吉本興業の“メガネ芸人”と「関西演劇祭2021」で最優秀作品賞の「MVO(Most Valuable Opus)」を受賞した演劇ユニット「メガネニカナウ」がコラボした公演、その名も「メガネゲイニントメガネニカナウ」が1月12日(金)から1月15日(月)まで大阪・インディペンデントシアター2ndで上演されます。上演に先立って、稽古場に密着して出演者たちをインタビュー! 舞台にかける思いを聞きました。
「メガネゲイニントメガネニカナウ」は、「関西演劇祭」をきっかけに誕生した公演で、同演劇祭のテーマである“つながる”をカタチにした試みです。脚本・演出は、マルチに活動するザ・プラン9のリーダー、“お〜い!久馬”こと久馬歩と、「関西演劇祭2021」で「メガネニカナウ」のメンバーとして参加してベスト脚本賞を受賞した二朗松田(演劇ユニット「カヨコの大発明」所属)を迎え、オムニバス形式の2作品を上演します。
男性ブランコ・平井らが日替わり登場!
久馬が脚本・演出を担当するのは「福」。物語の舞台はとある街の商店街。正月に行われる商店街のセールで福引をすることになり、各店の代表者が繰り広げる話し合いのなかでストーリーは少しずつ動いていきます。
一方、二朗松田が脚本・演出を担当する「MeganeVerse」は、グラフィック系のデザイナーとして働く“美紀”という女性が主人公の物語。年末年始というのに仕事は納められそうになく、気になる同僚・市庭の煮えきらない態度にやきもきするし……というなかで、驚きの展開を見せていきます。
出演は、久馬が厳選したメガネ芸人たち。そして「メガネニカナウ」を主宰する上杉逸平が率いるのは、「関西演劇祭2023」でアクター賞を受賞した尾形大吾をはじめとする実力派俳優たち。この出演者たちがAチームとBチームに分かれ、コントでもコメディでもなく、また演劇とも違う、新たなエンターテインメントを生み出します。
さらに、もうひとつの見どころは「ヒガワリメガネゲイニン」。兵動大樹(矢野・兵動)、平井まさあき(男性ブランコ)、すち子(吉本新喜劇)、和田まんじゅう(ネルソンズ)という“メガネ芸人”たちが日替わりで出演します。どのタイミングで出演するのかにも注目です。
久馬「僕のほうはコント寄り」
稽古場に足を運んだのは、本番が1週間後に迫り、大詰めを迎えたタイミング。
久馬が脚本・演出する「福」に出演するAチームのキャストは、一石達也(うただ)、尾形大吾、竹若元博(バッファロー吾郎)、山本香織、上杉逸平、亀山貴也、中村フー(ヘンダーソン)という顔ぶれです。
稽古では、最初に台本に目を通して読み合わせを行ったあと、立ち稽古で所作や座り位置、立ち位置を細かく確認。少し遅れて到着した中村が合流したところで、通し稽古が始まりました。芝居が初めてだという一石と中村ですが、俳優らの熱を帯びた演技に刺激を受けている様子でした。
まず話を聞いたのは、脚本・演出を担当する久馬歩です。
——今回、「関西演劇祭」がきっかけで「メガネニカナウ」とコラボレーションすることになりましたが、決まったときの感想は?
「関西演劇祭」での「メガネニカナウ」の受賞作を観に行っていて、「おもしろいな~」と思っていたので、純粋に「(一緒にやるのは)おもしろそうやな」と思いましたね。
——今回、Bチームで脚本・演出を担当する二郎松田さんとは、どのような打ち合わせを経てオムニバスは完成したのでしょうか?
「なんとなく(物語が)繋がっている感じでやりましょうか」という打ち合わせでぼんやりと、でした。それで、「上杉さんの役だけA、Bともに同じ役にできたらいいですね」みたいなことを話しましたね。
僕はなんとなく、商店街の福引のお話にしよっかなと考えてたんですけど、なんせ、僕は筆が遅いもので(笑)、二朗さんの台本は最初の打ち合わせの時点で書き上がっていたので、僕がなんとなく「こういう物語なら、時期とかは合わせられるな」というので、合わせていきました。
——「福」は、商店街の面々の人柄がにじみ出ているところが魅力的だと思ったのですが、久馬さんとしてのお芝居のポイントはどこでしょうか?
