FANYマガジン特別限定連載! 人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ 第五話」from Amazon Audible『本ノじかん』

人気芸人5人によるリレー小説「クチヅタエ」

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボによる珠玉のストーリーをお楽しみください!

人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』! バイク川崎バイク、3時のヒ...

ピース・又吉直樹の「本の魅力を語らないか?」の一言からはじまった、又吉、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫による「第一芸人文芸部」。

そんな「第一芸人文芸部」がお届けする、現在、毎週木曜にAmazon Audibleにて配信中の、又吉が編集長を、ピストジャム、ファビアンがMCを務めるブックバラエティ『本ノじかん』。

毎回、ゲストをお迎えし、好きな作品や著書、影響を受けた一行、執筆方法や読書法など、それぞれのブックライフをMCの2人と語り合いながら、本を愛する方々、そして本にあまり触れてこなかった方々へ、本の魅力をお伝えする番組です。

出典: FANY マガジン

そしてこのたび、『本ノじかん』の企画の一つ、人気芸人5人によるリレー形式で小説を紡ぐ連載企画『クチヅタエ』をFANYマガジンで特別連載することになりました。
執筆メンバーは、バイク川崎バイク、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、しずる・村上、レインボー・ジャンボ(連載順)。

さらに、Amazon Audible『本ノじかん』の『クチヅタエ』で朗読を担当するのは『ヒプノシスマイク』の飴村乱数役をはじめ、『アイドリッシュセブン』の二階堂大和役など、人気作品のキャラクターを多く演じている人気声優の白井悠介!

作者も誰も予想できないストーリーをぜひお楽しみください!

『壁のないフィナーレ』第五話 レインボー・ジャンボ

出典: FANY マガジン

僕は目を丸くさせて、マスターの顔をじっと見ていた。
マスターは先程までの優しく常に微笑んだ様な顔立ちではなく、こちらから目を逸らすことなく、僕の目をじっと見ていた。
その眼は一才の曇りがなく、それだけで真実を言っていることに説得力を持たせていた。

「本当ですか?」

僕がそう言うと、マスターはニコッとわざとらしく微笑んで

「ふふ……嘘です」

あんなに真っ直ぐな眼だったマスターが言っていたことが嘘だったなんて、僕は少し動揺してしまった。

「あ、すいません、すいません、本当です」

焦ったように、マスターが言う。

「え?」

「本当です。すいません……すいません。一回嘘ついちゃいました」

「えと、どっちですか?」

「あ、えと、本当に瞬間記憶能力あるんですよ」

「……え、なんで一回嘘ついたんですか?」

「僕……ついちゃうんですよ。一回、嘘」

「あ……そ、そうですか、」

「……すいません」

一度の嘘で本題を少し忘れてしまうほどに、気まずくなってしまった。
マスターが謝れば謝るほどに一度の嘘に気まずさが増していった。
マスターの顔をチラッと見ると、わかりやすいく苦笑いの絵文字のような見事な苦笑いをしていた。
僕は少し笑ってしまった。

