全国手話検定3級、手話技能検定3級を持つ吉本新喜劇の筒井亜由貴によるリーダー公演『手話新喜劇2』が、11月3日(月・祝)に大阪・新世界ZAZA HOUSEで開催されました。筒井が一般社団法人「手話エンターテイメント発信団oioi」と協力して作り上げたオリジナルの舞台は、今回も大好評。終演後には手話のワークショップも行われ、耳の聞こえない人だけでなく、聞こえるお客さんも大いに楽しみました。

「手話ができる人もできない人も楽しめます」
2017年の「金の卵9個目オーディション」を経て吉本新喜劇に入団した筒井による、手話で笑いを届けるステージの第2弾。いろいろな人に手話を身近に感じてほしいと、昨年12月に開催された『手話新喜劇』が好評だったため、今回の公演が実現しました。
「この新喜劇は、セリフ・手話・字幕を使って表現するので、耳の聞こえない人も聞こえる人も、手話ができる人もできない人も、誰でも楽しめます」
公演前、得意の手話を使って自ら前説をつとめた筒井が、まずこう伝えます。舞台上に設置された大型モニターに字幕による同時通訳が。このモニターには、舞台でのセリフや手話の翻訳がリアルタイムで表示されます。

これは、「情報のバリアフリー化」や「情報保障」(障がい者が得られるべき情報を保障すること)と呼ばれるもので、客席後方にスタンバイしているoioiの「情報保障チーム」の、たかこ、ゆっきー、ゆんがパソコンで作業して表示。タイミングよく表示される字幕のスピードや正確性にも注目です。
この日の新喜劇のタイトルは「軽い想いじゃ彼女を手に出来ない」。うどん屋オープンを夢みる主人公の筒井が、彼女の兄に交際を認めてもらうために奮闘する物語です。
筒井を甘い話でだまそうとする詐欺師役に佐藤太一郎、刑事役におやどまりも出演。oioiのメンバーからの出演者は、のぶ、ちーたん、りょーじ、ひろ、ツチモン、めろん(手話通訳)の6人です。
筒井は、冒頭の登場シーンから得意のブレイクダンスを披露。並外れた身体能力で視覚的なインパクトを残して、お客さんを楽しませます。
お約束のギャグを手話で披露

うどん屋台アルバイト役ののぶは、天真爛漫なキャラクターを元気いっぱいに演じ、“手話ネーム”で自己紹介。手話ネームとは、“手話のあだ名”のようなもので、のぶの場合は“ドアノブをまわすしぐさ”で表現されるそうです。
みんなの手話ネームを考えるくだりでは、手話でボケまくって大盛り上がり。さらには、若者の間で流行っている手話の解説も。手話新喜劇ならではの、ためにもなる内容が満載で、客席から「へぇー!」という声も聞こえてきました。
筒井の彼女役のちーたんは、「かわいいですね」と褒められると「かわいいなんて嫌やわー!!」とバックで頭をたたく、新喜劇お約束のギャグを披露。座員顔負けのフルスイングと手話によるキュートな演技で舞台を盛り上げます。妹のちーたんを溺愛する兄役のひろは、感情のこもった演技力を見せました。

詐欺の注意喚起で現れた刑事役のおやどまりの言葉は、めろんが手話で通訳します。刑事の部下役のツチモンが、「聴覚障がい者なのになぜ刑事になったの?」と質問される場面では、「ネコに憧れて……」と答えるハプニングがあり、客席だけでなく出演者も巻き込んで笑いが起きました。
詐欺師役の佐藤が独特の動きで登場すると、大げさなセリフを大げさに手話で表現するくだりが大ウケです。佐藤は、「店をサポートさせてほしい」と言って契約料をだまし取ろうとしますが、意外な人物が現れ……。後半は、アクションあり、笑いあり、どんでん返しありで、全員が大活躍する新喜劇に客席は盛り上がりました。
お客さんが手話で新喜劇のギャグにチャレンジ!
終演後のトークで佐藤は、「oioiさんとはじめて共演して、めちゃくちゃ楽しかった! のぶとはもうガチの親友です」とすっかり打ち解けた様子。「手話ネームで呼んで」とお願いする佐藤に、のぶが手話で「絶対おことわり」と返して、再び笑いが起きます。
おやどまりは「字幕スタッフさんの対応もすごい。アドリブの部分も完璧に表示されていてビックリしました」と感心しきり。そして「oioiさんの活動も、手話新喜劇も、もっと広まってほしい」と語りました。
oioiののぶは、「通訳の立ち位置や並び方など、耳が聞こえないぶん、演者同士(の手話)が見やすいようにいろんな工夫をしています」と語り、「これからも新喜劇を続けていきたい」と意気込みました。

さらに今回の公演では、新たな試みとして終演後に手話ワークショップ「筒井亜由貴と一緒に手話を覚えよう」を実施しました。筒井は、子どものころに街で見た手話に感銘を受け、コロナ禍のときに「手話奉仕員養成講座」に通って手話を学んだといいます。ワークショップは、気軽に楽しんでもらうために、マイクなしでお客さんと同じ目線で会話しながら行われました。
筒井は手話の魅力をこうアピールします。
「ひとつの表現でたくさんの意味を持つところが面白い。50音の指文字と組み合わせたらいろんな表現ができるんです。口の動きでもジェスチャーでも伝わるから難しく考えないで」
簡単な挨拶や国による表現の違いを学んだあとは、新喜劇のギャグを手話でやってみることに。お客さん2人がステージ上で挑戦しました。アクションも表情も完璧に手話で表現した2人は、最後の“コケ”もバッチリ!
最後に筒井はこう意気込みました。
「来年も3回目ができるように頑張ります! 耳の聴こえない人が街で困っているとき、“大丈夫ですか”と遠慮せずに声をかけてみてください。スマホに文字を書いて見せるだけでもOK。手話の世界に一歩近づいてもらえたらうれしいです」