本当に小っちゃい商店街のお話で、福引の景品を決めるだけでもこんなにモメたりするんじゃないかな? という(笑)。そういうのを想像しながら書きました。あとは、一石くんと中村フーは、コントは見たことがあるけど、ガッツリお芝居となると、どこまで芝居ができるかわからなかったですね。
基本的には標準語で書いていたので、大阪弁のほうがいいかな?と思いましたが、中村フーが意外と(演技が)いい感じでしたよ。
一石くんは、「こいつはやっぱり大阪弁がいいかな」と思って、大阪弁でふだん通りダラダラとした役です。一石くんはNSC(吉本総合芸能学院)で、僕の生徒やった時期もあるので、なんか恥ずかしいというか、変な感覚です(笑)。子どもと一緒にやっているような……。かまずにがんばってほしいなと思います。
——感慨深いですね。今回は、芸人さんと役者さんが同じ作品で共演します。
芸人って、稽古で本気でやらない生き物というか、芝居の稽古だとちょっと恥ずかしがるんです。でも、まわりの役者さんは本気でやってらっしゃるから、徐々にみんなが本気になってきています。
——物語としても、お笑いとお芝居の融合が楽しめそうですね。
僕のほう(「福」)は、コント寄りというか、10分くらいどこかの箇所を切り抜いたら、「これ、コントやろ」と言われそうな気もするんですけど、何がコントなのか何が芝居か、境目は正直、わからないですね。でも、やっぱり役者さんがやっていたら「お芝居だな」という感じが出ます。
——“ツッコミ役”を役者の尾形大吾さんが担当されるんですね。
ツッコミ役を芸人がやるのだったら普通やな、と思って尾形くんを抜擢したんですけど、ずっと声を張り上げていて、だいぶ大変そうです。尾形くんのことは、「劇団Patch」のころから知っているんですけど、「劇団Patch」は男前集団やったんで、芝居のなかでツッコむとかはなかったと思うんで……。
——役者さんにツッコミを任せるのも新しい試みですよね。では最後に、改めてアピールポイントをお願いします。
2つの話が一気に楽しめるよさもありながら、今回、((Bチームに出演するザ・プラン9の)浅越(ゴエ)が、僕とは違う人が書いた台本でやるので、そっちで浅越がいつもよりめちゃくちゃイキイキしてたらイヤやな~(笑)。「あ、そんな一面もあったんや」とか、気付かされたらイヤですね。できるだけ、おメガネに叶わないでいただきたいです(笑)。
「自然なツッコミが難しくて…」
「喫茶店の人」を演じる俳優・尾形大吾にも意気込みを語ってもらいました。
——尾形さんは今回、商店街の人々のなかで“ツッコミ役”のポジションですね。
自分で言うのは恥ずかしいですけど、これまで“ツッコミ”は演じたことがない役です。(ふだんから)どっちかというと天然ボケみたいなほうが多いので、こういうポジションをいただけて、チャレンジという思いです。とくに空気感のなかで生まれるような、自然なツッコミが難しくて苦労してます(笑)。芸人さんのツッコミには技術では勝てないので、これまで自分が培ってきた芝居のなかでのツッコミって何なのかな?と考えながらやっています。
——稽古を見学させていただいて、商店街の人々の、ワイワイとにぎやかな話し合いのシーンがとてもおもしろかったです。
芸人さんたちは、そこにいるだけでもおもしろいし、一言一言しゃべることがおもしろいので、稽古中もつい笑ってしまうんです。そういう空気に僕も乗っていけたらなと思っています。
——最後に、舞台に向けた意気込みを教えてください。
芸人さんと、ふだんお芝居をやっている関西小劇場の方々がコラボすることってあまりないので、それぞれが新しいことに挑戦している舞台だと思います。芸人さんもこうした本格的な芝居は始めてでしょうし、役者としても久馬さんが演出された“お笑い”の空気感を持った芝居は初めてなので、全員が新しいことに向かっている。何かが生まれるんじゃないかな、と期待できる舞台になればいいなと思います。
「芸人とはまた違う顔を見せられる」
「リサイクルショップの人」役の中村フーにも話を聞きました。
——中村さんはリサイクルショップの人を演じますが、芝居に挑戦してみてどうですか?
