FANYマガジン特別限定連載! 人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ 第十話(最終話)」from Amazon Audible『本ノじかん』

人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ」

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボによる珠玉のストーリーをお楽しみください!

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒ...

ピース・又吉直樹の「本の魅力を語らないか?」の一言からはじまった、又吉、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫による「第一芸人文芸部」。

そんな「第一芸人文芸部」がお届けする、現在、毎週木曜にAmazon Audibleにて配信中の、又吉が編集長を、ピストジャム、ファビアンがMCを務めるブックバラエティ『本ノじかん』。

毎回、ゲストを迎えて、好きな作品や著書、影響を受けた一行、執筆方法や読書法など、それぞれのブックライフをMCの2人と語り合いながら、本を愛する方々、そして本にあまり触れてこなかった方々へ、本の魅力を伝える番組です。

出典: FANY マガジン

そんな『本ノじかん』の企画の一つ、人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』をFANYマガジンで特別連載することになりました。
執筆メンバーは、バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボ(連載順)。

さらに、Amazon Audible『本ノじかん』の『クチヅタエ』で朗読を担当するのは『ヒプノシスマイク』の飴村乱数役をはじめ、『アイドリッシュセブン』の二階堂大和役など、人気作品のキャラクターを多く演じている人気声優の白井悠介!

作者も誰も予想できないストーリーをぜひお楽しみください!

『壁のないフィナーレ』第十話(最終話) レインボー・ジャンボ

出典: FANY マガジン

二つの漆黒。

それは、僕の脳内のアルバムフォルダをめくると、何枚も収められていた。小学校の夏休み、目の前の景色が歪むほどに夏の蒸し暑い日、親戚皆んなが祖父の家に集まる。クーラーなどなく、本当のお気持ち程度の風が大きな窓から小さく吹いて、ザ風鈴みたいな見た目の風鈴を揺らして、チリンチリンと涼しげな音だけで我々を誤魔化していた。孫が辛そうにしてる姿をなんとかせねばと思ったのか、このままでは祖父の家=生き地獄と我々子供の脳内にインプットされてしまうのを本能で感じたのか、祖父が家庭で使うことあるのか?と思うほどに長いホースを出してきて狭い庭に孫を集めて水浴びしてくれた。流れるプールでもなく、ウォータースライダーでもない、ただのホースでの水浴びなのに妙に気持ち良かったのを覚えている。親戚大人数での海水浴も、おばあちゃん家の大きいお風呂にみんなで入った時も、アルバムの中のいろんなページにそれはあった。

「どうした〜? おい、ナチュラル様よ? 思い出したか? 頭の中のアルバムのページめくってるか?」
ページをめくるジェスチャーをしながら、大きく見開いた目は白目が左右にも上下にもある。三白眼を通り越して四白眼だ。こちらを馬鹿にしたい一心で舌も出ている。しかし、そんな動きは気にならない、そんなことよりも漆黒。漆黒二つ。それが気になってしょうがない。直人が投げつけてきた黒いネクタイにも、直人の足元にある汚れた白いワイシャツよりも、

漆黒二つ。

俺は勿論、沙也加もマスターも、いつの間にか意識を取り戻した香典泥棒だって、それにしか目がいっていない。
「なんだなんだなんだー? 皆んな揃って鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔しちゃってさ〜? 言いたいことがあるならば言えばいいじゃないか〜? 人間言わなければわからないことってあるぜ〜?」
全盛期のジムキャリーの表情筋を彷彿とさせるほど表情豊かに、一文字ごとに表情を変えて直人は言った。舌はまだ出ていた。僕は前に進むために、この状況を打破するために“それ”について口を開いた。

「直人、お前、乳首黒過ぎないか?」

余りにも黒過ぎた。黒という言葉で済ませていいのか、“乳首にしては”ではなく“人間にしては”ではなく真っ黒だった。例えるならば、

絵の具の黒。

この世にある黒にしては余りにも不自然すぎる黒。人は不自然過ぎる絵の具の黒の様な黒に、使いやすく文字面もカッコよく“漆黒”と名付けたのかもしれない。しかし、なぜ僕の記憶に無かったのだろうか、かつて神童と言われた瞬間記憶能力、カメラアイ、あいつらの言い方で“ナチュラル”そんなナチュラルの僕がなぜ覚えていなかったのだろうか、ん? まただ、思考が止まらない、それでいて周りの景色が変わらない、周りが止まっているのに脳みそだけは動き続けているようだ。やっと僕の言葉を受けて直人が口を開いた。と言ってもこの間は1秒にも満たなかったんだろう。

