霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載2回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで好評連載中!
今回は第2回目になります。

第1回はコチラ

『休み時間、ひとりでどう過ごすか問題』

 本当は教室を飛び出して、高校の都・廊下に出かけたい。高校の休み時間、廊下は花形で、都会に出かけるようなものだ。とにかく騒がしい。
 中学生の頃には走ったら怒られる単なるコンクリートの通路だったが、クラスで浮いてしまった“ぼっち”の自分にはとても通えないキラキラした場所に見えてしまう。もうこの時期に違う教室に出かけているヤツも何人か存在するが、こっちからしたらそいつらはバックパッカーだ。この時期に違う教室に行ける=海外旅行なのだ。
 教室からは出られない。じゃあ、本を読むか、窓をずっと見るか。もし高校が静岡県の富士市にあって、窓から富士山を見られるのなら、365日、ノートにデッサンなんかして楽しめただろう。でも、ここから見える景色は、警備員のおっさんがダルそうに働きながら、3分に1回、タンを吐いている。そんな景色だけだった。
(とにかく廊下に出てみたい) 
 廊下ではもうすでにできはじめていた男子グループが、一発ギャグのやりあいをしていた。一発ギャグが受けると盛り上がり、スベるとみんなから肩にパンチを受ける。そういうゲームをしていた。よくわからないゲームだが、お笑い好きの自分は「ここだ!」と思った。
(このゲームが突破口になるかもしれない)

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 その晩、家でノートを開いて、必死に一発ギャグをつくった。机にかじりつく息子を見て、親は勉強していると思っただろう。イシカワは人生をかけてギャグをつくっていたのだ。なぜか不思議とどんな勉強よりも大事な気がした。そしてなんとか朝の4時に出来上がったのが、ターザンギャグだった。このギャグはターザンのように「あ~ああ~~」とまずツルにぶらさがるような動きをして、そのまま「あ~ああ~~、ああ~~~川の流れのように~」と続けて、美空ひばりの『川の流れのように』を続けて揺れながら歌うというギャグだ。
(明日、このギャグが決まれば……!)
 スラムダンクのミスも帳消しになるし、「こいつ、仲間にしたほうがいいかも」と思ってもらえるかもしれない。
 そして次の日、学生生活を左右する大勝負に出た。一発ギャグのゲームが廊下で始まる。しかしすぐには入らない。何人かやったあとのほうが、空気があったまっているからだ。ふだんはオレを無視しているヤツが今日ははからずも俺の前説をしているわけだ。準備は整った。そしてタイミングをみはからいグループの中に飛び込んだ。
「次、俺にギャグをやらせてよ!」
 一瞬、空気が止まったが、リーダー格の男子が「おもしろいじゃん。みんな見てみようよ」と言った。おそらくいじめの一環で「見世物にしてやろう」という魂胆で話に乗ってきたのだろう。
 しかし俺にはターザンギャグがある。こいつらは俺が昨夜、ギャグをあっためていたことを知らない。力を振り絞り起死回生の一発ギャグをやった。
「あ~ああ~、ああ~~~川の流れのように~」
 声もいい具合に出ていた。表情もすごくよかった。ただ、信じられないぐらいスベった。かなり離れた職員室にあるポットのお湯を注ぐ音が聞こえたかと思えるほどの静寂に包まれた。
 結果、肩に7パンチ。残念ながら一発ギャグで人気者へという登竜門は閉ざされた。それどころかむしろマイナス。ここからいじめはどんどんハードになっていく。そう、無視から少しずつ暴力に変わった。そして、次なる問題「弁当の時間」という壁にぶちあたったのである。
 運命の文化祭まであと91日。

霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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