ふだん、お芝居をやらないので、コントとはまたやり方が違うのかどうなのか、まだわかりません。でも、まわりの(役者の)皆さんは、お芝居がすごくうまいので、どんどん自信をなくしてます……。漫才ともぜんぜん違いますし、ちょっと早く追いつけるようにならないと。
——久馬さんから「中村フーは芝居が初めて」と聞きました。
「月刊コント」(久馬が主催するお笑いイベント)で、久馬さんの台本で、コメディみたいなものはやらせていただいたことがあるんですけど、今回は役者さんと一緒にやるので、またそれとは違いますね。
——役者さんと共演してみて、何か発見はありましたか?
間の取り方とか身ぶり手ぶりが、ふだんやっていることとぜんぜん違うので、もっと稽古をがんばってうまくならんとあかんな、と。やっぱり、かんだりしたらあかんでしょうし。漫才なら、かんでもイジったりできるんですけど、演技のときにかむっていう怖さがあります。僕、滑舌がどんどん悪くなってきてるんで(笑)。
——では、本番に向けた意気込みを。
正直、こんな長編のお芝居に出させていただくのは初めてなので、芸人とはまた違う顔を見せられるのが当日の楽しみです。それに、こういういろんな経験をさせていただくのも勉強になっているので、今後にも生かしていきたいと思っています。なので、見に来ていただいた方にはどうだったのか、ぜひ感想を教えてほしいです。
「この組み合わせはもう二度とない」
今回のキーマンのひとりである「メガネニカナウ」主宰の上杉逸平は、Aチーム「福」とBチーム「MeganeVerse」の両方に出演する「本屋の人」を演じます。稽古後に手応えを聞きました。
——上杉さんは、Aチーム、Bチームどちらの芝居にも「本屋の人」役で出演します。
脚本の段階で久馬さん、松田さんとも話をして、(物語を)リンクさせている部分があるんですけど、Aチームの芝居で僕が出てくる時間軸と、Bチームで僕が出てくる時間軸を微妙に合わせていたりとか、細かいところにリンクを忍ばせていたりします。そのあたりは、両方観ているお客さんが気づくか気づかないか、くらいの感じですね。
——細かいところまでこだわって構成されているんですね。2つの芝居を同じ役柄で演じるうえで難しさなどはありますか?
最初に、久馬さんと松田さんの台本が仕上がってきたときは、(役柄が)ぜんぜん違う人物だったので、同じ人物として出てくるようにすり合わせしました。僕が主催する「メガネニカナウ」でも、基本的に3チームでそれぞれ僕が呼んだ作家さんに台本を書いてもらっているので、「せっかくなので、ぜんぶ出たほうがいいかな」という感じでよく3つの芝居に出ているんです。だから、今回はその延長のような感じです。
——今回は、お笑いと演劇の融合という新たな試みですが、稽古中でも何か感じることはありますか?
芸人さんとは何度か芝居で共演したことがあるんですが、役者とは“リズム”が違うなと感じますね。これはたぶん感覚の話になるんですが、でも、お互いが第一線でやっている者同士、何も心配はしていません。反対に「そう来たか!」という相乗効果もあって、おもしろいものになると思いますよ。
——では最後に、「見に行こうかな」と考えている読者にアピールをお願いします。
自分で言うのもなんですけれども、「関西演劇祭2021」MVOを受賞させていただいた「メガネニカナウ」と、吉本興業さんとのコラボ、面白くないわけがないと思います。今回の組み合わせはもう二度とないですので、ぜひ楽しんでもらいたいです。
浅越ゴエが演技にのめり込んで岡田直子に恋…!?
二朗松田の脚本・演出「MeganeVerse」を演じるBチームの稽古場にも潜入しました! 顔ぶれは、「関西演劇祭2019」でアクター賞を受賞した浅越ゴエ(ザ・プラン9)、岡田直子(吉本新喜劇)、浜口望海、丹下真寿美、そして先に登場した上杉逸平はA・Bともに出演します。
稽古では、デスクを舞台上と同じように配置して、岡田と丹下の会話のやりとりのシーンを丹念にチェックしていました。いったん芝居を止めて、二朗松田が細やかに演技を指示していきます。岡田と丹下の目は真剣そのもので、浅越と浜口もまた、岡田と丹下の芝居を集中して見守っていました。
終わったところで、二朗松田と浅越ゴエの2人に話を聞きました。
——オムニバスをやることになったとき、Aチームで脚本・演出を担当する久馬さんとまずどんな話し合いが持たれたんでしょうか?
