FANYマガジン特別限定連載! 人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ 第六話」from Amazon Audible『本ノじかん』

人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ」

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボによる珠玉のストーリーをお楽しみください!

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒ...

ピース・又吉直樹の「本の魅力を語らないか?」の一言からはじまった、又吉、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫による「第一芸人文芸部」。

そんな「第一芸人文芸部」がお届けする、現在、毎週木曜にAmazon Audibleにて配信中の、又吉が編集長を、ピストジャム、ファビアンがMCを務めるブックバラエティ『本ノじかん』。

毎回、ゲストを迎えて、好きな作品や著書、影響を受けた一行、執筆方法や読書法など、それぞれのブックライフをMCの2人と語り合いながら、本を愛する方々、そして本にあまり触れてこなかった方々へ、本の魅力を伝える番組です。

出典: FANY マガジン

そんな『本ノじかん』の企画の一つ、人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』をFANYマガジンで特別連載することになりました。
執筆メンバーは、バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボ(連載順)。

さらに、Amazon Audible『本ノじかん』の『クチヅタエ』で朗読を担当するのは『ヒプノシスマイク』の飴村乱数役をはじめ、『アイドリッシュセブン』の二階堂大和役など、人気作品のキャラクターを多く演じている人気声優の白井悠介!

作者も誰も予想できないストーリーをぜひお楽しみください!

『壁のないフィナーレ』第六話 バイク川崎バイク

出典: FANY マガジン

色褪せた木目調の小さな回転看板がいつのまにか『CLOSE』になっているのを横目に、僕はマスターにいざなわれるがまま、バーを後にした。

どこに連れて行かれるのかもわからないが拒否をしようにも多勢に無勢。
マスターの生徒? だかなんだかの妙な連中数人が僕の背後で若干の距離をとりながら列をなし、ついてきている。当のマスターは僕の左真横、ひじが当たるほどのパーソナルスペースも無視した距離で、共に夜道を歩いていた。

そういえば沙也加も、子供の頃は一緒に歩くとどんどんこっちに近づいてひじが当たるタイプだったな。僕はいつも「沙也加、近い近い」と押し返していたな。あと、バーのマスターと、カウンター越しの客との距離というのは、なんとも軽快に話ができる絶妙で素晴らしい距離感なんだな。

道中、そんな他愛ない思案が巡る程度には酔いも冷め、平静を取り戻していた。

なぜなら、覚悟を決め、もはやマスター達についていくしかない状況だから───というより僕自身が、この状況の先に待ち受ける答えを知りたくなっていたからだ。

直人が、僕の力が必要とはどういうことなのか?
だとするとなぜ今このタイミングなのか?
直人は一体なにを考え、なにをしようとしているのか?
瞬間記憶の向こう側? フィナーレ……とは一体?

昼間に妄想した、タイムトラベラー的物語の主人公にはなれそうにもないが、僕の身に“なにか”が起こっているのは間違いなかった。
無味乾燥で味気のない生活とは一線を画している“なにか”が。
昨日までの僕は、いわゆるこんな面倒事に首を突っ込みたくはない性分だったはずなのだが、今日の葬式からここに至るまでに、乗りかかった船が続きすぎた。

とりあえず直人に会ってみないことにはなにも始まらない。

10分ほど歩いただろうか。大通りを抜け、人気のない裏道に足を踏み入れたあたりで、道すがらマスターがいくつかの質問を僕に投げかけてくる。

「透さん。そのまま、振り向かずに答えてください」

「……なんですか?」

「今、貴方の後ろには何人の人間が歩いてますか?」

「え? あ、ええと、7人……ですかね。僕とマスターを除いたバーにいた人数ですけど。全員がついてきてるならね」

「その通りです。それでは……性別は覚えていますか?」

「ええと……男性が4人、女性が3人ですかね」

「ふむ。では全員の服装はわかりますか?」

「ああ。男性が……キャップを被った黒のジャンパーと……黒のコートが2人、あとはカーキーのコートと……赤のスタジャンか。女性は……ベージュのコートとグレイのコート……ハットを被った女性は黒のコート」

「流石はナチュラル! 御名答。ふっふっふ」

マスターが僕の瞬間記憶能力を確認し、その性能の良さにほくそえんでいるようだった。
まあ、“こういうこと”は神童と謳われた頃にさんざんやらされたこと。バーの客達が立ち上がった瞬間を捉えた記憶の画像を辿れば造作もないことだ。

まさに初めて高性能のカメラを手にしたかのごとく上機嫌なマスターは、更に続ける。

「それでは……それぞれの顔の特徴なんかもわかりますか? 例えばほくろの位置とか」

「んーーー……キャップを被った黒のジャンパーの男性は、鼻の下にほくろがありましたね」

「素晴らしい」

「それと、赤のスタジャンの男性は目立つほくろは無いですが、左耳にピアス……」

「エクセレント」

「……他の男性は距離的にちょっと見えないですね。あと、女性は……ハットの方はメガネをしてるくらいしか……あとの女性も距離的にちょっと……」

「距離的に……? というのは?」

「ああ、僕けっこう目が悪いもんで」

「……目が………?」

「ええ。目が」

「………………なるほ……ど」

上機嫌だったマスターの眉間に、一瞬だけピクリとしわが寄った。と同時に、明らかになにか言いたげだったがグッと堪えた様子が見て取れた。
確かに、瞬間記憶能力の持ち主が視力をないがしろにするというのは、わざわざトレーニングとやらまでして力を身につけた連中には考えづらいことなのかもしれない。

