東京・神保町よしもと漫才劇場に所属するお笑いコンビ・ぶったま（ガッパー稲吉、亀社長）の単独ライブ『ぶったま最後の単独#1』が、2月11日（土）に同劇場で開催されます。芸歴9年目以下、20～30代の若手芸人がしのぎを削る劇場のなかで、41歳（ガッパー）と38歳（社長）の“年長”コンビとして活動している2人。1回卒業したNSC（吉本総合芸能学院）に入学し直したり、亀社長はその名の通り会社を経営していたり、彼らの経歴は異色です。そんなぶったまの単独ライブ開催を記念して、2人にインタビューを敢行！ 彼らの足跡を追いました。
「8000円」を持ち逃げされて事務所が倒産！？
――おふたりの経歴はとてもめずらしいと思いますが、どんな経緯でコンビを組んだのですか？
ガッパー もともと僕は、東京NSC11期生（チョコレートプラネット、シソンヌ、パンサー・向井慧らと同期）で、亀とは歌舞伎町のショーパブで出会いました。僕のほうが年上ですけど、芸歴は亀のほうが上なので、最初は（社長を）「さん」付けで呼んでましたね。
社長 僕は名古屋よしもと出身で、東京でいうと9期生（しずる、ハリセンボン、ライスなど）が同期にあたります。ガッパーと知り合ったころは、ほかの事務所で活動していました。
ガッパー 僕がコンビを解散したのを知った亀が「トリオにならないか」と誘ってくれて、3人で吉本に入りました。でも結局、しばらく活動して、2011年ごろに解散。僕はピン芸人として吉本に残ることになったんです。
社長 僕は知り合いが「ZELEプロダクション」という事務所を立ち上げるということで、そこに移って、俳優やニコ生（ニコニコ動画の生放送）の出演者として活動を始めたんです。でも、1人じゃツラすぎて……。それで（ガッパーと）コンビを組みたくて、マネージャー含めて3人で飲みました。マネージャーが「ウチに来たら、やりたいこと何でもやれるよ」ってガッパ―を誘ったんです。
ガッパー 事務所に入るのに10万円かかるけど、「千葉テレビや文化放送（ラジオ局）にツテがある」と聞いたので、入ることにしました。亀にカネを借りて事務所に入った数カ月後、そのマネージャーのデスクにオーディション雑誌が置いてあって、見たら「文化放送 メインキャスター募集」の欄に赤丸つけてて。「え！ ウソでしょ？ まさかアイツ、これをツテって言ってんの？」って（笑）。そのあと社長が事務所の金庫にあった8000円を持ち逃げして、（ほどなくして）事務所は潰れました（笑）。
社長 それは僕が30歳、ガッパーが32、3歳のころのことなんですけど、僕はすでに（お店の）経営を始めていたこともあって、ガッパーに「芸人をやめる」と伝えたんですよ。そしたら「オレは吉本恐怖症だ。一度、吉本を辞めた人間だから、吉本芸人とライブに出ると萎縮してしまう。だから、NSCからやり直そう」と言われて……。
――克服の意味もこめて、ということなんですね。
社長 そうですね。ただ、勘弁してくれと。そもそも（前の事務所に入るときに）貸した10万円もまだ返ってきてないのに、授業料40万円を用意しなきゃいけない。「お前はカネを用意できるのか」と聞いたら、ローンが組めるらしくて。せっかく誘ってくれたんだし、じゃあNSCに行こうかと思ったら、こいつはもちろん、お母さんまでローンの審査に落ちたんですよ。
ガッパー 母親も年齢が高かったので、ローンが組めなくて（笑）。
社長 母子ともにローン落ち。だから僕がガッパーのぶんも含めて80万円払って入学しました。
ガッパー ちゃんと返しましたよ？
社長 それもおかしな話なんですよ。コロナで経営が苦しくなったとき（ガッパーが）「借りてるカネの返済は（計50万円だけど）20万円でいいか？ いますぐほしかったら20万円をお前に返す。その代わり30万円まけてくれ。それか、一生返さないかのどっちかだ」と言ってきたんですよ。俺もカネがなくて、おかしくなってたから、20万円で手を打ちました。それで完済にはなりましたけど、まだ納得はしてません。
いちばん調子がよかったのはデビュー前
――NSCに入学してからは？
ガッパー 2人で東京NSC20期生として入り直して、ダントツの首席で卒業しました。そのとき僕ら（芸歴としては）10年くらいやってたんで、若い芽を摘む形となって、心苦しかったです。
社長 ただ、最後のライブはウケ方が爆発してたからな！ NSCに入ってトントン拍子ではあったんですよ。在学中には『おもしろ荘』（日本テレビ系）に出られて、卒業前には首席もとって、（特典として）1カ月仕事があって……。
ガッパー デビュー前がいちばん調子よかったかもしれないですね。そのあと、ヨシモト∞ホールに所属したんですけど、あそこがいちばんキツかったです。ネタがまったくウケないんですよ。4年くらいやったあと、みんなYouTubeで稼ぎ始めたので、ネタをやらずに、YouTube活動にシフトして。
社長 ガッパーが「ネタを書かない」というから、僕も（芸人としての）スイッチを切ったのに、いっこうに撮影が始まらず……。
ガッパー 2年くらいYouTubeで活動していたんですけど、あげた動画は10本。やっぱりあれは毎日上げないとダメみたいですね（笑）。
社長 同期前後の芸人が神保町に移籍したあたりで、またガッパーが「ネタをやろう」と言い始めたんですよ。試しにいちばん下のライブに出たんですけど、まったくウケなくて……。もう僕ら30代後半でしたし、ネタが古くて受け入れられないだろうし、僕は結婚もしていたから、「芸人やめて経営に専念するわ」と伝えたら、ガッパーが「それは違う。オレが結婚するまで続けてくれ」って（笑）。
