智辯和歌山・髙嶋名誉監督&トータル藤田が夢の対談! “異例”の甲子園に「前に進む以外ない」

コロナ禍での開催に加え、東京五輪の影響で日程変更、さらには台風や大雨が続いて試合が延期になるなど、異例ずくめの大会となった今年の夏の甲子園。今回は、決勝を争った智辯学園(奈良)と智辯和歌山(和歌山)で長年監督を務めた名将・髙嶋仁さん(現在は智辯和歌山の名誉監督)と、高校野球大好き芸人のトータルテンボス・藤田憲右の2人で改めて大会を深掘りし、高校野球の魅力をたっぷりお届けします!

出典: FANY マガジン

全国の高校球児が熱い戦いを繰り広げる夏の甲子園。昨年は、新型コロナウイルスの影響で中止となりましたが、今年は選手や関係者にPCR検査を実施するなど対策を講じたうえで、なんとか開催されました。そんな波乱に満ちた大会の決勝は、史上初となる智辯和歌山と智辯学園の「智辯対決」に。結果は9-2で智辯和歌山が制し、21年ぶり3度目の優勝を果たしました。

新しい時代に突入した高校野球

——今年の夏の甲子園を振り返って、どのような感想を持ちましたか?

髙嶋 コロナもあって、できるのかな?って思っていたんですけど、(球児たちが)必死にやっている姿を見ると、開催してくれてよかったなと思いました。それと同時に、日本高等学校野球連盟(高野連)や関係者に感謝ですよね。
前半はホームランが少なくて、記者から「なんで少ないんですか?」と聞かれたこともありましたが、結果的には後半にたくさんのホームランが出ました。コロナもあって、いちばんの調整期間の6月に対外試合ができなかったんですよ。そういう面で実戦不足があったのかなと思います。

——藤田さんはいかがですか?

藤田 新しい時代の高校野球に突入したのかなと思いました。その象徴だったのが、(髙嶋さんの)教え子でもある中谷仁監督率いる智辯和歌山が優勝した瞬間です。これまでは、優勝が決まると部員がマウンドに集まって歓喜の輪になるのが定番だったんですけど、今回は選手たちが考えて、整列したあとに自分たちで喜びを分かち合った。“相手あってこそ”というスポーツマンシップを、子どもたちが第一に考えられるようになってきた、という新しさを感じました。

出典: FANY マガジン

髙嶋 負けたほうからすると、優勝してマウンドに集まられるのは、見栄え的によくないんですよね。今回は、“試合が終わってから自分たちで喜ぼう”という監督の意図するものを、選手が理解してやってくれたんだと思います。カッコいいなって思いましたね。

藤田 そうですよね。あと、複数投手制を採用しているチームがものすごく多かったですよね。最後、エースが投げずに負けてしまった高校もあったんですけど、そんなに悔し泣きするチームはなかった印象です。青春時代のすべてを野球にかけるのが前時代だとしたら、いまは競技に寄った大会になったのかなって思います。僕的には、野球だけじゃなくて、文武両道でいまの時代に合っていると思いますし、新しい高校野球になったなと感じました。

髙嶋 複数投手制について、僕は何十年前からやっていて――。

藤田 やられていますよね。

髙嶋 なぜやっていたのかというと、1人で完投できる投手が入ってこなかったからなんですよ。3回をきっちり投げられるように、とっかえひっかえやって戦っていたのが僕の時代。複数投手は、何年も前から高野連が推し進めてきたことですからね。それがようやく全国的に浸透してきたのかなって思います。
僕らの時代、ベンチに入れるのが14人。いまは18人。その意図っていうのは結局、ピッチャーなんですよ。できるだけ1人の投手に負担をかけないようにっていう高野連の思いが入っている。それを全国の高校が理解して浸透したのは、いい方向に向かっていると思います。

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名将・髙嶋の注目選手は?

——今年、注目していた選手を教えてください。

髙嶋 明桜(秋田)の投手(風間球打選手)は、いい球投げていましたね。あのストレートは、そう簡単に投げられないと思います。でも、2回戦で明徳義塾(高知)に負けました。明徳の馬淵史郎監督が、いろいろな作戦を立てて最終的には勝ったわけです。甲子園は、最後までどうなるのかわからない。これが高校野球の面白いところですよね。

藤田 僕は何人かいたんですけど、個人というより、左ピッチャーで好投手が増えた印象がありました。こんなに左ピッチャーが活躍する年ってなかったんじゃないかなって思います。

髙嶋 ちょっと投げられる左ピッチャーは勝てるんですよ。だからプロでもほしがるし、打者では右の大砲が人気なんです。

藤田 明徳の吉村優聖歩くんなど、変則サウスポーも増えましたよね。

髙嶋 大会前に評価が高かった岐阜商業(岐阜)も彼にやられたんですよね。ああいったピッチャーは、強豪校になればなるほど苦手なんです。(変則に対応するような)練習はしていませんからね。

藤田 逆に風間くんみたいなピッチャーのほうが作戦は立てやすいのかもしれないですね。

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髙嶋 そうですね。変則投手の打ち方っていうのもあるんですよ。僕が監督のときは、常に右、左、変則、この3通りのピッチャー相手の練習をしていました。

藤田 あの子を見て、将来的に150キロ投げる左のアンダースローが出てきたら、めちゃくちゃ打ちづらいだろうなって思いました。

髙嶋 打ちづらいでしょうね(笑)。

——コロナ禍で選手は満足に練習もできない状況ですが、もしこの時代に髙嶋さんが監督をしていたら、どんなことを選手に伝えますか?