「そうだよ! 俺の乳首は黒い! 真っ黒だ! まるで絵の具の黒みたいだろ?」

自覚あるのか! 使うんだ! 絵の具の黒! そうだよなぁ、自分の乳首を間違っても漆黒なんて言い方しないもんなぁ、ビジュアル系バンドのボーカルが黒かったりしたらいうのかな? いやいや、またいつまでもくだらない長考してしまう。俺は一番気になることを端的に言った。

「それとあの女を探してること関係あるのかよ?」

沙也加もマスターも香典泥棒もハッとしたようにやっと我に返り、直人の乳首から目を外して、直人の顔に目線をやった。

「あ〜? 関係? あるに決まってるだろ? じゃなきゃ脱がねえよ!」
「直人……、なんだよ? その乳首とその女の関係って」
「あの女に……、乳首を馬鹿にされたんだよ」

我々4人は思わず目を合わせた。なんだか香典泥棒ともマスターとも4人で今目の前の現象を共有してるので、変に仲間意識が生まれていた。

香典泥棒「馬鹿にされた?」
僕「直人……」
マスター「直人様……」
沙也加「直人、あなたそんな事で……」

みたいにテンポよく4人台詞を言った。

「そんなことでーー?? はーー? お前に何がわかるんだよ? 俺はなぁ今まで一度だってこの乳首を馬鹿にされたことなんてなかったんだよ! それをなぁ、あの女は馬鹿にしやがったんだ!」

分かった。何故直人の乳首の黒さを僕が忘れていたのか。直人は当時数回、我々の前で裸になり乳首を披露していた。ただ僕は感じていた。子供ながらに直人が黒い乳首をコンプレックスに思っていることを、当時の神童と謳われて、調子になっていた僕でも触れてはいけないと感じていたんだ。人は無意識にコンプレックスを隠したり、触れて欲しくないものを隠したりする。それは本能的に。今まで直人の周りの人達はそれをしっかり感じ取って僕と同じように馬鹿にすることなどなかった。ナチュラルの欠点は嫌なことでも忘れることができないこと。でもそれは自分の嫌なことであって、人が見られたくないと思ったものには自分にも分からないように隠すことができる、優しさで。ナチュラルでも優しさで記憶に蓋をすることはできるんだ。

「あの女は、いつもパパ活終わりに、バーで男漁りするんだ、ワンナイトする相手を探すために。ある夜、その標的になったのが俺だ。酔って笑い上戸の明るい彼女に俺も惹かれてホテルに行った。そのままの勢いでベッドに倒れ込んで、女は俺の服を脱がした、その時だ……」

3人「…………」
香典泥棒「まさか……」

「笑ったんだよっ!! 大口を開けて、涙を流して……、女は1分以上笑い続けたっ!! その時に言ったんだよ。絵の具の、絵の具の黒みたいってな……。そのままの勢いで俺はホテルを出たよ、泣きながらなっ!」

3人「…………」
香典泥棒「それじゃあ男のプライドがズタボロじゃねえか……」

「泣きながら家に帰った俺は、悲しみで胸が張り裂けそうだった。ただなぁ、次第に怒りと憎悪で頭がいっぱいになった。そして復讐する為にあの女を探していたんだ」

「あんた、そんなことで!」
沙也加がそう言うと、目線をすっと下げて、落ち着いた表情で、香典泥棒が口を開いた。
「いーや、刑事さん、そんなことでじゃねえよ。他の人にとっては些細なことであっても、本人にとっては死にたくなるようなことだってあるんだ。刑事さんならよくわかるだろ? 人間がカッとなっただけで人を殺すかい? ニュースではそんな風に簡単に片付けられるけど、本人にとってはその一言だけは、それだけは、絶対に許せないってことだってあるよ。じゃなきゃ昨日まで普通に過ごしてた人が殺人なんてしないって、だからさ刑事さん、間違っても“そんなことで”なんて一言で片付けないであげてやってくれ、頼む」

香典泥棒が立ち上がり、深く沙也加に頭を下げた。香典泥棒の言葉は僕もすごくよく分かる。最近は。この能力を恨んだことも、逆にコンプレックスに思うことも多いにあった。人間として自分のことをダメと自覚している俺でもコンプレックスは辛い。それが人生ずっとうまくいっていた、プライドの塊だったであろう直人なら尚のこと、どれほど辛かっただろうか。上半身裸で、今にも泣く3秒前みたいな顔で、ナイフを持って立つ直人を見るとより思うし、その時の悔しさを思うと同じ男としてグッと涙が込み上げてきそうになる。直人は何処を見ているのか、何処も見ていないのか、そんな表情でこう言った。

