落語家の林家菊丸による『第十一回 三代目林家菊丸独演会2026~上方人情ばなしの世界~』が、11月23日(月・祝)に大阪・天満天神繁昌亭で、11月28日(土)には愛知・大須演芸場で開催されます。9月10日(木)に大阪市内で合同取材会が行われ、菊丸が今回の独演会にかける思いを語りました。

「令和のお客さまに共感していただけるように」
菊丸は毎年、秋に独演会を開催してきました。前名の林家染弥時代から数えると21回目、三代目菊丸を襲名してからは11回目となります。
「芸歴が32年で、独演会は芸歴10年のときから始めました。襲名などの大きな催しをした年を除き、コロナ禍も客席の間隔を空けながら、独演会だけは年に一度、必ず続けてきました」
11月23日の大阪公演では、月亭秀都が開口一番を務めたあと、菊丸が三席を披露する予定。『吉野狐』以外の二席は、これまで手がけてきた演目から選ぶといいます。
「過去の独演会で、少なくとも5年以上演じていない噺から二席を選ぼうと思っています。もちろん、『吉野狐』と系統が似た噺にはしません。いまはとにかく、『吉野狐』をどのように工夫するか考えている最中です」

『吉野狐』は、明治時代に活躍した二代目林家菊丸が作った噺。狐が花魁の吉野に化け、若旦那の前に現れて恩返しをしますが、正体を知られ、奈良・吉野の山へ帰っていく物語です。菊丸は、速記資料をもとに現代の観客が受け取りやすい噺に脚色する、と話します。
「先代の二代目菊丸が作ったものに、ああでもない、こうでもないと脚色を加え、足すところは足し、削るところは削りながら、令和のお客さまに共感していただけるように仕立て直します」
『吉野狐』を高座にかけるのは、コロナ禍前以来のこと。菊丸は「狐が好きな人に会うために人間の姿になるわけですから、ミステリアスかつロマンチックに演じたいですね」と意気込みました。
「美しく、ロマンチックにやりたいですね」
物語には、芝居町として栄えたかつての道頓堀も登場します。菊丸はそんな風情について、こう語りました。
「昔の道頓堀を知る方には『懐かしいな』と思っていただきたいですし、若い方には『そんな街だったんだ』と感じてもらえたらうれしい。一瞬の場面ですが、昔の大阪らしさを、師匠から教わった芸の型で出したいと思います。そして、ラストは囃子を入れて、林家らしくやります。人情噺でありながら芝居噺の要素があり、人に化けるという怪談めいたところもあります」
また、遊郭を舞台とする物語だけに、表現の一部は現代に合わせて見直すと説明。
「以前は速記に残っている言葉をストレートに使っていましたが、今回はお客さまが聞いて不愉快にならないようにしたい。『そういう風情が残っていたんだ』と感じてもらえるやり方にしたいと思っています」
菊丸は「花魁が若旦那に本気でほれて、自分のいた店を辞めて若旦那を追いかける。男がだまされるような話ではなく、色町の世界にも真の愛があるんだというところを、美しく、ロマンチックにやりたいですね」と力を込めました。

そんな心情を伝えるにあたっては、台詞だけでなく、踊りで身につけた所作や目線も大切にしたいといいます。
「たとえば長襦袢を少しつまんで話すだけで、『悲しい』と言わなくても悲しさが伝わります。歯がゆいときには、たもとを持つことで『どうしてわかってくれないの』という心の内も表せる。台詞を増やすばかりではなく、師匠から踊りを習うなかで身につけた所作も交えて表現したいと思っています」
師匠の芸の幅広さを再認識
今年、菊丸の師匠である四代目林家染丸が芸歴60周年と喜寿を迎えました。菊丸は8月に開かれた林家一門会に出演し、師匠の芸の幅広さを再認識したと話します。
「落語はもちろん、踊りや鳴り物、寄席囃子も含め、師匠の偉大さを改めて知りました。そのとき、私も先人から受け取ったものを、令和のお客さまにどう残せるのかと考えました。『吉野狐』も、ただ先代から譲り受けたものをそのままやるのではなく、明治時代の二代目が作ったものを、令和の三代目である私がどう化けさせるのか。狐ではありませんが、『いい噺に化けたな』と思ってもらえるものにしたいです」
現在、菊丸はNSC(吉本総合芸能学院)の講師として、落語にほとんど触れたことのない若い世代に、落語を教えています。若い感性に触れることで、菊丸自身も落語の新たな可能性を発見したそうで、たとえば、短い小噺を教えるときは、一言一句を同じように再現させるのではなく、話の「振り」と「落ち」を残したうえで、途中に自分なりの言葉を加えるよう伝えていると話します。
「すると、こちらが思いつかなかったような台詞を足すんです。それが振りと落ちに連動していて、ちゃんと整合性が取れている。僕がそのやり方で演じてみようかなと思うぐらいです。生徒と一緒に笑いながら、瞬間瞬間の笑いを発見しています。教えているつもりが、僕自身もずいぶん発見させてもらっています」
さらに菊丸は、AI(人工知能)が普及する時代に落語を演じる意味について、こう語りました。
「AIは、何でもすぐに回答を導いてくれる非常に便利なものですが、落語にはAIには出せない間や味わいがあります。落語には正解がない。常に進化させていくことが僕の使命だと思っています。こういう時代だからこそ、人情味や人間くさいところを、落語を通じて楽しんでいただきたいです」

最後に、目指す落語家像について、「『菊丸が出ている日がええな』と思ってもらえるように、噺のジャンルの幅を広げながら、これからもコツコツしっかりやっていきたいと思います」と語りました。
公演概要
第十一回 三代目林家菊丸独演会2026~上方人情噺の世界~
【大阪公演】

日時:2026年11月23日(月・祝) 17:30開場 18:00開演
会場:天満天神繁昌亭
料金:1階席 3,500円、2階席 3,000円(前売・当日共)
※前売券が完売した際には、当日券がない場合がございます。
出演者:林家菊丸、月亭秀都/三味線:はやしや絹代
演目:「吉野狐」(二代目林家菊丸作/三代目林家菊丸脚色)ほか二席
FANYチケット:https://ticket.fany.lol/reception/66569/52918
【愛知公演】

日時:2026年11月28日(土) 14:30開場 15:00開演
会場:大須演芸場
料金:前売 3,500円 当日 4,000円(整理番号付き自由席)
※前売券が完売した際には、当日券がない場合がございます。
出演者:林家菊丸
演目:「幸助餅」ほか二席
FANYチケット:https://ticket.fany.lol/reception/66553/52906
