「つながる」をテーマに、劇団・観客・審査員やスタッフら参加するすべての人に「出会いの場」を提供する『関西演劇祭』。6回目の開催となる今年は「ひろがる」へとテーマを進化させ、選りすぐりの10劇団が11月16日(土)から24日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA SSホールで45分間のオリジナルストーリーを上演します。そこで今回は、第1回からフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路、今回のアンバサダーに就任した俳優・伊原六花ら5人に、関西演劇祭でしか味わえない興奮をたっぷりと語ってもらいました!
『関西演劇祭』は2019年のスタート以来、新たな舞台で活躍する俳優や演出家が数多く誕生してきました。今回は、その魅力を深掘りするためにスペシャル座談会を実施! 板尾、伊原に加えてスペシャルサポーター(審査員)の、2.5次元ミュージカルを中心にプロデュースするネルケプランニング社長・野上祥子氏、映画監督の三島有紀子氏、NHKエンタープライズの笠浦友愛氏に参加してもらいました。
【座談会参加者】
●フェスティバル・ディレクター
・板尾創路(6回目) お笑いコンビ130R、俳優、映画監督
●アンバサダー
・伊原六花(初参加) 俳優
●スペシャルサポーター
・野上祥子(3回目) 株式会社ネルケプランニング代表取締役社長
・三島有紀子(3回目) 映画監督
・笠浦友愛(初参加) 株式会社NHKエンタープライズ
演劇の魅力は「生のよさ」
――今年も関西演劇祭の開催が決まりました。さまざまなコンテンツがあふれるなか、演劇を見に行く魅力はどんなところにあると思いますか?
板尾 演劇は、何を見せられるかわからないことが、すごくワクワクしますよね。観光に似ていて、その時間、その会話、そこにいる人だけにしか見られない景色がある。天気や時間によっても見え方が違いますし、自分がどんな気持ちで行くかでも受け取り方が変わる魅力があります。そして、素晴らしい演劇に出会ったときの感動は、ほかのコンテンツでは得がたい大きなものだと思います。
野上 ライブコンテンツだからこその「生の魅力」が、いちばんだと思います。巻き戻しもやり直しもできない、その瞬間を切り取るからこその感動が絶対にある。生だからこそ伝わる熱量や、人の心を動かす力は、演劇を見るといつも感じることです。
伊原 私が演劇の好きなところは、皆さんがおっしゃる通り「生もの」で、アドリブなのか、今日だけの展開なのか、ハプニングが生まれているのかを感じながら見られるところです。それと、ふだんはまったく違う生活をしている人が劇場に集まって、その時間だけ同じものを見ている。それぞれが自分の生活に当てはめながら見るので、「見方に自由がある」ことも好きです。
三島 見方に自由があるのは、本当にそうですよね。映画はカット割りがあるので何をどう見せるか、“引き”や“寄り”や、どんなアングルで見せるかなどにも演出の意図がありますが、演劇は舞台のどこを見ても自由ですからね。
野上 一人ひとり、フォーカスする場所が違う面白さがありますよね。
舞台でセリフを忘れた女優の身に起こったこと
三島 「生の魅力」といえば、ある舞台を見に行ったときに、出演していた女優さんが本番中にセリフがまったく出なくなったんですよ。私はその瞬間がすごく面白かったです。
一同 (笑)
三島 「どうしよう」「頑張れ!」という感じになっていましたが、その光景は映画では味わえないもの。「このあと、どうするんだろう」とみんなが見守っていて、カンパニーと客席が一体となっていました。私が出ているわけじゃないのに、出演者全員の鼻息が荒くなっているのもわかるし、心臓がドキドキしているのも伝わってきました。
野上 何とも言えない緊張感ですね(笑)。
三島 まわりの方がプロンプ(台詞を忘れた俳優に陰からそっと台詞を教えること)してカバーしたり、みんなでひとつの芝居を最後まで完成させようとしていました。そして、最後のカーテンコールのとき、主役の方がセリフを飛ばした方の手をギュッと握ったんです。失敗がいいわけではないけれど、みんなで乗り越えたその瞬間を見たときにとても感動しました。
伊原 すごい!
板尾 それも「生」のよさですね。人間だったら絶対に失敗するし、役者だけでなく、音が出なかったり照明がつかなかったり、スタッフも各所でミスをします。演じる側はそういうトラブルを常に想定しながらやっているし、見ているお客さんも「セリフ、飛んでるんやろうな」と感じつつ楽しむことができる。そういうところも、演劇の魅力だと思います。
「お祭りだから、とても楽しい」
――続いて、関西演劇祭の魅力についても教えてください。まず、関西演劇祭の特徴として、公演時間が45分と短い点がありますが、その点についてはいかがですか?
野上 45分と短いから、いろいろな劇団の舞台をたくさん見られるんですよね。私のイメージはデパ地下のお惣菜コーナー。いろんな味のものが並んでいて、ちょっとずつ楽しめる、あのテンションが上がる感じとすごく似ています。劇団側はその短い45分に気合を入れて作品を作り込んでいるので、それに毎回ウキウキワクワクします。
三島 短いのでとても見やすいと思います。ふだんの舞台公演のような「よし、見に行くぞ」みたいな気負いはなく、いろんな劇団を楽しめるのがいい。お祭りだから、とても楽しいです。
板尾 45分くらいだと、集中力が切れずにちょうどいい長さですし……。こんなこと言うとあれですけど、45分で終わりますからね(笑)。変な言い方ですけど、リスクが少ないです。
笠浦 いまはタイパを重視する人が多いので、私もふだん芝居を見る際、自分が好きそうな作品を選んで見に行くことが多いです。でも関西演劇祭では、いつもなら選ばないものに触れる機会が出てくる。それも大切なことですよね。期待せずに見て「こういうのも面白いんだ」と気づくこともあれば、逆に理解できずに「自分となにが合わないのか」を考えるきっかけになるので、そういう予想外の体験ができるのが楽しみです。
伊原 本当に、めちゃくちゃ贅沢な機会ですよね。知らない劇団、劇場に行くのは不安要素がありますけど、今回はここにいればいろんな作品を見られるので。芝居好きな人にはもちろん、芝居にあまり触れてこなかった方にも、入り口になる素晴らしい空間だと思います。
ティーチインは演劇のあとの最高の“飲み会”!?