松田 とりあえず、「メガネにまつわること」くらいで、あとはそんなに申し合わせがあったわけではなかったですよ。いったんあらすじを考えて、そこから繋げられるところを繋げましょう、という感じでした。
——浅越さんは、主人公・美紀が心を寄せる相手、市庭を演じますが、市庭に共感できるところはありますか?
浅越 僕の相手役は、岡田さんなんですが……どんどん好きになっています。
松田 わははは!(笑)
浅越 (岡田を)助けてあげたくなる。なので、そういう仕草が、空気感が演技でも出せればいいなと思っています。脚本を読んだときから岡田ちゃんの役がかわいらしくて、仕事でけっこう追い込まれて大変ななか、がんばっているという健気な役なので、自然と助けてあげたくなるんです。なので、すごく演じやすいです。
劇場の芸人は「発声」が違う
——松田さん自身は、芸人さんと芝居をつくっていくのは初めてですか?
松田 はい、初めてです。おもしろいし、刺激的だし、ぜんぜん違うから発見もたくさんあって。稽古でも「あ、こういうやり方をしはるんだ」という部分もたくさんあります。
浅越 どういうところが違いますか?
松田 発声ですかね。(芸人さんは)ずっと(声が)オンで。オフにしたほうがいいわけではないんですけど、(浅越と岡田は)舞台を主とされているおふたりなので、けっこう最初からドッと声が出ていますよね。
役者は、小劇場だとけっこう静かで、下手すりゃ(キャパが)10~20人くらいの場所もあるから、小さい声を出す人も多いんですよ。そこがまず違うので、「芸人さんだ!」って感じました。
浅越 なるほど! (なんばグランド花月は)800人の前ですから。
松田 そうです、芸人さんの体みたいなものに圧倒されるというか。
——反対に、浅越さんもなにか発見はありましたか。
浅越 いろいろ刺激は受けるんですけど、やっぱり役者の方々の芝居のうまさですね。皆さん、すごくお上手なので。
——ちなみに、久馬さんが「松田さんの脚本で、浅越がいつもよりイキイキしてたらイヤだ」と少しジェラシーを感じている様子でした。
浅越 ははは(笑)。僕が「松田さんのほうに行きたいです」と言ったわけではないのでね(笑)。ふだんは久馬さんの作品に出演することが多いので、違う方の作品に出ると、いつもとは違う自分が出てくるかも知れない、という期待はあります。自分では気づいていないところに気づいていただいて、演出していただいていると思うので、そこはしっかり今後の武器にしていきたいと思います。
——最後に、読者の皆さんにメッセージを。
松田 始まりは「関西演劇祭」だったんですけれども、同じ舞台を主戦場にしながら、まったく違う世界の方々と一緒にできるというのが本当にありがたい機会だと感じています。まさに、そういう珍しい瞬間みたいなものを脚本にしたつもりです。その世界観を感じていただけたらうれしいですね。できればたくさんの方に、この奇跡のような瞬間を見届けていただきたいです。
浅越 話が2つあるので、1回で2つの味を楽しめるパッケージかなと思います。僕は現段階では、もう一方(Aチーム)の内容も、どんな感じの演技をされているのかも、味付けもいっさい知らないんです。なので、僕もワクワクしています。違うチームでも、やっぱり1本になるということの意味が、いろんなところに隠されているので、それを楽しんでもらいたいです。
そして僕は、第1回の「関西演劇祭」(2019年)のアクター賞を受賞していますので。俳優なので。第1回のアクター賞なので。関西の演劇人で何人、この賞を受賞しているのか! 私は受賞しています。そんな「関西演劇祭」のパワーを感じていただきたいです。
公演概要
『メガネゲイニントメガネニカナウ』
日時:1月12日(金)~1月15日(月)
会場:大阪・インディペンデントシアター2nd
出演者:上杉逸平(メガネニカナウ) / バッファロー吾郎・竹若 / 浅越ゴエ / ヘンダーソン・中村フー / 岡田直子 / うただ一石 / 山本香織(道頓堀セレブ) / 浜口望海(STAR☆JACKS) / 丹下真寿美(T-works) / 尾形大吾 / 亀山貴也 ほか
チケット:前売5,500円
詳細は下記SNSをご覧ください。
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