「あ……なんか一回嘘ついちゃうこと……ありますよね、気にしないでください」

僕がそう言うとマスターは胸に手を当てて、ドラえもんの秘密道具『コエカタマリン』があったら間違いなく綺麗な『ホッ』が出てくる程にわかりやすく安堵の表情を浮かべた。

「透さん、ありがとうございます。ホッとしました」

「口から『ホッ』が出て来そうでしたよ」

「確かにドラえもんのコエカタマリンがあったら『ホッ』って出てきますね」

「え? まさにそのこと考えてたんですよ」

「よかったらお作りましたしょうか?」

「え?? 笑 ここのバー、コエカタマリンあるんですか」

「お待たせしました。ウソエイトオーオーです」

「いや別に、僕嘘ついたこと本当にしたくないんですよ!」

「僕は嘘を本当にしたいなぁ……」

「やっぱりマスター嘘つきじゃないですか!」

驚いた。普段の僕は、人と関わるのに免許が必要であるならば仮免で毎回落ちるだろう。
ただこのマスターが面接官だったら受かるんじゃないかという位に話しやすい、こんなに人と自然に接することができているのは何年振りだろうか。
久しぶりの楽しい会話に興奮した僕は小気味よくご機嫌に少し身体を揺らした。
でも少しはしゃいでいる感じがして、照れくさくなって身体を止めた。
冷静になろうとマスターの髪の毛を見た。同世代とは思えないほどハゲ上がっている。
前に来たときより確実に後退している。でもなんか色気がある……。
昔の志村けんさんの様にハゲてるのに長髪、変な髪なのに色気あってかっこいいという2つの矛盾抱えた髪型を見て何故か本題を思い出した。

「それで……マスターも瞬間記憶能力があるんですか?」

「はい、あります」

マスターは、また一才の曇りのない眼でそう言った。

「へえ、凄い! 初めて会いましたよ!」

少し大きな声を出してしまった。初めて同じ能力を持つ人に会って、僕は興奮していたんだと思う。気がついたらまた身体が揺れていた。
そんな僕を見てマスターが言った。

「透さんがシェイカーだったら、良いカクテルができますね」

ボケたんだろうが、最初の方が良く聞こえなかったのと、意味がよくわからなかったのと、なんか表情が少し鼻についたので、思い切って無視をした。
マスターはこの僕の無視をノーカウントにする為か、慌てた様子で喋り出した。

「でも、僕はナチュラルじゃないんですよ」

「ん? ナチュラル?」

「え? 透さんってナチュラルですよね?」

「ナチュラルってどういうことですか?」

「あ、ご存知ないのですか?」

「わからないです」

「この瞬間記憶能力を持って生まれた人間のことですよ」

「え……マスターは違うんですか?」

「違いますよー、私はトレーニングです。」

「トレーニング??」

「そうですか、ナチュラルの方は逆に知らないのですかね、瞬間記憶能力は訓練でも鍛えられるんですよ。ネットとかで調べればトレーニング方法なんてものが山ほど出てきますよ」

この能力を何度も恨んだ僕としては、間違ってもネットなんかでこの能力のことを調べたりすることはなかった。
僕以外の全員がこの能力を気持ち悪がって、嫌っているものだと思っていた。
この能力を訓練してでも手に入れたい人がいるなんて、物好きも居るものだ。

「そんな訓練してまで手に入れるもんじゃないですよ、なんでこんな能力手に入れたいと思ったんですか?」

「親に無理やり胡散臭いスクールみたいなところに入れられたんですよ。子供の頃、勉強に有利だとか、地頭が良くなるとかで。そこのトレーニングは意外にちゃんとしてて、本を早く読まされたりするところから始まって、色んなことをしました。大体の人がちょっと早く本を読めたり、ちょっと記憶力が良くなるくらいで満足して辞めちゃいますけど、僕はだいぶ優秀な方だったので、ナチュラルの人には到底及びませんけど、だいぶ近いところまでは……」

「そうですか……瞬間記憶能力を手に入れて良かったと思いますか?」

「正直、あまり良かったとは思えませんでした。受験勉強なんかは覚えれば良いだけなんで簡単ですけど、なんか勉強する意味も見出せなくなってくるし、段々と中学にあがる頃には、自分のことをみんなとは違う特別な存在なんて思ってきちゃって、それに反比例するかのように集団からは孤立していきました」

余りにもあるある過ぎて、僕は首が取れるんじゃなかろうか?と思うくらいに首を小刻みに縦に振っていた。

「嫌なことも、忘れたいことも全て頭のアルバムに入っちゃうじゃないですか」

「わかる! わかります! やっぱりこんな能力無い方がいいですよ!」

「でも……今は違います!」

「え?」

「モテるんですよ! この能力っ!」

「モ・テ・ル?」

ETよろしく、一文字一文字を強調してしまった。

「そうなんです! モテるんですよ! 女心をくすぐるのに1番いいのは記憶なんですよ! 小さな変化にも良く気づけますし、記念日を忘れることなんてあり得ません! うってつけの能力なんですよ! 私もそれに気づいてから、どれだけの良い思いをしてきたことか」