髙嶋 この状況を逆手に取りますね。全体練習はなかなかできないけど、個人練習はできるわけですよ。個人練習のバリエーションを教えたり、ビデオを見て学ぶ時間、ルールブックを開いての勉強など、細かいところを指導していくと思いますよ。

——止まらず、とにかく動き続けることが大事なんですね。

髙嶋 ケガをして休んでいる選手にも「確かにケガはいいことではないんやけども、その間に野球の勉強ができるやないか」と言っていました。そういう面でいうと、ケガから復帰した選手が活躍することも多いんです。頭のトレーニングをきっちりしているから活躍できるんですよね。

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藤田 僕、知り合いに監督さんが何人かいるんですけど、昨年、大会が中止になって無念だった3年生を元気づけてほしいということで、何校か行かせていただいたんですよ。そのとき僕は、「戦後で甲子園が中止になるのは初めて。2020年の3年生は特別な世代だと思う。これって最悪だって考え方もできるけど、“100年の歴史のなかで、こんなことになったのってオレらの世代だけだぜ。すごくない?”ってポジティブに考えることもできる」と伝えました。

——こういうときだからこそ、ポジティブ思考が大事なんでしょうね。

髙嶋 もちろんそうです。なにがあっても前に進む以外はないんですよね。いい選手・いいチームっていうのは、予期せぬことがあったとき、どう動くかなんですよ。練習でやっていないことが試合で起きても対応できるのが“いい選手”。それを積み重ねて勝ちに結びつけるのが“いいチーム”ですから。

——今年は、コロナはもちろん長雨もあって、選手は苦しかったでしょうね。

髙嶋 調整は難しかったと思います。今日は試合だと準備しても、2日も3日も中止になったら調整できないですよ。そういうことがありながらも、智辯和歌山と智辯学園が決勝に上がってくれたのは、涙が出てきましたね。

——改めて、高校野球の魅力はどんなところにあると思いますか?

髙嶋 たくさんありますが、損得勘定を抜きにした一生懸命さですね。自分が鍛えてきたことを全部出して、目一杯やることに意義があると思います。それと、甲子園はなにが起きるかわからない。よく「魔物が住んでいる」って言われますけど、確かに住んでいます。今年、横浜高校(神奈川)の1年生(緒方漣選手)が、2アウトから逆転3ランを打ってサヨナラ勝ちしましたが、緒方君は決してホームランバッターではないんですよ。そういう子が、あの場面で打てるのが甲子園なんですよね。
選手は、甲子園球場に入っただけでアドレナリンが出ているんです。「力むな」と言っても力んでしまう。僕は選手に「10の力があるとしたら、5以下でいいよ」という話はするんですが、そうは言っても10以上の力が出てしまう。それくらい、あそこではパワーが入っちゃうんですよね。

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藤田 先生がおっしゃられたことがすべてだと思うんですけど、(部活動として)約2年3カ月というタイムリミットが決まっている“はかなさ”もいいなと思います。決勝まで勝ち上がった選手でも、もれなく8月の下旬には高校野球が終わってしまう。2年と少しという短い間ですけど、各校の時間は平等で、その時間をどのように活用してきたのか――その集大成が最後の夏に見えてきますよね。さらに負けた高校は、先輩の無念を後輩が引き継いでいくじゃないですか。代々その絆がつながっていく様も、すごく好きです。
昨年なんてコロナで中止になっちゃって、今年の選手は先輩の思いも背負っていた。春の選抜の選手宣誓で「2年分の甲子園」と言っていましたが、そんな選手同士の縦のつながりもグッときますね。

最強打線だった2000年の智辯和歌山

——藤田さんから髙嶋さんに聞きたいことはありますか?

藤田 今年、大阪桐蔭(大阪)対東海大菅生(東京)が、雨で降雨コールドゲームになりましたが、智辯和歌山で髙嶋先生が指導されていたとき、雨のなかでの戦い方の練習もされていたんですか?

髙嶋 雨のなかでも練習や試合はしますね。

藤田 あの試合についての髙嶋先生の記事を読ませていただいたんですけど、「大阪桐蔭は、雨のなかでいつコールドになってもいいように、とにかく前半で点をとって、常にリードを保つことができていた」とおっしゃっていました。高校野球の監督をやっている方からすれば基本的なことかもしれませんが、一般の人間からすれば“さすがだな”って思いましたね。

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髙嶋 ウチも雨のなか、大阪桐蔭と何度も試合しましたね。

藤田 常に本番を想定して準備をしているということなんですね。

髙嶋 あらゆる可能性を考えながら、ふだんの練習をやっていましたから。

藤田 練習といえば、智辯和歌山の6月の強化合宿。腹筋・背筋1,000回ずつやるんでしたっけ?

