FANYマガジン特別限定連載! 人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ 第二話」from Amazon Audible『本ノじかん』

人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ」

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボによる珠玉のストーリーをお楽しみください!

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒ...

ピース・又吉直樹の「本の魅力を語らないか?」の一言からはじまった、又吉、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫による「第一芸人文芸部」。

そんな「第一芸人文芸部」がお届けする、現在、毎週木曜にAmazon Audibleにて配信中の、又吉が編集長を、ピストジャム、ファビアンがMCを務めるブックバラエティ『本ノじかん』。

毎回、ゲストをお迎えし、好きな作品や著書、影響を受けた一行、執筆方法や読書法など、それぞれのブックライフをMCの2人と語り合いながら、本を愛する方々、そして本にあまり触れてこなかった方々へ、本の魅力をお伝えする番組です。

出典: FANY マガジン

そしてこのたび、『本ノじかん』の企画の一つ、人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』をFANYマガジンで特別連載することになりました。
執筆メンバーは、バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボ(連載順)。

さらに、Amazon Audible『本ノじかん』の『クチヅタエ』で朗読を担当するのは『ヒプノシスマイク』の飴村乱数役をはじめ、『アイドリッシュセブン』の二階堂大和役など、人気作品のキャラクターを多く演じている人気声優の白井悠介!

作者も誰も予想できないストーリーをぜひお楽しみください!

『壁のないフィナーレ』第二話 3時のヒロイン・福田麻貴

出典: FANY マガジン

僕が目にしたものを全て口に出してしまうと、いつも誰かが傷ついて、最後には僕が一番傷ついてまた後悔する。

今回は犯罪が絡んでいるだけに、持っている情報は全て話した方がいいのだろうが、それでもあの名前が口からどうしても出ないのは、今まで僕が投げかけた社会性をはみ出した言葉を受け取った数々の人の歪んだ表情が、今もアルバムのように思い出せるからだろう。

目撃した数人の中で最も怪しい動きをしていたのは、意外な人物だった。

葬儀中、僕は僧侶の読経を聞き流しながら暇つぶしに記憶の中に入って、葬儀前の親族達のやり取りを反芻して楽しんでいた。

祭壇の前には何人か人がいて、棺桶の傍に立つ母が「綺麗でしょ」と祖母の死化粧の解説をしている。その向かいには、遠い親戚の子だろうか、見覚えのない小さな少年が父親らしき男に「顔を見てあげなさい」と言われ頑なに拒否している。
わざわざ父親に抱き上げられてまで祖母の死に顔を見せられた少年は「こわい」と泣き出してしまい、辺りに気まずい空気が流れた。
まもなく葬儀が始まろうとしている。
祭壇から少し離れた所にフォーカスしてみると、受付を担当していた女性が、集まった香典の束を沙也加の母に渡している。
受け取った沙也加の母は、金庫のある部屋に向かった。
その後ろを少し離れて一人の男がついていったのが一瞬見えた。

不審に思った僕は記憶の画像の中で、さらにその男のディテールを観察してみた。
その後ろ姿は体つきからすると同世代だが、後頭部は不揃いの毛先の間からところどころ白髪が飛び出ており、かなり疲れた印象を感じる。

さらに観察しようと眉間にシワを寄せていると、読経中の僧侶が合掌を促し、親族は手を合わせ目を瞑った。
僕も倣おうしたとき、一人の男が遅れてやってきて斜め前の席に座った。
その後頭部は、まさに金庫の部屋に向かった男と一致した。僕は驚いた。

その人物は、一色直人だった。
直人は僕の父の妹の息子で、すなわち父方の従兄弟である。
僕より3つ上で、今でこそ同世代と言えるが子供の頃の僕と沙也加にしてみれば、彼は随分大人に見えた。

親戚の集まりで母達がおしゃべりに夢中になっている間、僕達は膨大な暇を3人で潰した。神童と呼ばれた僕も、走りの速さや遊びのセンスでは3つ上の直人に到底勝てるはずがなく、僕は直人の提案する遊びでどうにか沙也加だけには負けないようにしてプライドを保つしかなかった。

中学、高校と成長するにつれて、親戚の集まりに顔を出すことは減り
「直人がサッカーのクラブチームでキャプテンになったらしいわよ」
「沙也加は自分から進学塾に通いたいって言い出したんだって」
などと母が遠回しに僕を焚き付けるように聞かせてくる断片的な情報でしか彼らを把握することはなくなった。もちろんその焚き付けは失敗していて、ただただ僕の劣等感が強まるばかりだった。

あの直人が、なぜ。

直人を見るとどうしても引っ張り出してきてしまう記憶がある。
ぼんやりと間接照明に照らされる男女の横顔。
こういうとき瞬間記憶というのは僕のしまっておきたい感情を強引に掘り起こさせる残酷なハンデだ。