ハゲているのに、長髪なのに、なぜか色気があるマスターの謎が解けた。
この能力がモテるなんて、一度も考えたことがなかった。
鬱陶しい負の能力でしかないと思っていた。

「私、スクールの講師をしているんですが、モテる!っていうのを強調して、どんどん広まって凄いんですよ! 鼠算式にどんどん生徒が増えているんです!」

「そうなんですか……」

「先ほど隣にカップル居ましたよね?」

「え、あ、あのサプライズケーキの?」

「うちの生徒です」

「え!? マジですか?」

「そうです! 全くモテなかった彼が瞬間記憶能力を手にして、彼女の誕生日はもちろん、サプライズが好き、誕生日の歌は洋楽派、シフォンケーキに目がない、などなど彼女の好みを全てインプットした結果なのです」

「凄い……よくそんなこと思い付きましたね、僕はこの能力をずっと持っているのに考えもしませんでしたよ……」

「いえいえ、私はスクールの講師をしているだけで、発案者ではありません。私もその方のアドバイスでこの様な薔薇色の人生を過ごせるようになったのですから!」

「へえ、凄い。どんな人がそんなこと思いついたんですか?」

マスターは優しい顔を僕の目の前までゆっくり運んで、グッと目を見開いて言った。

「我々を導いたのは、一色直人様です」

驚いた。というより一旦ぼーっとしてしまうほどに状況が、言ってることがわからなくなってしまった。

「直人?」

「……はい」

「直人が、なんでそんなことを?」

「直人様は、ナチュラルで在られる貴方の力を必要しています」

「直人は俺にそんなこと一度も……」

「ナチュラルで在られる貴方は特別なのです」

「え、いや、ちょっと意味が……え?」

「少し場所を変えませんか?」

「え? でも、ここで直人と約束してますし」

「直人様は今日は来られないそうです」

「え?? あ、いやでも……ほら! まだ他にお客様も居ますし」

「大丈夫です。全てうちの生徒でございます」

数人居たバーのお客が一斉に立ち上がり、僕を囲んだ。
全員が口角を限界までに上げて、目も開けているのか閉じているのか分からない、怖いくらいに笑顔だった。

「さぁ、透さん。行きましょう……」

「え、でも、直人はなんで……え?」

状況が読み込めない完全にパニックの僕に、満面の笑みのマスターが近づいてきた。僕の両肩を掴んで、

「直人様は仰られましたよ。貴方なら我々に見せてくれるはずだと……」

一瞬真顔で肩をグッと強めに掴んで、カッと目を見開いて、僕の耳元でこう言った。

「瞬間記憶の向こう側……フィナーレを」


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第五話は、YouTubeチャンネル登録者は90万人超えのコント職人レインボー・ジャンボ。昨年発売されたデビュー作の小説が好評で、次回作も期待の声が大きいだけあり、驚きの展開を見せてくれました。第六話は、第一話を担当したバイク川崎バイクへバトンが渡ります。どのような展開になるのか、乞うご期待! 更新をお待ちください!

Amazon Audible『本ノじかん』では、吉本ばななや尾崎世界観、ラランド・ニシダ、Aマッソ・加納など、豪華ゲストをお迎えして、毎週木曜日に配信中です。今後は、小説家の浅倉秋成、絵本作家のヨシタケシンスケ、我らが編集長、ピース・又吉も出演予定。お楽しみに!

過去放送回は全てアーカイブで聴くことができます。

【Amazon Audible『本ノじかん』】
ゲスト:吉本ばなな
ゲスト:尾崎世界観
ゲスト:ラランド ニシダ
ゲスト:Aマッソ 加納

番組概要

第一芸人文芸部プレゼンツ『本ノじかん』

出典: FANY マガジン

配信日:毎週木曜日朝7:00ごろ更新
配信プラットフォーム:Amazon Audible
ナビゲーター:ピース・又吉直樹、ピストジャム、あわよくば・西木ファビアン勇貫

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