巧みに描きました。

続いて菊丸が高座に顔を見せると、大きな掛け声。菊丸は、林家正蔵襲名披露公演のトップで登場して「犬の目」をかけたことを振り返ります。そして、「今日はしっかりと三席やります。一席目は夏の噺の『青菜』で夏の雰囲気を漂わせつつ、二席目は久しぶりの『猿後家』。三席目は『幸助餅』です」と語りました。

出典: FANY マガジン
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「青菜」は、夏の夕方、植木仕事を終えた職人に依頼主の旦那が声をかけるところから始まる噺。菊丸は、扇子を仰ぎながら旦那の優雅な雰囲気と夏の夕暮れを描きます。旦那に誘われて酒や料理をおいしそうに食べる植木屋を活写。ワサビを頬張った場面では、顔を真っ赤にして植木屋の慌てぶりを表現しました。

そして、植木屋が四畳半一間の長屋に帰ってからは、世界観が一変。決して裕福な暮らしではないものの、友だちや妻を巻き込んで「旦さんごっこ」を始める植木屋をユーモアたっぷりに魅せました。

続いて二席目へ。「菊丸になって10年、その前は染弥で20年やっていました。10数年前から上方落語界は襲名が続きました」と、笑金の師匠である故・桂三金のエピソードを披露しました。そして、「人間、誰しも口が滑ってしくじることがあります」と本題へ。

「猿後家」は菊丸が得意とする女方が堪能できる噺。大店の後家さんが「猿そっくり」と言われて涙ながらに思いを語るいじらしい姿や、「藤娘に似ている」と言われてまんざらでもない様子など、表情豊かに体もくねらせながら演じます。一方、番頭や丁稚は親近感たっぷりに、色男は爽やかに、大店に出入りする老若男女を生き生きと演じました。

出典: FANY マガジン
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40分間の人情噺で客席を魅了

中入り後は、最後の人情噺「幸助餅」です。相撲好きが高じて相撲取りの雷を贔屓にしたばっかりに、親から継いだ餅米問屋の大黒屋をつぶしてしまった幸助。挙句、借金のかたに妹を花街の吉田屋に売るも、そのカネも直後にばったり出会った雷に渡してしまって一文無しになります。

その後、雷のことを忘れて再起を図る幸助の店に、数年ぶりに雷がやってきたことで事態は急転し、真実が明らかになります。じりじりとした焦りや激しい怒り、心穏やかな日々など情感豊かに幸助の心情を描く菊丸。

雷を演じる際にはその大きな体が目の前に立っているような臨場感で魅了します。また、吉田屋のおかみは落ち着いた大人の女性の雰囲気を含ませるなど、人物も情景も丁寧かつ鮮やかに描写。約40分のネタをたっぷりと聞かせました。

出典: FANY マガジン
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終了後、「1人でこんなにしゃべったのは初めてです!」と語る菊丸は、最後にこう挨拶して笑顔を見せました。

「去年は(芸歴)30周年で、今年は襲名から10年。この独演会は11月9日(日)の博多で千穐楽となります。その後は、11月14日(金)に京都ロームシアターで桂宮治くんとの二人会もございます。ご興味を持ってもらえましたら足をお運びくださるとうれしい限りです。とにもかくにも今日はありがとうございました」