満州の人たちの生活やエリザベス2世の戴冠式が…!? 「パテ・ベビー」の歴史的フィルムを発掘【京都国際映画祭】

100年前に誕生した家庭用撮影&映写機「パテ・ベビー」。その残されたフィルムを集めて修復、デジタル化した作品が、10月15日(土)、16日(日)に開催された京都国際映画祭の初日に、「パテ・ベビー誕生100年洋画篇」として京都・おもちゃ映画ミュージアムで上映されました。『パテ・ベビー』という言葉を聞いて「なんか可愛くて美味しそう」と思った“知識ゼロ”、吉本新喜劇座員で芸人ライターの𠮷岡友見が、そのイベントの様子をレポートします (大丈夫でしょうか……) 。

出典: FANY マガジン
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「パテ・ベビー」は、1922年にフランスのパテ社が開発した、個人撮影・家庭内上映ができる9.5ミリフィルムとカメラ、映写機のシステム。これによって、一般の人たちが家庭で小型映画を楽しんだり、ホームムービーを撮ったりできるようになりました。その誕生100周年という記念すべき年にちなんで、京都国際映画祭ではサイレントクラシック企画として「パテ・ベビー誕生100年」洋画篇と日本映画篇の2つのプログラムが実施されました。

会場は築100年の京町家

会場となったおもちゃ映画ミュージアムは、築100年の京町家を改装し、ほとんど残っていない日本の無声映画を次世代に残すための活動をしています。古い家屋の中に光学玩具、写真、幻灯機を展示している、レトロな雰囲気の素敵な場所です。

映画ファンの人たちで客席が埋まったところで、MCを務める高山トモヒロが登場。「パテ・ベビーって何か知ってますか? 僕はぜんぜん知らないんです。スタッフに聞いても教えてくれなかったので、今日はしっかり勉強したいと思います!」と意気込みます。

出典: FANY マガジン
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今回、パテ・ベビーを紹介してくれるのは活動写真弁士の大森くみこさん、ピアノ演奏の天宮遥さん、そして解説の高槻真樹さん。さっそくパテ・ベビーとは何かと高山が質問すると、「いまのスマホで“ホームムービー”を撮るような、個人映画や家庭内上映向けのシステムです。9.5ミリのフィルムで8ミリよりも画質が良く、値段が高いのでおカネ持ちの家庭で上映されていました」と高槻さんがわかりやすく解説してくれました。

活弁歴10周年を迎える大森さんは「豚骨ラーメンのように濃い10年だった」と振り返って客席の笑いをとり、その大森さんと共演回数の多い天宮さんは「ピアニストとして活動しつつ、大森さんの活弁に伴奏をしています。活弁ってとても面白いんです。わたしは、映像を盛り上げ、彩を添える伴奏を心がけています。縁の下の力持ちです」と伴奏の役割について教えてくれました。

出典: FANY マガジン
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無声の登場人物に息を吹き込む「活弁」

出演者の挨拶が終わったところでさっそく、満州事変以前に大連で暮らしていた邦人の生活の記録『満州ベビー・シネマ倶楽部』、エリザベス2世誕生の瞬間である戴冠式の様子を撮影した『エリザベス2世戴冠式』、そして1920年代に活躍したサイレント映画のスーパースター、ハロルド・ロイドのショートコント集『ロイドのショートショート』の3作品を高槻さんの解説と天宮さんのピアノ伴奏に乗せて観ていきます。

満州のお祭りや一般人の生活を撮影した『満州ベビー・シネマ倶楽部』はパテ・ベビーの特色であるホームムービーの要素が大きく、役者でも何でもない人々の生活を映し出していて、高山も「ずっと観ていられる」と興味津々。

高槻さんは「ただのホームムービーでも、時間がたてば歴史的資料として観られる。一般人の生活を残していけるので、いまみなさんが撮っているものも残していくべき」と語ります。

出典: FANY マガジン
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後半は大森さんの活弁に天宮さんの伴奏で、チャップリンの『チャップリンの消防夫』、女優グロリア・スワンソンのデビュー当時の喜劇『美しきサルタン』を上映。さまざまな登場人物の声を出し、ストーリーテラーの役割、そしてベルの効果音まで1人で担う大森さんの活弁によって、映画のなかの登場人物に息が吹き込まれ、客席からも笑い声が。

高槻さんも「わかりやすく台本を作られていて本当にすごい。たまに出る関西弁がすごくいい」と大森さんの活弁に感動しきり。「関西弁は意識的に入れている」と大森さんは自分なりの“テクニック”を教えてくれました。

出典: FANY マガジン
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むかしの人や出来事が映像で身近に

上映を終えて高槻さんが、映画の魅力をこう語ります。

「個人が撮影したホームムービーからハリウッドの大作まで、映画にはいろいろな種類があって、短い作品でも弁士が膨らませたりと、いろいろな楽しみ方がある」

天宮さんは「コメディーは、笑いながら伴奏してしまいました」と、ピアノでプロの技を見せながらも、心の底から映画を楽しんでいた様子。最後に大森さんも、この日の貴重な映像の数々についてこう語りました。

「いまは“動画”の時代ですが、改めて、今回のような映像が原点だと思いました。映像って“記録”です。写真じゃなくて動いているから、むかしの人や出来事も身近に感じられる。映像の価値を感じました」

出典: FANY マガジン
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普通の人たちの普通の生活、服や髪形、笑顔や動き。時代が違っても、人は生きて生活をしていたんだと、いまと変わらないものに感動し、そしてなぜか安心もしました。

筆者にとって、活弁は今回で2回目ですが、実は人生初活弁体験も大森くみこさんだったのです。初めて見たときの衝撃と感動は、いまも忘れません。そして今回も驚き、心から楽しませていただきました。無声で観ても面白いものが、大森さんの活弁で何倍も立体的になり、天宮さんの伴奏で白黒がカラーになるような感覚。未体験の方はぜひ味わってほしいです!

そして皆さん、いろいろな動画残しておきましょう。どんな価値がつくかわかりませんからね!


サイレントクラシック企画「パテ・ベビー誕生100年」洋画篇&日本映画篇のイベントの模様は「京都国際映画祭2022」公式サイトで視聴できます!

『パテ・ベビー誕生100年 洋画篇』はこちらから。
『パテ・ベビー誕生100年 日本映画篇』はこちらから。

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