――もう1つ関西演劇祭の特徴として、終演後に審査員や観客の質問に俳優や演出家がその場で答える「公開ティーチイン」があると思います。このティーチインについて、皆さんどのようにお考えですか?
伊原 演劇はさっき言ったとおり「見方が自由」で、どこにフォーカスして見るかは人それぞれだと思うので、ホクホクの状態で全員での大感想会みたいな場があるのは本当に楽しみです。私はここにいる皆さんほど何かを伝えられるわけではないですけど、素直に自由な感想を共有したいと思っています。
三島 知り合いの人と演劇を見に行ったら、その後の飲み会で演劇の話をするのが、極意というか楽しみ方の1つです。でも1人で見に行くと、誰かと喋りたいのにモンモンとしながら帰らなきゃいけないですよね。ティーチインは、まさに演劇のあとの最高の飲み会までセッティングがされている感覚です(笑)。
野上 確かに(笑)。私は関西演劇祭で初めてティーチインを経験しましたが、終わりたてで湯気が出ているような状態の人たちと向き合って、「このシーンはどういう意味ですか」「これは何をモチーフにしていますか」などとやり取りするのが、本当に活きた対話で面白かったです。会場全体が愛にあふれていますよね。
板尾 あと、たまにその劇団をいつも見に来ている常連の人が、怒って文句を言っていることもありますよね。「力が入っていて、いつもよりも伝わってこなかった」とか、株主ぐらいご立腹な意見を聞けるときもあります(笑)。
野上 ありますね。「もっとやれるはずだ!」といった応援のようなご意見。見守ってきたんでしょうね。
伊原 愛ですね(笑)。
野上 それも愛です(笑)。
板尾 それをみんなで見るのも面白いんですよ。
笠浦 批判的な意見を正直に言ってもらえるのは、劇団の皆さんにとっても非常に貴重なことだと思います。ふだん、自分たちの小屋でやるお芝居と違って、今回は吹きさらしのなかでやるようなものですよね。
板尾 そうですね(笑)。
三島 アウェイのなかでやらなきゃいけない。
笠浦 だからこそ、臆せずにガツンとやってほしいですね。小さくまとまらず、「挑戦しているな」「イキっているな」と感じられるような、自分たちが本気でやりたいことを見せてほしいです。
――各劇団は演劇祭中に1組あたり3回の公演を行いますが、ティーチインを通して劇団が変わっていくこともあるんですよね。
板尾 若い俳優に多いですが、ぐんと上手くなる人もいます。ティーチインで出た意見を反映する人もいますし、自分で考えて変化をつける人もいます。こちらも「あれ、すごくよくなっているな」と感じられるので、同じお芝居を短期間に何度も見る楽しみがあります。あと、逆に間違ったところをずっと間違えているやつもいますね。「いつできんねん、お前」って(笑)。
一同 (笑)
笠浦 トラウマになっちゃうんですね(笑)。
板尾 こっちもわかってるから、「来た。来るぞ……。またできへんのかい!」って。人間って面白いですよね。そんな劇団が心に残っています(笑)。
「演劇にはアンチエイジング効果がある」
――今年の演劇祭に期待することはありますか。
野上 私は演劇にはアンチエイジング効果があると信じているんです。
伊原 ははは。すごいですね(笑)。
野上 本当に若返るんですよ。劇団の熱量やエネルギーをいただけますし、見る側も本気で見るから心が動く。心が動くことで、肌ツヤもよくなるというわけです。それを10劇団分も浴びたら、最終的に肌はもう赤ちゃんです。
一同 (笑)
――参加するたびに若返っているんですね(笑)。
野上 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』です(笑)。それくらい元気をもらえるんですよ。今回はテーマが「ひろがる」ですから、劇団やわれわれ、そして来場者の皆さまが劇場で作品に出会い、そこで得られた喜びを明日への活力に変えて進んでいただけたら嬉しいです。赤ちゃんとして、そう願っています。
一同 (爆笑)
野上 語尾に「バブ」をつけておいてください(笑)。
三島 われわれ映画人にとっても出会いがあって。出ていただいたりなど、広がっていくのが嬉しいですね。
――(笑)。それでは最後に板尾さんと伊原さんから、演劇祭に来る方にメッセージをお願いします。
板尾 本当に体感していただくのが、いちばんだと思います。芝居好きな人はなんとなく想像がつくと思いますが、あまり演劇を見たことがない人も、来るとすごい体験ができると思う。一か八かかもしれないですけど、1回ダマされたと思って来てみてほしいです。
伊原 友だちが私の舞台を見に来るとき、「チケットはどこで買えばいいの?」「どんな服装で行けばいいの?」とよく聞かれるので、演劇って敷居が高いと思われているのかなと感じます。でも関西演劇祭は、そういった方でも来やすい機会で、いろんな劇場がグッと一気に集まる貴重な場です。私は演劇が好きになってから、「もっと早くこの作品に出会っておけばよかった!」と思う瞬間がたくさんありますので、初めての方もぜひ世界を広げにのぞきに来てください。皆さんと一緒に楽しめたら嬉しいです!
『関西演劇祭2024』公式サイトはこちらから。