「俺は、その女に透を近づかせて、フィナーレの能力で惚れさせ、なにか大恥をかかせてやろうと考えた」
「フィナーレ? それ、マスターがバーで言ってた能力?」
「はい。私も直人様から聞いてはいましたが、どんな能力かどうかは……」

ポケットから雑にマイルドセブンとライターを取り出し、タバコに火をつけて香典泥棒が言った。
「超瞬間思考能力。言うなれば、ナチュラルが覚醒した状態だ。自分の記憶のアルバムから選ぶのに、思考するのに時間がかからない。まるでミステリー映画を一時停止して考察するみたいに、そうすればごっそり入れておいた恋愛テクニックの中から、ゆっくりと正解を導き出せる。選びに選んで必ずいいフィナーレを迎えられるってこと」
「そうだ、その通り。その能力を使えば、パパ活や結婚詐欺で人を欺いてきたあの女でも落とすことができる! そう思って俺は……」

そう言う直人に、下を向きながらタバコの煙を大きめに吐いてずっと顔を上げて香典泥棒が言った。
「でもちょっと違うのよねえ。恋愛っていうのは今女性が欲しい言葉や求めていること、統計的なことは本や勉強でなんとかなる。でも実際に一番必要なのは……」
タバコの先を直人に向けて、片方の眉をクッと上げて、少し口を尖らせて香典泥棒は言った。
「経験よ?」
「けいけん?」
おうむ返しをする直人に香典泥棒は、
「当たり前よ。だから経験豊富な男はモテるし色っぽいんだよ」
その時のタバコを吸う香典泥棒は妙に色っぽく、絶対にモテるんだろうなぁと思う反面、なんでこんなことこの人してるんだろうとも思った。そのまま直人は一筋の涙をスッと綺麗に流して膝から地面について天を仰いでいた。ハッとしたように沙也加が近づいてナイフを掴んでポケットにしまった。
「一旦署で話を聞くわ。親戚だけどそこは手加減できないからね」
直人は小さく頷いた。なんかの罪になるのかならないのか、ただ、人前で上半身裸でナイフを持った男を野放しにはできないか。すぐに応援のパトカーが来て沙也加と直人は乗り込んで行ってしまった。
「完璧だと思っていた従兄弟がひとつのコンプレックスに振り回されて、こんな悲劇を生んだわけだ。君も驚いたでしょ? 今のシーンは忘れられないわな。君が初めてのフィナーレの能力で作ったフィナーレはこれで良かったかい?」
何本目か分からないタバコを、目を細めて色っぽく吸っている香典泥棒が、僕の肩を肩で少しだけ押してそう言った。
「僕は、ずっと3つ上の何でもできる直人に劣等感を抱いていたんです。ずっと隔たりを感じていた。でも今回の事件でそれがなくなったように思えました。なんて言うか、別の世界の人間じゃないなって、同じだなって」
「なるほどね。面白いもん見せてもらったよ。ありがとう。俺にとっても悪くないフィナーレだった。ありがとうね、透君」
「でも、あなたは何者なんですか? 何でこんなことしてるんですか?」
香典泥棒はニコッと僕に微笑みかけて、そのまま歩き出していった。数歩進んでピタッと止まり、少しだけ振り返って僕の目を見て言った。

「君の気持ちが誰よりわかる男」

そう言ってタバコを空にスッと上げて、また歩いて行った。その後ろ姿は男の僕でも分かるほどに……。

「モテそうだなぁ」


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最終回の第十話は、期待以上の展開を作り上げたレインボー・ジャンボ。まさかのオチに、クチヅタエメンバーも驚きと笑いを隠せなかったようでした。まさしく、タイトル『壁のないフィナーレ』に相応しい最後になりました。果たしてこの物語は続くのか、誰にも予想できない「クチヅタエ」。最後までありがとうございました。

Amazon Audible『本ノじかん』では、吉本ばななや尾崎世界観、ラランド・ニシダ、Aマッソ・加納など、豪華ゲストをお迎えして、毎週木曜日に配信中です。今後は、小説家の浅倉秋成、絵本作家のヨシタケシンスケ、我らが編集長、ピース・又吉も出演予定。お楽しみに!

過去放送回は全てアーカイブで聴くことができます。

【Amazon Audible『本ノじかん』】
ゲスト:吉本ばなな
ゲスト:尾崎世界観
ゲスト:ラランド ニシダ
ゲスト:Aマッソ 加納

番組概要

第一芸人文芸部プレゼンツ『本ノじかん』

出典: FANY マガジン

配信日:毎週木曜日朝7:00ごろ更新
配信プラットフォーム:Amazon Audible
ナビゲーター:ピース・又吉直樹、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫

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