髙嶋 練習試合前に100メートルを2時間走り続けます。そのあと、腹筋・背筋を2,000回。

藤田 2,000回!?(笑)

髙嶋 それから試合で、負けたらランニングですね。つまり、最悪の条件で試合をさせるわけです。(甲子園の期間に)炎天下で試合をしても倒れない練習をやってきているんです。

藤田 だから、7月の和歌山の地方予選はクッタクタの状態で始まるんですね。

髙嶋 そうですね。試合が終わってからも練習をするので、練習しないのは地方予選決勝の前の日くらいじゃないですかね。甲子園に入ると割り当てがあるので、練習時間が2時間しかないんですよ。そこで体がラクになってくるので、地方大会では1本もホームランがなかったのに、甲子園ではたくさん打つこともありました。2000年に優勝したときはそうでしたね。ホームラン11本、総安打数100安打、打率も4割を超えたり、いろいろな記録を作りました。

藤田 あの年、予選では打っていなかったんですね……。すごいなー。

髙嶋 甲子園で勝つというのはプラスアルファで、苦しい練習を乗り越えて出場するということが大事だと思っています。

出典: FANY マガジン

孫が活躍した決勝戦!

——髙嶋さんは、春夏の甲子園大会で監督として歴代最多68勝、優勝も3回経験していますが、特に印象に残っている試合は?

髙嶋 選抜の甲子園で初優勝した年(1994年)の3回戦(準々決勝)、上甲正典監督率いる宇和島東(愛媛)と戦ったときですね。8回終わって4-0で負けていたんです。それを9回表に5点取ってひっくり返したんですけど、9回裏に同点に追いつかれて、延長で勝ちました。
それで選手が勢いづいて、準決勝のPL学園(大阪)、決勝の常総学院(茨城)と勝って優勝しました。やはり、負け試合をモノにしたから優勝できたのだと思います。高校生は勢いづけると止められないですよ。勝手に走ってしまいますからね。あれは、一生忘れられないと思います。

藤田 1試合だとわかるんですけど、次の試合まで2日ほど空いちゃうじゃないですか。試合当日までその勢いを保っているかわからないし、その意味では、出たとこ勝負みたいなところもあるんですか?

髙嶋 ありますね。高校生というのは2、3週間続けて調子が持たないんです。(続いたとしても)1週間から10日ほどですね。だから、その1週間の間に試合してくれたほうがいい。今年の智辯和歌山がそうだったと思いますよ。最初は不戦勝で、1試合目やるまで時間が空きましたが、試合が始まると、トントンと勢いで勝ち進んでいきました。

藤田 リズムがよかったんですね。

髙嶋 そうです。智辯学園のほうは最初よかったんですけど、雨で狂わされて、準決勝、決勝あたりは下降気味でした。下降気味と上り調子があたったんで、9-2という試合になったんです。

藤田 決勝戦は、昔の智辯和歌山の戦い方を見ているようでした。髙嶋先生が指揮を執られていたころ、特に全国制覇した代は、初回で決めちゃう感じがあったじゃないですか。あんな感じを見ているようでしたね。
僕、地方予選から見ていたんですけど、智辯和歌山は、県大会の決勝(市立和歌山戦)がいちばん苦戦したんじゃないですか? 序盤、ガマン比べがありましたもんね(5回まで両チーム無得点)。

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髙嶋 そうですね。市立和歌山がチャンスを作りながら点を取れなかったんですよ。スクイズでもいいから、がむしゃらに点を取りに行けば、わからなかったですよ。そこで点を取れなかったために、智辯和歌山に流れがいった感じですね。

藤田 お孫さん(髙嶋奨哉選手)が決勝タイムリーを打ちましたもんね。

髙嶋 そうですね。手前味噌になりますけど、“ここでほしい”というときに打ったんですよ。甲子園の決勝もそうでした。(1回表に)2点入れて2アウト2、3塁。あそこでヒットが出なければ、2-0で進んでいました。そこで1本ヒットが出て、2点だったのが、4点になったんです。あのヒットが大きいですね。ベンチとしてもありがたいヒットだったでしょう。

藤田 驚異的な7番バッターでしたよね。勝負強い!

髙嶋 7番まで打たれると、相手の投手は気が抜けないでしょうね。

藤田 いま、先生の教え子である方たちが名門校で監督をしていらっしゃるじゃないですか。僕は、しばらく髙嶋門下生の時代が続くんじゃないかなって楽しみにしています。

髙嶋 それなりに応援していますけどね。

藤田 “それなりに”ですか(笑)。髙嶋監督、対談していただきありがとうございました!

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