ガッパー 芸人活動をやってないとき、ガールズバーに行ってもぜんぜんモテなかったんですよ！ オレも結婚したいから、だったら、芸人をやっていたほうが早いんじゃないかって。このまま、ガールズバーでモテないまま終わるのが怖くなっちゃって誘いました。
――最初は苦戦したかもしれませんが、いまは劇場の所属メンバーですよね。
社長 2回目あたりから徐々にウケ始めましたね。
ガッパー あと、数年ぶりの舞台として『キングオブコント』の予選に出たとき、1発目のボケがめちゃくちゃウケたもんだから、（ビックリして）2人ともネタを飛ばしてしまったことがありました。2分くらい棒立ちで終わりましたね。
――（笑）。社長業はどんなことをしているんですか？
社長 いまはハウスクリーニングと目黒でおしゃれなカフェ『p.s. coffee』と恵比寿で居酒屋『テッパンドットコム』をやっています。渋谷で牛タンのお店もやってたんですけど、コロナで潰れてしまいました。
――社長業をやりつつ芸人もやり、しかも芸人のほうは何度も解散・引退の危機に直面。それでもうまく脱出してコンビで芸人を続けていますよね。その理由はどこにあると思いますか？
社長 僕はネタを書かないんで、ぶっちゃけ経営のほうが楽しいんですよ。でも最初に相方として誘ったのは僕だし、誘っといて僕から抜けるのは悪いなって。
ガッパー そうですよ。そんなことするのは人の道から外れてます。
社長 こいつが、ほかの人とコンビを組みたくなったりしたら、そのときに（僕が）切られたりするのはしょうがないじゃないですか。ただ、一緒にやってくれている部分があるので、まだ需要はあるのかなと。もちろんライブに出たら楽しいし、お笑いは好きなので続けたいです。
ガッパー この年で解散しても誰も組んでくれないですから。
社長 おい！
ガッパー （笑）。（社長とは）世代が一緒ですからね。ダウンタウンさんが好きで、笑うもの・面白いと思うものは一緒なんで。
ライブタイトル「ぶったま最後の単独」に込めた意味
――神保町には、10以上歳が離れた芸人や若いお客さんもいますが、世代間でのギャップや戸惑いはありますか？
社長 基本的に僕らは笑われているんですよ。
ガッパー ヘタしたら自分の子どもでもおかしくない年齢の芸人もいるので、よくごはんに行って「悪口言わないでね」と媚びまくっています。
社長 若い人はSNSがすごい。僕らの時代にはなかったものなので、めちゃめちゃ勉強になります。この間、（SNSでバズり中の）板橋ハウスの吉野おいなり君（めぞん・吉野裕介）こと、おいなりPに入ってもらって、TikTokを上げたんですけど、「センシティブ」（センシティブな内容として表示制限されること）だらけになっちゃって……。うまく入ってないです（笑）。
――コンビ活動のなかで、思い出深いエピソードはありますか？
社長 いちばんは『水曜日のダウンタウン』（TBS系）の企画『30-1グランプリ 2022』（30秒以内のショートネタの大会）で、決勝に行けたことですね。
ガッパー あれはちょっとシビれました。
社長 結果発表のとき、皆さん（面白かった芸人として）『ぶったま』と挙げてくださるなか、松本（人志）さんが『ぶったまげ』と書かれて。Twitterで『松本さんがおっしゃるなら、「ぶったま」から「ぶったまげ」に改名しようかな』とつぶやいたらニュースになってましたね。松本さんに僕らのネタを観てもらえて嬉しかったです。
――今回、そんな２人の単独ライブが開催されます。気になるタイトルの意味を教えてください。
ガッパー なかなか閉店しない店の「閉店セール」と一緒です。「最後だから来てよ。見納めだよ！」という意味なんですけど、それだと勘違いされるかなと思って「♯1」をつけました。次回があるかどうかは「チケットの売れ行き次第だよー」って感じですね。
社長 でも、ぜんぜん売れてなくてね……。
ガッパー やっぱり、笑われていたんだなと思いましたね（笑）。
――起死回生の隠し玉は何かあるんですか？
ガッパー 面白いと思う新ネタはもちろん、幕間のVTRでは、人気者の板橋ハウス（吉野、ピュート・竹内智也、軟水・つるまる）の“あるシーン”を撮ろうかと模索中です。
社長 今後のためになればという意味もあって、（『キングオブコント』に向けて）短い尺のネタもしてね。
ガッパー そもそも僕らは長尺のネタができないんですよ。伏線回収のネタなんて無理！
――（笑）。最後に見どころをお願いします。
ガッパー 配信に耐えられるかどうか、ギリギリのネタが楽しめると思います。あと、神保町の人気芸人が幕間VTRに出てくれます！
社長 人気芸人たちがライブを観に来てくれると思うので、客席に座っておけば、（近くに芸人が座って）擬似恋愛が楽しめると思います。デート感覚でぶったまが観られます！
ガッパー こんな（媚びるような）芸人になりたくなかったんですけどね……（笑）。
公演概要
『ぶったま最後の単独#1』
日時：2月11日（土） 開場20:15 開演20:30
場所：神保町よしもと漫才劇場
内容：入れ替え戦「Jimbochoサバイバルバトル」に3回連続出演して3連覇したぶったまによる最後の単独ライブ！？ この日に全力で挑みます！ 勇姿を見に来てください！！
チケット：前売1500円 配信1200円
※見逃し視聴は2月13日（月）20:30まで（チケット販売は同日正午まで）。
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