20歳の頃、親戚の集まりに半ば強制的に参加させられ、僕達3人は久々に顔を合わせることになった。
大人になった沙也加はちゃんと女性になっていて、再会というよりも、大学で初対面の女子と対峙する時とほぼ同じ感覚だった。
昔は大人に見えた直人は僕より背が低かったが、何の陰りもなく誰の悪意も受け取らずに生きてきたような爽やかな佇まいは健在だった。

終始2人とどう話せばいいかわからなかったが、親達が酔い潰れ、居心地が悪く感じていたのは皆同じだったようで、直人の一言で僕達3人は家を出て、彼の行きつけらしいバーで飲むことになった。

大手広告代理店に就職した直人は、綺麗に切り揃えた短髪をジェルでスタイリングしていて、友人だという店長と飾り気のないトーンで談笑している。
沙也加は初対面の店長とさりげなく共通の話題を作ってフラットに会話している。
そういえば母方の従姉妹である沙也加と父方の従兄弟である直人は血が繋がっていない。あり得ないよなと思いつつも、2人が少しお似合いに見えてくる。

僕は慣れないバーで、なるべく直人よりも早く酒を飲み干すことで、昔の活発で無敵だった自分の残り香を何とか2人に嗅がせようと空回っていた。
結果、バーカウンターに突っ伏した状態で目が覚めた。
どれだけそうしていたがわからないが、半分残ったマティーニの向こう側で、水の中みたいにぼんやり滲んで見える直人と沙也加の声の落ち着きから、かなり時間が経っていることがわかった。

「せっかく入った大学もほとんど通ってないんだってね」
沙也加が心配そうに言う。

「何でこうなったんだろな。あんなに期待されてたのに」
直人の表情からは、心配を装った優越感が透けて見えた。

僕は能力のおかげで努力せずとも難関大学に入れたが、肝心の通う意味というものがどこにもなく、ほとんど家に引きこもっていた。
自分の不甲斐なさはわかっている。
だけどこうして目の前で言われると、その口の動き、表情、シワの隅々まで頭の中に一生こびりついてしまうんだ。

「まぁいろいろあったんだと思うよ。ほら、離婚もあったし」

沙也加のその言葉は僕を完全には理解していないものの、気休めとしては十分優しかった。

とろんとした目で「懐かしいよね。覚えてる?」と話を変えた沙也加の口から、僕のいない、直人と2人きりの思い出が語られるのを眺めながら、僕は目を閉じた。

あれから10年も経っているというのにこの憎き瞬間記憶のせいで当時の感情がありありと甦る。
虚しさに肩まで浸かって目を閉じた後の光の残像までもが思い出されるようだ。

一色直人。この名前を発したら沙也加はどんな表情を浮かべるだろうか。
この場はどんな空気になるだろうか。口を開けてみるが声が出ない。
沙也加の気持ちを慮る一方で10年前の敗北感と悔しさが込み上げる。
写真をめくるように、今度は数時間前に見た白髪混じりの疲れた後頭部が目に浮かぶ。
その瞬間、僕の中にこの状況にふさわしいとびっきりのセリフが浮かんだ。

「何でこうなったんだろな。あんなに期待されてたのに」

どうなってもいい。感情に任せて声を出そうとした瞬間、それまでの沈黙を切り裂くような怒号が葬儀場に鳴り響いた。


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2番手は、お笑いトリオ「3時のヒロイン」のツッコミ担当の福田麻貴。「いい意味でみんなが他人任せになることで面白い展開になりそうな予感がしています!」とコメントを寄せていましたが、BKBからのバトンを見事に繋ぎました。次回は、2023年に東京進出を果たした「ニッポンの社長」辻。どのような展開になるのか、乞うご期待!

Amazon Audible『本ノじかん』では、吉本ばななや尾崎世界観、ラランド・ニシダ、Aマッソ・加納など、豪華ゲストをお迎えして、毎週木曜日に配信中です。今後は、小説家の浅倉秋成、絵本作家のヨシタケシンスケ、我らが編集長、ピース・又吉も出演予定。お楽しみに!

過去放送回は全てアーカイブで聴くことができます。

【Amazon Audible『本ノじかん』】
ゲスト:吉本ばなな
ゲスト:尾崎世界観
ゲスト:ラランド ニシダ
ゲスト:Aマッソ 加納

番組概要

第一芸人文芸部プレゼンツ『本ノじかん』

出典: FANY マガジン

配信日:毎週木曜日朝7:00ごろ更新
配信プラットフォーム:Amazon Audible
ナビゲーター:ピース・又吉直樹、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫

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