「まあ……まあまあ……まあまあまあまあまあまあまあ……いいでしょう……」

よくなさそうだ。
これはマスターのお得意の嘘なのか、それとも精一杯自分になにかを言い聞かせているのか。

いずれにせよ、能力をもってることを知ってる人に「目が悪い」と言うと、なにやらがっかりされるのだなということは今日で学んだ。

「さて……と」

マスターがそうつぶやくと、薄暗い路地の突き当りで突然立ち止まった。

「え? やっと着きました?」

そう尋ねる僕を意に介さずマスターはこう言った。

「透さん。瞬間記憶能力の唯一とも言える欠点はご存知ですか?」

「欠点?」

「はい。欠点です」

「いや……そもそも僕にしてみれば正直いらないと思っていた能力ですし……でも普通に考えたらそうではないのか……ううん。強いて言えば」

「強いて言えば?」

「思い出したくもない過去の思い出を忘れることができない、とかですかね」

「なるほど。違いますね」

マスターがさらりとそう言い放った刹那、僕の背後、腰のあたりに激しい衝撃が伝わる。
これは……? なにを……された……?

薄れゆく意識の中、マスターの声が小さく聞こえる。

「いくら過去のことはわかっても、これから起こる未来のことは何一つ予想できない、ということです。このように」

どれくらい時間が経ったのだろうか。
目が覚めると、そこは知らない部屋だった。
長机と椅子が均等に並んだ会議室のような広めの部屋。
僕はその一番後ろの席に座らされ、つっぷすように気絶していたようだ。

状況は飲み込めないし、なにやら危ないことに巻き込まれたであろう自覚は十二分にあった。
が、なぜか脳内はすこぶるクリアだった。
神童の頃を幾度となく思い出していた今日の僕は、なにか覚醒したのかもしれない。

まずは現状の整理だ。
時刻は夜中3時半。気絶してから約4時間ほど経っている。
道中、おそらくマスターの生徒に後ろからスタンガン的なもので気絶をさせられた。
そしてこの部屋に運ばれた。
目的はなんだ。
マスター達や直人はどこにいるのか。
この建物内にいるのか。
身体をなにかで拘束されている訳ではない。
だが、まだ身体の自由がきかない。スタンガンなんてドラマや漫画でしか見たことがなかったがこんな状態になるのか。今日は学ぶことが多い。

「……はぁ。これはなかなか……」

愚痴をこぼしかけたそのとき、部屋の前方にある扉がゆっくりと開いた。

そこに現れたのは、先ほどのマスターの生徒だった。
赤いスタジャンのピアスの男と、黒いコートにハットを被ったメガネの女の2人。

身構えるしかできない僕は、目を細め2人が近づくのを凝視する。

スタジャンの男が距離を詰めながら声をかけてくる。

「大丈夫ですか? すみません手荒なマネを」

突然そう言われても「はい大丈夫です」なんておいそれと答えられるほどの余裕も理由もない。

続いてハットの女は「ほんとごめん。こんなことになるなんて」と馴れ馴れしい口を聞いてくる。

女が2メートルほど近くまで来た瞬間、僕は驚愕した。

「沙也加……?」

「ごめん透。事情は後で話す。とりあえず行こう」

ハットの女はなんと沙也加だった。

「あ、あとこれ。合うかわからないけど。無いよりはマシでしょ?」

沙也加がかけていたメガネが僕に強引にかけられた。
沙也加はいつだって強引だ。

そのメガネの度は僕にぴったりで、これまでとは比べ物にならないほど───すべてが見えた。


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第六話は、第一話冒頭から読者を一気に物語へ引き込んだバイク川崎バイク。六話でもBKB節を存分に発揮し、ジャンボからのバトンをしっかり繋いでくれました。第七話は第二話を担当した紅一点・3時のヒロイン福田です。二話で恋愛スパイスを散りばめた(ほぼ回収なし)福田がどのような展開を見せてくれるのか、乞うご期待です。

Amazon Audible『本ノじかん』では、吉本ばななや尾崎世界観、ラランド・ニシダ、Aマッソ・加納など、豪華ゲストをお迎えして、毎週木曜日に配信中です。今後は、小説家の浅倉秋成、絵本作家のヨシタケシンスケ、我らが編集長、ピース・又吉も出演予定。お楽しみに!

過去放送回は全てアーカイブで聴くことができます。

【Amazon Audible『本ノじかん』】
ゲスト:吉本ばなな
ゲスト:尾崎世界観
ゲスト:ラランド ニシダ
ゲスト:Aマッソ 加納

番組概要

第一芸人文芸部プレゼンツ『本ノじかん』

出典: FANY マガジン

配信日:毎週木曜日朝7:00ごろ更新
配信プラットフォーム:Amazon Audible
ナビゲーター:ピース・又吉直樹、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫

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