吉本新喜劇の佐藤太一郎がプロデュースした舞台『ボクのサンキュウ~男だらけの育児奮闘記~』が、10月8日(水)~10日(金)の3日間、大阪・扇町ミュージアムキューブで公演されました。「佐藤太一郎企画」として27回目となる今回の舞台には、佐藤や新喜劇のケン、筒井亜由貴のほかに、実力派キャストが勢ぞろい。“男性による育児”をテーマに9人の男たちがぶつかり合う、笑いあり涙ありのハートウォーミングなストーリーが客席を沸かせました。

突然やってきた“赤ちゃん”が巻き起こす騒動
「佐藤太一郎企画」とは、高校時代から演劇に魅せられ、劇団「ランニングシアターダッシュ」を経て新喜劇入りした経歴を持つ佐藤がプロデュースする舞台です。今回の作・演出は劇団「空晴」代表の岡部尚子、そして湯浅崇(テノヒラサイズ)やドヰタイジ(STAR★JACKS)ら演劇界の実力派が参加しています。
物語の舞台はとある社員寮。かかってきた1本の電話を、佐藤扮する寮母・林(りん)が取るところから物語はスタートします。そして、電話を取り次がれた寮生たちが“ワケあり”な会話を展開。
姉の体調不良にうろたえる大地(筒井)、彼女が電話口で泣いているらしい海人(徳城慶太/GEN×SEN)、親からの電話に辟易している空野(まえかつと/コトリ会議)、友人から初デートの相談を受けている川村(ケン)、祖母からの電話で“人気者”を演じる山田(湯浅)、詐欺電話に素で返して引かれる先輩(F.ジャパン/劇団衛星)、そして何も言わず受話器を置く管理人の田(ドヰ)──。

そんな男たちが暮らす寮に突然、“赤ちゃん”がやってきた!? そこから、それぞれの人生や思いが交錯します。
実は、この赤ちゃんは人形で、大地の姉夫婦が数カ月前に亡くした我が子の身代わり──いや、“我が子そのもの”として育てている存在。姉が体調不良で病院を受診している間、弟の大地に無理やり預けられました。連れてきた義兄・陸夫(國藤剛志/SEVENSENS)は愛おしそうに人形をあやしますが、大地は納得いかない様子です。

そこで林が「今日はみんなでお母さんになってあげましょう」と提案。「男性も育児に主体的にかかわらないと」と言い出し、“手伝わなければ夕食抜き”という条件で全員を参加させます。
とんでもない温度のミルクを作ったり、おっかなびっくり抱っこしたり──慣れない育児に悪戦苦闘する姿で笑わせつつ、各キャラクターの事情や心情も徐々に明らかに。山田はなぜか育児ノウハウに詳しく、「育児書を読み漁った」という陸夫からも、思わず「へぇ~」となる知識が飛び出します。気づけば、“ザ・昭和”な頑固オヤジ・田まですっかり巻き込まれて……。

9人の“個性派役者”が魅せる舞台
9人のキャラクターはいずれも独特です。F.ジャパンはランニングシャツ姿で常に“あるモノ”を手に謎多き男を熱演し、笑いのパートを牽引。徳城は「子どもは嫌い」と言いながら、育児体験を通じて徐々に心境を変えていく海人を好演します。


“授かり婚”で生まれた子どもゆえに親への複雑な思いを抱く空野を演じるまえは、明るい笑顔の裏にチラリと影をのぞかせ、リアルな人物像を作り上げました。いつまでたっても名前を覚えてもらえない影の薄い男・山田を演じた湯浅は、飄々とした演技で笑いを誘います。
50代で転職したため年上ながら後輩という立場の川村は、実際の素顔とも重なるケンのハマり役。筒井は、姉への心配と甥を亡くした悲しみで素直になれない大地役でまっすぐな演技が光りました。

愛する娘の“授かり婚”をいまだに認められない不器用な父親を寡黙に演じたドヰは、物語にどっしりとした重みを与えます。國藤が演じた、我が子の死に直面しながら妻を支え続ける陸夫が人形と向き合うシーンは、秘めた悲しみがにじみ出ます。
佐藤の役どころは、男性でありながら女性的という、ジェンダーを超えた寮母。寮生たちを母のように見守り、明るく支えますが、実は悲しい過去を抱えています。笑いも涙も一手に引き受ける活躍ぶりで、憎まれ口ばかりのドヰとの掛け合いは、酸いも甘いも知る“大人の味わい”を醸し出しました。

陸夫と大地がお互いの思いをぶつけ合うクライマックス。2人の和解がほかの寮生たちにも波及し、大切な人や自分自身を見つめ直すきっかけになります。最後に明かされる林の過去と、赤ちゃん人形の“これから”が大きな感動を呼びました。
カーテンコールのあとは、会場が明るくなってもしばらく拍手が鳴り止みません。劇場ロビーで観客を見送るキャストたちに「めっちゃよかった!」という称賛の声がかけられていました。